お母さん、今日は笑ってくれるかな。

お母さん、今日は笑ってくれるかな。

7人に1人(13.9%)と言われるわが国の子どもの貧困率は、ひとり親世帯、とくに母子世帯の子どもにかぎってみると、2人に1人(50.8%)にはね上がります。朝から働いて、子どもを迎えにいって、晩ごはんをつくって、子どもが寝たあとでまた働きに出ても、お金が足りない。

子どもたちがお母さんの横顔ばかり見なくてすむように、ひとりで踏んばっているお母さんたちへの支援が必要です。

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お母さんが安心して働ける。
それが子どもの安心につながる。

認定NPO法人ノーベル/大阪府中央区

取材・文=岩嶋悠里(通販生活編集部)

「子どもが熱を出したのでバイトを休ませてください、そうお願いしたら『また? 次、休んだらクビだよ』と言われました。そうなったら私もこの子も生きていけない」

 これはけして大げさな話ではありません。厚生労働省の調査によれば、全国に約123.2万世帯ある母子家庭のうち、43.8%がパートやアルバイトなどの非正規雇用で生計を立てています(厚生労働省「平成28年度 全国ひとり親世帯等調査」)。たった1日仕事を休むだけで、収入は大きく下がってしまうのです。

 けれど、子どもが37度5分以上の熱を出せば、保育園では預かってもらえません。家でじっくり看病してあげたくても、仕事を休むと、生活そのものが立ち行かなくなるかもしれない。小さな子どもを育てながら働くひとり親の多くが、「子ども」と「仕事」の板挟みにあえいでいるのです。

 子どものために働きたいのに、子どもの病気のせいで働けない――お母さんのSOSに、「訪問型病児保育」というかたちで寄り添っている団体があります。訪問型病児保育とは、お母さんにかわって病気の子どもを自宅でケアするサービス。2017年下半期の「子どもの貧困・ネット1%カンパ」では、訪問型病児保育の先駆けである、東京の認定NPO法人フローレンスを取材しました。

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 今回訪ねたのは、大阪の認定NPO法人ノーベルです(2009年設立)。大阪市全域を含む13市域で訪問型病児保育を行っています。
 ノーベルの特長は、年収300万円以下のひとり親を対象とする『ひとり親パック』です。月におよそ7,000~8,000円かかる病児保育サービスを、月額1,000円で利用することができます。

 ノーベルが拠点を置く大阪府は、全国でも突出してひとり親家庭が多く、その数は70,756世帯に上ります(大阪府総務部統計課「平成27年国勢調査 世帯構造等基本集計結果(大阪府版)」より編集部で算出)。その9割以上が母子家庭で、多くのお母さんが収入の安定しにくい非正規雇用で働いています。ノーベルの代表を務める高 亜希さんは、そうしたお母さんたちと向き合うたび、切迫した現実を思い知ったとおっしゃいます。

こう・あき●大手旅行会社に就職するも、女性の先輩が育児を理由に退職することに疑問を抱き、病児保育事業に着手する。08年、認定NPO法人フローレンスに入社。1年間の経験をもとにして、09年に認定NPO法人ノーベルを立ち上げる。

「アルバイトを4つ掛け持ちして、さらに内職をしながらどうにかその日暮しを送っていらっしゃる方もいれば、食費もままならないなか、ちっちゃなおにぎりを何個も何個も握って、少しでもお子さんが『たくさん食べた』と思えるように工夫しているお母さんもいらっしゃる。みんな、ギリギリなんですよ。経済的にも、精神的にもつらさを抱えている。

 それなのに、『しんどい』のひとことすら言えない。弱音を吐くなんて母親失格だという思いがどこかにあるのでしょう。子どもの世話は母親がすべき、という社会的な刷り込みがお母さんたちを苦しめているんです」

 いざというとき、頼れる場所がない。ノーベルが訪問型病児保育をはじめた背景には、病児保育施設の不足があります。
 大阪市だけを例にとっても、園児数およそ51,000人に対して、病児保育施設はわずか16施設(平成30年4月時点)。ひとつの施設につき、預かってもらえる子どもの数は多くても10人と、受け入れ先は圧倒的に足りていません。

「すがる思いで予約の電話をかけても、『枠がいっぱいなので』と断られてしまう。キャンセル待ちをしている間にも出勤の時間は迫ってきますし、ギリギリになってやっぱり無理だと職場に欠勤の連絡をすると、上司に心ない言葉を投げられる。ますます肩身が狭くなって、心が追い詰められていくんです」

 いつも不安を抱えているお母さんに、ひとつでもたしかな「安心」を届けたい。その思いから、ノーベルでは『100%お預かり』を徹底しています。当日朝8時までの依頼であれば、なにがあってもお子さんを預かる。これまでの依頼件数は1万件を超えますが、一度も断ったことはないそうです。

お母さんからのSOSを本部のスタッフが受け取り、病状を確認。
病児保育専門の研修を経た保育スタッフが現場に駆けつける。

「就職の面接で『お子さんが熱を出したらどうするの』と訊かれても、ノーベルに加入していれば『働けます』と自信をもって答えられる。それで正社員採用につながったお母さんもいらっしゃいます。
『ひとり親パック』をはじめたのは、ひとり親のお母さんたちの経済的自立を支援する意味も大きいのです」

