子どもたちは親のお金の苦労をよく知っています。受験で友だちと同じように模試を受けたくても、塾に行きたくても言えない。部活に入りたくても言えない。最初から諦めてしまいがちな子どもたちが、学ぶことで自信をつけて貧困の連鎖から抜け出す力を持つために、学習支援は、いま、子どもたちに欠かせない支援です。
日本に住んでいるのに、
日本語がわからない―。
「言語難民」と呼ばれる子どもをなくしたい。
NPO法人 青少年自立援助センター「YSCグローバル・スクール」/東京都福生市
取材・文=藤田杏奴(通販生活編集部)
日本で働く外国人労働者の増加に伴い、親の仕事の都合で来日する海外出身の子どもも増えています。
日本の公立学校に通う児童、生徒のうち、日本語教育が必要とされる子どもは4万3947人(※1)と過去最多を更新。
このうち1万400人は対応できる教員がいないことなどを理由に、必要な指導を受けていませんでした。
日本語力の不足を理由に公立学校への転入を断られるケースも後を絶たず、日本語教育を必要としながら支援を受けられずにいる子どもの数は実際にはもっと多いとみられます。
こうした「言語難民」と呼べる状態の子どもが生まれる背景には、外国人住民の急激な増加に日本の教育現場が質と量の両面で追いついていない現状があります。
※1 文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成28年度)」
国の対応が遅れる中、日本語を母語としない子どもや若者たちの教育支援にいち早く取り組んできた民間団体の一つ、YSCグローバル・スクールを訪ねました。
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日本語を母語としない子どもたちが安心して学べる場を。
「写真を撮ってもらうには、何と言いますか?」
「しゃしんを、しゃしんを……とって、ください?」
「よくできました! じゃあ、カバンを持ってもらうには?」
「かばんをもってください!」
11月中旬のこの日は中学1年から23歳までの6人が日本語の初心者クラスに参加していました。
どの生徒も来日したばかりで、出身国は中国やフィリピンなどさまざま。
スクールで日本語力をつけたうえで地元の中学校に転入したり、仕事に就いたりすることを目指しています。
スクールは東京都心から西へ電車で約1時間、米軍横田基地の所在地としても知られる福生市の住宅地にあります。
市内を拠点に日本の若者の自立支援を長年続けてきたNPO法人「青少年自立援助センター」が定住外国人の増加を受けて「日本語を母国語としない子どもや若者が安心して学べる場をつくろう」と2010年度に開設しました。
これまで10代を中心に、6歳から30代までの650人以上を受け入れました。
出身国は中国やフィリピン、ネパールといったアジアを中心に南米、アフリカなどの32ヵ国。
親が先に来日して職を探している間、子どもたちは出身国の親戚に預けられ、数年後に親の生活基盤が整った段階で日本に呼び寄せられるケースがほとんどだといいます。
「日本語力不足」を理由に公立学校への編入を断られるケースも。
来日後に地元の公立学校への編入を断られ、途方に暮れてスクールにやってくる子どもも少なくありません。
「日本語がわかるようになったら、また来てください」
スクールによると、東京都内のある自治体では日本語が話せない子どもが公立学校への転入を希望しても受け付けてもらえない事態が何年も続いています。
スクールは18年度、この自治体から〝門前払い〟された4人を受け入れました。
スクール責任者の田中宝紀(いき)さん(39)はこうした対応を「氷山の一角」とみています。
「残念なことですが、外国人の住民が少ない自治体では珍しくない対応です。日本語力が不十分な子どもたちが日本語教育を受けられる機会には地域格差があります。
適切な日本語教育を受けなければ周囲とうまくコミュニケーションができないし、社会の中で居場所を見つけることも難しい。その結果、社会からドロップアウトして貧困に陥ってしまうケースをいくつも見てきました」
日本語能力の不足などを理由に公立学校への転入を断られ、スクールにやってきた子どもはこれまで20人に上ります。
