<毎月第1・3火曜更新>「韓流ドラマ」にはまったく興味がなかった辛淑玉さんが、ある日突然ハマった「韓流沼」。隔週でおすすめドラマ1本とその見どころをディープにミーハーに解説します。韓国の芸能・歴史情報、小ネタも満載!!
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オレンジ・マーマレード
差別のむごさを時空を超えた形で見せてくれたのが、『オレンジ・マーマレード』(2015年)だ。
これはLINEマンガが原作で、韓国では現代→過去→現代の順、日本では過去から現代への順で放送されている。その分、韓ドラにありがちな時空を超えるややこしい混乱はないが、メッセージは驚くほどストレートだ。
ヨ・ジング主演となれば、それなりの固定ファンがあってのことだろうが、被差別者にとっては、一見ハッピーエンドに見える分、むごい結末と言えるだろう。物語の過去編では、今から400年前の朝鮮王朝時代、被差別民として生きるヴァンパイア(吸血鬼)と、名家の出で両班(ヤンバン・支配階級の身分)のエリート学生が恋に落ちる。
現代編では、「吸血鬼」は既に社会の一員として組み込まれ、国家の管理下に置かれて出自を隠しながら生きているという前提で、ヴァンパイアの転校生と学級委員長という形でその二人が再会する。
イラスト/西村オコ
ふと、日本社会に生きて、もう六代目まで生まれているにもかかわらず、いまだに外国人登録制度で管理され、地方参政権すら与えられない在日(旧植民地出身者とその末裔)の社会的地位が重なって見えた。
ドラマと同じように、在日もその約9割が日本名で生きている。多くの日本人はその存在を知らないし、歴史的経緯もわかっていない。
朝鮮王朝時代の身分制度は、大きく分けると、王様を頂点に、両班、中人、常人、賤民(せんみん)に分かれていて、白丁(ペクチョン)や奴婢は賤民の中に入る。彼らは、長い間、人間以下の扱われ方をしてきた。これらの階層は、さらに細分化されて世襲されたため、そこから抜け出すことは不可能に近かった。ドラマではそこに、ヴァンパイアという架空の存在を、さらなる下層民として想定した。
そう、「人間の敵」である。
朝鮮王朝時代の物語では、ヴァンパイアもそれなりに抗うが、結局は支配に屈する。そして現代編では、ヴァンパイアとして持っていた特殊能力もなくなり、彼らは社会の最下層に組み込まれている。両班の中でも最高位の文官を目指す家柄の御曹司ジェミン(ヨ・ジング)は、ヴァンパイアのマリ(ソリョン)に一方的に恋をし、命まで救われたのに、その出自を知ると逃げていく。後で後悔するが時すでに遅く、その姿は、人が、いかに刷り込まれた差別に弱いかを見せてくれる。
またこのドラマは、一見すると不条理を糾弾しているかのように見えるのだが、しかしその裏には、「良い人」「害のない人」たちだから受け入れようという、徹底した同化思想がある。
そんな強者の論理で終始したこの作品でジェミンの恋敵役を演じたイ・ジョンヒョン(CNBLUE)は、のちに性暴行事件に関連してグループを脱退している。また、マリを演じたソリョンが所属していたAOAは、グループ内でのイジメが原因で事実上解散しており、そこではソリョンの見てみぬふりの姿勢が問われたこともあった。
偶然だろうが、いずれも、強い者の論理に従えという、オレンジ・マーマレードのメッセージに沿った事件だったと言える。
朝鮮半島は、分断されて既に70年が過ぎようとしている。北朝鮮では、朝鮮王朝時代と同じように、金王朝をトップに、労働党幹部から最下層の日本からの帰還者までという、何重にも重なった階層ができている。
一方の韓国でも、財閥を頂点とする階層に地域差別が折り重なり、新自由主義の下、社会階層は超えられない壁として完成したと言ってもいい。そんな中で、強い者におもねることを是とするこのドラマは、反差別の形をとっているだけに、罪が深い。
Mnetオレンジ・マーマレード予告編
視聴情報
オレンジ・マーマレード
全国のレンタルビデオ店でレンタル中のほか、以下の動画配信サービスで視聴できます。
Amazonプライムビデオ/ABEMA/U-NEXT/dTV
※情報は2022年1月時点のものです。
辛淑玉
しん・すご●博報堂特別宣伝班を経て1985年、企業内研修の会社を起業。職能別研修を請け負う。著書『怒りの方法(岩波新書)』『差別と日本人(角川ワンテーマ)』など多数。いまは、日・韓・在日の100年史の執筆準備中。
隠れARMY(※)。k-popでは、クロスオーバーグループ「フォレステラ」に夢中。マンガ大好き。※k-popグループBTSファンの総称