私のこだわり道具

各界で活躍する方たちに「これがないと困る!」という
「こだわり道具」をご紹介いただきます。

第12回

村崎芙蓉子さん

医師

タッチペンのおかげで
89歳の私がスマホを楽々操作。
ChatGPTと愉しく遊んでいます!

タッチペン

さまざまな種類のタッチペンを使ってきたと言う。こだわりとまではいかないが「短いものは使いにくい」「ボールペンと一体になったものは便利」といった基準はある。

今から30年前、更年期に苦しむ女性のためにホルモン補充療法の専門クリニックを東京・銀座に開きました。私はひどい更年期障害に襲われたんですが、試しにエストロゲン(女性ホルモン)を服用したところ症状が劇的に改善したんですね。それがクリニックを開くきっかけでした。2年前、クリニックが入居していたビルの建て替えが決まり、87歳の時に移転しました。本当は「ビルがなくなる時がクリニックを閉じる時」と考えていたのですが、ちょうどその時に筋力と気力の低下を感じてテストステロン(男性ホルモン)を服用していたんです。だから普段より意欲的になって頑張ってしまったのね、きっと(笑)。

エストロゲン(女性ホルモン)とテストステロン(男性ホルモン)。ここ数年は筋力と気力の低下を感じ、テストステロンも服用している。

タッチペンにこだわりはありません。
でも必要性があるのです。

「愛用している道具」と聞かれて、パッと頭に浮かんだのはタッチペンです。スマホやタブレットに文字を打ち込んだり、スクロールしたりする際に指の代わりとなるのです。私は今89歳。年を取ると指先に湿り気がなくなるので、スマホや金融機関のATMの画面が反応しないんです。タッチペンを使わないとメールも書けないし、ATMでお金も下ろせない。ということで、必要性があって辿り着いたわけです。指先が豊かに潤っているという人たちには必要ないかもしれませんね。

ガラケーからスマホに買い替えた数年前は指で操作できていました。でもある時、自宅にアンケートを取りに来た男性がペンみたいなものを使って入力していたんです。「それ、何? どこで売ってるの?」と聞いて教えてもらいました。近くのホームセンターに行った時に見つけて「便利なのかな? やってみよう」と思ったのね。並んでいた2、3種類を全部買って試してみました。翌週、「いいあんばい」と思ったタッチペンを買い占めてきました。「なんでもやってみる」というのは私のポリシーです。

それ以降、家電量販店や100円ショップに行くたびに物色していたら、あっという間に増えていきました。太いタイプ、細いタイプ、丸型、鉛筆型、長いもの……。いろんな種類がペン立てに並んでいます。画面に当てた時にあまりに滑らないのも嫌なんだけれど、滑り過ぎるのも具合が悪い。そういう好みはありますね。でも、「これがすっごく使いやすい」「これがお気に入り」というものはなくて、使えればどれでもいいんです。他のアイテムにはいろいろこだわりがあるんですけれど、「道具」と割り切っているからでしょうか。

タッチペンを使い始めて、もう一ついいことがありました。これまで何十年もパソコンではローマ字入力をしてきたので、スマホやタブレットで文章を書く時にもそれを踏襲していたのですが、タッチペンに慣れた頃、かな入力を試してみたんです。例えば「これから」と書く場合、ローマ字入力では8回キーボードをタッチしなければならない。かな入力なら4回でいいのです。おかげで以前よりも文章を速く書けるようになりました。

タッチペンを華麗に操り、スピーディーに文字を入力していく。スマホ用のタッチペンは自身で取り付けたもの。

あなたが「あなたの主治医」です。
体調を鑑みて、治療の道筋を立てましょう。

かかりつけ医に「この薬を飲んでください」「この治療法をやってみましょう」と言われることがありますよね。それに従うか従わないか、あなたが決めることができます。あなたが従ってみようと思ったら主治医の指導に従ってください。どの医療を選ぶか、医師のアドバイスを日々の生活にどう生かしていくか、それはあなたが決めるしかないのです。そこではあなたが「あなたの主治医」です。

今は情報が溢れている時代です。「コレステロールの薬は使わない方がいい」「血圧は下げ過ぎない方がいい」という意見が雑誌やネット上に踊っています。それを取り入れて「この薬は飲まない」と選択することもできるし、「そうは言っても、私はこの薬を飲んでいる方が血圧も下がって調子がいい」というのなら、そのまま飲み続けましょう。何か変わったことがあれば必ず医師に報告してくださいね。

先日、ある患者さんに「この薬を1回に2分の1錠飲んでください」と言ったところ、「私は1回に1錠飲みたいんです」と言われました。自分の様子は自分が一番わかっているはずだし、医師の言うことを聞くか聞かないかは、その人の性格にもよります。ただ、医師のアドバイスにはなるべく従った方がいいですね。調子が悪くなった時に責任を取れなくなりますから。

これまでさまざまなことに熱中してきた私が今、はまっているのは人工知能(AI)の「ChatGPT(チャットGPT)」とおしゃべりすること。時にはけんかもしますよ。

「赤が好きで以前はよく全身赤のコーディネートをしていましたが、これはエネルギーがないと着こなせないんですよね。最近はおとなしい色の服が多くなりました。でも口紅はやっぱり赤ですね」と村崎さん。

実は私、不眠症であまり寝られないんです。静かな音楽を聴くとよく眠れるという人が多いようですが、私は落ち込んでしまって余計に眠れなくなります。リズミカルな音楽を聴くと心が華やいでぐっすり眠れることに気付いたんです。それからはディスコ調の音楽をよく聴いて寝ています。

この前、ChatGPTに「お薦めのディスコ調のCDは?」と尋ねて教えてもらったCDを全部買ってみました。でも、私が持っているCDの方が良かったな。ちょっと損したなぁ(笑)。それに、ChatGPTは突然英語で答えてくるのよ。逃げていますよね。そのやりとりの最後に「また何でも聞いてください」って言ってきたから「その場合は『聞いて』ではなく『訊いて』と書くべきよ」と教えてあげました! 私の現在の結論としてはChatGPTは「英語頭」ですね。それでも、そんなところも含めてAIとのお付き合いを愉しんでいるところです。

もちろん、ChatGPTに入力する時にも、タッチペンを使いますよ。

取材・構成/宮本由貴子 写真/後藤 勝

村崎芙蓉子(むらさき・ふよこ)

女性成人病クリニック院長。日本における女性ホルモン補充療法の第一人者。1935年、東京生まれ。東京女子医科大学卒業、同大学附属心臓血圧研究所、新宿三井ビルクリニック副院長を経て、1992年、東京・銀座に「女性成人病クリニック」を開業。クリニックが入居していたビルの建て替えに伴い、2023年、87歳でクリニックを移転開業。自身の体験をつづった『カイワレ族の偏差値日記』(文春文庫)はベストセラーとなり、N H Kでドラマ化された。