<毎月第1・3火曜更新>「韓流ドラマ」にはまったく興味がなかった辛淑玉さんが、ある日突然ハマった「韓流沼」。隔週でおすすめドラマ1本とその見どころをディープにミーハーに解説します。韓国の芸能・歴史情報、小ネタも満載!!
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麗~花萌ゆる8人の皇子たち
華流『宮廷女官若曦』と韓流『麗』
中国のベストセラー作家桐華(トン・ホァ)が書いた『歩歩驚心』が中国と韓国の両方でドラマ化された。これ、同じ原作でも作り方によってこんなに違ってこんなに面白いんだと実感させられる。
中国でドラマ化された『宮廷女官若曦(ジャクギ)』(2011年)は、華流ドラマの底力を感じる作品だった。北京に住む歴史好きの女性が交通事故に遭い、目が覚めたらそこは清朝最盛期、康熙帝(コウキテイ)の時代で、彼女は第八皇子の側室の妹若曦(ジャクギ)になっていたというタイムスリップもの。そんな彼女が、宮廷での皇子たちによる熾烈な跡目争いの中で愛や友情を育んでいく物語なのだが、中でも台湾出身のアイドル、ニッキー・ウー(第四皇子で、のち皇帝となる)の醸し出す雰囲気がすごい。辮髪(べんぱつ・頭髪を一部を残して刈上げ、後頭部を伸ばす男性の髪型)がこれほど似合う俳優がいたのかと、感動したものだ。
これが5年後には韓国で高麗時代の物語としてリメイクされ『麗 ~花萌ゆる8人の皇子たち~』(2016年)として大ヒットした。こちらでは化粧品販売員の女性が湖に落ちた子どもを助けようとして溺れ、目が覚めたら高麗の初代王ワン・ゴンの時代で、彼女は第八皇子の妻の妹ヘ・スになっていた。第四皇子役はイ・ジュンギで、タイムスリップする女性はシンガー・ソングライターのIU(アイ・ユー)だ。華流が硬派歴史モノなら、韓流はファンタジック時代劇と言えるだろう。どちらの物語でも、主人公の女性は明るく元気なキャラで、さまざまな難題を知恵を使って体当たりで突破していく。皇子たちから見ればやることなすこと異次元の魅力満載で、当然のように一人ずつ彼女に魅了されていく。
絶対権力を握る皇帝や王の気に障ることをしたことで受ける仕打ちの酷さからは、人類の歴史では命がとても軽く扱われ続けてきたことを思い知らされるのだが、懲罰を受けた後、雨のなか座り続けて陳情するヘ・スの横に立ち、連座させられることも恐れずに雨除けとして衣を広げて一緒に立ち続ける第四皇子の姿には、ニッキー・ウーもイ・ジュンギも、どちらもしびれるものがある。
また、打ちのめされた女性を演じさせた時のIUには、とてもアイドルの演技とは思えない凄さがある。『マイ・ディア・ミスター ~私のおじさん~』(2018年)では、祖母を抱え、借金取りに追われ、底辺で働くボロボロの少女を演じ、見ていて圧倒されたものだ。
『麗』の皇子たちは、韓国を代表するイケメンをこれでもかと揃えたかのようだ。後に王・光宗となる第4皇子のイ・ジュンギを筆頭に、第八皇子のカン・ハヌル、第三皇子ホン・ジョンヒョン、第十三皇子ナム・ジュヒョク、第十皇子はEXOのベクヒョン、第十四皇子のジス、第一皇子のキム・サノ、第九皇子のユン・ソヌと、ゲップが出るほどの面子だ。ヘ・スが最初に恋心を抱く第八皇子の人柄の良さの中にある「弱さ」と「狡さ」を切なく演じたカン・ハヌルの存在が、ドラマの厚みを増していたと思う。
イラスト/西村オコ
複数のイケメンに好かれるという韓ドラの王道パターンはここでも見事に描かれ、お決まりの裸のシーンも第一話で存分に出てくる。そう、タイムスリップしたヘ・スが登場するのが皇子たちの専用浴場って、すごすぎるよね。 結末はドラマを見てほしいが、通底しているのは「愛」だ。どちらも嫉妬や妬み、争うことの虚しさを十分に感じさせてくれる作品だと思う。
『若曦』予告編
『麗』予告編
余談だが、華流では輪廻転生後の物語を視聴者が望んだことで、2014年には続編も作られた。現代に戻った女性が第四皇子そっくりな男性と出会うことから始まる物語なのだが、本編が面白すぎたせいで、現代編はちょっと食い足らない感じかな。
視聴情報
麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~
©2016 Universal Studios, Barami bunda. Inc., and YG Entertainment Inc.
NBCユニバーサル・エンターテイメント
全国のレンタルビデオ店でレンタル中のほか、U-NEXTで独占先行見放題配信中。
※情報は2021年9月時点のものです。
辛淑玉
しん・すご●博報堂特別宣伝班を経て1985年、企業内研修の会社を起業。職能別研修を請け負う。著書『怒りの方法(岩波新書)』『差別と日本人(角川ワンテーマ)』など多数。いまは、日・韓・在日の100年史の執筆準備中。
隠れARMY(※)。k-popでは、クロスオーバーグループ「フォレステラ」に夢中。マンガ大好き。※k-popグループBTSファンの総称