年末年始は「家でゆっくり過ごそう」と考えている皆さんが、長い休暇を満喫できる長編ドラマを紹介。ウェブ通販生活の人気連載「週刊テレビドラマ」の筆者11人が、それぞれおすすめするドラマです。夢中になりすぎて睡眠不足にならないよう注意しましょう!

田幸和歌子

二人のじれったい恋愛が美しい。

テンポの良さと引きの強いストーリー展開にイッキ見してしまいがちな韓国ドラマ。

2024年3月にNetflix独占配信されるや、たちまちグローバルTOP10部門でナンバーワンを獲得した『涙の女王』や、自閉スペクトラム症の弁護士の奮闘を描いた『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』、済州島を舞台とした名優たちが繰り広げる人間ドラマ『私たちのブルース』、 “少年犯罪”に焦点をあてた『未成年裁判』、苛烈な復讐劇『ザ・グローリー~輝かしき復讐~』など、著名な作品を観ると、ジャンルを問わず、どれもこれも質が高い。

そんな中、まだまだ韓国ドラマ初心者の自分がほぼ未開拓のラブコメ分野で最近イッキ見したのが、韓国で“国民的年下彼氏”と呼ばれるチョン・へインが初めてラブコメに挑戦した話題作『となりのMr.パーフェクト』だ。

Netflixシリーズ「となりのMr.パーフェクト」独占配信中

チョン・へイン扮する「Mr.パーフェクト」スンヒョは、外見も性格も良く、韓国建築界で注目されている気鋭の建築家。そんなスンヒョがある日、ぺ・ソンニュ(チョン・ソミン)と偶然再会。ソンニュは母親同士が親友で、家が隣同士で育った幼馴染だが、成績優秀でアメリカに留学、世界的大企業に勤め、エリートとの結婚も決まっていた。しかし、突然、婚約破棄、会社も辞めて帰国したソンニュにスンヒョは振り回されつつ、交流が復活する。

ドラマでは二人の出会いの幼少期から、いつも一緒に過ごした高校時代までの日々、空白を経て再会した現在を交錯して描く。30代男女が、幼馴染ならではの距離感でじゃれ合う様子は気恥ずかしいほどだし、30年も思い続けた気の遠くなるほどの一途さにも驚く。

さらに驚くのは、ストレートなラブコメなのに、家族の問題や社会の問題が普通に描かれていること。日本以上に差別と格差が深刻と言われる韓国ではラブコメと言えど、病気や人種差別、経済格差、滅私奉公とも言うべき利他の精神などがデフォルト要素のよう。だからこそ二人のじれったい恋愛が美しいのかもしれない。

たこう・わかこ●ライター。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。雑誌、ウェブ媒体等で俳優やタレントなどのインタビューを手掛け、ドラマコラムを様々な媒体で執筆中。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(blueprint、共著)など。

寺脇研

2024年の選挙イヤーを振り返る骨太の政治ドラマ。

今年後半の日本は、政治の話題で持ちきりだった。

昨年11月に明るみに出た自民党の「裏金問題」に端を発し、閣僚4人の更迭や派閥の解散騒動などがあったのを経て、8月には岸田文雄首相の突然の辞任表明で自民党総裁選挙が火蓋を切る。人気の高い小泉進次郎をはじめ9人もの候補が乱立して舌戦を繰り広げ、同じ9月には野党第一党の立憲民主党代表選挙も行われてテレビのニュースやワイドショーは、政党のトップを選ぶ二つのイベントについての連日情報を流してくれた。

自民は石破茂、立憲は野田佳彦が就任し、10月1日には石破が第65代内閣総理大臣に就任した。そして、わずか8日後の衆議院解散。1週間後の15日に告示され27日に投開票の衆議院議員選挙では、長らく安定政権を保っていた自民党・公明党の連立与党が過半数割れに追い込まれる波乱の結果がもたらされる。以来、少数与党がどうやって政権を運営するかが注目の的だ。

