「喋る」を二つ重ねて「喋喋(ちょうちょう)」。
希代のおしゃべり・古舘伊知郎さんが
ゲストを迎え、おしゃべりを重ねます。
太田光さんは、古舘さんに
負けず劣らずの喋り屋。
社会のさまざまな出来事を肴に、
2時間ノンストップで語り合いました。
※対談は、2023年10月17日に行ないました。
古舘伊知郎さん
ふるたち・いちろう●1954年、東京都生まれ。大学卒業後、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。84年に退社後も数々のテレビ番組で活躍。近著に、自身の仕事の準備をすべて明かした『伝えるための準備学』(ひろのぶと株式会社)。
太田光さん
おおた・ひかり●1965年、埼玉県生まれ。88年、大学の同級生の田中裕二と爆笑問題を結成。2010年、初の小説『マボロシの鳥』(新潮社)を上梓。その他、『憲法九条を世界遺産に』(共著/集英社新書)ほか著書多数。
僕は護憲派だけど、改憲論議を
した上での
国民投票には大賛成。
- 古舘
- 先日、ガザ地区の状況を解説する映像をネットに公開したら、「それでイスラエルとパレスチナ、どちらを応援すればいいんですか?」というコメントがありました。ラグビーの試合じゃないんだから、そんな二者択一の問題ではないのですが……。
- 太田
- 確かに「正解」を求める人は多くなってるかもしれないけど、僕は二者択一ではない「どっちつかず感」こそが、本来の日本人らしさなんじゃないかと思っているんです。たとえば安全保障についても、独立国の体を取りながらもアメリカには常に追従して、沖縄に広大な米軍基地を置く。平和憲法といいながら、解釈を変えて自衛隊を海外派遣できるようにしていく。そうやって大国の顔色をうかがいながら自分のポジションを探していくあり方って、いい悪いは別にして日本にしかできなかったし、ある意味で日本人の賢さでもあったんじゃないか。『笑って人類!』に出てくるピースランド首相の富士見は、そういう日本人の「象徴」のつもりで書いたんです。
- 古舘
- 僕は敵基地攻撃能力の保有など政府が進めてきた解釈改憲には反対ですが、日本にしかできなかったという見立ては新鮮です。
- 太田
- 自民党は結党以来「憲法改正」を党是に掲げてきたけれど、「戦後レジームからの脱却」を掲げた安倍政権を含め、どの政権も結局国民投票すらやりませんでしたよね。その意味では、実は自民党こそが日本国憲法を守ってきた一番の〝護憲派〟なんじゃないかって考えているんです。
- 古舘
- 政治家一人ひとりはともかく、歴史を振り返っても自民党が本気で憲法を変えようとしたことは確かに一度もなかったのかもしれないですね。「改憲するぞ」と言い続けることでなんとか保守派の支持層をつなぎ止め、アメリカの圧力にも対処してきた。
ちなみに僕は基本的に護憲派なんですが、最近、自衛隊の存在については憲法に書き込んだほうがいいのかなと思うようになりました。その上で「集団的自衛権には与しない」「専守防衛を徹底する」としっかりと縛りをかける、いわゆる護憲的改憲が必要なんじゃないかと考えています。太田さんは護憲の立場ですね? - 太田
- そうですけど、ただ改憲の是非を問う国民投票には大賛成です。古舘さんが言うように、自衛隊員の立場を考えれば自衛隊の存在を明記したいというのは当然だろうし、そういう改憲案でもいいと思う。たとえば2年と期間を決めて、テレビや雑誌やネットも使ってしっかり議論した上で国民投票をして、その結果改憲案に賛成する人が多いんだったらもちろん従う。むしろ、そうしたちゃんとした改憲論議をやりたいし、やるべきだと本気で思っているんです。
ジャニーズ〝帝国〟と
「関係がなかった」とは言えません。
- 太田
- ジャニーズ事務所の性加害問題で、古舘さんが「(ジャニーズに)忖度していた」と話したこともネットで話題になってましたよね。
- 古舘
- 80年代後半に『夜のヒットスタジオ デラックス』(フジテレビ系)の司会をしていましたから。当時はシブがき隊がすごく売れて、少年隊、さらには光GENJIが出てきて、ジャニーズ事務所がテレビと一緒になって“帝国”を構築していった時代でした。もちろん僕はお金をもらっていないけれど、いわば「下請」として司会をしていた。帝国にぶら下がる一員だったという感覚はあります。少なくとも「関係なかった」とは言えません。
- 太田
- テレビの報道記者が「ジャニーズを支えた自分たちの責任を私たちも考えなくてはならない」と番組で言ってますけど、僕は本気でそう考えている気がしないんです。夏に国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会の専門家の人たちが来日したでしょう。
