
与えられたお題を記憶だけを頼りに描く・・・
それが「記憶スケッチ」。通販生活で95年から02年まで連載していた大人気投稿企画の再録です。さぁ、百聞は一見にしかず。理事長・ナンシー関さんの愛ある選評をご堪能ください。
※投稿者の年齢・職業は初出掲載時のままです。

ナンシー関
消しゴム版画家、コラムニスト。1962年、青森市生まれ。84年、消しゴム版画家としてデビュー。コラム執筆でも才能を発揮し、雑誌連載や著書も多数。02年6月12日逝去。享年39。
今回のお題 「パイナップル」

太田貴文(7歳・小学2年)
- ナンシー関
- ツルンとはしていなかった、何かボコボコしていたはずだ……。と思いあぐねた末のこの始末。塗るなら塗る、塗らないなら塗らない!とケツを蹴り上げたくなるような中途半端さ。害虫にやられて患っていますか。

菊地梨絵子(13歳・中学1年)
- ナンシー関
- てっぺんと右斜め下のソレは、葉っぱとか根っこなんでしょう。でも、どうしても「鼻血ブーッ」が思い浮かんでなりません。谷岡ヤスジチックな作品です。

櫻田マサ(82歳・主婦)
- ナンシー関
- フレッシュという言葉とこれ程遠いパイナップルは見たことありません。獲れたての新鮮なパインを4年ほど軒下に吊るしておきました。すでに漢方薬の域にあります。滋養強壮に効果。

大西まさ子(59歳・主婦)
- ナンシー関
- 食べ物感皆無。かぶりつくと「ジャリッ」と音がしそうなのは使い古したソバガラ枕に見えるからでしょうか。あと、水漏れして使えない氷のうか。

海江田香純(60歳・主婦)
- ナンシー関
- 表面におびただしい数の人の顔がびっしりと浮かんでいますね。非常にオカルティック、そして怖っ。食べるとなるとかなりの覚悟がいります。100%祟られること間違いないからです。

力石清子(60歳・主婦)
- ナンシー関
- とりあえず尋ねておきましょう。誰?と。何か、誰が見ても必ずその人の親戚に似てるおじさんがいるらしい、と言い伝えられている石ってとこでしょうか。

鳥居孝子(76歳)
- ナンシー関
- フルーツは太陽の恵み、神様からの贈り物。なのにこのパイナップルときたら。邪悪ですらあります。カチ割ると中からドロドロとしたものが流れ出ます。

鳥居太一(82歳)
- ナンシー関
- 何かが立ち昇っています。静電気か、それともパイナップル自身の上へ上へという気持ちの表れでしょうか。それより、立ち昇ってるものは何でしょう。

左上:岩﨑祥子(12歳・小学6年)
右上:星野千賀子(35歳・主婦)
右下:安藤洋子(35歳・フリーター)
- ナンシー関
- いろんな模様のパイナップルがありました。確かにあの表皮の模様というのは高難度です。構造的には松ぼっくりのように一片一片が連続して重なっているかんじです。さて、この三作品はその基本構造をきちんと踏まえている数少ないものではありますが、何故かみんな「乳」です。不思議です。何故に乳か。岩﨑作品のういういしさ、星野作品の筋肉質、乳にもいろいろあります。この二つはまだしも、安藤作品はどうでしょう。老乳。しょっぱいです。

高橋恵美子(47歳・会社員)
- ナンシー関
- 皆さんもお気づきかとは思いますが、これは花びんです。横縞模様がパイナップル感の全てを奪いました。更に、支えもなしに垂直に立っている安定感が花びん度をアップさせています。

野島佳枝(18歳・大学生)
- ナンシー関
- こういうふうに表皮の模様を描くのは、それほどはなはだしい間違いではありません。しかし、これは多すぎ。108つ、煩悩と同じ数ありました。ウソです。数えてません。

小林盛雄(54歳・会社員)
- ナンシー関
- 無地ですか。いろんなパイナップルが寄せられましたが、無地というのは極めて珍しい。寒い地方の農産物であることは間違いないでしょう。旬の2月にはグっと甘みも乗ってきます。
今回のお題 「パイナップル」の総評

なかなかの高難度だったようです。実がなっているところを見たことがあるという人はごく少数。丸ごと買ったこともない人が多かったのでは。これは、パイナップルの缶詰めの普及がもたらした弊害かもしれません。輪切り状のものや、缶詰めの缶の絵に逃げた作品の多かったこと。逃げていては何も解決しません。真っ向から行きましょう。そして玉砕してくれることが私・理事長の願いです。