辛淑玉の韓流エンタメ沼

<毎月第1・3火曜更新>「韓流ドラマ」にはまったく興味がなかった辛淑玉さんが、ある日突然ハマった「韓流沼」。隔週でおすすめドラマ1本とその見どころをディープにミーハーに解説します。韓国の芸能・歴史情報、小ネタも満載!!

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『恋愛ワードを入力してください』『Mine』

読者の潔子さんからのリクエスト!
たくましく美しい女性の生き方2作品

本文中に、Mineの結末に関する若干のネタバレを含みます(編集部注)

 今回は究極のシスターフッドドラマを紹介したい。読者の潔子さんからリクエストがあった『恋愛ワードを入力してください』と、私の大好きな『Mine』だ。

 『恋愛~』は、IT企業の理事ソン・ガギョン(チョン・ヘジン)と、その元部下でライバル会社に移籍したペ・タミ(イム・スジョン)、そしてガギョンの後輩でライバル会社の本部長チャ・ヒョン(イ・ダヒ)の三人が、友情と企業間競争、そして家族関係の狭間の中で、いかに自分の人生を創り上げるかという、ハラハラドキドキ大爆笑のドラマだ。

イラスト/西村オコ

 優秀な娘だったガギョンは、自身の親の会社のために政略結婚を強いられ、しかも夫は義母の言いなりで、義母から徹底的にいじめられるという、まさに韓国伝統のパターン。タミは、酒の勢いで一晩過ごした年下の男と付き合うのだが、熱烈に結婚を望む彼との葛藤が続く。ヒョンは美人だが性格は体育会系で、しかも細面の生活力のない男が好み。

 この三人を通して、ドラマは伝統的な「嫁」から現代女性の生き方までを活写する。
そして彼女らが、さまざまな葛藤を抱えながらも、国家による個人情報管理とメディアコントロールに対して闘い抜く姿が、なんとも痛快なのだ。

 能力はあるがやたら結婚を望む年下男とか、売れない俳優とかマザコン夫という、従来の韓ドラと違って男が女の人生にまったく役に立たないという設定が、これまたいい。

 このドラマで私が好きなシーンは、タミとヒョンがガギョンの会社に行き、ガギョンの夫から「金で解決しよう」と言われてその金を受け取るものの、帰路、彼の車をバットでボコボコにして、受け取った金を投げ捨てるシーンだ。まさに「なめんなよ」だ。

 で、この夫、妻を義母から離すために離婚をするのだが、その後、恋人としてやり直したいと彼が言う韓ドラ伝統の胸キュンシーンに、ガギョンは「考えておく」と言って相手にしない。これもいい。

 このドラマ、女がカッコよくて最後の最後まで面白い。たとえ敵味方に別れていても、「家」とか「男」によって崩れることのない女の絆、シスターフッドを見事に描いているからだ。
また、女優イム・スジョンの良さをもっとも引き出した作品でもある。

 で、ダメ男総出演といえば『Mine』だろう。

 財閥一族の物語なのだが、父親である財閥会長は外で子どもを作り、最後まで問題解決ができない男。長女は破天荒な性格で、その夫は政略結婚から逃れようと必死の軟弱男子。長男は無能でいじけたダメ男で、他の財閥から優秀な後妻ソヒョン(キム・ソヨン)を迎える。婚外子の次男は外面が良く、すでに子ども(ハジュン)がいて、女優だったヒス(イ・ボヨン)と子連れで結婚する。

 その一族に家庭教師カン・ジャギョン(オク・ジャヨン)が登場したところから何やら不穏な雰囲気になるのだが、ふたを開けたらハジュンの産みの母だったという展開。
このドラマ、金持ちの生活ってこんなものを身に着けるんだぁという、まさに豪華絢爛。衣装とセットだけでも一見の価値がある。

 サスペンスドラマとしても面白いが、長男の後妻、次男の妻、次男の息子の産みの母の三人がともに連携しあうのも見どころだ。遺産相続やどろどろの人間関係は、いつもの韓ドラのお決まりのパターンだが、この作品がすごいのは、長男の後妻に入ったソヒョンの見事なまでの生き方だろう。

 財閥の長男とはいえ、バツイチ、アル中、劣等感の塊というどうしようもない夫を支え、血のつながりのない息子を育て上げ、財閥を支え続けるのだが、最後はすべてを手放して愛する人のもとに走り抜けた。
その選択の見事さが韓ドラを新しいステージに登らせたと思う。最終回の視聴率は10%を超えた。
そう、彼女の恋人は、同性のスージー・チェ(キム・ジョンファン)だったのだ。

 こうやって、家族の物語に多様性を入れ込む作品の仕上げ方は、本当に人が人を愛するとはどういうことなのかを考えさせてくれる。

『恋愛ワードを入力してください』予告編

『Mine』予告編

視聴情報

恋愛ワードを入力してください

全国のレンタルビデオ店でレンタル中のほか、以下の動画配信サービスで視聴できます。
Amazonプライムビデオ/Netflix/Hulu/U-NEXT/dTV/GYAO!


Mine

以下の動画配信サービスで視聴できます。
Netflix
※情報は2022年2月時点のものです。

辛淑玉

しん・すご●博報堂特別宣伝班を経て1985年、企業内研修の会社を起業。職能別研修を請け負う。著書『怒りの方法(岩波新書)』『差別と日本人(角川ワンテーマ)』など多数。いまは、日・韓・在日の100年史の執筆準備中。
隠れARMY(※)。k-popでは、クロスオーバーグループ「フォレステラ」に夢中。マンガ大好き。※k-popグループBTSファンの総称

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