脳研究者・池谷裕二さん(東京大学教授)に
渡辺えりさん(劇作家・俳優)が聞いた
脳と眠りの「それって、ホント?」
睡眠は、ただ身体の疲れをとるためのものと思っていませんか? わが国を代表する脳研究者のお一人、池谷裕二さんがSNS(ツイッター)で紹介している脳科学の最新論文に触れると、その思い込みはガラリと変わります。
脳の老化とも浅からぬ関係があるという話に60代読者の代弁者、われらが渡辺えりさんは、「最近もの忘れはひどいし、眠りは浅いし…」
- 渡辺
- 池谷先生の脳のツイッター、すごくおもしろいです。「睡眠は世のため、人のため」というタイトルで書かれていた論文紹介の一文を読んで、いま世界がどんどん不寛容になっているのは、睡眠不足の人が増えているせいなんじゃないかって思っちゃった。
- 池谷
- (笑)。最近の『プロス生物学』という学術誌に出ていた論文です。オックスフォード大学で行った実験調査で、睡眠不足の人は睡眠を十分にとった人と比べて、他人を助けたいという気持ちが78%も低下したというのです。
人を助けるかどうかの判断は当然ながら脳が行うわけですが、睡眠不足が感情の認識や他人への信頼感を低下させるのではないか、という仮説を彼らは立てています。 - 渡辺
- ナポレオンは3時間しか寝なかったっていうじゃないですか。だからあんな残虐非道な戦争ができたってことかしら。
- 池谷
- 睡眠時間の長さには個性があるので、どれくらい寝ないと睡眠不足かは人によって違うんです。短眠タイプか長眠タイプかは遺伝子による要素が大きくて、人口の5%くらいは短眠タイプではないかと見積もられています。ボナパルト家が短眠家系かどうかはわかりませんが。
- 渡辺
- そもそも私たちが眠っている間、脳の中ではどんなことが起こっているんですか?
- 池谷
- 睡眠は「休息の時間」と考えられがちですが、脳に言わせればまったく逆。大脳皮質の神経細胞はむしろ眠っているほうが活発に活動します。さらにいえば人間はレム睡眠という浅い眠りと、ノンレム睡眠という深い眠りを交互にくり返しているのですが、脳は深いノンレム睡眠のときにもっとも活発に活動しているんですよ。
- 渡辺
- でも、夢を見るのは浅いレム睡眠のときですよね。
- 池谷
- よくご存じですね。
- 渡辺
- フロイトとかユングが流行った頃に芝居を始めたので、夢については随分研究しました。夢日記をつけたりね。最近は悪夢ばっかり。この間、安田講堂事件を題材にした芝居を演ったのですが、「革命は終わってない! まだ理想の世の中にはなっていないじゃないか~っ!」ってうなされて起きたのが今朝。千秋楽から10日も経っているのに。
- 池谷
- 渡辺さんの脳の中では無意識でいまも気になっているということですね。睡眠中、脳は猛スピードで記憶を再生しては保存し直し、定着させています。この「記憶の再生」が夢だと考えられていて、レム睡眠のときに海馬が行っています。かたや記憶の定着は、ノンレム睡眠のときに大脳皮質が行います。つまり睡眠は脳が記憶の整理整頓をしている時間ともいえます。
- 渡辺
- 先生はツイッターで「睡眠は脳の洗浄」とも書かれていましたよね。
- 池谷
- その役割もあります。脳と脳からつづく脊髄には脳脊髄液という液体が循環していて、栄養分を運んだりたまった老廃物を取り除いたりしているのですが、睡眠中はこの脳内液体の循環スピードが3.5倍に高まるというネーダーガード博士らの研究者の報告が『サイエンス』という学術誌に発表されています。とくに、深いノンレム睡眠のときにスピードアップするようです。
- 渡辺
- 私はよく夢を見るから、ノンレム睡眠が少ないってことですよね。脳にゴミが残りやすくなっちゃうとしたらこわいな。
- 池谷
- どんな人もレム睡眠とノンレム睡眠を周期的にくり返していますから大丈夫。睡眠リズムを整える睡眠薬もありますが、眠れていれば薬に頼るほどのことではありません。むしろ将来的には、脳の洗浄を代行してくれる「眠らなくてもいい薬」が開発されるかもしれませんよ。
- 渡辺
- 睡眠の快楽は失うわけですよね? いくら忙しくて時間がなくても、私はイヤだなあ。
どんな動物も睡眠をはく奪されたら死んでしまう。
- 池谷
- 夢をよく見る以外にはいかがですか? 眠れています?
