
与えられたお題を記憶だけを頼りに描く・・・
それが「記憶スケッチ」。通販生活で95年から02年まで連載していた大人気投稿企画の再録です。さぁ、百聞は一見にしかず。理事長・ナンシー関さんの愛ある選評をご堪能ください。
※投稿者の年齢・職業は初出掲載時のままです。

ナンシー関
消しゴム版画家、コラムニスト。1962年、青森市生まれ。84年、消しゴム版画家としてデビュー。コラム執筆でも才能を発揮し、雑誌連載や著書も多数。02年6月12日逝去。享年39。
今回のお題 「パンダ」

林 宏樹(16歳・高校1年生)
- ナンシー関
- 確かにパンダの最大の特徴は黒く縁取られた目でしょう。目の周りが黒いだけで「パンダうさぎ」などと呼ばれるほどです。しかしこいつは何でしょう。得体が知れないとはこの事です。足は虫かソレ。

菱田由美子(21歳)
- ナンシー関
- 耳、目、腕とここまではなかなかのパンダぶりでした。なのにどうしたことですか、その下半身。ヌーディーというにはあまりに無防備。そしてケツ丸出し。背中をそんなに隠すなら、とりあえずなんかはけ。妙にこっぱずかしいです。

高橋信治(55歳・税理士)
- ナンシー関
- とりあえず、ランランとかホァンホァンなどといった名前ではないことは確かでしょう。頭にある鋭い角度の模様がそり込み、もしくは超つり上がった眉毛に見えるせいでしょうか。赤穂浪士の中にこういう人がいませんでしたっけ。

深川芳江(67歳・主婦)
- ナンシー関
- パンダと言えば白と黒。ここまで紹介した作品に比べれば、バランスなどはかなりうまくいっています。しかし、横分けはどうでしょう。一気に「パンダ感」が激減してしまいました。

高山千春(27歳・会社員)
- ナンシー関
- 汚っ。間違いなく学校に行っている間にお母さんに勝手に捨てられます。私にも経験がありますが「何で捨てたの」という抗議に、母は「腐ってた」と答えました。

安藤洋子(35歳・無職)
- ナンシー関
- せっかく応募していただいたのになんですが、不愉快です。何故か無性に不愉快にさせる作品です。黒毛部分がちぢれているのが原因か。特にうなじに生えたそれ。何のつもりか。いやがらせか。

石原秀一(33歳・会社員)
- ナンシー関
- 泣きました。寂しさというものをここまで描ききった作品がかつてあったでしょうか。間違いなく捨てられてます。そして間違いなく帰り道がわかりません。

宮本エミ(72歳・無職)
- ナンシー関
- この生き物、どこか風格があります。そんなに大きくはありませんが肉食で獰猛ではないでしょうか。あるいは「スターウォーズ」にでも出てきそうな気もします。「エピソード3」あたりに。で、しつこいようですがパンダじゃないです。

石井正次(85歳)
- ナンシー関
- 何故か多かったのが全身水玉模様。パンダと言えば白と黒という事の間違った解釈でしょう。中でもこのパンダは気の毒さ加減において群を抜いています。患ってますね。頑張れ。

D.リュック(38歳)
- ナンシー関
- 初の(欧米)外国人作品です。今までは投稿自体が一通も無かったのに、今回は2通ありました。何故急に? パンダは欧米人心をくすぐるんでしょうか。しかし、どうでしょこのパンダ。フランス人とて恐れるに足りません。

岡 芳久(37歳)
- ナンシー関
- これでは覆面レスラーでしょう。みちのくプロレスに参戦した、自称中国福建省出身のニューフェイスですか。まあ、パンダじゃないことは間違いないのですが、たれ目じゃないと一気に心を許せなくなりますね。

恒松喜久栄(70歳・無職)
- ナンシー関
- パンダが「生きたぬいぐるみ」と言われるのは、あの丸々とした体つきがあってこそ。このパンダはちょっとギスギスしてます。小骨が多そう。食べちゃいけませんが。

鈴木喜美子(66歳)&鈴木貞治(65歳)
- ナンシー関
- ご夫婦の作品です。確かにお2人の記憶の中の「パンダ」は同じもののようです。しかし、夫・貞治さんのパンダは何事にも動じない「静」の構え、片や妻・喜美子さんのは「動」。右足が一歩踏み出しています。頑固な夫とよく気がつく妻。一つ上の女房は金のわらじをはいてでも、ってやつですかね。でも、言っておきますが揃いも揃ってパンダではないです。

牧山龍二(59歳・会社員)
- ナンシー関
- ここまで来て言いたくはありませんが、本当にパンダじゃありません。目のまわりが白抜きというのは大変珍しい。全くパンダのかけらもありません。笹竹だけです。
今回のお題 「パンダ」の総評

「パンダ」というお題を出すに当たってはちょっとためらいました。生きたぬいぐるみと呼ばれるのは、デフォルメの必要がないくらいはっきりと単純な造形だから。描くにはあまりに簡単すぎて間違いようがないのではないかと思ったからです。でも、それは余計な心配でした。見たことのない生き物が次から次に。「パンダといえば白と黒」というのは「象といえば長い鼻」と同レベルの大原則でしょう。しかし、それすらないがしろにした作品の数々を前に、私のやり場のない憤りはいつしかパンダに向けられていました。「珍獣」なんつって出し惜しみしてる場合か。自分が思ってるほど憶えられてないぞ。もっと前へ前へ出て行こうよ。やる気見せていかないと売れないよ。