与えられたお題を記憶だけを頼りに描く・・・
それが「記憶スケッチ」。通販生活で95年から02年まで連載していた大人気投稿企画の再録です。さぁ、百聞は一見にしかず。理事長・ナンシー関さんの愛ある選評をご堪能ください。
※投稿者の年齢・職業は初出掲載時のままです。
ナンシー関
消しゴム版画家、コラムニスト。1962年、青森市生まれ。84年、消しゴム版画家としてデビュー。コラム執筆でも才能を発揮し、雑誌連載や著書も多数。02年6月12日逝去。享年39。
今回のお題 「自転車」
大川雅意(65歳・無職)
- ナンシー関
- いきなりすごいキャラクター登場です。もう自転車などどうでもいいっす。長嶋監督ばりのヒゲの濃さが自慢でしょう。右手のたまごっちが宝物。瞳はあくまでも澄んでます。
桜井寿美(54歳・会社員)
- ナンシー関
- メルヘンです。ロマンチックです。プードルです。日傘です。ちょうちん袖です。きっとフランスです。自転車はヘンですが、それすらもロマンチックです。足で蹴って進むやつでしょう。
甲原佐和子(40歳・主婦)
- ナンシー関
- 車輪が四角というのはこれ一枚だけでした。力学や動力などということを意識しなくても、自転車といわれればとりあえず丸から描くものです。描けそうで描けません。四角。
宮下志保子(79歳・主婦)
- ナンシー関
- とても涼しげな自転車です。一幅の絵として選んでみました。うちわの模様にどうでしょうか。あんまりよく見てはいけません。自転車としてどうかを考えてしまうので。ぼーっとながめてください。
広瀬由紀子(32歳・主婦)
- ナンシー関
- 冷静になって作品を見つめ直してみるのは大変いいことです。自分であきれる程の間違いに気づいたりします。で、この場合カゴはいいからペダルを描け、と言わざるを得ません。
高本尚典(45歳・会社員)
- ナンシー関
- なんか投げやりです。車輪を2個描いて、あとはもう自暴自棄になりましたね。高本さんも職場や家庭で重い責任を背負い、何もかも放り出したくなることもあるでしょう。でも、そこをひとつ何とか。
矢ヶ崎宏行(39歳・自営業)
- ナンシー関
- これはまた心もとない自転車です。ペダルと後輪がちゃんと連動しているので理屈的には走るわけです。だからこそ余計に心もとない。JISマークはあげられません。
増本和美(50歳・主婦)
- ナンシー関
- 力学というものを無視していますね。確かに前輪と後輪はベルト(チェーン)で連動していますが、何故かひとひねりしてあります。足踏みのミシンに近い気がします。
上月清司(25歳・会社員)
- ナンシー関
- いやあ立派な作品です。城ときたらそりゃ自転車だろう、と思い込ませる説得力すらあります。25歳とは思えません。25歳つったら木村拓哉と同い年です。
鈴田正江(30歳・主婦)
- ナンシー関
- 走る気さらさら無いですね、この自転車。今回、走らない自転車は山のように送られてきましたが、これが一番走りません。全て割りばしで出来ているかもしれません。
谷 由美子(44歳・主婦)
- ナンシー関
- 暗闇に浮かぶ3台の自転車。3台とも何やら旗を立てているし。上段の自転車の上には、目玉らしきものも浮んでいます。何かを示唆している予言的作品でしょうか。何を示唆しているのかは知りませんが。
梅本一美(45歳・主婦)
- ナンシー関
- 三輪車を描いた作品もあったのですが、三輪車はひとつの前輪と2つの後輪が三角形についているもの。一直線に3つの車輪は珍らしい。何となく不条理。キュビズムでしょうか。
松本峰明(43歳・音楽家)
- ナンシー関
- 一見、何てことはない平均点の作品です。が、よく見るとタイヤに毛が生えているのです。びっしりと。あと両ハンドルのブレーキレバーのささやかさ。じっと見るとだんだん不安になってくる作品です。
峰本和子(53歳・主婦)
- ナンシー関
- チェーンも後輪と連動してるし、ハンドルでちゃんと方向転換もできそうです。自転車としては及第点。でも、何やらただ者ではなさそうなこのマドモアゼルのせいで、自転車まで怪しく思えるから不思議です。
石田尚子(11歳・小六)
- ナンシー関
- これは、ビニールでできた空気で膨らませるやつでしょう。ぴょんぴょん跳ねるとぼよんぼよんと弾んで楽しいやつですね。空気を抜くとコンパクトに折たためるので海や山にも持って行けるやつ。通販で買ったやつでしょ。
種市丈美子(16歳・無職)
- ナンシー関
- カゴはとてもよく感じが出ていて上手に描けています。全体のバランスもいい。しかし。ペダルではなくこれは足です。足が生えてることで、全体の「自転車感」が一挙に薄れてしまっています。
今回のお題 「自転車」の総評
自転車というのは日用品でもありますが、最も身近な「メカ」でもあります。メカは、印象だけを頼りにしたのでは描き切れない部分があります。メカですから、つじつまというものを合わせなければなりません。走ってこそ自転車、走らざるは自転車にあらず。そして自転車は何故走るのか。物事の真理とは何なのか。そんなことすら考えさせられるテーマと言えるでしょう。しかし、つじつまは合っていても自転車感が低かったり、逆につじつまなど合っていなくても自転車らしさ抜群だったりと、そこがまた不思議なところです。とは言え、ペダルのない自転車が思いのほか多かったのには脱力です。