いま、わが国の子どもの7人に1人、およそ280万人が「貧困の状態にある」と言われています。ランドセルが買えず、入学式に1人リュックサックで出席する子。夏休みに入って給食が食べられなくなると痩せてしまう子。ふつうの子どもにとっての「あたりまえ」に手が届かない子どもが、私たちのすぐそばにいるのです。

お金のことでつらい思いをしている子どもたちに、少しでも寄り添っていきたい。私たちがはじめたのが、この「ネット1%寄付」です。

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子どもの貧困は親の貧困。親まで丸ごとのサポートが必要です

認定NPO法人CPAO(しーぱお)/大阪府大阪市

取材・文=横山健(通販生活編集部)

 シングルマザーは正規雇用の仕事に就きづらい。母子家庭は貧困状態におちいりやすいのが現実です。
シングルマザーの平均収入は年間で243万円。シングルファーザーの420万円とくらべても6割にもなりません。※厚生労働省『平成28年度全国ひとり親世帯調査』
5年前のあるいたましい事件をきっかけにCPAO(しーぱお)を立ち上げ、子どもの貧困に対して親ごとサポートするユニークな活動を続けている徳丸ゆき子さんにお話を伺いました。

とくまる・ゆきこ●12年、公益財団法人「セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン」を退職。13年5月に子ども支援関係者らと「大阪子どもの貧困アクショングループ/CPAO」を立ち上げる。16年にNPO法人化、18年に認定NPO取得。13歳の息子を持つシングルマザー。

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 2013年5月24日、大阪市北区のマンションの一室で、23歳のシングルマザーと3歳の男の子の遺体が見つかった事件をおぼえているでしょうか。
 部屋に食べ物はなく、「お腹いっぱい食べさせてあげられなくてごめんね」というメモが残されていました。
 この事件にショックを受けて、翌25日、子ども支援関係者とともにCPAO(しーぱお)を立ち上げました。

 実はあの事件の1年前、本格的に子どもの貧困に取り組みたくて勤めていたNGOを辞め、何をしようかとずっと模索していたんです。
 人に話を聞いたり、調べたりしている最中に、こんな事件が起きてしまった。わたし自身シングルマザーだということもあり、もう動かずにはいられませんでした。

 本当に困っている人は、待っていても来てくれません。相談をする人がまわりにいない、孤立されている方が多い。どこへ、どうSOSの声を上げるのかわからないから、本当に困ってしまうのです。

 そこで最初にはじめたのは、「『助けて!』って言ってもええねんで」というメッセージと連絡先が入ったビラをつくり、事件の母子が見つかったマンションにほど近い天神橋筋商店街で配ることでした。
 子どもの貧困は家庭の貧困。子どもだけでなく、家族を丸ごとサポートしないと、この問題は解決しないと思ったのです。

最初の活動で配ったビラ。女性に手に取ってもらえるようシュシュと一緒に配った。

 この活動は新聞やテレビなど、たくさんのメディアが取り上げてくださいました。その中のひとつ、NHK「あさイチ」の放映を見たしほりさん(仮名)という25歳のシングルマザーが、すぐにメールをくれました。
 番組の中でわたしが言った「子どもだけじゃなく、親も丸ごとサポートする必要がある」という言葉を信じて連絡をくれたそうです。
 お会いすると、しほりさんはごく普通の若い女性に見えました。ただ、淡々と話す半生はまったく普通ではありませんでした。

 母親は5歳で亡くなり、心身ともに疾患を抱えていた父親からは暴力を受け、育児放棄もされたので、おじの家に預けられる。ところが、おじからも暴力を受けてしまう。
 18歳で恋人ができて20歳で妊娠、出産した後に相手が妻子持ちだとわかる。借金をさせられ、暴力も受けるようになったので、子どもを連れて役所へ相談に行ったもののシェルターに入れず、サポートも受けられない。
 しかたなく父親の家に戻ったけれど、子どもの目の前で父親に包丁で切りつけられたこともあり家を出た。お金も子どもを預けるところもなく、頼る人もいない。ハローワークに行っても、仕事を見つけるのは簡単ではない。
 切羽詰まってついた仕事がデリヘルだった。事務所に子どもを預けて、客の待つ場所へ行く……そんなことを続けて精神が不安定になった。
 精神的にまいってくると、小さいころのトラウマがフラッシュバックで出てきて、破壊衝動におそわれ、大量服薬するようになる。
 大量服薬をすると、泡を吹いて気絶してしまう。でも、そうしないと苦しくて止められない。自分が気絶したときの子どもが心配だ。どうすればいいのだろうか?

