いま、わが国の子どもの7人に1人、およそ280万人が「貧困の状態にある」と言われています。ランドセルが買えず、入学式に1人リュックサックで出席する子。夏休みに入って給食が食べられなくなると痩せてしまう子。ふつうの子どもにとっての「あたりまえ」に手が届かない子どもが、私たちのすぐそばにいるのです。

お金のことでつらい思いをしている子どもたちに、少しでも寄り添っていきたい。私たちがはじめたのが、この「ネット1%寄付」です。

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ママたちには、「困ったときに助けてと言えるのが本当に強いお母さんなんだよ」とお伝えしています。

NPO法人 しんぐるまざあず・ふぉーらむ/東京都千代田区

取材・文=丸山裕子(通販生活編集部)

「シングルマザーの支援が必要だと言うけど、好きで離婚したんでしょ。子どものためにガマンすればよかったのに」

――2人に1人が貧困と言われるひとり親世帯のお母さんたちを追い込んでいるのが、こういった世の中の偏見です。

無言の批判を敏感に感じ取り、誰にも頼れずにギリギリの生活をつづけ、パンク寸前になったお母さんたちのか細いSOSに手を差し伸べているのが、NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」です。 理事長の赤石千衣子さんに、いま増えているシングルマザーの貧困支援についてお話しいただきました。

赤石千衣子さん●NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長。当事者としてシングルマザーと子どもの支援活動をつづける。厚生労働省の社会保障審議会・児童部会ひとり親家庭への支援施策の在り方に関する専門委員会参加人。

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「私たち『しんぐるまざーず・ふぉーらむ』は、1980年に当事者たちが中心となって立ち上げた団体です。
 お母さんたちの交流会やキャリア支援プログラム、シングル家庭の子どもたちの教育支援に力を入れてきましたが、ここ数年、『子どもに食べさせるお米がない』『家賃が払えない』といった緊急のご相談が増えてきています。

 ご存知の通り、日本の子どもの貧困率は先進国でも深刻で、13.9%、およそ7人に1人ですが、ひとり親にかぎるとさらに深刻で50.8%、2人に1人にのぼります。※厚生労働省『2016年国民生活基礎調査』
 ひとり親の8割は母子世帯ですから、シングルマザーが置かれている厳しい状況がおわかりいただけると思います。

 一方、日本のシングルマザーの就労率は世界トップクラスで、81.8%にのぼります。※厚生労働省『平成28年度全国ひとり親世帯調査』

『働いていても、なお貧困』という世界でも稀な状態に陥っているのは、正規の仕事になかなかつけないからです。じつに43.8%ものお母さんたちがパートやアルバイトで、その地域の最低賃金ギリギリの時給700~900円代で働いています。小さい子どもはしょっちゅう熱を出しますから、仕事に出られない日があるとお給料は減ってしまいます。
 12~13万円にも満たない月収が2~3万円ごっそり減り、食卓からおかずが消えてごはんとお味噌汁とふりかけだけの日が続き、児童扶養手当が支給される前の月末にはお米まで底をついてしまう。私たちのもとにSOSの電話がくるのは、そんなギリギリの状態であることが多いのです。

 昨年度はフードバンクさんにご協力していただいて、食料支援の要請が増加する7月に、先んじて緊急の食料支援ボックスを200箱お送りすることにしたのですが、希望者が殺到してしまい、半分近くのご家庭にお送りすることができませんでした。
 本年度は抽選でもれてしまうご家庭がないように、フードバンクさんからの提供品にカンパで購入した食品を加えて、一人でも多くお母さんたちへお送りしたいと思っています」

緊急のお米を送るときにも、必ず子どもたちがよろこぶお菓子を一緒に詰める。

生活保護世帯のシングルマザーの7割はDVを受けた経験がある。

「離婚したお母さんたちはよく“自己責任”という言葉をぶつけられますが、好き嫌いの問題だけで別れる人はめったにいません。『暴力をふるう』『精神的に虐待する』『生活費を渡さない』『酒を飲み過ぎる』、そして何より、子どもたちがそんな父親の姿を見て育ってしまうのをおそれて、離婚に踏み切るお母さんが多いのです。
 それでもお母さんたちは『離婚を決めたのは自分だ』『子どもに不自由はさせられない』と、しゃにむに頑張ります。子どもの面倒を見ながらパートの仕事を2つ、3つと掛け持ちして、必死で綱渡りをしつづける。やっとのことで学費を貯めてお子さんが高校に上がる頃には、うつ病で働けなくなる方もいらっしゃいます。

 とくに離婚原因が夫のDV(配偶者暴力)の場合は、新生活を始めるまでにエネルギーの大半を使い果たしてしまう人が多いのです。だいたいの方は『家からバスに乗ったのか、タクシーだったのかも覚えていない』とおっしゃるほど必死で逃げて、生活場所が定まったあとはドーッと落ち込まれます。

