『冬のソナタ』大ブームにNHKのお偉いさん唖然。
- 松本
- 辛さんは、何がきっかけで
韓国ドラマを観始めたんですか? - 辛
- 私が最初に「わっ、すごい!」と思ったのは、
“モレシゲ”、日本語のタイトルは『砂時計』。 - 松本
- 韓国語で“モレシゲ”って言うんですね。
- 辛
- 韓国では長い間タブーとされてきた、
1980年に起きた国家による民衆虐殺事件である
「光州事件」をドラマで初めて描いた不朽の名作です。
1995年の作品で、
当時、在日社会ではすごい勢いで広がった。
これを観て、
韓国はこれから本当に変わるんだと思いました。
軍事独裁政権時代を舞台に3人の若者の運命を描く 砂時計(1995年)
- 出演
- チェ・ミンス、パク・サンウォン、コ・ヒョンジョン、イ・ジョンジェ
- 配信
- なし
- 編集部
- 辛さんが、韓国ドラマを
さらに熱中して観るようになったのは、
2018年にドイツに住んでいたときと
以前お聞きしましたが。 - 辛
- そうなんです。
その頃、私、心を病んでましてね。
もう何にも関わりたくないと思って
引きこもっていたときに、
ドイツのテレビやネットに
BTSとかBLACKPINKとか
MAMAMOOとかK-POPのスターが
ばんばん出ていて、
まずはそこからハマりました。
そのうちに韓国ドラマも
観るようになったんですが、
ものすごく面白いから夢中になって、
頭を真っ白にすることができた。
前向きな気持ちになれたのは、
韓国ドラマのおかげなんです。
朝まで一気に観続けるとか、
もう何度やったか分からない(笑)。 - 松本
- 分かります(笑)。
私も「冬ソナ」でやりました。
多くの日本女性にとって
画期的な驚きだった『冬ソナ』。
- 辛
- 松本さんは、何がきっかけですか?
- 松本
- 寺脇さんと同じように、私にとっても韓国は
「近くて遠い国」だったんですが、
ソウルオリンピックの時、
テレビで韓国のことを初めて見るようになって、
それで1989年に韓国を旅行して。 - 辛
- パルパル(韓国語で“88”の意味。
1988年のソウルオリンピックの別称)のあとね。 - 松本
- はい。その旅行で、韓国の地方とか、
人々がどう暮しているのか、
初めて知ることができました。
その後、1990年代に入って
李文烈さんの小説『われらの歪んだ英雄』を
読んでから韓国文学を読むようになって。
そして2002年、NHK衛星放送で放送された
『冬のソナタ』で韓国ドラマを初めて観て、
夢中になったんです。
日本に韓流ブームを巻き起こした珠玉のラブストーリー 冬のソナタ(2002年)
- 出演
- ペ・ヨンジュン、チェ・ジウ、パク・ヨンハ
- 配信
- U-NEXT、Hulu、FOD、ABEMA
- 寺脇
- 当時の盛り上がりはすごかったですね。
- 辛
- 私は、申し訳ないけど、
ヨン様ブームは冷めた目で見ていました。
こっちは朝から晩まで働いているのに
「何がヨン様だ」と(笑)。
ペ・ヨンジュンが「皆さんは家族です」と言うと、
日本の女性たちは「きゃーっ」と喜んでいたけど、
朝鮮半島の男は誰でもそんなことを
しょっちゅう言っていると(笑)。 - 松本
- そうなんですね(笑)。
でも、やっぱり、日本の女性にとって
『冬のソナタ』は画期的な驚きがありました。
日本のドラマで、あんなに女性に優しい男の人は
見たことがなかった。 - 辛
- 日本の男性がそうなったのは寺脇さんのせいよ、
文部省の教育が悪かったから(笑)。
だけど、確かにペ・ヨンジュンは、
どんな大統領よりも
韓国のイメージを変えましたよね。 - 松本
- 本当にそう思います。
ちょうど2002年ごろに、
私はNHKの衛星放送を普及させる
推進委員会の委員をしていたんですが、
衛星放送普及に一番貢献した人を選ぶことになり、
私はペ・ヨンジュンさんを推薦したんです。
でも、お偉い方々に
「それは誰ですか?」と言われました。
翌年の委員会では、
日本中に冬ソナの大ブームが起きていて、
その方々が「私たちが間違っていました! あれは
“松本ショック”でした!」と言われました(笑)。
- 寺脇
- 冬ソナブームが起きる前、
今から20年以上前の韓国は
国力も経済力も低かった。
だから、当時の韓国ドラマのイメージといったら、
まぁ、NHKのお偉いさんたちが
思い描くような感じだったんですよね。 - 辛
- それが、冬ソナの女性ファンによって変わった。
やっぱり女性が新しい時代を開拓していくんです。
どんどん進化していく
韓国ドラマのヒロイン像。
- 松本
- でも、これだけ褒めておいてすみませんが、
『冬のソナタ』は不朽の名作で、
私の愛する作品ですけど、
やはり2002年の作品で、今、観たら、
女性は共感できないところもあると思うんです。 - 辛
- ちょっと陳腐。
- 松本
- 先ほど『愛の不時着』のときにも話しましたが、
韓国ドラマのヒロイン像はどんどん進化しています。
『冬のソナタ』のチェ・ジウ演じるヒロインは
とても素敵ですが、
控えめで、生き方も、恋も、受け身です。
特に野心もなく、ただ建築会社で働いている。
ところが、2005年の
