年末年始は「家でゆっくり過ごそう」と考えている皆さんが、長い休暇を満喫できる長編ドラマを紹介。ウェブ通販生活の人気連載「週刊テレビドラマ」の筆者11人が、それぞれおすすめするドラマです。夢中になりすぎて睡眠不足にならないよう注意しましょう!

影山貴彦

故・西田敏行さんなど素晴らしい俳優陣が揃っていました。

山崎豊子さんの代表作のひとつ「白い巨塔」は、これまで5回、日本でテレビドラマ化されています。1967年版(全26回)は佐藤慶さん、1978年版(全31回)は田宮二郎さん、1990年版(2夜連続)は村上弘明さん、2003年版(全21回)は唐沢寿明さん、2019年版(5夜連続)は岡田准一さんがそれぞれ主役を務められました。読者の方によって、思い出深い財前教授がそれぞれいらっしゃることでしょう。

改めて説明するまでもなく「白い巨塔」は、大学病院を舞台に、権力・名誉欲が人一倍強い天才外科医・財前五郎と、誠実に患者と向き合うことを第一義とする内科医・里見脩二の異なる生き方を対比して描きながら、医学界の実態に深く切り込んだ社会派の名作です。

2003年版では、唐沢さんが演じる財前と江口洋介さん演じる里見の、互いに大きく対立しながらも、心の奥底で深い友情で結ばれている様子が描かれました。そのお二人以外にも素晴らしい俳優陣が揃っていました。とりわけ印象に残った方が、お亡くなりになった西田敏行さん、そして石坂浩二さんでした。

西田さん演じる、五郎の義父で産婦人科医院の院長を務める財前又一は、資産家で医師会でも要職に就く実力者ですが、自らが大学教授になれなかったことを長くコンプレックスに思っています。そこでありとあらゆる手を尽くして娘婿を教授に昇進させようと尽力するのです。五郎に高級時計を渡しながら、「ええか、人間の究極の欲望は名誉や、金はどこまでいってもただの金に過ぎひん」と言い切る西田さんの演技は迫力に満ちていました。

石坂さんが演じたのは、財前の上司であり恩師の東貞蔵教授です。東は財前に対する複雑な感情から、様々な画策を練って彼の教授昇進を阻止しようと動きます。ですが、その粗さを知人の教授から「甘いお人だ」と侮辱されてしまうのです。プライドをずたずたにされた姿を石坂さんは鬼気迫る演技で魅せるのです。

名場面あふれる「白い巨塔」、年末年始にたっぷり味わってみてはいかがでしょう。

かげやま・たかひこ●同志社女子大学メディア創造学科教授/コラムニスト。元毎日放送(МBS)プロデューサー。専門は放送を中心としたメディア研究。朝日放送(ABC)ラジオ番組審議会委員長、ギャラクシー賞テレビ部門委員、日本笑い学会理事。著書に『テレビドラマでわかる平成社会風俗史』(じっぴコンパクト新書)、『テレビのゆくえ』(世界思想社)など。

辛酸なめ子

この一作で何本もの映画を観たような満足感。

中国の至宝的イケメン、シャオ・ジャンが、ミラクルな神官を演じるファンタジーロマンス時代劇。神官の時影は彼に死をもたらすと予言された少女、朱顔を弟子にして、様々な砲術をレクチャーします。そしていつしか禁断の恋に……。ロマンス以外にも、ライバルの弟子同士のバトルや、部族間の戦いもあり、飽きさせない展開。CGやワイヤーアクションのレベルの高さにも驚かされます。バリバリのCGですが、幻想的で美しい異世界のビジュアルは「アバター」レベルかもしれません。魔法の要素は 「ハリー・ポッター」、ダースベイダーっぽい闇落ちした神官が出てくるのは「スター・ウォーズ」、いにしえの指輪を探す展開は「ロード・オブ・ザ・リング」、神鳥の重明に乗って空を飛ぶシーンは「ネバーエンディング・ストーリー」など、メジャーなハリウッド大作の要素もあって、この一作で何本もの映画を観たような満足感が。同じ東洋人として、「ハリー・ポッター」の魔法よりも感情移入しやすいかもしれません。