 活動をはじめてすぐでしたし、当時のわたしには重すぎる相談だったと思います。けれど、とっさに「何かあったときは、必ず連絡して」と言っていました。
 大量服薬したときに自分で電話をくれたり、しほりさんの意識がなくなって4歳のお子さんから電話がかかったりすれば夜中でも駆けつけ、必要であれば病院へ緊急搬送する。わたしが行けないときには、信頼できる子ども支援関係の仲間に頼んでかわりに行ってもらいました。

 その後、しほりさんと相談したうえで生活保護を受けてもらい、経済的には安定して一段落しました。
 ただ、しほりさんと子どもにとって、その状態は根本的な問題の解決とならず、いまも大量服薬が続いていたりします。

シングルマザー100人に聞いてわかったこと。

 実際に、シングルマザーにはどんなサポートが必要で、困っていることは何なのか?
「家族丸ごとサポート」活動をしながら、並行して取り組んだのは、シングルマザー100人への聞き取り調査でした。しんどい状況のシングルマザーが一番必要としていることからやっていこうと考えたのです。

CPAOでは「子育て」ではなく、子ども目線の「子育ち」という。

 話を聞いたシングルマザーの多くは養育費をもらえず、生活費をかせぐためにかけもちで仕事するなどして気持ちと時間に余裕がありませんでした。日々お金の心配をしてイライラし、ちょっとしたことで子どもに怒ってしまう……。
 そんなシングルマザーの声で多かったのは、
「グチひとつ言える場所がない」
「気軽に心置きなく行ける場所がほしい」
「子どもだけでもごはんを食べさせてくれる場所があったら助かる」
 という要望でした。

 そこで13年12月から、月1回シングルマザーとその子どもたちが気楽に来られる「居場所会」を、14年7月からは、ごはんを食べられる「ごはん会」をはじめました。
 最初のころのごはん会は、往来から中がよく見える古民家を借りて開いていました。物珍しかったのか、地域の子どもたちが「何してんの?」と話しかけてくることもありました。
「みんなでごはん食べてんねん」とこたえると、「いいなあ、おれもごはん食べてへんねん」とうらやましそうな顔をする子もいました。

 聞けば、家で食べさせてもらっていない。ごはん会に誘うと、「もっと食べてへん子おるよ。呼んでいい?」と言うんです。
 家でごはんを食べていない子は意外に多いということがわかりました。
 そういう子たちに「ほかの日はどうしてんのん?」と聞いたら、「教会(の炊き出し)でもらってる」「ないときはガマンしてる」と言うので、それはアカンやろと思い、月1回のごはん会を週3回に増やしました。

空き地で遊ぶごはん会に集まった子どもたち。

 しばらくは、ごはん会を開くときだけ場所を借りていましたが、16年2月、大阪市生野区巽北のペンキ工場だった建物を借り上げて改装し、CPAOの拠点となる「たつみファクトリー」をつくることができました。

 同時に、ごはん会を中心とした、子どもの育ちをサポートする活動をNPO法人化しました。

目のあたりに見る「負の連鎖」

 NPO法人CPAOの主な活動は、週3回のごはん会。大人数の場所に来ることができない子どもには個別のごはん会。参加できない子どもの家庭へ月数回食事を届ける宅食。給食がない長期休みに開く泊りがけのスプリングスクールやサマースクールです。

この日のメニューは、大根ステーキのチーズのせ、きんぴら、手づくり柿酢のピクルス。

 参加者は、よりしんどい状況にある親子を中心としています。
 かなり困窮されていても、親が許可しなければ子どもが参加することはできません。理解してもらうために何度も家を訪ねることもあります。
 ごはん会やサマースクールなどの参加者は10~15人くらい。クリスマス会などのイベントでは50~60人が参加してくれます。小さい子や家が遠い子は、車で送迎もします。安否確認も兼ねている宅食は、だいたい50世帯くらいに配ります。

子どもとスタッフたちで一緒に食べる。

 これまで、しんどい状況にある母子家庭を数多く見てきましたが、ひとつ言えるのは「負の連鎖」が強く作用している、ということ。

 たとえば、「1歳の子のミルクだけでももらえませんか?」とメールをくれたみどりさん(仮名)のケース。
 ミルクと紙オムツ、2、3日分の食料を買ってすぐに行ってみると、小学6年から1歳まで5人の子どもを持つ42歳のシングルマザーでした。

 5人の子どもたちは小学校にも保育園にも行けていない。電気はもちろん水道も止められているので、子どもがペットボトルを持って公園まで水を汲みにいくような生活状態でした。
 生活保護という制度があることは知っているけれど、内職でいくばくかのお金をもらっている自分は受けることはできないと思っている。
 そもそも相談する人がおらず、どこにどう申請するのかもご存知ありませんでした。

