東日本大震災やコロナ禍…大変なことも多いけれど、みんなが笑顔になれる表現をしていきたい。

前編を読む

「喋る」を二つ重ねて「喋喋(ちょうちょう)」。
希代のおしゃべり・古舘伊知郎さんが
ゲストを迎え、おしゃべりを重ねます。
今回のゲストは、俳優だけでなく多彩な活動を
続けるのんさん。お二人の年の差はおよそ40歳。
はたして会話がうまく噛み合うのか……、
一抹の不安を抱えながら対話が始まりました。

お二人のプロフィール

古舘伊知郎さん

ふるたち・いちろう●1954年、東京都生まれ。大学卒業後、テレビ朝日にアナウンサーとして入社。84年に退社後も数々のテレビ番組で活躍。アントニオ猪木ら往年のプロレスラーとの知られざる交流も描いた自身初の“実況”小説『喋り屋いちろう』(集英社)が7月26日に発売。

のんさん

のん●1993年、兵庫県生まれ。俳優として、映画『さかなのこ』(22年)などの作品に主演するほか、音楽、映画、アートなど幅広いジャンルで活動する。アップサイクルブランド「OUI OU(ウィ・ユー)」のプロデュースも手がける。

黒目が大きいのは、相手に感情を
悟られないようにするため?

古舘
『Ribbon』の中で、淡い日の光が差すアパートの空間にパステルカラーのリボンが絡んでくる場面が印象的でした。ああいう淡い色合い、お好きなんですか。
のん
好きなんですけど、自分には似合わないので洋服で着ることはあまりないんです。それで、映像をつくるときに、自然とあの色が浮かんできたのかもしれません。
古舘
「好きだけど似合わない」と冷静に断定できるのがすごい。僕の場合、そういうこともあると思えるようになったのはだいぶ年を取ってからで、それまでは「好きな色イコール似合う色」という考えしかなかった。
のん
演技のレッスンを受けたときに、「自分の魅力を客観的に見つめる」ことがすごく大事だと学んだんです。どうすれば私の表現が見る人にパワーを持って届くか、自分の魅力を意識して演技に生かすという手法です。
古舘
ちなみに、のんさんは他の人からどんな特徴があると言われますか。
のん
目がキラキラしてると言われることがあります。黒目が大きいので光を取り込みやすいみたい。
古舘
黒目が大きいのは、生物学的に言えば野性的なんですよ。人間は進化の過程で白目が大きくなってきた。一説には、狩りの際にアイコンタクトをするためだと言われています。
のん
仲良くしてくださっている俳優の渡辺えりさんには、「のんちゃんの黒目が大きいのは、リスなんかの小動物と同じで、相手に感情を悟られないようにしてるんでしょ」と言われたことがあるんです。でもそれって、役者としてはどうなんだろうという感じだったんですけど。
古舘
役者としては痛しかゆしだ。
のん
最近、テレビ番組の企画から生まれた『のんやろが! ちゃんねる』というインターネットの番組をやっていて、私のプライベートな面が見えるような内容にしているんです。もともと役者だからなのか、自分の内面を見せるのが苦手なところがあって難しいんですけど、いま研究しています。
古舘
その飽くなき探求心に脱帽します。僕の好きな言葉に「一芸に秀でる人は多芸多才」という言葉があるんです。何か一芸に秀でている人は横道に逸れてもやっぱりうまい。のんさんは演技を極める道を進むからこそ、歌や映画などさまざまな分野でも素晴らしい表現ができるんでしょうね。

東北は第二のふるさと。被災地のことに
どう触れるのか考え続けています。

古舘
冒頭で『あまちゃん』と東北の話をしましたが、現在NHK BSプレミアム等で再放送されていて、再び話題になっています。
のん
私も本当に久しぶりに見たのですが、やっぱりおもしろいんです。宮藤官九郎さんの脚本も素晴らしいし、ご一緒した先輩・同世代の俳優のみなさんが楽しくて、いい作品に主演させていただきました。
古舘
放映10周年を記念して、9月には東北編の舞台だった岩手県久慈市でもコンサートをやるそうですね。
のん
久慈をはじめ東北には撮影で何ヵ月も滞在したので、行きつけのスーパーがあったり、第二のふるさとみたいな感覚です。行くと「帰ってきた」という気持ちになるし、地元の人たちにも「おかえり」と言ってもらえたりするんです。それがすごく温かくて嬉しくて、心がほぐれる場所です。
古舘
僕も東日本大震災以降、東北には取材でずいぶん行かせていただきました。いろんなことを僕なりに感じたんですが、どう考えていいのかいまだにわからないこともたくさんあります。たとえば、沿岸部のあちこちに巨大な防潮堤がつくられているでしょう。次の津波に備えるためだという人もいるけれど、「自分たちは海とともに生きてきたんだから、海が見えないのは嫌だ」という人もいる。
のん
難しいですね。この10年、ずっと東北と関わらせていただいていますが、震災に遭った方、家族を亡くされた方にどんな言葉をかければいいのか、自分の中では答えが出ないままなんです。防潮堤についても、地元の人の気持ちが一番大事なんじゃないかなとは思うけれど、そこにもいろんな考えや思いがあるし……。
古舘
そう、人それぞれ考え方が違うし、グラデーションもある。僕は一律に「この高さでつくろう」と決めるのではなくて、それぞれ地元の共同体で決めて、高い防潮堤をつくる集落、海が見えるように低いままにしておく集落、バラバラでいいんじゃないかと思って、ニュース番組でそう論陣を張ったこともありました。当時は、自分がまるで被災者の代弁をしているような気持ちになっていたけれど、その「被災者」だって一色ではない。いろいろと複雑な思いを抱えているんですね。
のん
最初にも話しましたけど、そもそも被災者でない自分が被災地のことに触れていいのか、悩むこともあるんです。ただ先日、東日本大震災についてのイベントに出たとき、ネット配信で見ておられた東北の方から、「考え続けてくれることが嬉しい」というメッセージをいただいたんです。それを読んで、「私も触れてもいいのかな」と思えました。これからもみんなが前向きになれること、笑顔になれる表現をしていきたいと改めて思っているところです。

のんさん/ヘアメイク:菅野史絵(クララシステム)、スタイリスト:町野泉美
衣装(金額は税込):イヤリング¥19,580/FUMIE=TANAKA×Ray BEAMS(レイ ビームス 新宿)、ブーツ¥75,900[参考価格]/GANNI、その他スタイリスト私物
古舘さん/ヘアメイク:林達朗、スタイリスト:髙見佳明
撮影/梅佳代 協力/上野精養軒

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