韓国ドラマ座談会 韓国ドラマ座談会

韓国ドラマはお金のかけ方がケタ違い。

編集部
今や世界的にヒットした韓国ドラマは、
イカゲーム』『愛の不時着』だけではありません。
世界各国で受け入れられている理由は
何なのでしょうか。
松本
分かりやすいところでは、
まず、制作費のかけかたが違います。
韓国のドラマ制作会社は上場しているところが多く、
資金調達力に優れていると言われています。
最初から世界のマーケットを
狙っているんです、韓国ドラマは。
Netflixなど、世界中の人が
気軽に作品を鑑賞できる
配信サービスが整ったことで、
世界中に作品を売れるようになった。
その結果、世界中から資金を
調達できるようになったことが大きい。
松本
確かに、世界的な動画配信サービスの普及は、
韓国ドラマにとって
大きなターニングポイントでした。
「お金をかけている」、
そして「収益があがっている」
と感じる大作がたくさんあります。
寺脇
Netflixで配信された、
ハ・ジョンウファン・ジョンミンという
韓国映画界のスター2人が主演する
ナルコの神』のアクションシーンは、
すごいクオリティでした。
あれはお金をかけないとできません。
『ナルコの神』は、
まさに資金力を感じます。

麻薬王の実話が題材のクライムサスペンス ナルコの神(2022年)

수리남
出演
ハ・ジョンウ、ファン・ジョンミン、パク・ヘス
配信
Netflix
松本
お金があるから、何百億円もする
バーチャルスタジオを作り、
優れたCGを生み出すこともできる。
OST(Original Sound Trackの略。
韓国ドラマではサントラのことをこう言う)も、
一つのドラマのために何曲も作って
CDが発売される。
ほかにも凝ったコンピューター・グラフィクス、
美しい衣裳、人気スターのキャスティング、
時代劇の豪華なセットなども、資金力の表れです。

サスペンス、ラブコメ、時代劇…
多彩なジャンルも魅力。

寺脇
韓国ドラマは、
ジャンルが多彩というのも
世界に通用する大きな理由ですよね。
松本
今日はここに、
韓国ドラマを取り上げた雑誌や書籍を
いろいろとご用意していただきました。
こうした本のジャンル分けを見ても、
ラブコメ、ラブロマンス、
ラブファンタジー、愛憎復讐劇、
ヒューマンドラマ、ホームドラマ、
時代劇、サスペンス……と、
本当に豊富です。
いや、すごいね。
松本
個人的に特に傑作が多いと思うのは、
ファンタジーです。
男女の心が入れ替わる『シークレット・ガーデン』、
死人を生き返らせる不思議な玉が登場する
アビス』とか、
奇想天外なんですけど、発想が豊かで、
脚本も撮影技術もすばらしいです。

男女の魂が入れ替わるファンタジー・ロマンス シークレット・ガーデン(2010年)

시크릿 가든
出演
ヒョンビン、ハ・ジウォン、ユン・サンヒョン
配信
Netflix、FOD

不思議な玉が死人を蘇らせる? 新感覚SFラブサスペンス アビス(2019年)

어비스
出演
パク・ボヨン、アン・ヒョソプ、イ・ソンジェ
配信
Netflix
私が、大好きなのは『花遊記/ファユギ』。
あの「西遊記」を現代版にした
ファンタジーだけど、
沙悟浄が財閥の社長だったり、
猪八戒がK-POPスターだったり、
とにかく面白かった!
寺脇
日本だったら、ドラマではなく、
アニメでやってしまうジャンルでしょうね。

「西遊記」をモチーフにしたファンタジー・ラブコメディ 花遊記<ファユギ>(2017年)

