私のこだわり道具

各界で活躍する方たちに「これがないと困る!」という
「こだわり道具」をご紹介いただきます。

第11回

羽田美智子さん

俳優

毎朝、掃除をした後に
ティンシャを鳴らして場を清める。
毎日を機嫌よく過ごすための大切な日課です。

ティンシャ

ティンシャは手のひらに乗るくらいのサイズで、それほど大きくはないが金属製でずしっと重い。2つの円盤状の物の端と端をコツンと響かせて音を出す。

(窓の外を見て)あ! 今、アゲハチョウが窓の外に来て、2羽で仲良く飛んでいます。こういうことって微笑ましくて、幸せな気持ちになりますよね。私、自然と対話するのが好きなんです。朝起きたら、まず窓を開けて自然に挨拶します。「風さん、おはよう」って声をかけると、風が喜んでくれているような気がするんです。雨の日は「大地にお水をくれているんだな」と思って雨に感謝します。

次の日課はラジオ体操と、床やテーブル、洗面所、トイレ、キッチンのお掃除です。お部屋がきれいになった頃にお香をたいて観音教を唱えます。観音菩薩さまに願いを込めてお願いすると、それを聞き入れて苦しみから救ってくださるという話を聞いて、ある時からたくさんのスタッフさんの名前も読み上げるようになりました。「今日も一日、みんなが無事でありますように」と健康と幸福を願っています。身近な人が苦しんでいたら、本当の幸せとは言えないと思うんです。周りの人たちと一緒に幸せになりたいんです。

そして、事件や事故、災害が起きませんように。せめて「大難」が「小難」になりますようにとお願いしています。数年前、故郷が水害の被害を受けてから、災害のニュースに敏感になりました。日本中の人が幸せでいてほしい、心からそう願っています。

そんな朝のルーティンの締めくくりに「ティンシャ」を鳴らします。音を説明するのはとても難しいのですが「ティーン」という感じ。本当にきれいな音色で、この世のものと思えない澄んだ音色です。天使の歌声と言ったらいいかしら。パリ五輪の開会式で歌ったセリーヌ・ディオンさんみたいに透明感があって清らかで優しい音。この音が響くとその場がクリアになって、心が洗われるような気がします。ほら、観音様も「音を観る」って書きますよね。それくらい音って大切なものだと思うんです。

今、賃貸住宅に住んでいるんですけれど、数年前、大家さんに部屋をお見せしなければならないことがあって、ちょっとドキドキしていたんです。でも大家さんは部屋に入った瞬間、「この部屋、空気が違う。とても清らかですね」って言ってくださって。日頃のティンシャのおかげかなと思いました。

心がざわざわする時や集中したい時も
ティンシャの出番。

部屋の掃除を終えた後、アロマキャンドルをたいて、ティンシャを鳴らす。羽田さんは週に一度は家じゅうの床の拭き掃除をしている。「拭き終えた後は、部屋の空気がよりクリアになる気がします。いい運動にもなるので一石二鳥です」と羽田さん。

私とティンシャとの出合いはかなり前のことで、あるエステサロンで施術が終わった時にエステティシャンの方が「チーン」って鳴らしてくれたんです。その音色がとてもすてきだったので「それは何ですか?」って聞いたら、「チベットの仏教で使う道具で、魔除けになるとか、空気を浄化するとか言われています」と教えてくれて。それからずっと気になっていました。

チベットに行くことになった時に「ティンシャを絶対、手に入れよう」と意気込んで。周りの人も欲しがっていたから5、6個買ってきたんです。ものすごく重くてね。苦労して買ってきたのに、家に帰って落ち着いて鳴らしてみたら、音があまり好みではなかった。そしてまた「いい音がするティンシャが欲しいな」って数年思っていました。そうしたら、なんとファンの方がプレゼントしてくださったんです。4年くらい前のことです。私のために何十も聴き比べてくれて「これが一番、美智子さんに合うと思って」って。わくわくしながら鳴らしてみたら最高の音でした。「うわーっ、きれい―! なんてすてきなの」って心が震えました。

私は朝以外にも、心がざわざわする時はティンシャを鳴らして、その余韻の中、胸に手を当てて目をつむり自分の心に「今、私は何が引っかかっているんだっけ」「どれがベストかな」「この方法でうまくいくかな」と聞くことがあります。皆さんも、もし「今ちょっと停滞ぎみかな」と思っている方がいらしたら、やってみてほしいです。ティンシャの音は煮詰まった空気に振動を与え、閉塞していたものを開く力があるような気がするんです。

舞台のお仕事で1ヵ月間、日本中を巡ったことがありました。荷物をコンパクトにしないといけなくて。ティンシャは重いし、万が一なくしてしまったら嫌だったので、持って行かなかったんです。でも、たったひと月という短い期間でも「ティンシャを持ってくればよかった」という日が2日くらいありました。毎日本番があるという緊張感と移動の疲れ、そして外食続きのせいで胃腸も弱ってしまって。私の生活に欠かせない物になっていると感じました。

茨城と東京の2拠点生活をスタート。
新たな幸せにたくさん出合えそう!

実は今年の初め、茨城で暮す母と兄が同じタイミングで骨折して入院してしまいました。おかげさまで今は落ち着いたのですが、それをきっかけに将来を見据えて茨城と東京の2拠点暮しを始めました。移動のタイミングや、荷物の分散など、まだ慣れないことが多くて試行錯誤しているところですが、少しずつ軌道に載せていきたいと思います。

私、自分で言うのは気恥ずかしいのですが、小さな幸せを見つけることが得意なんです。だから、この2拠点暮しできっとまた新しい幸せをたくさん見つけて、それを皆さんへお届けできる時が来ると思っています。

ご実家を建て替えることになり、断捨離を敢行したそう。「江戸時代や明治時代の物がたくさん出てきましたが、価値がある物なのかないのか分からないので、えいや、で処分しました。これからは身軽な暮しを目指します」。

取材・構成/宮本由貴子 写真/提供

羽田美智子(はだ・みちこ)

俳優。1968年、茨城県生まれ。1994年に公開された映画『RAMPO』でヒロイン役に抜擢され、「日本アカデミー賞」の新人俳優賞を受賞。以降、多数の映画やテレビドラマに出演。主な出演作に『特捜9』シリーズ(テレビ朝日系)、『おかしな刑事』シリーズ(テレビ朝日系)、連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)、『花嫁のれん』シリーズ(フジテレビ系)などがある。自身が「本当にイイ!」と思ったものだけを紹介・販売するネット上のセレクトショップ『羽田甚商店』の店主も務めている。