『私の名前はキム・サムスン』になると、
ヒロインはパティシエで、
自分の店を開きたいという夢があり、
年下男性との恋への憧れも、女性の性欲についても、
赤裸々に描かれている。 - 辛
- インパクトありました。
太めの30代女子と年下イケメン御曹司のラブコメディ 私の名前はキム・サムスン(2005年)
- 出演
- キム・ソナ、ヒョンビン、チョン・リョウォン
- 配信
- Channel K(Amazonプライムビデオ)、U-NEXT、Hulu、FOD、TELASA、ABEMA
- 松本
- 2010年の『シークレット・ガーデン』では、
ヒロインはアクションスター。
ハリウッド映画に出るという目標を持ち、
男さえも投げ飛ばす強い女性です。
さらに2014年の
『運命のように君を愛してる』のヒロインは、
最初は内気で会社の雑用係をしているんですが、
後半は画家と商業デザイナーとして活躍して、
自分から恋もつかんでいく。
女性の成長と自立の物語になっています。 - 寺脇
- 同じ恋愛ドラマでも、
2002年と2014年でヒロイン像がかなり変わった。 - 松本
- そうなんです。
つまり、韓国ドラマは時代を
しっかり反映させていくので、
これから観ようという方は、
新しいドラマを観たほうがいいと思います。
ヒロインを例にしましたが、
脚本も、演出も、撮影の技術も進化していますので。
男女の魂が入れ替わるファンタジー・ロマンス シークレット・ガーデン(2010年)
- 出演
- ヒョンビン、ハ・ジウォン、ユン・サンヒョン
- 配信
- Netflix、FOD
一夜の過ちが運命の恋に変わる“癒し系”ラブコメディ 運命のように君を愛してる(2014年)
- 出演
- チャン・ヒョク/チャン・ナラ/チェ・ジニョク
- 配信
- Amazonプライムビデオ、Netflix、U-NEXT、Lemino、FOD、Hulu、TELASA、Disneyプラス、ABEMA
韓国ドラマの進化の基本は、
あれもこれもの「ビビンバ文化」。
- 編集部
- 聞けば聞くほど、韓国ドラマのすごさというか、
勢いを感じます。
日本のドラマもNetflixで配信された作品が
海外で話題になることもありますが、
韓国ドラマと比べると
少し元気がないようにも映ります。
日本のドラマと韓国ドラマの
決定的に違う点はどこだと思いますか。 - 辛
- 韓国ドラマの進化の基本となっているのは、
韓国の「ビビンバ文化」だと思います。 - 松本
- ビビンバ? 色々なおかずとご飯を混ぜる……?
- 辛
- そう、ビビンバ。
韓国は、抑圧されてきた歴史が長いので、
あれもこれもほしいという思いが強い。
日本のドラマは、
ラブストーリーはラブストーリーだけ、
社会派は社会派だけという傾向が強いですが、
韓国ドラマは、ラブコメにも社会問題を
盛り込んだりするなど、あらゆるものが入ってる。
ひとつのドラマで、3度おいしい、みたいな(笑)。 - 寺脇
- 韓国ドラマならではの
サービス精神というものがあるんですよね。 - 辛
- それと、韓国ドラマにはタブーがない。
日本では触れちゃいけないかなと
思うようなテーマにも突っ込んでいく。
そういう意味で、日本のドラマは
切なく感じることがあります。
社会全体で言ってはいけないことが
多すぎるので、
限定された中で作品を作らなければならない。 - 松本
- 日本にもいろいろ社会問題は
あると思いますが……。 - 寺脇
- そうなんです。
今も歴然とあるんです。
2021年の東京オリンピックのときにだって
ホームレスを追い出したりしていた。 - 松本
- それを面白くて優れたドラマに
するかどうか、ですね。 - 辛
- あとは、韓国ドラマと日本ドラマの
大きな違いは、男の裸の商品化(笑)。 - 寺脇
- 裸ですか?
- 辛
- そう。韓国ドラマ以外で
これほど男性の裸が見られる
エンタメってあります? - 松本
- たしかに、男性のシャワーシーンが
よく出てきますね。
脚本的には必要がないのに……(笑)。 - 寺脇
- そうですか。
あまり気にしてなかった(笑)。
- 松本
- 私は韓国の俳優さんに直接会える
「ファンミーティング」に
ときどき行くんです、東京やソウルで。 - 辛
- え、すごい!
どんな人に会いに行くの? - 松本
- 最近では、ラブコメディの傑作
『社内お見合い』のキム・ミンギュさんです。
俳優さんのお顔は色々なタイプがありますが、
みんな背が高くて、手足が長くて、
胸板が厚くて、スタイルがいい。
服を着てもさまになるし、
裸になっても見ばえがする。 - 辛
- 私は正直、日本の俳優のほうが
顔がいいんじゃないかと思うんですが、
韓国の俳優は、全体のフォルムと演技力で
カッコよく見せている。
2020年に大ヒットした『梨泰院クラス』の
パク・ソジュンもそうですよね(笑)。 - 松本
- そんな! パク・ソジュンさんは、
顔もカッコいいですよ~!
胸キュンと笑いがたっぷり詰まったオフィス・ラブコメ 社内お見合い(2022年)
- 出演
- アン・ヒョソプ、キム・セジョン、キム・ミンギュ
- 配信
- Netflix