 これが尾を引いてしまうと自力ではなかなか働けません。生活保護世帯のお母さんの7割がDVの経験があり、3割がうつ状態という統計もあります。※厚生労働省2009年発表『一般母子世帯及び非保護母子世帯の生活実態について』

 私たちの元へも、『生活道具が足りなくて困っている』というご相談が月に1~2件はあります。
 大慌てで家を出てこられたんでしょう、まだ1、2歳のお子さんをおんぶして、真冬だというのに風がスースー抜けるようなコットンのニット姿で『いただけるものはありませんか?』と訪ねてこられたお母さんもいました。そのときは、たまたま事務所にお古の子ども服や洋服があったので、お好きなものを自由に選んでいただいたのですが、両手に持ちきれないほど持って帰られました。

事務所の棚には、SOSにすぐ対応できるよう食料品や子供服がストックされている。

『夫が逮捕されたから、この隙に子どもと逃げたい』というご相談もありますし、妊娠8ヵ月の女性から『パートナーが仕事をサボって逃げ、会社の寮を追い出されたので助けてほしい』とネットカフェから緊急のメールをもらったこともあります。

 DV被害のご相談が来た時には、まずご自身とお子さんの安全をどう守るか計画を立てて、いつでも逃げられる準備をしておきましょうとお伝えしています。逃げるためにはお金も必要ですが、実際には準備ができないまま安全を優先して逃げる方も少なくありません。自治体のシェルターで保護してもらえるのはだいたい2週間ほどですので、シェルターを出たあとで生活に困る方も多いのです。

 生活保護を受けるにしても、たとえば保険類はすべて解約しないと申請できませんが、夫が保険の解約に応じないため申請に数ヵ月かかることもあります。
 また、妹夫婦や義理の両親など配偶者以外の同居家族の暴力から逃れた方や、すでに離婚が成立している元夫からストーカー被害を受けている方ですと、DV被害には該当しないため、自治体の支援が届かないこともあります。こういった公的な支援が届かない方のお手伝いも柔軟にできるのが私たちの強みだと思っています」

糸の先につながっているシングルマザー

 しんぐるまざあず・ふぉーらむの核となっている活動は、年間400~500件寄せられる困りごと相談や、会員のお母さんたちに届けているメールマガジンです。
 この電話やメールでかろうじてつながっている細い糸を、緊急の食料支援が強く結びつけてくれることがあるそうです。糸の先につながっているシングルマザーのご家庭を、理事長の赤石千衣子さんとともに訪ねました。

 おじゃましたのは、関東地方の公営住宅に住んでいる佐藤絵美さん(仮名・29歳)のお宅。お約束をした夜7時にうかがうと、息子の蓮くん(仮名・4歳)と娘の葵ちゃん(仮名・2歳)が夕飯を食べている真っ最中でした。
 ごはんを食べながら「おかしー、おかしー!」と連呼する蓮くんを絵美さんが「スープの野菜を食べないとダメだよ」と制すると、隣の葵ちゃんが「どうじょー」と自分のスープを赤石さんへ差し出してにっこり。絵美さんが吹き出しました。

「しんぐるまざあず・ふぉーらむから段ボールが届いたので、中にお菓子が入っていたら今日のおやつにしていいよって、ママが言ったんだよねぇ」

 お米も入れました、と赤石さんが声をかけると、絵美さんが「うわーっ、ありがとうございます」と笑顔になりました。
「いま携帯会社が月替わりで『毎週これがもらえます』っていう特典サービスをやってるじゃないですか。先月は牛丼だったので、すっごく助かってました。ウチはまだ2人とも小さいから、並1杯で親子3人の夕飯が足りちゃう。金曜日は仕事で疲れているから、ご飯をつくらないで済むのも助かるし。今月から特典がアイスになっちゃって、ガッカリ(笑)」

 ごはんを慌ててかきこんでごちそうさまをした蓮くんに、絵美さんから「箱、開けていいよ」とお許しが。葵ちゃんも加わって2人がかりで段ボールを開けます。

(左)夕飯も終わり、いよいよ箱を開けるときが。(右)お菓子とジュースを見つけて踊り出す蓮くん。

「おかしだーっ!わーーっ、ジュース!これがいいい、りんご!りんご!りんごーっ!」

お菓子とジュースを手にダンスをする蓮くんの姿に、絵美さんも赤石さんも大笑いです。

「いつもこんな感じだよねぇ、蓮。何が入っているかママも見たいな」絵美さんのリクエストに、箱に入っている食品を蓮くんが一つずつ取り出して床に並べていきます。
 乾麺うどん、食用油、電子レンジで調理できるレトルトのカレーや牛丼、缶詰のパン、ジャム、クッキー、おせんべい……10kgのお米も蓮くんが果敢にひっぱり出しました。

