「通販生活」で連載中の「こんなことを言っても、得することはないんですけども…」。気鋭の小説家、中村文則さんが誰に忖度することなく書き記していく時事エッセイです。今月は『通販生活2026年冬号』から「第18回嫌いだという人があまりいない点で、平和はカレーライスと似ている。」を取り上げます。臨時国会がはじまりました。現政権は平和を維持する外交バランスをどう考えているのか、私たちも考えてみませんか。
第7回
初出:「通販生活」2026年冬号
嫌いだという人があまりいない点で、
平和はカレーライスと似ている。
ほとんどの人は、平和が好きだと思う。
カレーライスみたい、というか。中には嫌いな人もいるけど、大半の人は、カレーが好きではないだろうか。僕もそう。
以前、この『通販生活』 のトークイベントでも話したことだけど、真夏のある日、長距離を歩きヘトヘトで、お腹まで空いた。近くに店はあったけど「そういえば駅前に、新しいカレー専門店の看板を見た」と思い出し、さらに頑張って歩き、辿り着いたらカレー専門店ではなく、美容院のカラー専門店だったことがあり、その場で崩れ落ちそうになったことがある。
そこまで求めるほど、カレーが好きだ。そしてこう何度も社会問題について書くくらい、平和も好きだ。
資源国でない日本は、最低限を超える軍備を持たない方がいい。
多くの人が「平和を守ろう」と訴える。反対する人はほぼいない。でも問題は、
「平和を守るのは当然。でも他国、たとえば中国が攻めてきたら? 平和を守るため、こっちも軍備を増強するんだ」
という意見があり「平和を守ろう」の言葉が響かない。それが、現在の問題だと日々感じる。
なので「平和を守ろう」のスローガンに加え、「でも他国が~」の意見を無効化する言葉が必要になる。ここが恐らく、平和活動の今後の核の一つではないかと思う。どう伝えればいいか、を(完璧じゃないけど)僕なりに考えてみたい。
まず初めに、国には大きく二つある、と示したい。
一つは、石油、天然ガス、鉱石類が豊富にある資源国。それは「他国が戦争してまで欲しいものがある国」なので、相応の軍備か、大国(アメリカ、中国、ロシアのどれか)と(他国を牽制するため)親密な関係を持つ傾向がある。
ちなみにウクライナには、莫大な天然ガスが埋蔵。その「親密な大国」をロシアからアメリカに変えようとした時、2014年、ロシアが攻めてきた(現在の戦争はその地続き)。大国と関わる悲劇も、残念ながら発生する。大国ではない国に資源が発見されると、大抵が不幸になってしまう。
もう一方は、石油、天然ガス等が大量にない国(日本もそう)。それは「戦争をしてまで領土を奪っても、メリットがない国」なので、万が一を考えての軍備以外、持たない方がいい(日本にはレアアースがある。でも位置が相当深く、採掘費を超える利益を得るのは著しく難しい。他国が手に入れても意味がない)。
なぜ「持たない方がいい」のか。こういう資源が少ない国が攻められる時は、他国から「脅威」と判断された時だから。
かといって、丸腰というわけにもいかない。「攻められたらけっこう反撃しますよ」くらいの軍備が望ましい。
中国でたとえてみる。
(その前に、前提として書いておくと、中国政府は、事実上の一党独裁だけど、実は、国民世論をかなり気にしている。国土が広く人口も多く、暴動やテロが起こると収拾がつかない。なので、中国政府は国民を味方につけておく必要が常にある。高市首相の対中発言で、いま中国で日本の表現者たちはコンサート等ができない状況が続いている。これは、中国の人々に親日になってもらう機会を著しく減らす、平和にとって最悪の事態。)
中国からすると、日本は戦争をしてまで占領するメリットがない。戦争をすれば、核がたくさんあるので日本に勝てるだろうが、日本を占領するメリットより、自国が日本に反撃され、すさまじい経済的ダメージを受けるデメリットの方が、遥かに大きい。
「でも中国、領空侵犯してくるやん」と言う人もいるけど、あれは主に情報収集で、近づいて在日米軍の情報を取得しようとしている。はっきり言って、日本に米軍がいなくて、日本が敵対してなければ、そもそも飛んでこない(海について、つまり尖閣諸島の問題については、WEB版の第6回「戦争はいつも、自衛の名のもとに行われる。歴史は繰り返すとは、恐ろしい言葉だと思う。」に書いています。※著者註)。
平和を維持する外交のバランスが、
現政権に脅かされている。
でも日本が、中国を敵視したまま、中国と相打ち、もしくは滅ぼせるほどの軍事力を得ようとした場合、本当の「脅威」となる。中国からすると、そうなる前に叩かないとまずい、となって、戦争になる。
軍拡競争が戦争に繋がるのは、こういうメカニズムになる(冷戦時、東西陣営を分かつものを「鉄のカーテン」と呼んだ。フランスの作家サルトルは、鉄のカーテンは鏡である、と表現。東西で互いを脅威と言い合い、米露の代理戦争が多発し、膨大な死者を出した)。
だから以前までの日本は、軍事力の状態がそもそもの、外交メッセージになっていた。
「別にそちら(中国)を負かすほどの軍事力は持たんから、うちらは昔と違ってもう脅威じゃない。でも攻めてきたら反撃するんで、やめようね。お互いメリットないし。まあカレーでも食べよう」
という感じ。外交とはこういうバランスといわれる。バランスが平和を維持する。でもそのラインを、現政権は越え続けようとしている。かなりまずい。
なので、平和のために軍備を増やす、の意見に対しては、
「相手を負かすほどの戦力を持とうとすると、それが外交メッセージになり、相手から脅威と思われ、戦力が整う前に、理由をつけて攻められる」
と言えばよくて、加えて、
「そんなことより、中国政府は実は世論を気にしてるので、中国の人達に親日になってもらうのがかなり効果的」
と言えばいいと思う。ちなみに日本が核を持てば、その核がまず狙われて攻撃されてしまう。
そもそも敵対しなければ、戦争にならない(その点はWEB版の第1回「近年の米国は自国の兵をなるべく使わず戦争する。自衛隊は、9条が変われば米軍の二軍にされる。」にも書いた)。本当に危なくなる前に、日本は政治を変えないと。
もくじ(アーカイブ)
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「こんなこと言っても、得することはないんですけども…」
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第1回 近年の米国は自国の兵をなるべく使わず戦争する。自衛隊は、9条が変われば米軍の二軍にされる。
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第2回 色々な国に行って、一番日本社会に近いと感じたのはロシアだった。
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第3回 リベラルな考えを、「説教」や「押しつけ」ではなく、人々に寄り添いながら発言していく必要があるのでは、と思う。
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第4回 世論の支持を得られていないリベラル系野党は、Kポップを参考にしたらどうだろう。
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第5回 悲観的な予測をすることは希望に繋がると思う。
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第6回 戦争はいつも、自衛の名のもとに行われる。歴史は繰り返すとは、恐ろしい言葉だと思う。
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第7回 嫌いだという人があまりいない点で、平和はカレーライスと似ている。