いま、わが国の子どもの7人に1人、およそ280万人が「貧困の状態にある」と言われています。ランドセルが買えず、入学式に1人リュックサックで出席する子。夏休みに入って給食が食べられなくなると痩せてしまう子。ふつうの子どもにとっての「あたりまえ」に手が届かない子どもが、私たちのすぐそばにいるのです。
お金のことでつらい思いをしている子どもたちに、少しでも寄り添っていきたい。私たちがはじめたのが、この「ネット1%寄付」です。
『おばはん、死ねや』と言っていた子どもたちが、食事で変わっていくんです
西成チャイルド・ケア・センター/大阪府大阪市
取材・文=釜池雄高(通販生活編集部)
全国に広がる「こども食堂」のなかでも、ほぼ毎日開催しているところは圧倒的に少数派です。「にしなり☆こども食堂」は大阪市西成区の市営住宅を週に6日開放し、家庭環境の恵まれない子どもたちのために食事や居場所を提供しています。 街の人たちからの善意で成り立っているこども食堂の食事は、子どもたちにどんな影響を与えるのでしょうか。代表理事の川辺康子さんにお話をうかがいました。
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「にしなり☆こども食堂」を始める前から、子どもの支援をするなら「食事」は絶対に欠かせないって思っていました。
それは2003年7月から西成児童館で働いていたときの思いが、ずっと胸に残っていたからなんです。
その児童館では、夏休みになると朝から夕方まで館内で過ごす子どもたちがたくさんいました。でも、職員が昼食を取るための1時間は、児童館を閉めて、子どもたちには家に帰ってもらっていたんです。
そのときずっと帰らずに冷水器の水ばかり飲んでる子がいて、「水ばっか飲んだらお腹チャポチャポになるやろ」と言っても、「水が好きや」て。
ふたりでカップラーメンを食べながら話を聞くと、親が働きに出ていて家も閉められている。家にいてもどうせご飯つくってくれへんと言う。
その年の9月に児童館が閉鎖になってしまいたった3ヵ月の付き合いでしたが、あの子はどうしてるんかな、一度つながったはずの手を私はどうして離してしまったのかな、と今でも思い出すんです。
西成区はドヤ街で有名な釜ヶ崎もありますし、人情味のある地域ですが、日々の生活のなかで自分のことで精一杯な人が多い。人のことまでなかなか目が向かないんです。だから、子どもたちに食事の支援を始めたいと言っても、「なんで大人のいうこと聞かない子らにごはん食べさせなあかんの?」と周囲からは大反対されました。
子どもたちも荒れていて、小学校低学年の子が「おばはん、死ねや」なんて平気で言ってくるし、肩が触れただけで殴り合いのケンカが始まってしまう。
それでも、2010年から、当時勤めていた市民交流センターにしなりの「あそびの広場」に集まっている小学生たちと一緒に食事をつくって食べていると、子どもたちの気持ちや表情が落ち着いてくるのがわかりました。
最初は月に2回、料理教室をしながらみんなで食べるスタイルから始め、2012年に助成金を申請して、「にしなり☆こども食堂」を始めました。
「ほんとうにつらい子」としっかり向き合うために。
2016年までは、火曜と土曜の週2回開いていて、毎回60人くらいの子どもたちが夕食を食べに来てくれました。
でもね、誰でも来られる場所にしたので、人数が増えると「ほんとうにつらい子」が隠れてしまうんです。
子ども大勢がいると、どうしても声の大きな子が目立ってしまう。その子たちも家で十分にかまってもらえていないから、大人たちの関心を引こうと騒ぐんです。そうすると、ほんとうに厳しい環境におかれた子が、来づらくなってしまいました。
そうした子どもたちとしっかり向き合うために、2017年4月からは市営住宅1階の部屋を借りて、週6日開くようにしました。
週に2日は、小学生を中心とした子ども35人を対象にして夕飯を食べに来てもらっています。来てくれるのは平均すると毎回25人くらい。私がずっと関わっている家庭の子だったり、学校や地域の要保護児童対策協議会とのつながりのなかで支援を必要とする子どもたちです。
毎週月曜日は学習支援もしていて、大学生が子どもたちにメチャメチャにされながら教えてくれています。普段より人数も少ないので、ゆっくりとご飯を食べたい子も来ていますね。
残りの3日は個別支援の日で、特にケアが必要な小学生3人に来てもらって、食事はもちろん、話を聞いたりしながらここで安心して過ごしてもらう。
その中のひとり、小3の女の子は、ご高齢のお父さんとふたり暮らしです。
ガスが止められていて、父親は水風呂で問題ないと言うけど女の子だし、ここでお風呂に入れるようにバスルームもつくりました。
もうひとりの小3の男の子は6人きょうだいの下から2番目。
お父さんが病気がちでなかなか仕事に行けないので、お母さんが朝早くから仕事に出ていてほとんど家にいない。3日、4日は平気で同じ服を着てるし、家に居場所を見つけるのが難しいんですね。
彼はここに来ても同級生にケンカをふっかけていたけれど、それは前歯がなくて、食べ物が口から出てしまうのをからかわれてしまうから。自分を守るために攻撃してしたんです。
学校の歯科検診も、その日に休んでしまうと誰も異常に気づくことができません。歯磨き粉を直接歯ぐきにつけてたのを見て驚いて、学校から親に連絡してもらい、いまでは綺麗に歯も入って態度も落ち着いてきました。
子どもが友だちを連れてくることもあるので、まずは「一緒に食べていきー」と迎え入れます。そのあとで、ずっとこの場所に来たいなら保護者の方と一度話をせなかんから一緒に来てと伝えています。
だから来てくれる子については、みんな家庭の状況もわかっています。
私は近隣の小・中・高校との連絡会の事務局も担当していますが、先生から「頼みますわ」と連れられてくる子は、必ず背景に家庭の問題があります。
ひとり親家庭も多く、親が地域から孤立してしまうと行政の目も支援も届かない。そのしわ寄せは、子どもたちに向いてしまいます。
そんなときに、こども食堂で子どもたちと接点を持っていることはとても大切で、そこから家族全体を包み込んだ支援にもつなげることができるんです。
子どもたちとともに見いだす希望とは?
