

いま、わが国の子どもの7人に1人、およそ280万人が「貧困の状態にある」と言われています。ランドセルが買えず、入学式に1人リュックサックで出席する子。夏休みに入って給食が食べられなくなると痩せてしまう子。ふつうの子どもにとっての「あたりまえ」に手が届かない子どもが、私たちのすぐそばにいるのです。
お金のことでつらい思いをしている子どもたちに、少しでも寄り添っていきたい。私たちがはじめたのが、この「ネット1%寄付」です。
熱を出した子どもを親が看病するのは当たり前?看病のために仕事を失う母親がいるのはおかしい。そんな思いで訪問型病児保育を立ち上げました
認定NPO法人 フローレンス/東京都千代田区
取材・文=平野裕二(通販生活編集部)
子どもが熱を出したら手厚く看病してあげたい、でも会社を休むわけにはいかない……。
そんな悩みを抱える親御さんたちを助けたいという思いから、駒崎さんは「病児保育」事業を核とするフローレンスを立ち上げました。フローレンスの病児保育の大きな特徴は「訪問型」と「共済型」です。以前の日本にはなかった、新しい取り組みについて話をうかがいました。
駒崎弘樹さん●認定NPO法人「フローレンス」代表理事。1979年、東京都生まれ。2004年4月にフローレンスを設立。公職として厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長、内閣府「子ども・子育て会議」委員現職。著書に『社会を変えるお金の使い方』(英治出版)など。
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私たちは現在待機児童や子どもの虐待など様々な問題に取り組んでいますが、フローレンス立ち上げのきっかけとなったのは「病児保育事業」です。
子どもが37度5分以上の熱を出すと保育園では預かってもらえず、仕事を持つ親は会社を休まなくてはなりません。そんなときに親に代わって子どもを看病するのが病児保育です。
2004年4月1日にフローレンスを設立したのですが、当時僕は25歳で、結婚もしていないし、もちろん子育ての経験もありませんでした。そんな僕が病児保育に取り組むきっかけとなったのは、ベビーシッターをしていた母からある話を聞いたことでした。
母は担当していた子どものお母さんから、突然「今日でもういいです」と言われたそうです。理由を聞くと、意外な答えが返ってきました。
お子さんが熱を出して保育園では預かってもらえず、看病のために会社を長期間休んだところ会社をクビになってしまった。今後は自分で子どもの面倒をみるから、ベビーシッターはもう必要ない……。
子どもが熱を出すのは当たり前、親が看病するのも当たり前、当たり前のことをしているのに会社をクビになる──こんな社会は絶対におかしい。
そんな思いから病児保育の事業を立ち上げようと思ったんです。
フローレンスの病児保育の大きな特徴は「訪問型」と「共済型」です。
フローレンス設立当時、小児科や保育所が運営する病児保育施設が全国に500ヵ所ほどありました。
でも、そうした施設で預かる方式は、場所を確保するのに莫大なお金がかかってしまいます。
そこで、病気になった子どもの家をシッターが訪ねる「訪問型」にすることでコストを抑えることにしました。
フローレンスの病児保育の特長のひとつが「訪問型」。病児の家をシッターが訪ねる方式だ。
それから、お金の問題は他にもありました。
安全に運営するためにはシッターの研修費がかかりますし、事務作業をする職員の人件費なども必要になります。
さらに言えば、インフルエンザなどが流行する冬場は利用者も増えますが、夏場は利用者が減るなど、収益が安定しないという問題もあります。
そうしたことを基に試算すると、1時間3000円ぐらいの利用料をいただかないと採算がとれないことが分かりました。
でも、そんな料金設定では、利用できるのは一部の人になってしまいます。
「病児保育」を必要としている人が利用できず、結果として多くの人を助けることはできない。
そこで考えたのが「共済型」という仕組みでした。
支払いは「1回いくら」ではなく「1ヵ月いくら」という設定にします。
ある人が事故や災害で困ったときに、皆で積み立てておいたお金で助けるというのが「共済」の仕組みですが、それを私たちの病児保育にも適用したのです。
月々7,000~8,000円程度の会費を支払うと、自分の子どもが病気になったときに月1回はサービスを無料で利用できるという方法です。
この「訪問型」と「共済型」という仕組みで2005年4月にサービスをスタートさせたのですが、たくさんの方から問い合わせがありました。
「就職の面接では『お子さんが病気になったときは会社を休むんですか?』と必ず聞かれて、結局就職ができません」「子どもが病気になったとき、今まで自分の親にお願いしていたけど、もう限界です」などなど、困っている方たちの切実な声がたくさん届きました。
「レスキュー隊員」だからできる、きめ細やかな対応。
私たちの病児保育の対象者は生後6ヵ月~小学6年生までです。
当日朝8時までに予約をすれば、伝染力の強いインフルエンザや水ぼうそう、手足口病やプール熱、それから溶連菌やノロなどのお子さんにも対応できます。
ただ、はしかについては、症状が重篤化することがあるためお断りしています。
サービス提供エリアは東京、千葉、埼玉、神奈川で、会員数は2017年度には6,000人を超え、利用回数は累計50,000件以上になります。
おかげさまで事業開始以来、大きな事故はありません。
各家庭に派遣されるのは保育の実務経験1年以上または子育て経験7年以上の人で、フローレンスの研修を受けた人たちです。
私たちは「こどもレスキュー隊員」と呼んでいて、現在は123人の隊員がいます。
各自治体でも施設型の病児保育を行なっていますが、利用者の方々からよく聞くのは、各施設で1日に数人程度と受け入れ人数が圧倒的に少ないため、順番待ちになることが多いということです。
また、民間の病児保育は利用料が高いところもあり、要望をあまり聞いてくれない、という声も聞きます。
フローレンスの月会費7,000~8,000円という金額は「心の安心を買うと思えば高くない」とおっしゃる利用者も多いですし、対応のきめ細やかさに高い評価をいただいています。