- 渡辺
- 私、いろいろ考えちゃってなかなか寝つけないんです。ウクライナの戦争は終わらないし、ミャンマーやパレスチナの問題もあるし、世の中が少しでもよくなるために芝居をしてきたのに、一体どうすればいいんだ!ってどんどん脳が活性化しちゃって。翌朝が早い日は、マイスリー(睡眠導入剤)を1錠だけ飲んで眠ります。
- 池谷
- ボーッとするのがあまり得意じゃないんですね。布団に入ってからあれやこれや考えるタイプ?
- 渡辺
- そうなんです。しかも悪いことばっかり考えちゃう。どーんと落ち込んじゃうわけです。
- 池谷
- 眠る前に深刻な問題を考えるのはやめた方がいいです。先ほどお話ししたように脳は睡眠中に記憶を定着させますが、とくに眠る直前に見聞きした記憶が定着しやすいんです。私は「記憶のゴールデンアワー」と呼んでいて、あえて就寝前の1~2時間は仕事に充てています。
- 渡辺
- 悪夢を見るのもそのせいなのかも。いま、原稿を書くために寝る直前まで戦時中のドキュメンタリーや動画を見ていることが多いから。
- 池谷
- じつは、私もつい見てしまいます。眠る前に手持ち無沙汰でスマホを見ると、やはり夢に出てくる。イヤなことは印象が強いからとくに出やすいです。
- 渡辺
- 寝る前は志村けんさんとか楽しいやつを見ないとダメですね。そういえば、ジュリーが出てきて一緒にお酒を飲んだりして、幸せな気持ちになった夢もあったな。寝る前にジュリーの動画を見たのかも。
- 池谷
- 頑張ってでも楽しいことを考えながらぐっすり寝た方がいいです。先ほどボーッとするのが苦手とおっしゃっていましたが、日中、目が覚めているときもですか?
- 渡辺
- 生れてこの方ボーッとしたことがないです。ボーッとしている人にいま何考えてたの? って聞くと「何も考えてない」って言うでしょ。何も考えてないなんてあり得るの?!って思うほどボーッとするという感覚がわからない。
- 池谷
- 寝ている間くらいしか考えることから解放されないのであれば、なおのこと睡眠は大事ですね。睡眠にはひらめきをうながす力もあって、脳をクールダウンして休ませることで考えを熟成させる、いわゆる「怠惰思考」の役目もします。
5年ほど前に私たちの研究グループでも発表しましたが、睡眠中には海馬が脳波を出して脳のシナプスのつながりをゆるめ、脳をクールダウンさせることがわかっています。また、夜に寝ないと前日に活性化した脳回路が興奮しっぱなしになって、翌日の学習力が下がるという研究報告もあります。 - 渡辺
- 睡眠不足だと何も考えられなくなりますよね。私、40代の頃に講演会で倒れたことがあります。
- 池谷
- 意識がなくなっちゃった感じですか?
- 渡辺
- 気持ちがわるくなってから倒れて、「すみません、これで帰ります」って。口も回らないし、体も動かなくなっちゃって。
- 池谷
- つらいですね。脳が「これ以上、動いたら命が危ないよ」ってシャットアウトしている状態です。何時間くらい寝ていたんですか?
- 渡辺
- いや、もうほとんど寝ないで3日間完徹みたいな感じです。ダブルブッキングで主演の2時間ドラマの撮影が2本と、舞台の地方公演も重なっちゃったんです。眠れたとしても1〜2時間という日が3ヵ月くらい続いて、体中が痛いし、ちょっとしたことで泣いちゃったり。
- 池谷
- 睡眠不足だと感情的にもなりますね。イライラしたり。
- 渡辺
- 新幹線に乗って秋田にいたかと思ったら金沢にいて、かと思うと京都で、もう自分がいまどこにいるのかわからない。アシスタントの若い子も寝不足だから泣いていて、「靴下を買ってきて」ってお願いしても「買えません」って。「どうして?靴下だよ?」と聞いても「わかりません」って。二人とも何だかわからないけど、つらくてずっと泣いてる。よく生きてたなと思います。
- 池谷
- 実際、睡眠を完全に奪われてしまったら人も動物も死んでしまいますし、睡眠不足になるだけでも学習や認知する機能が低下します。睡眠は「休息」ではなくて、生きるために必要な「行為」なんです。
睡眠と脳の老化と認知症には、密接な関わりがある。
- 池谷
- いまもお忙しいと思いますが、睡眠はとれていますか?
- 渡辺
- 仕事があると厳しいですね。よく眠れる日でも6時間が限度かな。女性は仕事から帰って掃除もして、洗濯もしてだから、男性より2時間は睡眠が短くなると思う。
- 池谷
- いまのところはまだそういう女性のほうが多いでしょうね。
- 渡辺
- あと、眠りも浅くなっている気がします。いま67歳なんですけど、年齢の影響はあるんでしょうか?