- 古舘
- 帰国前の8月4日に記者会見を開いていました。
- 太田
- そこでジャニーズ問題に言及していたので、「とうとう国連までがジャニーズ問題に対して動いた」という報道がされていたと思います。ネットで記者会見の様子を全部見ましたけど、質問がジャニーズ問題に関するものばかりで、専門家がそれ以外の質問をするよう意見していたんです。
それは当然で、作業部会の報告書を読むと、彼らはジャニーズ問題が起きたから調査に来たわけじゃなく、広く日本の「ビジネスと人権」状況を調べることが以前から決まっていた。そして日本滞在中、福島第一原発で働いている作業員や外国人技能実習生、LGBTQ+の人たちがおかれている状況などたくさんの問題を調査して、日本政府や企業に対してすごく参考になる提言をしていたんです。
でも、そういうことには一切触れずにジャニーズ問題についてだけ質問して報道する。「自分たちの責任」と言った舌の根も乾かぬうちに、今度はジャニーズ以外の人たちの人権を無視するような報道をやっていて、それでいいのかって言いたいんですよ。 - 古舘
- 太田さんが「メディアはずっと忖度して見て見ぬ振りをしてきたのに、ジャニーさんが死んだ途端に批判する側に回った。そこはしっかり見ておかないと」と指摘しているのを聞いて、その通りだと思いました。
最後に『笑って人類!』の話に戻りますが、小説に「D地区」というエリアが出てきます。かつて地震と津波による原発事故で放射能に汚染され、後に原発の使用済み核燃料の最終処分場に選定された場所です。読んでいて、どうしても福島第一原発近辺と重なりましたし、これは現実になり得る話だと恐ろしくなりました。
対談は23年10月17日に行なった。撮影では衆議院憲政記念舘を訪れ、議場体験コーナーを使用した。憲政功労者3人の像とも記念撮影。
- 太田
- 今、政府は「核のごみ」の最終処分場の候補地を公募していますけど、どこも難航していますよね。意地悪な見方かもしれないけど、本音では福島に置くしかないと考えてるんじゃないか。「公募し調査したけど候補地が見つからなかった」という既成事実を作った上で、福島の人たちに「申し訳ありませんが、ここに最終処分場をつくらせてください」と言うつもりなんじゃないかと疑ってるんです。
- 古舘
- 青森にある中間貯蔵施設にしても、今ある使用済み核燃料を他の場所に持っていけない可能性があります。
- 太田
- そうなんです。ただ、そういう政府を批判するために「D地区」を考えたわけではなく、小説では地下400メートルに最終処分場があるこの地区の再開発が「英断」とされ、その決断を下した富士見の義理の父が「カリスマ宰相」として崇められ国葬されたことになっています。
「福島に最終処分場を」と今言えば、日本国中が反対するに決まってます。でも、50年、100年と時間が経って福島第一原発周辺に住む人がいなくなったとしたら、「ここしかない」となってしまうかもしれない。そうやって僕たち民衆は移り気なんだということを一番伝えたかったんです。 - 古舘
- われわれは記憶するよりも忘れる能力のほうに長けているし、常にもっとインパクトのあるニュースを求めている。だからこそ「移り気」であることを自覚する必要があります。
- 太田
- 22年7月の参議院選挙特番で、河野太郎さんに「最終処分場の候補地は高齢化の進んでいる場所ばかり。これは未来の話なんだから、もっと若い人たちと議論するべきじゃないか」と聞いてみたんです。そしたら「ワアワア議論する問題じゃない」と言われて。僕はさっきの憲法の話もウクライナもパレスチナもジャニーズの問題も、もっとみんなでワアワア議論したいんです。今日、古舘さんと話してて意見が違うこともあったけど、それでいい。意見が違う人がちゃんと話せることが大事だと思うんです。
- 古舘
- そのためにはメディアの役割も大きいですね。『太田総理』(『太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中。』日本テレビ系)のような番組もまたやってほしいけど、テレビが難しいならインターネットでどうですか?
- 太田
- 僕はやっぱり地上波のテレビが好きなんです。政治家もお笑い芸人もスポーツ選手もグラビアアイドルも、分け隔てなく誰もが出たいと思ってくれる場所。あんなに贅沢な番組づくりができるのはまだやっぱりテレビしかないと思うし、もう少しそこで頑張っていたいと思うんです。
撮影/山口規子、太田さん/ヘアメイク:小林朋子、スタイリスト:植田雅恵、
古舘さん/ヘアメイク:林達朗、スタイリスト:高見佳明
協力/衆議院憲政記念舘