沖縄県外の皆さん、辺野古のこと、沖縄の基地のこと、「他人ごと」でなく「自分ごと」としてそろそろ考えていただけませんか。 沖縄県外の皆さん、辺野古のこと、沖縄の基地のこと、「他人ごと」でなく「自分ごと」としてそろそろ考えていただけませんか。

2019年2月24日、辺野古(沖縄県名護市)への新基地建設の是非を問う県民投票が行なわれ、沖縄県民は明確に「ノー」の意思表示をしました。あれから5年——。国はその意思を無視して基地建設のための埋め立て工事を進めています。当時、県民投票を呼びかけて実現した元山仁士郎さんと、県の行政の責任者だった玉城デニー知事に、改めて辺野古のこと、沖縄の基地のことについて語っていただきました。(前編はこちら

司会/今井一(ジャーナリスト)

辺野古新基地建設の是非を問う国民投票の実現を!

司会
元山さんが指摘されたように、県外の人たちに「なかなか伝わらない」「自分ごとにしてもらえない」という現状があるなかで、何か効果的な「新たな手」を打つ必要もあるのではないでしょうか。
元山
沖縄では1996年、2019年と二度にわたって県民投票を行ない、日米両政府や沖縄県外のみなさんに私たちの思いや決意を込めた答えを出しました。次は東京や大阪など県外のみなさんが答えを出す番です。そのためにも、私は沖縄の過重な基地負担や日米地位協定改定の是非を問う国民投票の実現に向けて動くべきだと考えています。具体的には、国民の発案・発議によって国民投票を行なう「イニシアティブ制度」(コラム参照)の導入です。

イニシアティブ制度

イニシアティブ(国民発議)制度は、スイスやイタリア、台湾など少なくとも15の国と地域およびドイツ、アメリカの各州で導入されている。国民側が課題を決め、有権者の一定数の署名を集めれば法律の制定や改廃などを国に発議でき、多くの場合、その是非を国民投票で決める。日本では、憲法改正の是非を問う国民投票が制度化されているが、発議できるのは国会で、国民発議は認められていない。一方、地方自治体においては住民の発議権が認められており、有権者の50分の1以上の署名を集めれば条例の制定や改廃などを首長に請求できる(地方自治法74条)。元山さんは、イニシアティブ制度の導入を提唱する市民グループ「INIT(国民発議プロジェクト)」の共同代表を務めており、同グループでは国政における主権者の発議権の制度化を目指している。

元山
今、日本では民意が政治に対して実効力を持てるのは、基本的には選挙を通じてのみです。ただ、選挙には争点が複数あり、辺野古の基地建設問題は沖縄以外のところ、たとえば東京や大阪では争点になりにくい。であれば、一つの論点で主権者全体の意思を問い確認すべきではないかと思います。国民投票を行なうことで、学校のテストのように課題に取り組む環境をつくることができ、国民一人ひとりに辺野古の基地建設や日米地位協定の問題について「自分ごと」として考えてもらうのです。
玉城
県民投票の日本全国版ですね。非常にチャレンジングなことではありますが、それを実行しようという民意を共有できるのであれば、日本という国の姿は間違いなく変わるでしょう。基地問題について、あるいは原発など他の問題についても、国民がどう考えているのかをシングルイシュー(一つの論点)で問うのは、非常に大きな問題提起になると思います。
元山
「69個のランドセルをずっと『沖縄くん』に背負わせていていいのか、だめなのか」を全国の人々に問う国民投票となります。
玉城
そうですね。私が繰り返し述べていることなのですが、基地問題の前提となっている日米安保体制とは、沖縄と米国で決めるのではなく、日本と米国によって決められるべき問題です。そして、そのときの「日本」とは、全国の日本国民のこと。日本国民にとって基地問題とは「自分ごと」である、そのことをこれからも伝えていきたいと思います。

