西郷輝彦が歌う主題歌「時に抱かれて」も。
時代劇には、昼間は医療、夜間は世直しというスーパードクターが何人も登場しているが、「あばれ医者嵐山」の林嵐山(西郷輝彦)もそのひとりだ。
嵐山は、将軍家御殿医という名家の生まれで、長崎のシーボルトの鳴滝塾で修行した超エリート。しかし、自ら弟に家督を譲り、町医者の林家に婿養子に入って、愛妻・美沙(渡辺梓)とともに小さな診療所で町の人々の治療に当る。医師ながら、剣の腕もある嵐山だが、ここで重要なのは、「自分の仕事は人の命を救うのが仕事」と、愛刀は、元盗賊の覚兵衛(長門勇)とお駒(佳那晃子)に預けていること。飯屋を営む覚兵衛が聞きつけるうわさや、駆け込み寺の庵主月光院(野川由美子)の話から、許せぬ悪を断つために、剣をとるのだ。悪の前では「地獄へ送ってやる!!」とあばれ鬼となるギャップがすごい。第一話「酔いどれに恋女房」での命を軽く扱う同業者との怒りの対決はみもの。他の回のゲストには青春ドラマ「俺たちの旅」のヒロインで人気を博した金沢碧、時代劇で「五万回斬られた男」として教科書にも掲載された福本清三、話題の映画「侍タイムスリッパ―」で注目される冨家ノリマサも登場する。
取材では、鹿児島で育ったこども時代、チャンバラに夢中で、俳優になってから、時代劇に出るのはとにかく楽しいと語っていた西郷輝彦だが、面白いのは主演作で「愛妻家」の設定が多いこと。時代劇の正義の味方は、独身で女性にモテモテというケースが多いが、西郷の場合、代表作「江戸を斬る」シリーズで遠山金四郎を演じた際には、自ら紫頭巾となってともに悪を討つ妻おゆき(松坂慶子)がいたし、「清水次郎長」では苦労をかける妻お蝶(増田恵子)を労わっていた。嵐山は入り婿で妻には頭が上がらないという新路線。西郷の明るさとお茶目さがよく出ている。
そして、西郷時代劇のお楽しみといえば、主題歌。「嵐山」の「時に抱かれて」もおとなの哀愁が漂ういい曲です。
ぺりー・おぎの●コラムニスト・時代劇研究家。毎日新聞、時事通信、朝日新聞論座など新聞・雑誌・webで連載中。NHKラジオ第一「マイあさ!」土曜日出演中。『時代劇を見れば、日本史の8割は理解できます』(共著・徳間書店)、『脚本家というしごと~ヒットドラマはとうして作られる~』(東京ニュース通信社)、『テレビの荒野を歩いた人たち』(新潮社)など著書多数。