「にしなり☆こども食堂」で出している料理は、主菜、副菜にご飯、お味噌汁とデザートが基本です。デザートは果物が多いけど、子どもたちはめちゃめちゃ大好き。
こだわっているのは、出汁ですね。ちょっとぜいたくですが、昆布と煮干しで毎回きちんと取ると、めっちゃおかわりしてくれます。
スタッフが私ひとりなので大変ですが、調理ボランティアの方が5人いるのでなんとかまわっています。たまに人数が少なくて料理をつくるのに手一杯になると子どもたちの部屋が無法地帯になるので(笑)、子どもと遊んでくれる学生さんがいるととても助かります。
食材はホームページや新聞記事を見た全国の方が送ってくれたり、ふるさと納税の返礼品を送ってくれる方なんかもいます。ただ、どうしてもその日のメニューに必要なものは自分たちでも買っています。
それでもほぼ毎日なので、足りなくなったらと思うとドキドキしますね。市営住宅に移った当初は、おかず2品出したいところを1品にしようなんて、ケチケチしながら運営しようとしたこともありました(笑)。
食事を一緒にすると、子どもたちと目線が合うようになります。
最初はこちらの顔を絶対に見なかったのが、私の目を見て、私の言ったことを自分のなかに入れて考えようとしてくれる。
もちろん、ご飯を前にするとテンションがあがって、いまでもワーっとなって騒がしいですけど、相手のことを考えた行動をとるようになってくるんです。
中学になると「もうええわ」って来なくなる子も多いけれど、「川辺さんのこと手伝ってくれると助かるなー」って、子どもたちが穏やかなときに少しずつ伝えています。
実際、2012年に私が地域の反対を押し切ってこども食堂を始めたときに手伝ってくれたのは、それまであそびの広場に来て暴れていた子どもたちでした。
みなさんの善意が気持ちを後押ししてくれる。
これまでは社会福祉振興助成事業(WAM助成)などの助成や篤志家の方の寄付で運営していましたが、今年は新しく挑戦する事業で助成申請したら落ちてしまって……。「どうしよかー」と思っていたときに今回のご寄付の話をいただいたので、大切に使ってなんとかこの場所を守っていきたいと思います。
ここにある冷蔵庫や冷凍庫、クーラーや炊飯器なんかも寄付してもらったもので、本当に助かっているんです。
一緒に子ども支援をしている仲間からは、「川辺さんが困っていると誰かが助けてくれんねんな」と言われるくらい運がいいんですね。活動を続けていると必要なときに必要な方と出会う。みなさんの善意が私の気持ちを後押ししてくれています。
私には子どもが2人いて、この場所を借りると言ったとき、ずっとここに住むと勘違いした高校生の娘からは「私のこと本気で捨てるんやな」と言われました。
それでもときどき手伝いに来てくれるし、高校のレポート課題でこども食堂を取り上げて、「母親がやっていることが最初はものすごくイヤだったけれど、来ている子どもたちの変化は私なりに感じることができた。でもそれを素直にいえない自分もいた」と書いてくれました。
これまで関わった子どもたちとは、ほんとうに一人ひとりに物語があるんです。過去と人は思い通りには変えられないけれど、子どもたちの成長を見ると、やっぱり人は変われるんだって思うんです。
私はそのことを、出会った子どもたちから日々教えてもらっています。
この活動に、300万円をカンパしました。
食材費 220万円
家賃 80万円
※食事は1食300円ほどの経費がかかる。個別支援の場合は、1人に対し1日約1000円。そのほか、会場を維持するための家賃や修繕費、保険料などが必要となる。
活動を応援したい方は、
ぜひ下記へご支援をお寄せください。
NPO法人「西成チャイルド・ケア・センター」
所在地 | 〒557-0022 大阪市西成区中開3-3(ひらき住宅1-102) |
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電話 | 06-7709-5432 |
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