猫通ライター富田園子が教える 行動猫理学入門 第7回猫の鳴き声の巻

第7回「猫の鳴き声の巻」

猫に鳴いて甘えられるとメロメロになってしまう人は多いのではないでしょうか。今回は猫の鳴き声について大特集。猫通ライターの富田園子さんに声から読み解ける猫の本音について教えていただきました。

猫通ライター

富田園子さん

ペットの書籍を多く手掛ける編集者、ライター。日本動物科学研究所会員。著書に『教養としての猫』(西東社)、『決定版 猫と一緒に生き残る防災BOOK』(日東書院)など。

Q&A一覧

Q. 野生の猫も「ニャー」と鳴くの?

野生の猫も「ニャー」と鳴くの? イメージ1

A.ひとりで暮す野生の猫は
「ニャー」と鳴くことはありません。

鳴き声はほかの個体と何らかのコミュニケーションをとるためのもの。野生の猫は固有のなわばりをもち1匹で暮していますから、ふだんは鳴く必要がありません。むしろ鳴いたら不利。敵に見つかって危険な目に遭う、獲物に気づかれて狩りが失敗するなど、デメリットしかないのです。
例外は二つあります。一つはほかの猫と争うとき。なわばりへの侵入者などは威嚇して追い払わなければいけません。そのときは低い唸り声や甲高い叫び声を使います(「Q.猫のケンカの声は何種類あるの?」参照)。

もう一つの例外は繁殖期。ふだんは会わない異性を大声で鳴いて探します。また、交尾して生まれた子猫は母猫に「ニャー」と鳴いて甘えます。そう、「ニャー」は本来、〝子猫が母猫に対して使う甘え声〟なのです。
野生では子猫しか使わないこの鳴き声を、飼い猫はおとなになっても使います。ただし、使うのは人間に対してのみ。成猫同士の交流は基本的にボディランゲージですが、人間と暮すようになった猫は、人に対しては「ニャー」と鳴いたほうが注意を引きつけやすいと学習したのです。飼い猫はおとなになっても子猫気分のままで、飼い主を母猫のように思っているともいえます。

猫の祖先であるリビアヤマネコは現在もアフリカなどに生息していますが、リビアヤマネコと猫の鳴き声を比べた研究では、猫のほうが声が高く、人がよりかわいらしいと感じる声だということがわかっています。猫は人の注意を引きつけるため、かわいらしい声に進化したようです。

野生の猫も「ニャー」と鳴くの? イメージ2

にゃんこラム:子猫の声に母猫は敏感に反応

にゃんコラム:子猫の声に母猫は敏感に反応 イメージ

子猫がうっかり巣から出てしまったり体が冷えてしまったりしたときは、高く鋭い鳴き声で母猫に救援信号を送ります。これを聞いた母猫はすぐさま子猫を助けに駆けつけます。猫はふだんから耳がよいですが、子育て中の母猫はふだんにも増して聴覚が鋭くなるといわれています。
子猫の切迫した鳴き声を録音して成猫(血縁関係なし)に聞かせた実験では、オス猫よりメス猫のほうがすばやく反応するそう。また、メス猫は緊急性の高い鳴き声にはより早く反応したため、鳴き声から緊急性を聞き分けていることも示唆されました。

Q.「ニャー」の鳴き方で
気持ちがわかる?

「ニャー」の鳴き方で気持ちがわかる? イメージ1

A.抑揚によってある程度気持ちが
推測できます。

もともとは母猫に向ける甘え声だった「ニャー」を、飼い猫は応用していろいろなシーンで使うようになりました。スウェーデンの研究では、状況や猫の気持ちによって「ニャー」の抑揚が変わることが判明。ポジティブなときは声が上昇し、ネガティブなときは声が下降することがわかりました。人間も、同じ「はーい」という言葉でも、高い「はーい」はポジティブな感情、低い「はーい」はネガティブな感情ですよね。同じ「ニャー」でもなんとなく猫の気持ちがわかるのは、こうした共通点があるからかもしれません。

平安時代には猫が貴重なペットだったってホント? イメージ2

にゃんこラム:サイレントニャー

猫が口を開けて鳴いているように見えるのに声は聞こえないことがあります。人には聞こえない高い周波数で鳴いているという話もありますが真偽は不明。子猫のように高い声で鳴こうとしたけれど、うまく声が出なかっただけかもしれません。

Q.窓の外を見ながら
「キャキャキャッ」と鳴くのは何?

「やんのかステップ」と同じような葛藤の産物? イメージ1

A.「やんのかステップ」と
同じような葛藤の産物?

