子どもたちは親のお金の苦労をよく知っています。受験で友だちと同じように模試を受けたくても、塾に行きたくても言えない。部活に入りたくても言えない。最初から諦めてしまいがちな子どもたちが、学ぶことで自信をつけて貧困の連鎖から抜け出す力を持つために、学習支援は、いま、子どもたちに欠かせない支援です。
大阪北部地震で被災した
ひとり親家庭の子どもたちを支える。
NPO法人あっとすくーる/大阪府高槻市
今年(2018年)の6月18日に発生した大阪北部地震。震源地は高槻市と茨木市にまたがる地点で、最大震度は6弱を観測しました。
この地震の影響で5人が犠牲となり、300人以上が負傷。全壊や一部損壊などの住宅被害も大阪府などの4府県で7000棟近くにのぼりました。
この地震の影響で、学習の支援が断ち切られそうになった子どもたちがいました。
高槻市で、NPO法人「あっとすくーる」が運営し、ひとり親家庭の子どもたちを支援する「渡塾」が入っているビルが被害を受けたのです。
教室の柱や天井などの構造部が損傷し、ビルの継続使用が不可能となり、退去を余儀なくされてしまいました。
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再開の見通しは立たず、子どもたちが通う学校も休校になりました。代表の渡剛さんは、塾生の子どもたちの声を耳にしたときのことを話してくださいました。
「地震直後にうちのスタッフが、子どもたちに地震後の家の様子を聞いてみると、もともと家にいるのがつらいと感じている子がけっこういたんです。
ひとり親家庭の子の中には、生活環境が整っていない状況で暮らしていたり、長時間労働などで忙殺されている親と折り合いが悪かったりする場合もあって、そうなると家での居心地が良くないと感じてしまう。
だからといってこれまでのように外へ出かけようと思っても、また地震が起きるかもしれないので怖いと。さらに学校も休校だと、居場所がなくなってしまいます。
僕たち渡塾は、本来そういった学校や家に居場所がない子どもたちに寄りそう塾だったはずだと思い、再開のためにすぐ動き始めました」
塾を高槻市内の別の場所に移転し、教室に改装するためには、およそ1千万円の資金が必要でした。渡さんを始めとするスタッフは、クラウドファンディングで資金を募ることを決心します。
「大阪のあっとすくーるが大変なことになっている」という情報は広く拡散され、この資金をもとに新しい高槻校が完成したのは、9月26日。地震からちょうど100日後のことでした。
「早く再開できて良かったねという声も聞きましたけど、僕としては、地震の被害を受けた子どもたちを100日も待たせてしまって申しわけないという気持ちで一杯でした。
再開するまでは、市内の飲食店の一角をオーナーさんのご厚意でお借りして塾を運営していたんですが、やはり子どもたちと1対1で話をする空間をつくるのは難しかった。もともといろいろな悩みや不安を聞いてもらいたいと思っている子に対しては、不十分な関わりしかできませんでしたから。
僕たちが目指しているのは、先生と生徒がリラックスしながら、どんなことでも話せる空間です。家庭でもなく、学校でもない“第三の居場所”として、子どもたちが安心して通うことができる空間でありたいと思っています」
ひとり親家庭の子どもを支えたい。
この塾を設立したのは、ご自身がひとり親家庭に育ったことが理由だと渡さんはおっしゃいます。
「僕自身、一時は経済的な理由で、大学に進学することを諦めざるを得ない状況でした。
さいわいというと語弊があるのですが、父親にあたる人が亡くなり、いくばくかの遺産が入ったことで、無事に進学することができたんです。
小さい頃から教師になるのが夢でしたが、大学の授業で子どもの貧困を扱った授業があり、そのとき自分以外にも、ひとり親家庭ですごく苦しい思いをしている人がいることを知りました。
どうして立場が厳しいひとり親家庭の子どもたちを支える仕組みがないのだろうと、疑問に思い、大学在学中の2010年にこの『渡塾』を開設しました」
