男子の成長物語『第3の魅力』（2018年）

　最近、「男の子の育て方」といった、男性優位社会の生きづらさから男性自身を解放する子育て本が人気だが、このドラマは20歳から12年間におよぶ“男の子”の成長を描いている。

　主人公のジュニョン（ソ・ガンジュン）は、教育者の両親と現代っ子の妹との4人家族。真面目でパッとしない大学生だったジュニョンは、合コンで知り合ったヨンジェ（イ・ソム）とひょんなことでキスしたことをきっかけに、彼女を意識し始める。
一方的にアタックし、恋心を募らせていくが、自分の思いとは裏腹に、あっけなく振られてしまう。

イラスト／西村オコ

　そしてヨンジェから「警察官にはなれないよね」と言われた言葉に奮起したジュニョンは、大学を中退して警察官となる。ところが7年後、偶然ガサ入れ現場のクラブでヨンジェと再会。二人はまた付き合うことになるが、楽しい日々もつかの間、ジョニュンは再度振られてしまう。

　傷心のまま、本当にやりたかった料理の勉強を始め、海外での修行を経て韓国で店を開くジョニュン。そして、自分のことを好いてくれて、好みも同じで、海外まで追いかけてきてくれた警察官時代の部下の女性にプロポーズする。
しかし、結婚を間近に控えたある日、またもヨンジェと再会。しかもヨンジェは離婚していたことを知り、ジュニョンの心は揺れる。

　とまぁ、ここまではお決まりのパターンなのだが、このジュニョンの振られ方が面白いのだ。
大学生のときは、性欲のおもむくまま、いわゆる「彼女が欲しい」という感情で突っ走る。しかし、二人の間の格差への鈍感さが彼女を傷つけていることには気がつかない。
中流階級のジュニョンと、早くに親を亡くし、兄と二人で進学も諦めて働いているヨンジェ。その上、その兄もまた交通事故で半身不随となり、兄をも抱えて生きねばならないという絶望の中に、チャラい大学生との恋など存在しえない。

　7年後の再会の時は、ジュニョンは相手を理解しようと必死に自分を抑える。しかし、嫉妬の感情も自身の思いも抑圧して相手に合わせることが「愛」だと錯覚して突き進む関係は、ヨンジェにとっては苦痛を伴うものだった。そして、その関係も破綻する。

　5年後、ヨンジェは結婚して子どももいたが、その子が事故で死に、夫とも別れてどん底の状態になっていた。他方ジニョンは、傷つくこともない「自分探し」の末に、自分と似ていて、自分を好いてくれて、自分に合わせてくれる女性と婚約し、家庭を持とうとしていた。
ヨンジェとの再再会はジュニョンの心を揺さぶるが、ここで問われているのは、他者を愛することは自己犠牲だけでは成立しないということではないだろうか。そしてこの二人の関係の変化からは、「恋する」と「愛する」の違いも見えてくる。

　結局ジュニョンは婚約を破棄するのだが、この物語では、12年間をかけて、ぽかんと生きることができていた「男の子」が、社会の荒波の中、手にしたものをことごとく奪われ続けるヨンジェの人生に関わることで、見事に覚醒していく。

　K-POPで世界的人気を博しているEXOとBTSの違いもここにある。

　2012年デビューのEXOは、いまも「恋歌」が主流だ。それは性欲が呼び覚ます情熱であり、音楽マーケットの主流でもある。他方BTSは、10代の恋心から始まったが、やがてその年齢に見合った社会への怒りや哀しみを表現するようになった。

「ホルモン戦争」などの男の子の恋歌から、女性へのエール「21世紀少女」、階級社会を揶揄した「ペップセ」、ヘイトに向き合った「マイクドロップ」、分かち合いの「アンパンマン」など、自分たちを取り巻く社会へのメッセージへとフィールドを広げていったのだ。
いまでは、ダンスの中に国際的な手話を取り入れるまでになっている。

　EXOはいまでも世界中に熱狂的なファンがいて、BTS同様チケットは高額で取りにくいが、遅れてデビューしたBTSが先に世界制覇を成し遂げたのは、まさに「男の子」が進化したからだ。BTSからは、他者といたわりあう関係性、自分も相手も生きていける関係性とは何なのか、その問いかけが、恋歌との両輪となって世界に発信されている。

　ドラマの販売元によると、“第3の魅力”とは、思いもしなかった相手がある日を境に輝いて見えたりステキに見えたりすることとされ、「終わらない恋の始まり」という副題までつけられているが、このドラマでは、年齢がいっても女性のお尻を追いかけ続けるような進化しない男にはさっさと消えて欲しいという、女性の願いを理解できるかどうかが問われているんだよ。
副題、ダメすぎる。

第3の魅力 公式