 何度かミルクや食料を持っていき、少しずつ関係を築いていきました。
 話を聞いていると、みどりさん自身も母子家庭で育ち、制服も体操服も買ってもらえず中学校は1回も行っていなかったということがわかりました。
 5人の子どもたちが将来どうなるかはわかりませんが、義務教育すら受けていない今のままの状態では、負の連鎖から抜け出すのがとても難しいということは想像がつきます。

ごはんづくりや片づけは子どもたちも手伝う。

「大人なんか信用せえへん」と言った小学2年生。

 負の連鎖を感じるのと同時に、もうひとつわかってきたことがありました。
 子どもの頃に幸せな家庭にいたり、周囲の誰かから親切にされたりという「あたたかい経験」をしている人は、人と支えあいながら生きていくことができる、ということです。

 遠足のとき、友だちのお母さんが弁当をつくってくれた。寒い夜におばあちゃんが足を太ももにはさんで暖めてくれた。
 そういった経験がきっかけになって、社会や人を信じて頼って生きていくことができるようになった。そう話してくれたシングルマザーが何人もいました。
 SOSの声を上げることができれば、心ある人が気づいて、少なからず生活はよくなっていくはずです。

 負の連鎖をすぐに断ち切ることは難しい。でも、子どもに「あたたかい経験」をしてもらうことで、負の連鎖を止めるためのタネをまくことはできるかもしれない――そう考えて、たつみファクトリーではごはんを食べるだけでなく、子どもたちにあたたかさを伝え、「やってみたい」と思ったことはできるだけ叶えてあげるようにしています。

 遊んだり、勉強したりするだけでなく、スイーツをつくったり、映画を観たり、畑を借りて野菜をつくったり、長期の休みには泊りがけで海や山へ行くこともあります。
 楽しい面白いと思えば、子どもはまた来てくれます。ボランティアでお越しくださる心ある方々と一緒の時間を過ごして、「世の中捨てたもんじゃない」ということを感じてもらえるように努力しています。

たつみファクトリーにある本棚やボルダリング用の壁。プロジェクターもあるので大画面での映画上映もできる。

 今、小学4年生のまさる君(仮名)は、2年前にお母さんとDVから逃げてきました。
 お母さんには非正規の仕事しか見つかりませんでした。離婚が成立していないので児童扶養手当は出ないし、シングルマザーを対象にしたNPOのサポートも受けることができません。収入は多くて月12万円のワーキングプアです。
 わたしたちがごはんをつくってお母さんの休みの日に届けると、夕方でも「寝てました」と出てくるお母さんは見るからに疲れきっていました。
 平日帰ってくると疲れ果ててごはんをつくらず寝てしまうこともあると聞き、いつもひとり暗い部屋でニンテンドー3DSをしていたまさる君をごはん会に誘いました。

 初めてごはん会に来たときは、「何年生なん?」と聞かれても「なんで言わなあかんの」「なんもしゃべらんし」「大人なんか信用せえへんし」と言って、まさる君はだれとも遊ぼうとしませんでした。小学2年生の言葉とは思えず、軽いショックを受けたことを憶えています。
 その後も、ごはん会に来てくれるのですが、「何も聞くなや」というオーラを出して、なかなかほかの子となじむことがありませんでした。

 半年ほどして、まさる君がまた「大人は信用してへん」ということを口にしたとき、わたしが言ったんです。
「あなたの知ってるほかの大人はそうかもしれんな。でも、ここの人はまだマシとちがうかな?」
 そうしたら、まさる君はハッとした顔をして「そやな、マシやな」ってつぶやいた。涙が出そうなくらいうれしかった。「ここからや」って思いました。
 それからはすごく態度が変わってきたんですよ。今ではわたしや他のスタッフの話をじっと聞いてくれたりする。大人だったらそんな素直に変わることはできないでしょう。子どもってほんとすごいです。

 でも、子どもがどれだけここを気に入ってくれても、親の再婚や引っ越しといった事情で突然来られなくなってしまうかもしれない。だから毎回のごはん会が一期一会だと思って接しています。
「何かあったら連絡しいや」「いい人も必ずおるから、いろんな人を頼って生きていったらいいんやで」ということを、ことあるごとに言い続けています。

この活動に、300万円をカンパしました。

食材費 150万円
家賃 150万円

※食事は1食300円ほどの経費がかかる。そのほかにも、サマースクールなどのイベント、宅食や子どもの送迎の車両、燃料費などが必要となる。

活動を応援したい方は、
ぜひ下記へご支援をお寄せください。

認定NPO法人「CPAO(しーぱお)」

所在地 〒544-0004 大阪府大阪市生野区巽北1-4-3
メール info@cpao0524.org
支援金受付 三菱UFJ銀行 生野支店
普通0135871
口座名義NPO法人CPAO