いま、わが国の子どもの7人に1人、およそ280万人が「貧困の状態にある」と言われています。ランドセルが買えず、入学式に1人リュックサックで出席する子。夏休みに入って給食が食べられなくなると痩せてしまう子。ふつうの子どもにとっての「あたりまえ」に手が届かない子どもが、私たちのすぐそばにいるのです。
お金のことでつらい思いをしている子どもたちに、少しでも寄り添っていきたい。私たちがはじめたのが、この「ネット1%支援」です。
入学準備金に込められた
「おめでとう、頑張れ」の応援が
子どもたちを強くする。
公益財団法人あすのば/東京都港区
取材・文=丸山裕子(通販生活編集部)
私たち通販生活が「子どもの貧困支援」に参加する入り口となったのが、3年前に出会った公益財団法人あすのばさんの「入学準備金給付プロジェクト」でした。
〝ランドセルがないから、明日の入学式に行けない〟。
私たちが知らなかった子どもたちの〝現実〟は、読者から大きな反響を呼び、16年冬号(下写真)の第1回読者カンパでは2万5862人、2017年冬号、2018年冬号を合せたのべ数では、6万2548人もの読者の皆さんからカンパをお寄せいただいています。
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同じ〝困っている子ども〟でも、支援に格差がある。
この理不尽に「おかしい」と声をあげたのは、
子どもたち自身でした。
あすのば代表の小河光治さんが「子どもの貧困対策センター あすのば」を立ち上げたのは、2015年6月のことでした。
この以前も、小河さんは遺児の経済援助をする「あしなが育英会」の職員として長年にわたって子どもたちを支えていましたが、2009年に政府が初めてわが国の子どもの貧困率(当時15.7%)を発表。これまで見えていなかった〝7人に1人の子どもが貧困〟という現実に衝撃を受けたあしなが育英会の奨学生たちが、「子どもの貧困対策法をつくってほしい」と立ち上がり、小河さんも学生たちの集会や各政党への呼びかけなどの下支えするようになったそうです。
「学生たちの気持ちは、私にもよくわかりました。私自身、8歳のときに父が交通事故に遭い、7年と100日の植物状態を経て亡くなりました。重い医療費負担に追い詰められた母から『ガス栓をひねって死ぬしかない』と言われたこともあります。
それでも、交通遺児の奨学金のおかげで大学に進むことができた。僕は運がよかった、と思う。すると、自分と同じように困っているのに、支援が届かない子のことがどうしても気になってくるのです。
事故の遺児なら『どんなにおつらいんでしょう。あなたには責任がないのだから応援するわ』と、地方から東京の私立大学まで行かせてもらえる。格安で寮にも入れる。でも、同じ母1人で経済的に困っている離婚家庭の子どもだったらどうでしょう? 親が勝手に離婚したのだから子どもも身の丈にあった将来を選ぶべき、と誤った自己責任のフィルターをかぶせられてしまう。いきさつがどうであれ、親の貧困は社会の構造的な要因が大きく、本来、子どもには自己責任など一切ないはずなのです」
このあしなが奨学生たちの呼びかけが原動力となり、2013年6月に「子どもの貧困対策法」が成立。翌年に施行されものの、小河さんたちが懸念していた「困っている子どもへの支援格差」はなかなか縮まらなかったといいます。
「公的なものでいえば、低所得のひとり親家庭向けの『児童扶養手当』は、低所得のふたり親家庭は対象となっていません。同じように困っている子どもがいても国の制度にすら格差があって、支援から外れた子どもたちは声があげられないまま社会からどんどん見えなくなっていってしまう。親の状況に関わらず、支援から取りこぼされる子どもをつくってはならないという思いから立ち上げたのが、このあすのばでした」
子どもにとってはお金のことより
誰にも気に掛けてもらえないことの方がつらい。
あすのばが設立から大切にしてきたのが、「子どもがど真ん中」をスローガンにした子ども第一主義です。子どもの気持ちは子どもがいちばんよくわかる。大人だけの思いでつっぱしらないように、子どもたち自身が活躍できる支援のしくみをつくってきました。
「この入学準備給付金プロジェクトも、2015年に学生理事たちの街頭募金からはじまりました。あすのばでは、政策提言や子どもの貧困支援団体を支える中間支援も行っていますが、子どもたちへお金の直接支援もやりたいね、と学生たちと話していたんです。
支援するなら、子どもが人生でいちばん『おめでとう』と言われるハレの日であり、いちばん出費が重なる日でもある入学準備のお金がいいんじゃないか、と話はすぐにまとまったのですが、設立から間もない団体なものだから、知名度はないし、信頼もないし、とにかくあやしい(笑)。どうやってお金を集めればいいものか……と行き詰っていたときに旗振り役を買って出てくれたのが、子ども食堂のつながりであすのばに関っていた工藤鞠子さんでした」
当時、19歳だった工藤鞠子さんは、あすのばと出会うまで『子どもの貧困』という言葉にピンときていなかったと言います。
「私はあすのばと出会う3年前に、高校を中退して1年ほど引きこもった経験があります。誰にも相談できなくて、地域に出かけられる場所もなくて孤立していました。このときは本当につらかった。