- 池谷
- 睡眠の「時間」は高齢になるほど短くなる傾向があります。眠るのにも体力がいりますから。よく眠りたかったら体力をつけること。昼間に活動的に過ごすことがいい睡眠を導くことにつながります。
- 渡辺
- 齢をとったらムリには寝なくてもいいんですね?
- 池谷
- 昼間に眠くて眠くてしょうがないのに夜は眠れないのなら睡眠障害で問題ですが、自然に目が覚めて日中も眠くないなら問題ありません。高齢になるにつれて睡眠時間が短くなるのは、健康な加齢状態の一環です。
- 渡辺
- 私より1つ年上の小日向文世さんは朝5時頃に起きちゃって、メダカに餌をやって、植木に水をやって、セリフも覚えて、稽古も本番もちゃんとやってて、「体は大丈夫?」って聞いたら「本当に元気なんだよ」って。私はもっと寝たい。睡眠の加齢にも個人差があるんですね?
- 池谷
- そうですね。平均値もあるにはあって、70~80代だと6時間くらい。60代よりも短くなってきます。
- 渡辺
- 先生のツイッターで「50~60歳代の頃に1日の睡眠時間が6時間以下だった人は認知症のリスクが約30%高い」というくだりもありましたよね。ドキッとしました。
- 池谷
- 『ネイチャー通信』誌に出ていた追跡調査の論文ですね。ただ、認知症についてはそれ以上に遺伝子の影響もあって、もともとなりやすい人となりにくい人がいます。睡眠と認知症には密接な関わりが確かにありますが、寝なかったから認知症になったという明確な因果関係まではまだわかっていません。
- 渡辺
- そういえば、いま92歳のうちの母は80歳で認知症になりましたけど、現役の頃は朝早くから仕事をするために夜の9時にはことんと寝ていたから、睡眠が足りていない印象はないですね。反対に父は学校の先生だったので夜中の2時までガリ版切りをしていて、5時間くらいしか寝ていなかったですけど、95歳で亡くなるまで認知症にはならなかった。
因果関係がまだはっきりしていないとはいえ、認知症のリスクは減らしておきたいなあ。どうしたらよく眠れますかね? - 池谷
- 寝つきがわるいのなら薬でいいと思いますよ。渡辺さんが飲んでいらっしゃる睡眠導入剤はさほど危ない薬じゃないので、それで眠れるなら常用して問題ないと思います。
- 渡辺
- お酒よりいいですか?
- 池谷
- お酒は悪い方向に神経を刺激してしまうので、睡眠薬としては優秀じゃありません。
あとは眠るときの環境ですね。寝室と寝具。日中は社会の中にいるので、自分の思い通りにストレスなく過ごすことはできませんが、睡眠環境は自分の身体に接するものがすべてですから、いくらでも思い通りになります。通販生活さんの取材だからサービスをして言っていると思われたくないですが(笑)、自分にフィットするものを探しておくというのは大切だと思います。 - 渡辺
- 私、木のベッドの上に15万円くらいするすごく硬いマットレスを敷いて寝ています。柔らかいと腰が痛くなっちゃうから。寝ている間も脳は痛みを感じているんですか?
- 池谷
- 意識にまでは上がってきませんが、痛みの神経は眠っている間もつねに刺激を感じ取っています。全身麻酔の手術中でも神経そのものはずっと感じていますから。
- 渡辺
- だったら寝具ってなおのこと大事ですね。あと、ジュリーの曲も。
- 池谷
- 幸せな気持ちでスッと眠れそうですね(笑)。
いけがや・ゆうじ●脳研究者。東京大学薬学部教授。人間の記憶を司る海馬の研究を通じて脳の健康や老化について探求をつづける。近著に『寝る脳は風邪をひかない』(扶桑社)。
わたなべ・えり●劇作家・演出家・俳優。舞台を中心に意欲作を発表する一方、映像や音楽分野でも活躍。本年1~2月には舞台『喜劇 老後の資金がありません』の公演を控えている。
アクセサリー協力・アビステ
池谷先生の脳ツイート
❶睡眠は脳のひらめきをひき出す。
著書『思考の技法』で知られるグレアム・ウォーラスは、あえて考えることをやめる「怠惰思考」の時間を設けることで、アイディアがひらめくと説いています。睡眠中は考えが止まるだけでなく、記憶の再生が行われることで、脳が記憶からひらめきにつながるヒントを見つけ出しているのではないかと考えられます。
❷睡眠が脳のリハビリになる。
睡眠をとると、脳の神経線維が伸びて新たな回路をつくるなどの「変化」が促進されます。学習効果が高まるのもこのためと考えられていますが、2020年に『ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス』誌に発表された研究報告によると、睡眠が脳梗塞からの回復も促進することが確認されています。とくに深いノンレム睡眠を補うことが大切だそうです。
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