年末年始は「家でゆっくり過ごそう」と考えている皆さんが、長い休暇を満喫できる長編ドラマを紹介。ウェブ通販生活の人気連載「週刊テレビドラマ」の筆者11人が、それぞれおすすめするドラマです。夢中になりすぎて睡眠不足にならないよう注意しましょう!

ペリー荻野

西郷輝彦が歌う主題歌「時に抱かれて」も。

時代劇には、昼間は医療、夜間は世直しというスーパードクターが何人も登場しているが、「あばれ医者嵐山」の林嵐山(西郷輝彦)もそのひとりだ。

嵐山は、将軍家御殿医という名家の生まれで、長崎のシーボルトの鳴滝塾で修行した超エリート。しかし、自ら弟に家督を譲り、町医者の林家に婿養子に入って、愛妻・美沙(渡辺梓)とともに小さな診療所で町の人々の治療に当る。医師ながら、剣の腕もある嵐山だが、ここで重要なのは、「自分の仕事は人の命を救うのが仕事」と、愛刀は、元盗賊の覚兵衛(長門勇)とお駒(佳那晃子)に預けていること。飯屋を営む覚兵衛が聞きつけるうわさや、駆け込み寺の庵主月光院(野川由美子)の話から、許せぬ悪を断つために、剣をとるのだ。悪の前では「地獄へ送ってやる!!」とあばれ鬼となるギャップがすごい。第一話「酔いどれに恋女房」での命を軽く扱う同業者との怒りの対決はみもの。他の回のゲストには青春ドラマ「俺たちの旅」のヒロインで人気を博した金沢碧、時代劇で「五万回斬られた男」として教科書にも掲載された福本清三、話題の映画「侍タイムスリッパ―」で注目される冨家ノリマサも登場する。

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取材では、鹿児島で育ったこども時代、チャンバラに夢中で、俳優になってから、時代劇に出るのはとにかく楽しいと語っていた西郷輝彦だが、面白いのは主演作で「愛妻家」の設定が多いこと。時代劇の正義の味方は、独身で女性にモテモテというケースが多いが、西郷の場合、代表作「江戸を斬る」シリーズで遠山金四郎を演じた際には、自ら紫頭巾となってともに悪を討つ妻おゆき(松坂慶子)がいたし、「清水次郎長」では苦労をかける妻お蝶(増田恵子)を労わっていた。嵐山は入り婿で妻には頭が上がらないという新路線。西郷の明るさとお茶目さがよく出ている。

そして、西郷時代劇のお楽しみといえば、主題歌。「嵐山」の「時に抱かれて」もおとなの哀愁が漂ういい曲です。

ぺりー・おぎの●コラムニスト・時代劇研究家。毎日新聞、時事通信、朝日新聞論座など新聞・雑誌・webで連載中。NHKラジオ第一「マイあさ!」土曜日出演中。『時代劇を見れば、日本史の8割は理解できます』(共著・徳間書店)、『脚本家というしごと~ヒットドラマはとうして作られる~』(東京ニュース通信社)、『テレビの荒野を歩いた人たち』(新潮社)など著書多数。

松本侑子

ドラマ終了後は、ロスを嘆くファンが続出!

私の20年をこえる韓流ドラマ歴のなかで、ベスト10に入る面白さです!

主人公は、現代韓国の大統領府でシェフをつとめる男性(チェ・ジニョク)。彼は、体格のいい30代後半の美男子ですが、プールに落ちて意識を失い、気がつくと、19世紀半ば、李氏朝鮮時代の若い王妃キム・ソヨン(シン・ヘソン)になっていた。まさに「俺がクイーン!?」という仰天の事態になっていたのです。

見た目は、豪華な韓服をきたきれいなお妃さまでありなから、中身は、負けず嫌いな男のため、仕草も、話し言葉も、現代のオッサン風であり、まずはそのおかしさに大笑いします。

王妃の夫である国王(キム・ジョンヒョン)は、朝鮮第25代の王、実在の人物です。

19世紀に来たシェフは、宮廷で暮らすうち、自分(王妃キム・ソヨン)が置かれている状況を少しずつ理解していきます。

宮廷の大臣は、キム家とチョン家という2つの名門が権力争いをしていること。王妃のキム・ソヨンは、政略結婚の道具としてキム家が送りこんだ花嫁であり、王さまは、王妃には、なんの興味も愛情もないこと。

そもそも王さまは、ただのお飾りで、力はなく、実質的な政治は、キム家が牛耳っていていること。

ところがキム家とチョン家は、民衆に不当な重税をかけ、それを懐にいれて私腹を肥やし、貧困に苦しむ民の反乱がおきていること。

王さまは、そんなキム家とチョン家の不正をあばいて、権力と正しい政治を取りもどそうとしますが、猛反撃をくらっていること。

現代人の男性シェフ(見た目は王妃)は、政治の腐敗に驚き、王さまを助けて、キム家やチョン家と対決します。王さまは、自分の力になってくれる王妃を信頼するようになり、やがて恋心に変わり、でも王妃の中身は男のため……。

男女の入れ替わりのユーモア、タイムスリップの面白さ、男性シェフは21世紀に帰ることができるのか? 王と王妃は結ばれるのか? といった定番の面白さだけではありません。

毒殺や死体の入れ替えまでする過酷な宮廷で、勇気と知恵と正義感で大活躍する王妃(シェフ)の痛快さ。王妃(シェフ)が、19世紀の朝鮮では珍しいフランス料理をふるまって宮廷の人々の心をつかむあたりも楽しいのです。

さらに王妃(シェフ)は、王さまに、21世紀の民主主義のしくみまで教えます。国民が投票して大統領を選ぶ直接選挙、立憲君主制(王の権力を憲法が制限する)。それを受けて、王さまも変化していきます。

政治への理想が根底にあるため、単なるタイムトラベル&ロマンス作品にはない骨太な魅力があります。韓国は独裁政権のあとに民主化をなしとげた歴史があり、その意気込みを感じるのです。

キャスティングもすばらしい。大ヒット作『愛の不時着』の怪しい実業家役で知名度をあげたキム・ジョンヒョンが、国王の苦悩と恋と剣術アクションを大熱演。女優シン・ヘソンは負けず嫌いで大胆な王妃を好演。

キム家の貴公子役のナ・イヌの演技も味わい深く、忘れがたい。彼は、王妃が王さまに嫁ぐ前から彼女を愛し、王妃となってからも一途に彼女を守り続け、恋慕のまなざしで彼女を見つめるものの、王妃がキム家と敵対するうちに憎しみを抱きつつ、それでも消えない純愛に身を滅ぼしていくのです。

ユーモアに大笑いし、命がけの戦いに手に汗握り、自己犠牲の愛に号泣し、豪華な衣裳にほれぼれし、民主的な政治への理想に心動かされ、コミカル・ロマンス・決闘といったシーンごとの効果的な音楽と歌にも感動し、すべてに満足した大作です。

ドラマ終了後は、ロスを嘆くファンが続出。スピン・オフのドラマ「哲仁王后 竹の森」も製作されました(Amazonプライム、U-NEXTで公開)。私もロスになり、スピン・オフ編をこれから見ます。お正月休みが楽しくなること確実です。

まつもと・ゆうこ●作家・翻訳家。『巨食症の明けない夜明け』(すばる文学賞・集英社文庫)、『恋の蛍 山崎富栄と太宰治』(新田次郎文学賞・光文社文庫)、金子みすゞの生涯と詩の評論『金子みすゞと詩の王国』(文春文庫)など。新刊は『赤毛のアン論 八つの扉』(文春新書)。