韓国ドラマはお金のかけ方がケタ違い。
- 編集部
- 今や世界的にヒットした韓国ドラマは、
『イカゲーム』『愛の不時着』だけではありません。
世界各国で受け入れられている理由は
何なのでしょうか。 - 松本
- 分かりやすいところでは、
まず、制作費のかけかたが違います。
韓国のドラマ制作会社は上場しているところが多く、
資金調達力に優れていると言われています。 - 辛
- 最初から世界のマーケットを
狙っているんです、韓国ドラマは。
Netflixなど、世界中の人が
気軽に作品を鑑賞できる
配信サービスが整ったことで、
世界中に作品を売れるようになった。
その結果、世界中から資金を
調達できるようになったことが大きい。 - 松本
- 確かに、世界的な動画配信サービスの普及は、
韓国ドラマにとって
大きなターニングポイントでした。
「お金をかけている」、
そして「収益があがっている」
と感じる大作がたくさんあります。 - 寺脇
- Netflixで配信された、
ハ・ジョンウとファン・ジョンミンという
韓国映画界のスター2人が主演する
『ナルコの神』のアクションシーンは、
すごいクオリティでした。
あれはお金をかけないとできません。 - 辛
- 『ナルコの神』は、
まさに資金力を感じます。
- 松本
- お金があるから、何百億円もする
バーチャルスタジオを作り、
優れたCGを生み出すこともできる。
OST(Original Sound Trackの略。
韓国ドラマではサントラのことをこう言う)も、
一つのドラマのために何曲も作って
CDが発売される。
ほかにも凝ったコンピューター・グラフィクス、
美しい衣裳、人気スターのキャスティング、
時代劇の豪華なセットなども、資金力の表れです。
サスペンス、ラブコメ、時代劇…
多彩なジャンルも魅力。
- 寺脇
- 韓国ドラマは、
ジャンルが多彩というのも
世界に通用する大きな理由ですよね。 - 松本
- 今日はここに、
韓国ドラマを取り上げた雑誌や書籍を
いろいろとご用意していただきました。
こうした本のジャンル分けを見ても、
ラブコメ、ラブロマンス、
ラブファンタジー、愛憎復讐劇、
ヒューマンドラマ、ホームドラマ、
時代劇、サスペンス……と、
本当に豊富です。
- 辛
- いや、すごいね。
- 松本
- 個人的に特に傑作が多いと思うのは、
ファンタジーです。
男女の心が入れ替わる『シークレット・ガーデン』、
死人を生き返らせる不思議な玉が登場する
『アビス』とか、
奇想天外なんですけど、発想が豊かで、
脚本も撮影技術もすばらしいです。
男女の魂が入れ替わるファンタジー・ロマンス シークレット・ガーデン(2010年)
- 出演
- ヒョンビン、ハ・ジウォン、ユン・サンヒョン
- 配信
- Netflix、FOD
- 辛
- 私が、大好きなのは『花遊記/ファユギ』。
あの「西遊記」を現代版にした
ファンタジーだけど、
沙悟浄が財閥の社長だったり、
猪八戒がK-POPスターだったり、
とにかく面白かった! - 寺脇
- 日本だったら、ドラマではなく、
アニメでやってしまうジャンルでしょうね。
「西遊記」をモチーフにしたファンタジー・ラブコメディ 花遊記<ファユギ>(2017年)
- 出演
- イ・スンギ、チャ・スンウォン、オ・ヨンソ
- 配信
- Amazonプライムビデオ、Netflix、U-NEXT、FOD、Hulu、ABEMA
- 辛
- 日本のドラマではなかなか見られない
主人公の設定が、
韓国ドラマを面白くさせている
ということもあると思います。
例えば、最近だと、
バレリーノを目指す70歳の男性が主人公の
『ナビレラ -それでも蝶は舞う-』とか。
- 寺脇
- 周囲に「男のくせに」と言われ、
生活のために諦めてしまった
クラシックバレエへの夢を、
