年末年始は「家でゆっくり過ごそう」と考えている皆さんが、長い休暇を満喫できる長編ドラマを紹介。ウェブ通販生活の人気連載「週刊テレビドラマ」の筆者11人が、それぞれおすすめするドラマです。夢中になりすぎて睡眠不足にならないよう注意しましょう!

相田冬二

郷愁とは無縁のみずみずしさがみなぎっている。

『はたらく細胞』は、お正月映画にぴったりの作品だ。老若男女におすすめできる。タメになって、エモーショナルで、誰もが楽しめる。後味がよい。雑味がない。

これは人間の体内の細胞たちの奮闘を描くものなのだが、その中心となるキャラクター、赤血球と白血球を、永野芽郁と佐藤健が演じている。永野芽郁と佐藤健と言えば、朝ドラ「半分、青い。」だ。

時は2018年。まだ、世界はコロナ前だった。コロナ禍はわたしたちの、それまでの時間感覚を完全に崩壊させた。だから「半分、青い。」もはるか前のことに思えるが、いま、このドラマを見直すと、全く郷愁とは無縁のみずみずしさがみなぎっていて、驚かされる。

多くの朝ドラがそうであるように、近過去が背景にある。だから懐かしネタやら笑える風俗描写などもあるにはあるのだが、そのいずれもが“終わってしまったこと”として処理はされていない。現在進行形で“愛でる”感覚が、とても愛おしい。

ドラマにしろ映画にしろ、かつてこうだった、と映像フィクションが描く時、それは現代への不満の裏返しであることが多い。かつては良かった、それに引き換え今はダメだ、というような姑息なメッセージに辟易する。

「半分、青い。」は、過去を美化もしないし、卑下もしない。このセンスは、脚本家、北川悦吏子の筆致と選択の賜物だが、永野芽郁と佐藤健の、フラットで奥ゆかしく、それでいて、豊潤な弾力が感じられるパートナーシップによるところがとても大きい。

これは永きにわたる恋物語でもあるのだが、人生は恋だけではない、という“ありのまま”を気取らず平易に、こころを潤わせる表現で紡いだ作品。実年齢は10歳も離れている永野と佐藤は、しかしドラマ内ではあくまでも横並びに存在しており、それゆえに、わたしたちは自然体の心意気で、物語の推移を見届けることになる。

あらためて、傑作。年末年始は、『はたらく細胞』とセットで、ぜひ「半分、青い。」の世界を堪能してほしい。コロナ禍を経ても“変わらなかったもの”を発見できるはずだ。

あいだ・とうじ●映画批評家。雑誌、ネット、劇場用パンフレットなどで執筆中。zoomトークイベント「相田冬二、映画×俳優を語る。」は通算220回を突破。2023年は、『町中華の宝石 きくらげたまご』(東京ニュース通信社)のメインライター、行定勲『映画女優(ヒロイン)のつくり方』(幻冬舎)の取材・構成を務めた。2024年11月、劇場用パンフレットへの寄稿を101篇収録した『あなたがいるから』を刊行。

池田敏

真田広之が米国で初出演した大ヒットドラマ。

2024年は、真田広之が米国で主演・プロデュースを務めた戦国ドラマ(日本でいう時代劇)『SHOGUN 将軍』が、同国のエミー賞で史上最多の18部門受賞をした、忘れられない年に。そんな一年の終わり、真田が14年前、シーズン6に出演した米国ドラマ『LOST』はお薦め。全121話で実質的に計・約90時間。年末年始のお楽しみにも打ってつけだ。

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オーストラリアから米国に向かっていたオーシャニック航空815便は南太平洋の孤島に不時着。しかし島は位置が不明で、時代がいつなのかも分からない。生存者たちのサバイバルと彼らが出会う謎の面々とのスリリングな攻防を壮大なスケールで描いた緊迫編だ。