海外でも、11月5日には日本に大きな影響を与えそうなアメリカ大統領選挙が行われ、トランプ候補の大勝利が報じられた。直近では、パワハラで失職した知事が再選された17日の兵庫県知事選挙もちょっとした騒ぎになっている。

Netflixシリーズ「補佐官」シーズン1~2:独占配信中

まさに「政治の季節」と言っていい。そんな今、骨太の政治ドラマがお薦めである。残念ながら日本にはそうしたものがないけれど、お隣の韓国には『補佐官』(全2シーズン)がある。国会議員の政策秘書から議員になっていく主人公と、その周囲にいる政界の善玉悪玉の織りなす政治劇は見もので、描かれる政治の裏側はリアルだから勉強にもなる。

折しも石破政権では、20年以上にわたり石破茂議員の政策担当秘書として活躍してきた女性の吉村真央氏が政策担当の首相秘書官に就任し、クローズアップされている。現実の首相官邸で活躍する彼女の姿も、このドラマで想像することができるのではないか。

なお、ドラマ内容の詳しい紹介は「週刊テレビドラマ」で、わたしの欄の「これまでのコラム一覧」から2022/8/24及び2022/9/21をご覧ください。

てらわき・けん●映画評論家・京都造形芸術大学教授・元文部官僚。1975年、文部省(現・文部科学省)入省の一方で、映画評論家や落語評論家としても活動。2006年、文科省退官後は京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)教授として映画学科、マンガ学科を担当。『戦争と一人の女』(2013年)から映画製作も始める。『韓国映画ベスト100』(朝日新書)ほか著書多数。

成馬零一

物語は複雑で重厚、何度繰り返し観ても飽きない。

『ゲーム・オブ・スローンズ』(HBO)は、2011年から2019年にシーズン8まで作られた大長編ドラマだ。

ジョージ・R・R・マーティンの小説『氷と炎の歌』シリーズを原作とする本作は、ウェスタロス大陸の七王国を舞台に、「鉄の玉座」をめぐって繰り広げられる権力闘争を描いた壮大なダーク・ファンタジー。

劇中にはドラゴンのような架空の生物も登場するが、鎧等の衣装や城の城壁といったビジュアル面での作り込みはリアルで豪華絢爛、そのため、架空の中世ヨーロッパの歴史を描いた大河ドラマとして楽しむこともできる。

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全8シーズンU-NEXTにて独占配信中

『ゲーム・オブ・スローンズ』の一番の特徴は、登場人物がとても多く、視点人物が次々と切り替わっていくこと。主人公がはっきりとしている映画やドラマに見慣れていると、どういう風に物語を観ていいのかわからず、初めはとても戸惑うのだが、作品の見方は自由である。主役不在の物語をあるがままに受け取り、世界の行く末を眺めて楽しむも良し。自分だけの「推し」を見つけて、そのキャラクターの物語として楽しむも良し。とにかく作品の器がデカいので、どんな視点で観ても楽しめる。

もう一つの大きな特徴は、容赦のない残酷描写。現代社会では憚られる暴力や性に対する欲望と想像力を無限に解放できることこそファンタジーの魅力だが、劇中では唐突に暴力の嵐が吹き荒れ、重要だと思った人物があっけなく殺され、退場していく。

残酷な処刑シーンから軍隊同士の戦争まで暴力のバリエーションは豊富だが、描かれる暴力の多くが国家権力や家父長制度と強く結びついているのが本作の批評性だろう。その意味で権力が内包する暴力を徹底的に描いた政治ドラマだとも言える。

実写ドラマとしてはもちろんのこと、架空の世界を描いたファンタジーとしても破格のクオリティである。そして物語は複雑で重厚なため、何度繰り返し観ても飽きない。ハマれば一生をかけて楽しむことができる長編ドラマの金字塔である。

なりま・れいいち●ライター、ドラマ評論家。ドラマ、映画、マンガ、アニメ等について幅広く執筆。著書に『TV ドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生 テレビドラマを更新する 6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)など。