窓の外に鳥を見つけたときや、届かない場所に大好きなおもちゃやおやつがあるとき、猫は下あごを細かく震わせて「キャキャキャッ」という不思議な声を出します。この声の意味は定かではありませんが、動物は複雑な感情のときには複雑な行動を見せるもの。これもその一つではないでしょうか。巷で「やんのかステップ」(下写真)と呼ばれている猫の不思議な歩き方は、攻撃しようとする気持ちと恐怖心のせめぎ合いによって生まれます。「キャキャキャッ」も、「捕まえたい」「でもできない」のせめぎ合いにより発せられるものと考えられます。
ほかに、これは獲物の鳴き真似だという説も。マーゲイというネコ科動物は、獲物とするタマリン(サルの一種)の赤ちゃんの鳴き真似をしておびき寄せるそうです。猫は小鳥の鳴き真似をしているのかも!?

「やんのかステップ」と同じような葛藤の産物? イメージ2

Q.おしゃべりする猫がいるってホント?

おしゃべりする猫がいるってホント? イメージ

A.はじめは人間の空耳。
よいことが起きればその鳴き方を覚えます。

「うちの猫、〝ごはん〟と言うんです」という飼い主さんはけっこういます。これは猫がそのように聞こえる鳴き方を習得したのです。ごはんの要求でニャーニャー鳴いているうちに、たまたま人の耳に「ごはん」と聞こえる鳴き方をして、飼い主さんが喜んでフードを与えると、それがご褒美となります。猫は「よくわからないけど、この鳴き方をするとごはんがもらえるんだな」と覚えて、その鳴き方をくり返すようになるのです。「おはよう」「ママ」など、ほかの言葉を話す猫も同じです。

Q.ニャーニャー鳴きながらゴロゴロいうのは
何を求めてるの?

ニャーニャー鳴きながらゴロゴロいうのは何を求めてるの? イメージ1

A.「いますぐごはんをちょうだい!」
という気持ちです。

人の耳は赤ちゃんの泣き声に敏感にできています。特に女性は赤ちゃんの泣き声を聞くと不安を覚え、「すぐに世話をしなければ」という衝動にかられる人が多いのです。「Q.野生の猫も『ニャー』と鳴くの?」では子猫の声に母猫が敏感に反応することをお伝えしましたが、人間も同じ。赤ちゃんを無事に育てるために備わった本能なのでしょう。
そして、猫の「ニャー」は人間の赤ちゃんの泣き声と音響的に近いことがわかっています。私は街中で何度も聞き間違えています(猫っ!? と思ったら人間の赤ちゃんでした)。人間が猫の「ニャー」を聞くと世話をしたくなるのは赤ちゃんの泣き声のようだからです。

このように「ニャー」だけでも抗えないのに、そこにゴロゴロがプラスされると、それは最上級の要求(おどし?)になります。この音を聞いた人は「すぐになんとかしてやらなくては」という気持ちになることが実験でわかっています。これは猫を飼っている人も飼っていない人も同じとか。恐るべし猫の鳴き声。
ゴロゴロ音はもともとは満足のサインで、25~50ヘルツの低音です。しかし飼い主に食事を要求するときのゴロゴロには220~520ヘルツの音が含まれており、音響的に異なることもわかっています。猫はおねだりのときはゴロゴロの音を変えているのです!

にゃんこラム:ゴロゴロ音が出るしくみ

にゃんコラム:ゴロゴロ音が出るしくみ イメージ

ゴロゴロは声帯の上にある細長い突起(仮声帯)が震えることで音が出て、それが咽頭室で反響するという説が有力です。「ニャー」という声を作る声帯とは別の場所なので、同時にゴロゴロいうことができます。子猫はお乳を飲みながらゴロゴロのどを鳴らすことで、母猫に満足を伝えます。母猫は振動を感じることで安心できます。

Q.診察中にゴロゴロいいます。
病院は嫌いなはずなのにどうして?

診察中にゴロゴロいいます。病院は嫌いなはずなのにどうして? イメージ1

A.自らを癒やし落ち着かせるため
具合の悪いときにものどを鳴らします。

実は猫がのどを鳴らすのは甘えるときや食事の要求をするときだけではありません。具合の悪いときにものどを鳴らすことが知られています。動物病院での診察中にゴロゴロいう猫も珍しくなく、ある調査では341匹中約18%の猫が診察中にのどを鳴らしていたといいます。

さて、なぜ猫は具合の悪いときにものどを鳴らすのでしょう。実はゴロゴロ音は低周波の振動で、自然治癒力を高める効果があるようなのです。骨折の治療によい影響をもたらす、痛みを和らげる、呼吸を楽にするなどの可能性が考えられます。実際、人間の骨折治療にも低周波の振動が使われます。野生で単独で暮す猫は体調の悪いときに自らを癒やすため、のどを鳴らすのかもしれません。死の間際にもゴロゴロいっている猫はいるそうです。

猫のゴロゴロは私たち人間にも恩恵を与えてくれます。ゴロゴロいっている猫に触れると副交感神経が優位になり、ストレスが減少するのです。ヘッドフォンで猫のゴロゴロ音を聴いただけでも心拍数が下がるという報告が。会社でのプレゼンなどの際に猫のゴロゴロと同じ周波数で振動するデバイスを握ることで緊張や不安を軽減できたという事例もあります。