815便墜落とその直後を描いた第1話がとにかく秀逸で、これを含むシーズン1はエミー賞でドラマシリーズ作品賞を受賞。企画・製作総指揮・第1話監督を務めたJ・J・エイブラムスは後に映画界で『スタートレック』『スター・ウォーズ』という2大シリーズを復活させる立役者となるが、『LOST』が画期的だったのは“時制”の使い方だ。

シーズン1~3は現在と過去(フラッシュバック)の両方を行き来する手法が斬新で、この『LOST』以来、フラッシュバックを多用するドラマが世界的に急増したが、筆者は登場人物の過去を掘り下げる手つきにおいて、『LOST』を超えた作品はまだ少ないように思える。しかもシーズン4からは一部の登場人物の未来(フラッシュフォワード)まで描き(凄い!)、3つの時制が複雑かつ鮮烈に絡む語り口に最後まで圧倒される。

真田がシーズン6で演じた不気味なキャラ道厳は、当初はほぼ日本語しか話さないが、いつしか英語に堪能なキャラに変貌。筆者が想像するに、真田自身の英語力の上達もあったのだろう。『LOST』初受賞の19年後、『SHOGUN 将軍』がエミー賞を大量受賞。日本からハリウッドに乗り込んだ真田、その苦闘の“過去・現在・未来”に思いを馳せたい。

いけだ・さとし●海外ドラマ評論家。『SCREEN』『映画秘宝』などの映画誌に寄稿し、WOWOW「アカデミー賞」中継で約20年前からアドバイザーを務めるなど、テレビ・ラジオに協力・出演することも。著書に『「今」こそ見るべき海外ドラマ』(星海社新書)など。

今 祥枝

熱狂的なファンも多い英BBC制作のギャングドラマ。

昔からギャングものには目がない。そんな映画ファン、ドラマファンはたくさんいると思うが、御多分に洩れず、私も子供のころにテレビで観た『ゴッドファーザー』や『ボルサリーノ』から『アンタッチャブル』など、欧米の名作映画で描かれる大物からチンピラまでギャングたちに魅了された。

ドンパチも血みどろのファイトも、かみそりで喉を掻っ切ったり、陰謀、裏切り、絶望、見果てぬ夢……。その全てが血湧き肉躍る瞬間の連続で、彼らの生きる世界での成功は刹那的だからこそ、破滅を予感させる哀愁がまたたまらん! と思ったものだ。きっとこの頃から、私の人生はメインストリームから着実に外れて行ったんだろうな。

さて、そんなギャングものは、今ではTVシリーズこそがより一層充実していると思う。ここ20年ぐらい変わらない私のオールタイムベスト3位(順不同)の1本が『ザ・ソプラノズ』(全6シーズン、U-NEXT)。HBOの秀作で、私が初めて映画とドラマの境界線がこれほどまでに融解したのかと、その映画クオリティの質の高さに驚嘆したシリーズだ。その感動は今でも忘れることができない。

そもそも論のTVシリーズの良さとして、長尺であるからこそ、必然的に登場人物への思い入れが強くなる。しかし、その多くのキャラクターたちは幸せにはなりそうにない、最終的には命を落とすか制裁をくらう、暴力の大きな代償を払うわけだが、視聴者としてともに過ごした時間が長ければ長いほど、そこに生まれるカタルシスは大きくなる。特に、序盤では一緒にてっぺんを目指した”兄弟”たちが仲間割れしていく展開には、いつも胸が痛くなる。ああ、無情の世界。

そんな私が大好きな世界が全部盛りで楽しめるのが、英BBCのドラマ『ピーキー・ブラインダーズ』だ。2013年から2022年まで、全6シーズンが放送された人気シリーズ。批評家の評価も高いが、それ以上に熱狂的なファンの存在がよく知られている。彼らが着こなす1920年代ファッションの再流行のきっかけになったとか、俳優のデイヴ・バウティスタのように番組をモチーフにしたタトゥーを入れる人も。またマンチェスターに同作品をテーマにしたバーがオープンするなどの現象も話題になった(行ってみたかった!)。