レスキュー隊員は「保育シート」というレポートを書いて、当日のお子さんがどんな様子だったかを親御さんに説明します。
シートには体調や食事の様子、それから読んだ絵本や遊びの内容など、分刻みで細かく記入します。午後になると親に連絡して途中報告もします。
レスキュー隊員はスマホで本部(看護師常駐)と連携していて、何かあれば本部の指示で親に連絡し、救急搬送する体制も整えています。
僕はこのシステムであれば、多くの人を助けることができると確信していましたし、講演などでお話しをさせていただくと、多くの方から共感やお褒めの言葉をいただきました。
ところがある日の講演が終わったとき、ひとりの女性からこんなことを言われたんです。
「私には利用できません。月7,000円というお金は、私のようにひとりで子どもを育てている者には重いのです」
ショックでした。最も病児保育サービスを必要としているのはひとり親の方たちなのに、月額の負担が重くて使えないというのは盲点でした。
ひとり親、特に母子世帯の悩みは深刻です。
ひとり親家庭を取り巻く状況は当時も今も非常に厳しい。
最近は子どもの貧困問題がメディアで報じられるようになりましたが、その際に併せて報道されることが多いのが、収入面で苦境に立たされているひとり親家庭の状況です。
ひとり親、特に母子世帯の悩みは本当に深刻です。
厚生労働省の「平成28年度国民生活基礎調査」および「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」によると、子どものいる世帯の平均世帯年収707万円に対して母子世帯は243万円と、実に3分の1です。
しかも母子世帯の81.8%は就業していますが、その43.8%が非正規雇用です。
いくつ仕事を掛け持ちしても、子どもと食べていくだけで精一杯な母親がたくさんいます。
そうした母親たちは、子どもが熱を出して仕事を休めば、収入に直接響きますし、最悪の場合は仕事を失うこともあります。
そうした方たちを手助けするために考えたのが「ひとり親支援プラン」でした。対象者は、以下の条件に当てはまる方々です。
1)児童扶養手当を受給している
2)年収が400万円以下でお子さんの扶養を証明できる
入会金はナシで、月の会費1,000円を払っていただければ、毎月、初回は無料で病児保育を利用できます。
午前8時~午後5時30分までが無料利用の対象で、それ以降は1時間あたり1,000円を払っていただきます。
「ひとり親支援」で月会費を徴収する理由。
ひとり親支援プランについては月の会費も無料にすべきかと思ったのですが、シングルマザーのスタッフのひと言で、1,000円の会費にしました。
彼女は「無料で何かをしてもらうのはうれしいですが、堂々と自分もお金を払って利用しているんだと思いたい。プライドを持って利用したい」と言うのです。
僕はなるほどと思いました。支援する側は善意でも、支援される側が屈辱感を持つようなことになっては意味がないと。
現在、ひとり親支援プランの会員は約250人いますが、会員は2年の期間限定にしています。0~2歳の一番病児保育を必要とする時期になるべく多くの方が仕事との両立をできるよう。
このサービスが実現できたのは、多くの方々の寄付によります。
それらの方々は「ひとり親家庭支援サポート隊員」と呼んでいます。
毎月1,050円~16,800円までの5段階の支援プランがあり、これまで延べ2,387人の方たちが「隊員」となって寄付をしてくださっています。
そして、今までは同じ月の2回目以降の利用は「ひとり親支援プラン」の会員も有料だったのですが、今回カタログハウスさんから寄付をいただいたことで、2回目も無料にすることができました。
今年の4月から、2回目無料のクーポン券を希望者に配布しています。
2017年にひとり親支援プランの会員の方で、2回目以降を利用したのは83人ですが、無料となればもっと利用する人が増えると思います。
子どもの熱は1日で下がるわけではありませんが、今までは有料となる2回目の利用を控えていた方がたくさんいたと思います。
今回ご寄付いただいた300万円のカンパで、単純計算で1日9時間9,000円の利用料金とすると、333人が2回目を無料で利用できます。
これは本当にありがたいことです。仕事を休むことなく、しかも病気の子どもの面倒をしっかりと看ることができるのですから。
病児を預けて仕事に向かう朝は、「子どもレスキュー隊員」としっかり引き継ぎを行なう。
まだクーポン券の配布を開始したばかりなので数は少ないですが、すでに申し込みも反響もあります。
「今月2回目の利用となり、負担額が大きくて大変だと考えていたところ、支援企業様からの無料券が送られてきたことに気づき、大変ありがたく利用させていただきます。ありがとうございました」
「フローレンス、2回目を利用させていただいております。無料券をいただけることはととてもありがたいです」
クーポンを利用された方たちのこうした声からも、2回目も無料で利用できることがひとり親家庭にとってどれだけありがたいことか分かります。
フローレンスの病児保育事業にはまだまだ足りない部分はあると思いますが、子育てと仕事の両立可能な社会を目指して、今後も取り組んでいきたいと思っています。
この活動に、300万円をカンパしました。
「ひとり親支援プラン」2回目無料クーポン券 300万円
※フローレンスの病児保育の「ひとり親支援プラン」の会員さんは、月1,000円の会費を支払えば1回目は無料で利用できるが、2回目からは有料になる。支援金300万円は2回目も無料で利用できるクーポン券の原資に。単純計算で1日9時間9,000円の利用料金とすると、333人が2回目を無料で利用できる。
活動を応援したい方は、
ぜひ下記へご支援をお寄せください。
認定NPO法人「フローレンス」
所在地 | 〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-14-1 KDX神保町ビル4F |
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