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また、このドラマでは、各地を治めるロイヤル一家のお姫様たちが、神官の弟子になっていて、セレブなお姫様たちが法術で操る姿のギャップにも魅せられます。様々な部族がせめぎあっていて、中国大陸の広大さを実感させられます。

そしてラブストーリーは、両思いなのにお互い気持ちを打ち明けられない雰囲気で、なかなか進まないもどかしさも胸キュンポイント。無邪気な少女、朱顔が何気なく時影にボディタッチして、時影がドキドキするシーンなどにも萌えます。

何より美しいのは、シャオ・ジャン演じる時影が、法術を操るシーン。優雅で美しい舞みたいな動きで術をかけるのですが、画面ごしにも魔法がかかってしまいそうです。見ている間は完全に現実逃避できて、中国の異世界にトリップした感覚が得られる大作ドラマ。全編通して、アップでもどんな角度でも完璧な美しさをキープし続けるシャオ・ジャンこそ、法術を超えた存在です。

しんさん・なめこ●漫画家・コラムニスト。独特の観察眼と妄想力で世の中を捉えるエッセイやイラストで人気を博す。主な著書に『辛酸なめ子の独断!流行大全』(中公新書)、『ヌー道じゅんとなめ子のハダカ芸術入門』(みうらじゅんとの共著・新潮社)、『大人のマナー術』(光文社新書)など。

辛淑玉

中国版・韓国版それぞれの文化を堪能したい。

中国ドラマ『家族の名において(以家人之名)』(2020年)は、血のつながっていない3人の子どもの成長物語だ。2024年には韓国で『組み立て式家族』としてリメイクされた。

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妻を亡くした、麺店を営む李と娘が暮らす団地の上階に、喧嘩ばかりしている両親と息子が引っ越してくるが、すぐ離婚。また、李は男児一人のシングルマザーとお見合いするのだが、相手は李から金を借りると行方不明になってしまう。李が見合い相手の実家を訪ねるとそこは貧しい農家で、働かされていた男児を発見し、引き取ることになる。

母親に捨てられた二人の男児と、麺店を営む親子が家族同然になり、一緒に食卓を囲み、成長していく物語だ。

中国版と韓国版のどちらにも、家族とは「血」ではないというメッセージが込められていて、成長していく子どもの姿とその淡い恋心に口元が緩む。同時に、子どもが自らの意思をもって生きることの困難さや、親の「愛」と言われるものが実は支配(暴力)であることも描かれる。

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中国版の背景には、1979年から2014年まで続いた「一人っ子政策」という、世界でも例を見ない産児制限を行った社会の課題があり、韓国版には、少子化という現在進行中の問題がある。

どちらも、叔父や叔母、イトコがいない社会での、人間関係の在り方を考えさせる作りになっている。

同時に、それらすべてを支えているのが、アジアの伝統文化ともいうべき「食」なのだ。同じテーブルを囲み、おかずを分け合う。それは韓国語でシック(食口)と言い、「家族/扶養家族」という意味だ。中国語でも同じ。

食を分かち合うのが家族なのだ。

あの、台湾の侯孝賢監督の『悲情城市』のメッセージをも彷彿とさせる、お勧めのドラマである。是非見比べて、それぞれの文化を楽しんでもらいたい。

しん・すご●人材育成コンサルタント。博報堂特別宣伝班を経て1985年、企業内研修の会社を起業。企業内研修、インストラクターの養成、職能別研修などを行う一方で、テレビ出演や講演も多数行う。『怒りの方法』(岩波新書)、『差別と日本人(角川ワンテーマ)』など著書多数。