厚生労働省が2016年におこなった「全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯数は123.2万世帯、父子世帯数は18.7万世帯。
これらの世帯の年間収入(同調査による2015年の年間収入)をみると、母親または父親自身の収入は、母子世帯で243万円、父子世帯で420万円という数字が出ており、とりわけ母子世帯の収入の低さが目立ちます。
経済的な厳しさのなか、ひとり親のもとで育つ子どもたちの学習状況も恵まれているとは言えません。
苦しい家計の中から教育費を捻出する厳しさに加え、自宅での学習を見守る大人の不在などがあり、子どもが自律的に勉強するのは難しいものがあります。
そうした現状を少しでも改善しようと活動しているのがこの「渡塾」です。
「ひとり親家庭の親御さんたちは、子どもの教育や進路に悩んでいます。でもお金がないし、自分に余裕もない。
子どもが高校に行きたい、大学に行きたいと言ってもなかなか難しいところがありますから、経済的に支援するために、返還不要の奨学金を支給し、そのお金を受講料に充当する制度を導入しています」
子どもたちが安心できる場所をつくる。
高槻校では、午後6時過ぎぐらいから、塾生の子どもたちがやってきます。
みんな静かに勉強に取り組むというよりは、ときおり笑い声が飛び交う、和気あいあいとした授業風景が印象的です。
子どもたちに話を聞いてみると、みんな口をそろえて、この塾のフレンドリーなところが好きだと話してくれました。
「小学生の頃から、習いごとや塾に行きたいと思っていたけれど、親に話すと、その都度流されていました。
今思うと、お金がなかったからかなと思います。行けないと言われたら諦めるしかなかった。
でも、中1からこの塾に通うことができて、高校に行けるぐらい成績も上がりました。
それまでは大人とはどこか距離がある感じでしたけど、この塾の先生は年も近いし、リラックスして話せるのがいいと思います」(横田怜奈さん 仮名・17歳)
「僕はみんなの前で発言するようなタイプじゃないので、この塾に来て良かったと思います。
この塾の先生は、自分のことをわかってくれた上で教えてもらえるので、成績もちょっと上がりました」(山川亮平くん 仮名・13歳)
「この塾は1対1で教えてもらえるのがいいと思います。それまで大人の前だと緊張してしまいうまく話せませんでした。
でも、この塾ではいろんな大人と自由に話せるので、いつのまにか学校の先生とも普通に話せるようになりました。
私自身、明るくなれたと思います。学校のことや家庭のことなど、話しにくいことでも、ここの先生はいっぱい聞いてくれるから楽しいです」(本谷穗香さん 仮名・14歳)
現在、渡さんはこの高槻市と箕面市の2ヵ所で塾を運営していますが、ご自身は塾を他の地域に広げようという気持ちは今のところはないとおっしゃいます。
「まずは地域に根付くことが最優先だと思っています。この高槻でも、もっと地域の方々と繋がることで、僕らの取り組みを応援していただき、それがひとり親家庭の子どもたちの支援になることを理解していただきたいと思っています。
ですから、この塾のようなものを自分たちで増やしていくというよりは、僕たちの活動に共感してくれる人に、ノウハウという立派なものではないのですが、自分たちのやり方を伝えたり、立ち上げるためのサポートをしていけたらいいなと思っています。
スーパースターみたいな人が社会をがらりと変えるのではなく、一人一人が地道にやっていかないと、子どもたちが日々安心して過ごしてもらうことはできないと思いますから」
この活動に、330万円をカンパしました。
●新教室への移設費……300万円
●団体の運営費(10%)……30万円
活動を応援したい方は、
ぜひ下記へご支援をお寄せください。
一般社団法人 NPO法人あっとすくーる
所在地 | 〒562-0003 大阪府箕面市西小路 2-7-22 MKM友ビル301 |
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電話 | 072-702-0020(箕面)/072-669-7087(高槻) |
メール | info@atto-school.com |