「韓流ドラマ」にはまったく興味がなかった辛淑玉さんが、ある日突然ハマった「韓流沼」。隔週でおすすめドラマ1本とその見どころをディープにミーハーに解説します。韓国の芸能・歴史情報、小ネタも満載!!
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雲が描いた月明り
男装女子ものには外れがないというが、その代表格がキム・ユジョンとパク・ボゴムの『雲が描いた月明り』(2016年)だ。
物語は、逆賊の娘として生まれたラオン(キム・ユジョン)が、その身を守るために父親と離され、男児「ホム・サムノム」として育てられるが、やがて母とも生き別れて旅芸人に拾われる。成長した彼女は恋愛相談業で生計を立てていたが、運悪く借金取りにつかまり内官試験を受けるはめになった。
そこで、かつて恋愛相談業でトラブルになったイ・ヨン(パク・ボゴム)に再会してしまうのだが、実はヨンは世子だったという、韓ドラあるあるの期待を裏切らないパターン。
イラスト/西村オコ
パク・ボゴムがツンデレ世子を、名子役だったキム・ユジョンが男装女子を演じるとあって、放送前から話題だった。期待通り、内官になったサムノム(ラオン)が世子とは知らずにぼろくそにヨンを罵倒するシーンは、何度見ても爆笑もの。
しかもこのドラマ、脇役の粒がそろっているのもすごい。
世子の護衛官キム・ビョンヨン役のクァク・ドンヨン、世子の幼馴染であるキム・ユンソン役のジニョンは、出てくると毎回画面が絵になる美しさ。しかも、二人とも殺陣が上手なので、格闘シーンも見ごたえがある。
世子の結婚準備が進んでいることに胸を痛めているラオンを思い、ユンソンが「胸が張り裂ける思いをしているのに世子の前では明るい笑顔を見せている、その人を私は愛しています」「世子のために傷つく姿を私は見たくありません。いや、黙って見ていたくありません」と恋敵宣言。
二人の美形男子に恋されるって毎度のパターンながら、この歯が浮くような言葉の連続が韓ドラのキモ。その上、ジニョンの韓服姿が実に美しい。傘を通して映る顔立ちの美しさに、韓服三男子(イ・ジュンギ/イム・シワン/ジニョン)と勝手に命名。
このドラマ、ラブコメではあるが、権力を持った者がどのような指導者になるべきかを問うている点も物語に深みを持たせている。
逆賊であるラオンの父ホン・ギョンネが捕われ、監獄で世子に向けた言葉にはしびれる。「そもそも天が指導者を定めたのは民のためだ。一人の人間の私利私欲を満たすものではない」「しかし、そこにも誤りがある」「民のための指導者は、天が定めるものではない。民の手で直接選ぶべきだ」と。
このレジスタンスの父親役チョン・へギュンは、『100日の朗君様』では主人公の養父で、ちょっととぼけたひ弱な農民を演じていた。そのギャップも面白い。笑って泣いてほっこりできる、時代劇の名脇役代表と言えるだろう。
このドラマ、シンデレラ物語ではあるが、その根底にはいつも、弱きもの、迫害を受けているものへの愛が流れている。巣ごもりの中でしんどいドラマを見るのは辛いという方にはぜひお勧めしたい。
以下、男装女子系で今も人気が衰えていないのは『コーヒープリンス1号店』(2007年)、『美男(イケメン)ですね』(2009年)、『トキメキ☆成均館スキャンダル』(2010年)などだが、これらはいずれも力ある男に好かれるパターン。男女の入れ代わりでは、ヒョンビンの『シークレット・ガーデン』(2010年)があるが、これも設定はツンデレの御曹司男と貧しきスタントパーソンの恋物語だ。
そんな中、『恋慕』(2021年)が出てきた。
世継ぎとして生まれたが、王室では忌み嫌われる双子だったために女児はいなかったことにされ、後に、殺された双子の兄の代わりに世子にされる。そして、宮廷内の陰謀などと闘いながら世直しをしていくという物語だ。男装の世子イ・フィ役がパク・ウンビンで、初恋の人で世子の教育係チョン・ジウン役がキム・ロウン。このロウンが、チャラくも頼もしいという味のある演技をしているのには驚いた。韓ドラ定番の、二人の男に愛されるパターンなのだが、男装女子の面白さもあって、なかなかのドラマに仕上がっている。
貧乏な女性から世子までの役柄の広がりを見るに、シンデレラストーリーが求めるものが「力のある男」から「女の人生の邪魔にならない男」、さらには「可愛くて役に立つ男」に進化しているようにも思える。
そう、女は度胸、男は愛嬌。男子諸君、これからは可愛げが大事だよ。
『雲が描いた月明り』スペシャルダイジェスト
『恋慕』予告編
視聴情報
雲が描いた月明り
全国のレンタルビデオ店でレンタル中のほか、以下の動画配信サービスで視聴できます。
U-NEXT
※YouTubeで1話無料配信中
https://www.youtube.com/watch?v=b8LHKUU5J0U
恋慕
以下の動画配信サービスで視聴できます。
Netflix
※情報は2021年12月時点のものです。
辛淑玉
しん・すご●博報堂特別宣伝班を経て1985年、企業内研修の会社を起業。職能別研修を請け負う。著書『怒りの方法(岩波新書)』『差別と日本人(角川ワンテーマ)』など多数。いまは、日・韓・在日の100年史の執筆準備中。
隠れARMY(※)。k-popでは、クロスオーバーグループ「フォレステラ」に夢中。マンガ大好き。※k-popグループBTSファンの総称