辺野古の基地建設をめぐる
30年の動き

1995

9月
小学生の少女が米兵3人に暴行される事件が発生

1995年10月、米兵の少女暴行事件に抗議し、沖縄県内外からの参加者であふれ返る県民総決起大会(写真提供/共同通信社)。

11月
「沖縄に関する特別行動委員会(SACО)」が設置

1996

9月
日米地位協定の見直し及び米軍基地の整理縮小の賛否を問う県民投票。賛成が多数を占める
12月
SACО最終報告(普天間飛行場の返還と沖縄本島東海岸沖への海上施設建設を定める)

1997

11月 
海上ヘリポート案が県及び名護市に提示される
12月
「ヘリ基地建設」の賛否を問う名護市民投票が実施され、反対多数となる

1999

12月
政府が「普天間飛行場の移設に係る政府方針」を閣議決定(12月28日)

2002

7月
政府が普天間飛行場代替施設の基本計画を策定(辺野古沖案)

2004

8月
米海兵隊所属ヘリコプター(CH-53D)が沖縄国際大学構内に墜落

2004年8月13日、沖縄国際大学の米軍ヘリ墜落現場(写真提供/共同通信社)。

11月
那覇防衛施設局が辺野古沖のボーリング地質調査を開始

2005

10月
日米安全保障協議員会(「2プラス2」)で、L字型案で合意

2006

3月
「普天間基地の頭越し・沿岸案に反対する沖縄県民総決起大会」に3万5000人が参加
5月
2プラス2で、V字型案(現行案)について合意

2010

9月
仲井眞知事(当時)が県議会で「普天間飛行場を県外に移設することを求める」と表明

2013

12月
仲井眞知事が埋め立て承認を表明

2014

11月
沖縄県知事選挙で、辺野古への移設阻止を公約に掲げる翁長雄志氏が当選

2015

5月
「止めよう辺野古新基地建設!沖縄県民大会」が開催され、3万5000人が参加

2018

8月
翁長知事急逝後、職務代理者の謝花副知事が埋め立て承認を撤回
9月
沖縄県知事選挙で、辺野古への移設阻止を公約に掲げる玉城デニー氏が初当選

2018年9月30日、辺野古の基地建設反対を訴えて知事に当選した玉城さん(写真提供/共同通信社)。

2019

1月
安倍総理(当時)が辺野古沖の軟弱地盤の存在と地盤改良工事の必要性を国会で初めて認める
2月
「辺野古米軍基地建設のための埋立ての賛否を問う県民投票」を実施。反対が多数を占める

2019年2月25日、県民投票の結果を受け、記者団の取材に応える元山さん(写真提供/共同通信社)。

2021

11月
沖縄県が、沖縄防衛局から提出された変更承認申請を不承認

2022

4月
国土交通大臣が、沖縄防衛局からの申し立てを受け、県の不承認処分を取り消す旨の裁決を出す

2023

12月
国が沖縄県に対して承認するよう命じる判決を求めた訴訟で、福岡高裁が国の請求を認める判決

2024

1月
国の代執行を受けて、大浦湾での埋め立て工事始まる

もとやま・じんしろう

1991年、沖縄県宜野湾市生まれ。「辺野古」県民投票の会元代表。INIT(国民発議プロジェクト)共同代表。国際基督教大学教養学部卒業。現在、一橋大学大学院法学研究科博士課程。法政大学沖縄文化研究所奨励研究員。SASPL(特定秘密保護法に反対する学生有志の会)やSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)などの立ち上げ・中心メンバーとして活動。2019年1月、「辺野古」県民投票への不参加を表明した5つの市の市長に対して、全県実施を実現するためのハンガーストライキを行なう。

たまき・でにー

1959 年、沖縄県うるま市(旧与那城村)生まれ。福祉職、内装業、音楽マネージャーなど様々な職業を経てラジオ・パーソナリティやタレントとして活動。沖縄市議会議員を経て、2009年に衆議院議員選挙に立候補し当選。4期務める。2018年9月、国会議員を辞職し、沖縄県知事選挙へ立候補し当選。現在は2期目。著書に『新時代沖縄の挑戦―復帰50年 誰一人取り残さない未来へ』(朝日新聞出版)、『デニー知事激白!沖縄・辺野古から考える、私たちの未来』(高文研)など。

前編はこちら

1月下旬、沖縄県庁にて。
構成/仲藤里美 撮影/白木裕紀子