화유기
出演
イ・スンギ、チャ・スンウォン、オ・ヨンソ
配信
Amazonプライムビデオ、Netflix、U-NEXT、FOD、Hulu、ABEMA
日本のドラマではなかなか見られない
主人公の設定が、
韓国ドラマを面白くさせている
ということもあると思います。
例えば、最近だと、
バレリーノを目指す70歳の男性が主人公の
ナビレラ -それでも蝶は舞う-』とか。
寺脇
周囲に「男のくせに」と言われ、
生活のために諦めてしまった
クラシックバレエへの夢を、
一念発起して始める姿が
カッコよかった。
私は同世代ということもあって、
肩入れして観てしまいました(笑)。
でも、日本のテレビ局だったら、
たぶんこうした企画は通らないですよね。
松本
『ナビレラ』は地味な作風で、
胸キュンの恋もありませんが、
老いていく人間の最後の夢と生き甲斐、
命の尊厳を描きながら、
ほのかなユーモアもありますね。
韓国では、地上波ドラマから
ケーブルテレビやネット配信へと広がり、
70代の男性が主人公という、
従来のドラマにはなかった
新しいタイプの作品が誕生したんだと思います。

バレリーノを目指す70歳と23歳の異世代交流譚 ナビレラ -それでも蝶は舞う-(2021年)

나빌레라
出演
パク・イナン、ソン・ガン、ナ・ムニ
配信
Netflix

韓国ドラマには「世界の困難」が
凝縮されている。

寺脇
昨年、Netflixで大ヒットした
ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は、
自閉症の弁護士を主人公にしていました。
松本
過去の法廷ドラマでは、
弁護士役は論理的な男性か、
キャリアウーマン風の女性で、
「社会的強者」でした。
でもこの弁護士のウ・ヨンウは、
自閉症スペクトラムという
症状を抱える「弱者」です。
そうした年若い女性が優秀な弁護士として
法廷で大活躍する姿を、
どこか可愛らしさも交えて描いていて、
チャーミングでした。
自閉症の人を主人公にした
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』も
すばらしかったけど、
済州島を舞台にしたヒューマンドラマ
私たちのブルース』は、
ダウン症の女性を俳優として登場させていて、
あれは革新的でした。
松本
ダウン症の女性の妹役は、
人気女優のハン・ジミンが演じています。
この姉妹で食事に行くと、
周りの人に迷惑そうな顔をされてしまう。
劇中では、そうした障害者に向けられる
世間の差別も描かれている。
『私たちのブルース』は
人間ドラマの傑作ですが、
韓国ドラマは、どんなジャンルでも、
いろいろな形で社会的なメッセージが入っていて、
エンタメだけでは終わらない
見ごたえがあります。

自閉症の女性弁護士が活躍する法廷ドラマ ウ・ヨンウ弁護士は天才肌(2022年)

이상한 변호사 우영우
出演
パク・ウンビン、カン・テオ、カン・ギヨン
配信
Netflix

50代の中年男女が歌う、人生への応援歌 私たちのブルース(2022年)

우리들의 블루스
出演
イ・ビョンホン、シン・ミナ、チャ・スンウォン
配信
Netflix
韓国ドラマには、
世界の困難が凝縮されているんですよ。
松本
確かに、歴史とか民族の思いを
こめた作品がありますね。
韓国の現代史を見ると、
新自由主義の問題を抱えていたり、
IMF危機(1997年7月からタイを中心に
始まったアジア各国の急激な通貨下落現象)で
国が没落していったり、
家父長制が根強く残っていたり。
さらに、戦争が終結していないことによる
国家分断の問題や徴兵制があったりと、
世界中で共有できるテーマがそろっている。
例えば、韓国ドラマでたびたび描かれる
“家父長制”については
イスラム圏でも共感する人は多い。
トルコ人の友だちの家にいった時、
韓ドラを観て家族で涙ぐんでた。
どうしたの?と聞くと
「父親がうちと同じ」って。
ひどいオヤジは、世界共通現象なんだと(笑)。
寺脇
いや、本当に韓国では
この数十年の短い間にさまざまなことがあった。
たとえば、『シスターズ』は、
別に戦争がテーマではないけれど、
韓国社会に影を落とす
ベトナム戦争参戦について触れられています。
ご承知のように、
ベトナム戦争には韓国軍30万人が派兵され、
1万人以上の死傷者を出している。
作中でも、老人たちが
当時の化学兵器「枯葉剤」の
後遺症に苦しむ姿が描かれています。
学校でのイジメを発端にしたサスペンス
ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜』は、
国家が信頼されなくなった時代を
どう生き抜くかが描かれていたと思う。
高校時代に受けた壮絶な「いじめ」で
身心に深い傷を負った
ヒロインの復讐劇ですが、
今の時代の残酷さを見たくない人には
お勧めしませんが、
私が今ここにいるんだと
しっかり認識したい人は、
『ザ・グローリー』のような
作品を観るのがいいと思います。