お母さんがもっともしんどい「2年間」に寄り添う。

『ひとり親パック』は、利用期限が2年と定められています。ノーベルに子どもを預けられる生後半年からの2年間が、もっとも子どもが熱を出しやすく、もっともお母さんがつらい時期だからです。
 吹田市公立保育所保険統計によれば、保育園児の年間病欠日数は0歳児の場合、約27日もあります。けれど、免疫力がつく1歳児になれば病欠日数は年間約19日に、2歳児であれば約11日と大幅に減っていきます。

「いちばん仕事と子どもの板挟みになる時期を『病児保育』というサポートで支えたい。ひとりでお子さんを育てているお母さんであっても、安定して働きつづけられる環境を整えたいと思っています。2年の間に、アルバイトから正社員になれた、1日たりとも休めない実習をクリアして看護士資格を取得できたなど、しっかりした足場を築かれたお母さんもたくさんいらっしゃいます。

 収入が安定すれば、心の余裕も生まれます。明日、仕事がなくなるかもしれない、食べるものがなくなるかもしれないという不安が軽くなる。『今日の晩ご飯はちょっと豪華だよ』なんて笑いながら、子どもと明るく食卓を囲める、そんな未来につながってほしい。お母さんの安心が、子どもの安心をつくるんです」

 ノーベルで「安心」を得て、責任を伴う仕事にも積極的に挑戦できるようになったとおっしゃるのは、4歳の桃ちゃんを育てながら働く理加子さんです(どちらも仮名)。2017年に『ひとり親パック』に加入した理加子さんは、もうすぐ利用期限の2年を迎えます。入会当時からホームページの制作会社で正社員のライターとして勤務されていますが、この2年で働き方は大きく変わったといいます。

「たぶん、会社でいちばん弱い立場が私なんですよ。離婚してひとり親で、実家は北海道だから頼れないし、子どももまだ小さい。理解ある職場ですが、ノーベルさんに入る前は、桃の急病で早退するたびにうしろめたくって。
 桃が手足口病にかかって4日間も保育園を休んだときは、看病しながら在宅で仕事の原稿を書きました。でも、いっぱいいっぱいになってしまって。結局、4日めに別れた夫を呼んで、2時間だけ桃を預けて出社しました。頼りたくない人を頼ってしまった苦しさは、いまでも思い出せます。

 でもノーベルさんを利用しはじめてからは、桃が熱を出しても『今日は8時間働けます』と言い切れるようになりました。これまで、子どもを誰かに預けるのって罪悪感があったんですよ。でも、ノーベルさんにはじめて桃の看病をお願いした日、仕事を終えて帰ってきたら、桃がニコニコしながら今日の出来事を報告してくれて。保育スタッフさんにつくってもらった折り紙の時計は、いまでも桃の宝物です。私も、ああ、そっか。つらいときはプロを頼ってもいいんだ、と気持ちが軽くなりました」

 理加子さんは、月1,000円だからこそ『ひとり親パック』に加入する勇気を持てたとおっしゃいます。ひとり親のお母さんが低料金で病児保育を受けられるように、ノーベルでは「ドノ親子ニモ応援団」と呼ばれる寄付団体を結成しています。月々1,000円、3,500円、7,000円、10,000円から選択できる定額制で、現在およそ200名の応援団員が、働くお母さんたちを支えています。

『ひとり親パック』を利用しているお母さんたちから、応援団員に寄せられた感謝の手紙。年に一度、冊子にまとめられて応援団員のもとへ届けられる。

『ひとり親パック』を利用していたお母さんが、おかげで安定した仕事につけたからと、今度は応援団に加入することもあるそうです。高さんは、こうした支え合いによって「子どもを産んでも当たり前に働ける社会」を目指したいとおっしゃいます。

「貧困は、親から子へと受け継がれる『負の連鎖』になりやすいとも言われています。でも、お母さんたちが経済的、精神的に安心できるようサポートしていけば、助け合いの連鎖を生むこともできるんです。

 貧困にしろ虐待にしろ、子どもを取り巻く問題の根本は“母親負担”にあると私は考えています。子育ても仕事もすべてを背負い込んで、潰れてしまうお母さんが大勢いる。でも、助けを求めたり、周りを頼ったりするのは当たり前のこと。社会全体で子育てをしていく風潮をつくっていけたらと思っています」

この活動に、330万円をカンパしました。

『ひとり親パック』運営費 300万円
団体の運営費 30万円

※『ひとり親パック』では、月7,000~8,000円ほど利用費がかかる病児保育を、2年の間、月1,000円で利用できる。当カンパで、約20家庭への2年間の『ひとり親パック』提供を目指している。

活動を応援したい方は、
ぜひ下記へご支援をお寄せください。

認定NPO法人ノーベル

所在地 〒540-0026 大阪府大阪市中央区内本町2-4-12 中央内本町ビルディング701
電話 06-6940-4130(平日8:00~18:00)
支援金受付 三井住友銀行 大阪中央支店
口座番号8318283
口座名義特定非営利活動法人ノーベル