一念発起して始める姿が
カッコよかった。
私は同世代ということもあって、
肩入れして観てしまいました(笑)。 - 辛
- でも、日本のテレビ局だったら、
たぶんこうした企画は通らないですよね。 - 松本
- 『ナビレラ』は地味な作風で、
胸キュンの恋もありませんが、
老いていく人間の最後の夢と生き甲斐、
命の尊厳を描きながら、
ほのかなユーモアもありますね。
韓国では、地上波ドラマから
ケーブルテレビやネット配信へと広がり、
70代の男性が主人公という、
従来のドラマにはなかった
新しいタイプの作品が誕生したんだと思います。
バレリーノを目指す70歳と23歳の異世代交流譚 ナビレラ -それでも蝶は舞う-(2021年)
- 出演
- パク・イナン、ソン・ガン、ナ・ムニ
- 配信
- Netflix
韓国ドラマには「世界の困難」が
凝縮されている。
- 寺脇
- 昨年、Netflixで大ヒットした
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は、
自閉症の弁護士を主人公にしていました。 - 松本
- 過去の法廷ドラマでは、
弁護士役は論理的な男性か、
キャリアウーマン風の女性で、
「社会的強者」でした。
でもこの弁護士のウ・ヨンウは、
自閉症スペクトラムという
症状を抱える「弱者」です。
そうした年若い女性が優秀な弁護士として
法廷で大活躍する姿を、
どこか可愛らしさも交えて描いていて、
チャーミングでした。
- 辛
- 自閉症の人を主人公にした
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』も
すばらしかったけど、
済州島を舞台にしたヒューマンドラマ
『私たちのブルース』は、
ダウン症の女性を俳優として登場させていて、
あれは革新的でした。 - 松本
- ダウン症の女性の妹役は、
人気女優のハン・ジミンが演じています。
この姉妹で食事に行くと、
周りの人に迷惑そうな顔をされてしまう。
劇中では、そうした障害者に向けられる
世間の差別も描かれている。
『私たちのブルース』は
人間ドラマの傑作ですが、
韓国ドラマは、どんなジャンルでも、
いろいろな形で社会的なメッセージが入っていて、
エンタメだけでは終わらない
見ごたえがあります。
自閉症の女性弁護士が活躍する法廷ドラマ ウ・ヨンウ弁護士は天才肌(2022年)
- 出演
- パク・ウンビン、カン・テオ、カン・ギヨン
- 配信
- Netflix
50代の中年男女が歌う、人生への応援歌 私たちのブルース(2022年)
- 出演
- イ・ビョンホン、シン・ミナ、チャ・スンウォン
- 配信
- Netflix
- 辛
- 韓国ドラマには、
世界の困難が凝縮されているんですよ。 - 松本
- 確かに、歴史とか民族の思いを
こめた作品がありますね。 - 辛
- 韓国の現代史を見ると、
新自由主義の問題を抱えていたり、
IMF危機(1997年7月からタイを中心に
始まったアジア各国の急激な通貨下落現象)で
国が没落していったり、
家父長制が根強く残っていたり。
さらに、戦争が終結していないことによる
国家分断の問題や徴兵制があったりと、
世界中で共有できるテーマがそろっている。
例えば、韓国ドラマでたびたび描かれる
“家父長制”については
イスラム圏でも共感する人は多い。
トルコ人の友だちの家にいった時、
韓ドラを観て家族で涙ぐんでた。
どうしたの?と聞くと
「父親がうちと同じ」って。
ひどいオヤジは、世界共通現象なんだと(笑)。 - 寺脇
- いや、本当に韓国では
この数十年の短い間にさまざまなことがあった。
たとえば、『シスターズ』は、
別に戦争がテーマではないけれど、
韓国社会に影を落とす
ベトナム戦争参戦について触れられています。