Netflixシリーズ「ピーキー・ブラインダーズ」シーズン1~6:独占配信中

主演は『オッペンハイマー』でアカデミー賞主演男優賞に輝いたキリアン・マーフィー。1890年代から20世紀初頭にかけてバーミンガムに実在したギャンググループ、ピーキー・ブラインダーズをストーリーのベースとした本作で、リーダー格のトーマス・シェルビーを演じている。と言っても、設定や名称には事実と同じものもあるが、少し調べてただけでも大分異なっているので、ほぼフィクションである。

第一次大戦後、犯罪組織を率いるトミー・シェルビーとその家族、架空のシェルビー・ファミリーは、バーミンガム郊外でブックメーカーを生業とするギャングとして勢力を拡大していく。当然ながらライバルも多く、同じ英国人でも階級や宗教、思想、文化的背景が異なるグループの対立は、熾烈を極める。こうした多様なギャンググループ同士の抗争は社会の映し鏡でもあり、特に欧米のギャングものを見る上での大きな醍醐味とも言える。この要素に興味がある人は、ぜひ現代の多国籍化したギャングの抗争を描く『ギャング・オブ・ロンドン』(スターチャンネルEX)を観て欲しい。

しかし何と言っても、本作のビジュアル面のかっこよさは群を抜いている。ピーキー・ブラインダーズのファッションはハンチング帽とロングコートに、メンバーのほとんどがオーダーのスーツを着用。これは実際の彼らのファッションを忠実に再現しているという。当時のバーミンガムでこのような格好をしているものはおらず、人々はこうした装いによってピーキー・ブラインダーズのメンバーと一般の人を区別していたとか。オープニングタイトルで劇中でも使われている印象的な楽曲、Nick Cave and the bad seedsの"Red right hand”が鳴り響き、ビシっとスーツを着こなして闊歩する彼らの姿は、自分まで肩で風きって歩いてしまいたくなるほど気分が上がる。

英国俳優のファンにとっては垂涎もののキャストの共演も心憎い。トム・ハーディ、ポール・アンダーソン、ジョー・コール、ヘレン・マックロリー、サム・ニールからエイドリアン・ブロディ、アニャ・テイラー=ジョイまで。ベテランから当時のニューカマーも含めて、シーズンごとに細かく脇役までじっくりと観ていくと、今では映画などでもおなじみの俳優たちが本作に出ていたのかと嬉しい発見もあるはず。このドラマの成功によって羽ばたいた才能も少なくないのだ。

現在Netflixが、BBC製作による『ピーキー・ブラインダーズ』の映画化(タイトル未定)を進めている。主演のキリアン・マーフィーとクリエイターのスティーブン・ナイト、ドラマ『ナース・ジャッキー』などを手がけたカリン・マンダバッハらが製作に名を連ねる。監督はドラマ版に引き続きトム・ハーパーが務め、ドラマ版全話の脚本を書いたナイトも続投する。

ナイトの弁によれば、映画版は「禁じ手なし。ピーキー・ブラインダーズの全面戦争だ」とのこと。また、あの世界に没入できるのかと思うと、今からわくわくしてしまう。今のうちに6シーズン全36話を観ておけば、映画版のリリースまでに十分間に合いますよ!

いま・さちえ●映画・海外TV批評/ライター・編集者。2000年からアメリカTV業界ウォッチャー。映画・海外TVの最先端を取材すること20数年。各種媒体でレビュー、コラム、特集記事などを企画・編集・執筆。著書『海外ドラマ10年史』(日経BP)、編集協力『幻に終わった傑作映画たち』(竹書房)ほか。海外ミュージカル愛好家。米ゴールデングローブ賞国際投票者、女性記者映画賞審査員。