「今は日本語の力がないまま来日した子どもの教育が地域と学校へ丸投げされてしまっています。本来は国が一貫した日本語教育の仕組みを整えるべきです。
子どもたちが成長して社会に参加し、活躍できる可能性を閉ざさないでほしいのです」
日本語の初心者が日常会話をこなせるようになるには1~2年、日本語で行なわれる授業が理解できる力を身に着けるには5~7年かかると言われます。
スクールでは日本語教師の資格を持つ専門家が授業を受け持ち、半年から1年の短期集中カリキュラムで通常の学校の授業に参加できる力を養うことを目指しています。
スクールの受講料は年平均20万円。保護者からの月謝で原則賄われていますが、家庭の経済状況に応じて授業料を免除する「奨学金制度」も設けています。
スクール利用者の約3割がひとり親や困窮している家庭の子どもたちで、「年々支援を必要とする子どもが増加傾向にある」(田中さん)といいます。
公立高校では日本語教育が必要な生徒の1割弱が中退。
日本語初心者の教育に加えてスクールが力を入れているのが、高校進学を目指す10代の支援です。
日本語を母語としない子どもたちが日本社会で成長し、自立するには高校を卒業することがスタートラインになるためです。
フィリピンから1年前に来日したレイヤンさん(15)も来春の高校受験に向けて猛勉強中の1人です。
「理科も英語もタガログ語じゃなくて日本語で勉強しないといけないから大変です。でも、新しいことを学ぶのは楽しい」
レイヤンさんの言葉にうなずきながら、ネパール出身のクラスメイト、ビナヤさん(16)はぽつりと漏らしました。
「ここに来てなかったら日本語ができないし、友達もいないと思う」
レイヤンさんもビナヤさんも出身国で日本の小中学校に当たる義務教育を終えて来日しました。
高校進学を希望していますが、今暮らす地域の公立中では自分の日本語力に合った指導を受けることが難しく、スクールに通っています。
2人が参加する高校進学コースの授業は、滋賀県や山口県など遠隔地の子どももオンラインで受講しています。
地元には高校受験に必要な指導をしてくれる公立学校も、民間団体もないためです。
スクールでは日本語指導や受験対策に加え、出願のサポートまで幅広い支援を提供しています。これまで約250人が高校を受験し、合格率は100%を誇ります。
ただ、田中さんによると、スクールを経て高校に合格した生徒の中退率は7%(16~17年度)。
多くの高校では日本語教育の態勢が小中学校よりもさらに手薄とされています。
「せっかく合格しても授業についていけなかったり、いじめに遭ったりして不登校になってしまう子もいます。入学後に子どもたちが直面する『言葉の壁』へのサポートがまだまだ足りません」
田中さんの言葉を裏付けるデータは他にもあります。文部科学省の調査で「日本語が十分にできず、日本語教育が必要」とされる公立高校生のうち、9.61%が17年度に中退していたことが明らかになりました。
全国の公立高校生の中退率1.27%(16年度)と比べるとその差は歴然としています。
「労働力不足」を理由に政府は来春から外国人労働者の受け入れ拡大に踏み切ろうとしています。
海外出身の子どもたちへの教育支援が整わないままの制度変更に、田中さんは危機感を募らせています。
「日本にやってくるのは『労働力』ではなく『人』です。外国人を受け入れた後にどう社会に包摂していくか、教育支援を含めた態勢整備なしには、結局子どもたちへしわ寄せが行きかねません」
この活動に、330万円をカンパしました。
●子どもたちへの奨学金……200万円
●オンライン授業の運営費……100万円
●団体の運営費……30万円
活動を応援したい方は、
ぜひ下記へご支援をお寄せください。
一般社団法人 NPO法人 青少年自立援助センター
「YSCグローバル・スクール」
所在地 | 〒197-0023 東京都福生市志茂183-2-B1 |
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電話 | 042-552-7400 |
メール | info@kodomo-nihongo.com |