ご承知のように、
ベトナム戦争には韓国軍30万人が派兵され、
1万人以上の死傷者を出している。
作中でも、老人たちが
当時の化学兵器「枯葉剤」の
後遺症に苦しむ姿が描かれています。 - 辛
- 学校でのイジメを発端にしたサスペンス
『ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜』は、
国家が信頼されなくなった時代を
どう生き抜くかが描かれていたと思う。
高校時代に受けた壮絶な「いじめ」で
身心に深い傷を負った
ヒロインの復讐劇ですが、
今の時代の残酷さを見たくない人には
お勧めしませんが、
私が今ここにいるんだと
しっかり認識したい人は、
『ザ・グローリー』のような
作品を観るのがいいと思います。
線密な「策略系復讐劇」の傑作 ザ・グローリー~輝かしき復讐~(2022年)
- 出演
- ソン・ヘギョ、イ・ドヒョン、イム・ジヨン
- 配信
- Netflix
軍隊の暗部をユーモアを加味して
描いた『D.P. -脱走兵追跡官-』。
- 寺脇
- 韓国のエンタメは、
パク・クネ政権のときに
韓国映画界が総崩れにさせられるなど、
時の政権に影響される面もありますけど、
基本的に反権力がベースにあります。 - 松本
- 映画界の総崩れというのは?
- 寺脇
- 映画界のリベラル派が
政権から露骨に差別されたりして、
当時パク・クネのお父さん
(故パク・チョンヒ大統領)を
賛美する映画が作られたりしました。
- 辛
- ドラマも当時作られた『太陽の末裔』なんて、
軍人賛美の内容だった。
でも、そういうこともあるけど、
反権力の文化がベースにあり、
それが、韓国ドラマの面白さにつながっています。
韓国は、血を流して民主主義を
勝ち取った歴史がある。
何かを変えるために
自分たちで行動してきたことの蓄積があるんです。 - 松本
- 自分たちで新しい社会を作ってきた
という誇りと歴史が、
ドラマの厚みを増していて、
胸に迫るものがありますね。 - 辛
- 甲午農民戦争(1894年、朝鮮半島南部で
起こった農民の反乱)にスポットを当てた
時代劇『緑豆の花』でも描かれますが、
弱者を助けるのが指導者なんだという
弱者救済思想も強くあって、
それは時代劇・現代劇問わず
通底していると思います。
19世紀後期、兄弟の運命と絆を描く歴史大河 緑豆の花(2018年)
- 出演
- ユン・シユン、チョ・ジョンソク、ハン・イェリ
- 配信
- Amazonプライムビデオ、U-NEXT、Lemino、Hulu、TELASA、FOD
- 寺脇
- 先ほど辛さんから
韓国の徴兵制の話が出ましたけど、
『D.P. -脱走兵追跡官-』も傑作だった。
日韓の社会生活の中で決定的に違う
徴兵制を、脱走兵を追いかけて連れ帰る
「脱走兵追跡官(Deserter Pursuit=D.P.)」を
通して描いています。 - 辛
- あれは、面白かった。
ちょっと前の韓国だと、
徴兵制は触っちゃいけないものの
ひとつだったんですけど。
軍隊の不条理を描く「脱走兵を追う兵」の物語 D.P.-脱走兵追跡官-(2021年)
- 出演
- チョン・ヘイン、ク・ギョファン、キム・ソンギュン
- 配信
- Netflix
- 寺脇
- 全体を貫くテーマは、
韓国の社会問題でもある
軍隊内のイジメですが、
お互い新兵なので
追う側も追われる側の気持ちが
痛いほど分かるという点が、
物語に厚みを与えている。
組織の腐敗ぶり、格差社会の貧困問題も
鋭く描いています。 - 辛
- あの作品で私が本当に驚いたのは、
単なる社会派じゃなくて、
ユーモアもプラスしていたこと。
結構、ゲラゲラ笑わせるシーンも
あるじゃないですか。
みんなが苦しむ軍隊をあの角度から描いて、
見事な作品に仕上げたことに
感動しましたよ。