
与えられたお題を記憶だけを頼りに描く・・・
それが「記憶スケッチ」。通販生活で95年から02年まで連載していた大人気投稿企画の再録です。さぁ、百聞は一見にしかず。理事長・ナンシー関さんの愛ある選評をご堪能ください。

ナンシー関
消しゴム版画家、コラムニスト。1962年、青森市生まれ。84年、消しゴム版画家としてデビュー。コラム執筆でも才能を発揮し、雑誌連載や著書も多数。02年6月12日逝去。享年39。
今回のお題 「にわとり」

宮内正次(49歳)
- ナンシー関
- 何ともはや、とほほとしか言えません。どこを取ってもニワトリ感のかけらもなしです。上目遣いでベロなんか出してみても小憎たらしいだけ。

土田亜希子(24歳・会社員)
- ナンシー関
- バタバタと大股で走り回り、はなはだしく落ち着きがありません。いつも自分で生んだ卵を踏み潰します。

青木サト子(61歳・自営手伝い)
- ナンシー関
- シメられちゃってますね。首をキュウッと。目はくりっとしてるんじゃなく、瞳孔が開いているのですね。

左上:河村秀明(47歳・会社員)
右上:寺田 裕(50歳・会社員)
左下:磯貝葉子(31歳・主婦)
右下:葉梨雪枝(45歳・主婦)
- ナンシー関
- 「ニワトリの足を4本描く」は記憶のデタラメさを言い表す慣用句のような言葉です。そうは言うけどまさかと思いきや、なんと応募作品全体の約2割が4本足でした。この驚くべき数字を日本政府はどう受け止めるのでしょうか。報告はしませんが。河村さんや寺田さんの作品はもはや空想上の生き物でしょう。おそらく空は飛びます。片や葉梨さんのリアルな描写力による4本足。記憶と画力のせめぎ合いが、えも言われぬタチの悪さを生んでいます。

ジェイムス・メトカフ(39歳・元高校教師)
- ナンシー関
- かと思えば1本足です。前のめりに耐えています。また、羽根のちっちゃいこと。何もかもギリギリ。見ていると汗ばんでくる作品です。

片山元祉(55歳・会社員)
- ナンシー関
- 足と並んで「くちばし」にもまた問題山積です。これでは鼻です。握ると毛穴から脂が出てくるでしょう。

三阪宇一(59歳・無職)
- ナンシー関
- 4本だろうが1本だろうが自分のニワトリの足の数が決まっているだけいいのかもしれません。2本、3本、4本、7本。何本だ。足って何だ。2、3、4、ときたらせめて次は5本にしてくれや。

南 隆彦(36歳・会社員)
- ナンシー関
- しまいには立ち上がりやがったか。足が2本に腕2本。鳥感ゼロ。丸眼鏡を描き込んでみましょう。ニワトリというにはあまりにも鶴瓶。

渡部清助(46歳・公務員)
- ナンシー関
- ならば2本足ならいいのか。足が2本であっても何の気休めにもなりゃしない。何を信じればいいのですか。

石原秀一(33歳・会社員)
- ナンシー関
- あげくの果て足無しです。足を畳んで座っているとするなら、それはそれで何でそんなニワトリを描くのかと責めたいです。

寺田久美子(57歳・主婦)
- ナンシー関
- 足は2本ですが、この生え方だと真正面から見ると1本にしか見えません。あとスジが多くて不味そう。

樫原加代子(64歳・主婦)
- ナンシー関
- ホステスさんなどの高く膨らませた前髪を「トサカ」と言いますが、このニワトリは完全にホステス。よく見ると美人です。

西本道治(49歳・自営業)
- ナンシー関
- お父さん、載ってしまいましたよ。眉毛はいけませんねお父さん。顔、チューリップですか。お父さんが悪いんじゃない、お酒が悪いんですよね。

橋本千恵子(74歳・主婦)
- ナンシー関
- 足の数も2本と見ていいのか4本なのか、しかしそんなことはどうでもいい。これは哺乳類です。全くもって鳥類ではありません。

松下美千恵(70歳・無職)
- ナンシー関
- どうしてもこのニワトリは後ろにしか進めないような気がしてなりません。斬新な足の生え方です。
今回のお題 「にわとり」の総評

久々に「デタラメ」を堪能させてもらいました。予想をはるかに上回る4本足のニワトリの大群。口とは別のところに生えたくちばし。羽根や翼というものに対する無理解。鳥への無関心。ニワトリへの無責任。訳がわかりませんが、それほどショックを受けたということです。記憶という山を征服する日も近いと思っていましたが、まだまだ頂上は見えてすらいなかったようです。日々是精進っす。