<毎月第1・3火曜更新>「韓流ドラマ」にはまったく興味がなかった辛淑玉さんが、ある日突然ハマった「韓流沼」。隔週でおすすめドラマ1本とその見どころをディープにミーハーに解説します。韓国の芸能・歴史情報、小ネタも満載!!
3
恋のゴールドメダル
二人だけのプレイバック『恋のゴールドメダル ~ 僕が恋したキム・ボクジュ』
彼氏感を満喫したいのなら、ナム・ジュヒョクとイ・ソンギョン主演の『恋のゴールドメダル』(2016年/16話)がお勧め。最初から最後まで笑いっぱなしで、時折ウルっとしながら楽しめる。
水泳部のスター、ジュニョン(ナム・ジュヒョク)と、重量挙げ部のスターでおデブのボクジュ(イ・ソンギョン)が、偶然大学のキャンパスで出会うが、実は二人は小学校の同級生で、しかもボクジュはジュニョンの命の恩人だった。
そのボクジュはジュニョンの従兄に恋をし、ジュニョンがその恋の橋渡しをしていく中で、次第にジュニョン自身が自分の恋心に気づいていくという物語だ。
イラスト/西村オコ
伏線として、幼い頃のトラウマや、家族のあり方、親との関係で苦悩する若者の繊細な感情などがちりばめられていて、まさに、これぞ青春ドラマ、という感じ。
で、このドラマ、少しでも韓国語を勉強した人だと面白さが倍増するのが、日本語字幕では味わえない若者言葉やパンマル(軽口)だ。しかも、比較的わかりやすい韓国語なので、聞き取りも簡単。
たとえば、ボクジュが急いでいるときに自転車で通りかかったジュニョンを見つけて乗せてと言うと、字幕にはただ「タクシーじゃないよ」と出るが、実際は「おい、おばちゃん(アジュンマー)、タクシーじゃないんだよ」と言っている。ダイエット中のボクジュの昼食を見たジュニョンのセリフは、字幕では「いつも山盛りなのにどうした」だけだが、実はその後に「世界中の山がグワッとなるほど、ご飯はロッキー、肉はアルプス、〇〇はヒマラヤ……」と続いている。
ナム・ジュヒョクは、この手のチャラい男の子を演じると本当にうまい。実に軽やかに会話をこなす。
ボクジュ役のイ・ソンギョンはモデル出身で、過去の作品ではちょっとアンニュイなお嬢様とか少し意地悪な役柄などを見事に演じていた。キム・レウォンとパク・シネ主演の『ドクターズ ~ 恋する気持ち』(2016年)でのヒロインのこじれた同級生役などイラつくほどうまく、ナム・ジュヒョクも出演していた『恋はチーズ・イン・ザ・トラップ』(2016年)での散財するヒステリックな女性役も破壊力があった。
その彼女が、ガタイのでかい重量挙げ部の明るい女の子役を初の主役作品としたのだから面白い。
実は、ナム・ジュヒョクもモデル出身で、海外の韓流ファンが選ぶイケメン俳優の上位にいつも入るほどの人気者なのだ。身長は187センチある。
彼を初めて見たのは、IUとイ・ジュンギが主演の『麗 ~ 花萌ゆる8人の皇子たち』(2016年)だった。ここではジュヒョクは第13皇子・ペガ役を演じていた。確かに端正な顔立ちではあるが、このドラマはなにしろ、カン・ハヌルをはじめ、韓国イケメンをこれでもかと揃えたものだったから特別目を引くことはなかった。しかし、今回の作品は違った意味で彼の魅力を大いに引き出している。
ちなみに、ある時期から、韓ドラでは必ず男性の裸が出てくるようになった。そう、かつての『水戸黄門』での由美かおるの入浴シーンと同じように、男の裸も商品として定着しているのだ。
その見せ方も、ゲロをかけられた服をあわてて脱いでシャワーを浴びるとか、ランニングシャツ姿で疲れ果ててイスに座っているところをなめまわすように撮るとか、いろいろ手が込んでいる。『ヴィンチェンツォ 』(2021年)のソン・ジュンギのような、かわいい顔してすげー筋肉、というのが、また一つの韓ドラの売りなのかもしれない。
今回は、プールでおぼれそうになったボクジュを抱きかかえたジュヒョクの後ろ姿が映し出された。広い肩幅、しまったウエスト、そしてしっかりとついた筋肉と、スレンダーながらも視聴者を確かに魅了している。
ところでこのドラマ、実は一か所だけ、「あー、そりゃ、あかんわ!」というシーンがある。
恋心に目覚めたジュニョンがボクジュのアルバイト先である宅配便の仕分け作業場に出むいて一緒にカートを引いていたとき、突然カートを手放してボクジュにキスするシーンだ。相当練りこんだ演出ではあるが、これは合意のないキスのシーンで、セクハラである。
相手がいい男であろうとなかろうと、キスしてしまった後もじもじしているジュニョンにボクジュが「いったい何よ!」と平気でいても、これはダメ。
リアルなら警察に通報されなかったのを感謝しなくちゃいけないシーンなのだ。一か月だけ試験期間で付き合ってくれと懇願するジュニョンの愛らしさについほだされそうになるが、やはりアウト。
笑いながらも、気を付けて見ようね。
視聴情報
恋のゴールドメダル~僕が恋したキム・ボクジュ(全16話)
全国のレンタルビデオ店でレンタル中のほか、以下の動画配信サービスで視聴できます。
Amazonプライムビデオ/Netflix/dTV/U-NEXT/Hulu/ABEMA/Paravi
※情報は2021年8月時点のものです。
辛淑玉
しん・すご●博報堂特別宣伝班を経て1985年、企業内研修の会社を起業。職能別研修を請け負う。著書『怒りの方法(岩波新書)』『差別と日本人(角川ワンテーマ)』など多数。いまは、日・韓・在日の100年史の執筆準備中。
隠れARMY(※)。k-popでは、クロスオーバーグループ「フォレステラ」に夢中。マンガ大好き。※k-popグループBTSファンの総称