貧しい三姉妹が闇の陰謀に巻き込まれていくミステリー シスターズ(2022年)

작은 아씨들
出演
キム・ゴウン、ナム・ジヒョン、パク・ジフ
配信
Netflix

線密な「策略系復讐劇」の傑作 ザ・グローリー~輝かしき復讐~(2022年)

더 글로리
出演
ソン・ヘギョ、イ・ドヒョン、イム・ジヨン
配信
Netflix

軍隊の暗部をユーモアを加味して
描いた『D.P. -脱走兵追跡官-』。

寺脇
韓国のエンタメは、
パク・クネ政権のときに
韓国映画界が総崩れにさせられるなど、
時の政権に影響される面もありますけど、
基本的に反権力がベースにあります。
松本
映画界の総崩れというのは?
寺脇
映画界のリベラル派が
政権から露骨に差別されたりして、
当時パク・クネのお父さん
(故パク・チョンヒ大統領)を
賛美する映画が作られたりしました。
ドラマも当時作られた『太陽の末裔』なんて、
軍人賛美の内容だった。
でも、そういうこともあるけど、
反権力の文化がベースにあり、
それが、韓国ドラマの面白さにつながっています。
韓国は、血を流して民主主義を
勝ち取った歴史がある。
何かを変えるために
自分たちで行動してきたことの蓄積があるんです。
松本
自分たちで新しい社会を作ってきた
という誇りと歴史が、
ドラマの厚みを増していて、
胸に迫るものがありますね。
甲午農民戦争(1894年、朝鮮半島南部で
起こった農民の反乱)にスポットを当てた
時代劇『緑豆の花』でも描かれますが、
弱者を助けるのが指導者なんだという
弱者救済思想も強くあって、
それは時代劇・現代劇問わず
通底していると思います。

19世紀後期、兄弟の運命と絆を描く歴史大河 緑豆の花(2018年)

녹두꽃
出演
ユン・シユン、チョ・ジョンソク、ハン・イェリ
配信
Amazonプライムビデオ、U-NEXT、Lemino、Hulu、TELASA、FOD
寺脇
先ほど辛さんから
韓国の徴兵制の話が出ましたけど、
D.P. -脱走兵追跡官-』も傑作だった。
日韓の社会生活の中で決定的に違う
徴兵制を、脱走兵を追いかけて連れ帰る
「脱走兵追跡官(Deserter Pursuit=D.P.)」を
通して描いています。
あれは、面白かった。
ちょっと前の韓国だと、
徴兵制は触っちゃいけないものの
ひとつだったんですけど。

軍隊の不条理を描く「脱走兵を追う兵」の物語 D.P.-脱走兵追跡官-(2021年)

D.P. 시
出演
チョン・ヘイン、ク・ギョファン、キム・ソンギュン
配信
Netflix
寺脇
全体を貫くテーマは、
韓国の社会問題でもある
軍隊内のイジメですが、
お互い新兵なので
追う側も追われる側の気持ちが
痛いほど分かるという点が、
物語に厚みを与えている。
組織の腐敗ぶり、格差社会の貧困問題も
鋭く描いています。
あの作品で私が本当に驚いたのは、
単なる社会派じゃなくて、
ユーモアもプラスしていたこと。
結構、ゲラゲラ笑わせるシーンも
あるじゃないですか。
みんなが苦しむ軍隊をあの角度から描いて、
見事な作品に仕上げたことに
感動しましたよ。
第3回(7月14日公開)に続く
構成/高山和佳 撮影/吉﨑貴幸