診察中にゴロゴロいいます。病院は嫌いなはずなのにどうして? イメージ2

にゃんこラム:吠えるネコ科動物はゴロゴロいえない

にゃんコラム:吠えるネコ科動物はゴロゴロいえない イメージ

ライオンやトラは「ガオー!」と大きな咆哮をしますが、ゴロゴロとのどを鳴らすことはできません。一方、猫やチーター、オオヤマネコはのどを鳴らせますが咆哮はできません。どちらか一方しかできないのですね。猫の声帯は先細りで断面図は三角形ですが、ライオンやトラの声帯は四角形。分厚い声帯が重量感のある低音の咆哮を作るようです。

Q.よくゴロゴロいう猫と
なかなかいわない猫がいるのはなぜ?

よくゴロゴロいう猫となかなかいわない猫がいるのはなぜ? イメージ1

A.よくのどを鳴らすか鳴らさないかは
遺伝子が決めていた!

2025年発表の京都大学の研究で驚きの事実が明らかになりました。よくのどを鳴らす猫は特定の遺伝子をもっていたのです。特にオスについて顕著で、この遺伝子をもつオスはよくのどを鳴らすのに加えてよく鳴く傾向もあり、人間とのコミュニケーションに積極的ということがわかりました。

さらに、純血種より雑種猫のほうがこの遺伝子を多くもっていることもわかりました。研究で調べられた純血種はペルシャ、ヒマラヤン、ロシアンブルー、アメリカンショートヘア、スコティッシュフォールドなど。一方、雑種猫の多くはもと野良猫です。厳しい生活を強いられる野良猫はゴロゴロとのどを鳴らして人に甘えたほうが生存に有利。一方、生まれたときから人に守られている純血種の猫は特に甘えなくても生きていけるため、ゴロゴロとよくいう遺伝子の保有率が低くても問題ないのでしょう。

ちなみにゴロゴロの音量は個体差があります。私が昔飼っていた雑種猫は全然ゴロゴロいわないなあと思っていたのですが、あるとき胸に耳をつけてみると小さい音でゴロゴロいっていました。あまりに小さい音だったので聞こえなかっただけだったのです。もしゴロゴロいわない猫がいたら、胸に耳をつけてみることをおすすめします。

よくゴロゴロいう猫となかなかいわない猫がいるのはなぜ? イメージ2

にゃんこラム:世界一音が大きいゴロゴロ

猫のゴロゴロ音で最も大きな音量の記録は高速走行中の車内の騒音に相当する67.8デシベル。イギリスにいたスモーキーとマーリンが同率一位で樹立しています。現在生きている猫ではイギリスにいるベラという猫が54.59デシベルを記録。ベラはしょっちゅうのどを鳴らしていて、飼い主のニコールさんはテレビの音がよく聞こえず困っているそうです!

Q.猫のケンカの声は何種類あるの?

A.数種類の威嚇の声を
段階によって使い分けます。

猫は相手を遠ざけたいときに威嚇の声を出します。そして威嚇の声を出しているのに相手が去らず、逆に距離を縮めてきたときには声のトーンや種類を変えます。それが左の図。はじめは口を閉じながら出す低いトーンの「ヴ~」(Growl)。それからやや高いトーンの「ウ~」(Howl)。相手が近づいてきたら口を開けて犬歯を見せながら息を出す「シャー」(Hiss)。それでも相手が近づいてきたら唾を瞬間的に吐き出す「カッ」(Spit)。いよいよ近距離になった相手には「ギャッ!」(Snarl)という声を出しながら猫パンチをくり出して威嚇。こうなるともう一触即発です。いざケンカが始まれば「ギャアア!」(Pain Shriek)という金切り声を上げながら争います。
威嚇の声を出すのは、本当はケンカをしたくないから。実際に衝突するのを回避するためなのです。たとえ勝てるとしても傷を負うリスクがあるため回避するのがベター。人に対して猫が威嚇の声を出してきたら、そっと離れるのがベストです。

猫のケンカの声は何種類あるの? イメージ1

にゃんこラム:猫は声と表情をセットで覚えている

猫は声と表情をセットで覚えている イメージ

猫はほかの猫の満足そうな顔とゴロゴロ音を同じ感情として認識しているようです。実験で、猫が威嚇している顔写真とゴロゴロいう音を同時に提示すると「なんか変だな」と感じて長く見つめるという結果が出ています。反対に、猫の満足そうな顔写真とシャーという威嚇の声を同時に提示してもじっと見つめるそう。やはり表情と音声はセットで覚えているのですね。
これは対象が人でも同じ。人の笑顔と怒った声、反対に人の怒った顔と笑い声を同時に提示しても、猫は「変だな」と思って長く見つめます。飼い主さんの表情と声もセットで覚えているのです。

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