一方で、私は両親がいる家庭で育ったのですが、親の仕事の関係で経済的な余裕がなくて、中学生頃までは親戚から生活費などを援助してもらっていました。でも、振り返ってみると私がいちばん困っていたのは、経済的なゆとりがなかった時期よりも、学校をやめて孤立していたときだと思う。貧困ということばで真っ先にイメージされる経済的なことよりも、子どもにとっては、誰からも気にかけてもらえない、誰にも弱音を吐けない孤立のほうがずっと苦しいんです」
「あなたのことを気にしている人はちゃんとここにいるよ、と伝えたい」という思いから、工藤さんたちは街頭募金箱の上に百円ショップで購入したカウンターをつけて、募金してくれた人に1回ずつ押してもらうようにしたそうです。
「初回の街頭募金などで集まったのは791万6888円でした。お金はもちろんありがたかったですが、わたしたちにとっては募金してくださった2400人の『ここにいるよ』の数がなにより力になりました」
日本をふたたび
「親はなくても子は育つ」社会にしていく。
通販生活があすのばの入学準備金プロジェクトとタッグを組んだのは、第2回となる2016年からです。読者には郵便振替でカンパをしていただいていますが、小河さんは『街頭募金と同じように、カンパしてくださった6万人を超える読者の皆さんの数が、お金を受け取ったお母さんたちや子どもたちを勇気づけている』とおっしゃいます。
「入学準備金に応募してくる親御さんたちは、ずっと自分を責めてこられた方が多いのです。自分がふがいないから子どもに不憫な思いをさせてしまっているんだ、とつらい気持ちを押し込めていらした親御さんが、わが子のハレの日のためにたくさんの方がお金を送ってくださったことを知ると、きまって『どこかで支えてくださる人がいることがうれしい』とおっしゃいます。お金と一緒に『あなたはもう十分がんばっているよ』『つらいときは誰かを頼って大丈夫だよ』という皆さんからのメッセージを受け取られているのだと思います。
この入学準備金のもう一つの大きな成果が、お金を受け取った親御さん、お子さんたちに行ったアンケート調査でした。
貧困問題でいつも課題となるのは、困っている当事者の声をなかなか聞けないことです。困っている親御さんやお子さんほど声をあげにくい状況にあります。声なき声にどうやって耳を澄ませるのかは大きな課題ですが、2016年に私たちが行なったアンケートでは入学準備金を受け取った3195人中、半数近くに当る1506通の回答をいただき、切実な声を聞くことができました。この入学準備金を通じて親御さんやお子さんたちに皆さんの応援の気持ちが伝わったことが大きかったのだと思います」
今年の6月12日、改正子どもの貧困対策法が衆参両院で全会一致で成立。小河さんが改正前に超党派の国会議員の集まりに参加したときにも、この入学準備金のアンケートで見えてきた問題点や、親御さん、お子さんたちの声が議員たちの背中を押す原動力となったとおっしゃいます。
「今回の改正の大きなポイントの一つが、将来だけでなく『子どもの未来および現在』という、いま現在起きている貧困の解消が明記されたことです。これまでは、『いまはつらくても将来的に貧困から抜け出せるように支援するよ』というニュアンスでしたが、『いや、まずいまのつらい状況がなくならないと、未来を夢見る力なんて持てないよ』という貧困当事者の子どもの切実な思いが、このアンケートを通じて議員の方々にも伝わったのだと思います。
日本は、ほんの少し前まで〝親はなくても子は育つ〟社会でした。子ども自身の育つ力だけでなく、社会に子どもを見守って助ける力がちゃんとあったわけです。いまの日本社会はその力を失っている一方で、子ども食堂や学習支援など、地域ごとにあらたな支援も生れています。直接、子どもたちと顔を合せることはなくても、皆さんが寄せてくださったこの入学準備金も、確実に〝子は育つ〟社会の再建を担ってくださっているのです」
この活動に、1000万円をカンパしました。
・入学準備金・給付金活動の運営費(送金手数料・証明書類発行手数料・印刷製本費・郵送料など) 6,141,731円
・子どもたちへの給付金 3,858,269円
「読者の思いがこもったお金は、そのまま子どもたちに届けてほしい」という編集部のお願いで、これまで入学準備金を届けるための運営費(上記)はカタログハウスが負担してきました。
これまでは黒子に徹していたお金でしたが、子どもの支援は継続が大切で、継続のためには活動の基本となる運営費が必要です。このことを読者に知っていただくためにも、本年より「ネット1%カンパ」から運営費を支援することにしました。
活動を応援したい方は、
ぜひ下記へご支援をお寄せください。
公益財団法人あすのば
所在地 | 〒107-0052 東京都港区赤坂3-21-6 河村ビル6F |
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電話 | 03-6277-8199 (平日10時~18時) |
支援金受付 | 一般の寄付 郵便振替口座00160-1-323820 加入者名公益財団法人あすのば 入学・新生活応援給付金への寄付 郵便振替口座00110-9-451185 加入者名あすのば入学・新生活応援給付金 |