 今回、絵美さんに届いた食品の多くは、企業やフードバンクからの寄付をストックしておいたものです。
 赤石さんたちは箱づめするときに、お米やうどんなど調理が必要な食品だけでなく、仕事で疲れたときに間に合わせで食べられるレトルト食品や、お母さんがひと息つけるようにお茶やコーヒーを必ず入れるようにしているそうです。
 ママから今日は特別にソファでジュースを飲んでいいよと許可された蓮くん。こぼさないように慎重に移動し、200ml缶のりんごジュースをじっくり味わうように時間をかけて飲みます。
「ジュースなんて久しく買ってないもんね。2月までは暖房費で家計が圧迫されちゃって。収入は変わらないどころか子どもが風邪を引いて熱を出して休んだりするから、翌月のお給料の明細を見るのがこわい(笑)。

 よく、一人で育てるのはたいへんでしょ?って聞かれますけど、子育てはすっごく楽しいんです。でも、お金がないよねえ……」開けてもらった雛あられを手にニコニコしている葵ちゃんに、絵美さんが笑いながらつぶやきました。

(左)ジュースをみつけてにっこりの葵ちゃんに、蓮くんがすかさず「あ、葵ちゃん2本持ってるのダメ!」(右)ジュースを口に少しずつ含ませてゆっくりと味わう蓮くん。

シングルマザーの生活は、引っ張られっぱなしのゴムのよう。

 絵美さんは、離婚した直後に妊娠が発覚。その後、2人のお子さんのシングルマザーになりました。子どものために元夫との関係を修復しようとしたこともあったそうですが、貯めた出産費用を持ち逃げされ、復縁は諦めたそうです。

 元夫とは音信不通で養育費の支払いはいっさいありません。親御さんからは産むことを反対されて、「迷惑は掛けない」と約束しての出産だったため、金銭的な援助はもちろん、お子さんを預けて働くこともできないとおっしゃいます。

「いちばん絶望したのは、保育園に落ちたときです。それまで仕事をしていなかったシングルマザーって、仕事を持っている共働きの夫婦よりも保育園に入るための加点が少ないんです。
 保育園に入れなければ仕事を探せない、働けなければ収入もない。『保育園に落ちた、日本死ね』じゃなくて、『保育園に落ちた、シングルマザー死ね』って言われたような気持ちでした」
 やむを得ず生活保護を申請し、食費を切りつめて月5万円の認証保育園に入れ、職を探したものの、面接や研修のたびにお子さんが熱を出して休む羽目になる。企業の採用係から「本気で働こうと思ってないでしょ?」と言われたこともあったそうです。

 絵美さんがパートの仕事に就けたのは、2人のお子さんが認可保育園に入れた昨年の4月。これを機に、自ら生活保護を切りました。
「正直、生活保護をもらっていたときよりも生活は苦しいです。でも、生活保護には戻りたくありません。自分の力で子どもを育てたいし、生活保護を申請するには貯金をゼロにしきゃいけないじゃないですか。

 いま、ホントに数万円ずつですけど、節約を重ねてこの子たちの名義でつくった口座に学費を貯金しているので、そのお金は手放したくないんです。子どもたちの将来を諦めるみたいだから……。なんとか踏ん張って、少しでも収入のいい仕事を見つけないと」
 赤石さんは、シングルマザーの気力と体力を「ずっと引っ張られているゴムのような状態」とおっしゃいます。

「ゴムが伸びきったらどうなるのでしょう。もうがんばれないギリギリまで来ているお母さんたちに、『困っていたら助けてって言っていいんだよ』と呼びかけ続けることが私たちの役目だと思っています。

 一度の電話相談だけでは本音を打ち明けてくださるお母さんは少ないですが、食料支援でつながりつづけることで、本当に困ったときに相談してもらえることがある。この食支援の段ボールは『困っていたらいつでも言ってね』という私たちのメッセージでもあるんです」

この活動に、300万円をカンパしました。

母子家庭・緊急食料ボックス 100万円
DV避難・困窮母子 新生活スタートボックス 200万円

※フードバンクからの提供品が足りない場合、一世帯あたり5000円の食料購入費が年間でおよそ200世帯分必要となる。
また、DV避難の母子世帯から子どもの制服や学用品、家電などの要請があったときには、一世帯あたり5~10万円の購入費が必要。昨年の実績でいうと、年間でおよそ20件ほど相談がある。

活動を応援したい方は、
ぜひ下記へご支援をお寄せください。

NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」

所在地 〒102-0052 東京都千代田区神田飯田橋1-8-9 ニューシティハイツ飯田橋402
電話 03-3263-1519(平日13:00~17:00)
支援金受付 郵便振替口座
口座番号00170-4-152781
口座名義NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ
※振替用紙に「キフ」とお書きください

銀行口座
三菱UFJ銀行 高田馬場駅前支店
普通4536336
口座名義特定非営利活動法人しんぐるまざぁずふぉーらむ
※振込人名の頭に「キフ」とつけてください
※お振込後、ご住所、連絡先をファックスかeメールでご連絡ください。