鞭を片手にSMの女王様の衣装で登場、実体験をネタにした漫談で人気を博した芸人にしおかすみこさん。コロナ禍、久しぶりに帰省すると、家の中の様子がおかしい! ? 初期の認知症を発症していた母、そして父、姉との同居に戻った今とこれからを語ります。
わたしの介護年表

2020年
母80歳
家の中がゴミだらけ。人格が変わったようにぼんやりとしたり、激情的になる。会話の内容を忘れる。精神科での診断は初期の認知症。
2021年
母81歳
脱水症状で倒れる。「地域包括支援センター」の訪問を受けるが、「要見守り」と判断。
2023年
母83歳
会話の内容を忘れる時間が短くなり、同じ話を繰り返す。記憶がすり替わることも多くなる。
※年号・歳の一部は目安です。
「危ないからダメ!」
否定するのはよくない?
毎日の食事作りは私の担当になり、作り置きにして保存容器に入れて冷凍しておきます。時間のある日におかずの品数を増やしておいて、なるべく飽きないように出しています。朝だけは母になるべく温かいものを食べてほしくて、出来立てを一緒に食べます。
実家に戻りたての頃は母も簡単な料理はしていたんです。でも空焚きが心配で、つい「ダメ」と言ってしまいそうになる。否定するのはよくないんじゃないかと思って、なんとなく私が作るように。でも、母のできることを奪ってしまったかな。認知症の進行を早めてしまっているかなとも。どうすれば正解なんだろうと思ってしまいます。
今は、味見をしてもらっています。「醤油足したら?」とか「あ、でも味薄い方が体にいいか」とか「丁度いいよ」「美味しい」とか返ってくると、ああ、まだ味がわかってるなあと嬉しくなります。たまに私が「この野菜切って~」と言うと、「年寄りをこき使って」と渋々顔で手伝ってくれます。この時間、私、けっこう好きです(笑)。
最近はもの忘れが進み、1秒2秒前のこと、今言ったことを忘れてしまったりします。記憶がすり替わってしまうことも多くなってきました。
たとえば、
母「庭にきれいな花が咲いたよ」
私「よかったね~」
母「庭に花が咲いてるよ。あんたをびっくりさせようと思って、ママがこっそり植えたんだよ」
私(うーん、植えたのは私だなあ・笑)
でも、母は庭先や玄関に花があるとすごくうれしそう。幸せな話なら、繰り返しても、ちょっと事実と違ってもいいかあと思います。
母は花を活けるのが上手。私が安い花を買ってきてはちょこちょこと花瓶に入れるんです。そうすると、母がバランスよくきれいに整えてくれる。花瓶は玄関脇の廊下に直に置いています。もしこの先、徘徊しそうになっても靴を履くときに、大好きな花が目線にあれば、ハッと気づいて、一瞬思いとどまるのかもしれないって。ネットか本に載ってたんです。そうなるといいなと思います。
姉に続いて母までも!?
お風呂嫌いが悩みのタネ
もの忘れに対しての工夫は、忘れると困ることをメモに書いて下駄箱に貼ることです。たとえば、「雨の日の傘はここ」とか。メモには「あい、わかった」という返事が貼り付けてありました(笑)。「詐欺に引っかからない」というのも。これは母が自分のために書いたものです。母と私の伝言板みたいになってますね。


忘れると困ることは、
メモにして下駄箱に貼る。
母と私の伝言板です
今一番、困っているのはお風呂に入りたがらないこと。母が認知症になる前は、姉が嫌がると「風呂に入れ~」ってなだめたり、怒ったり、説得したりしてました。それが今は、母も! 月1回しか入らないこともあるので、清潔であってほしいんですよねえ。私の説得ぐらいじゃ、「自分たちのタイミングで入る」と二人とも動きません。「それいつ?」って思います。
一瞬期待したのは、業者さんに浴室クリーニングをしてもらった時のこと。どんなに掃除してもとれなかった黒カビとかがスッキリなくなりました!「あんなに汚れてたのに!」と母も私も感激したんです。で、きれいなお湯を張って、母と姉二人で一緒に入った。でもその時だけ。数万円払って1回ですよ。せめて1週間に1回は入ってもらいたいんですけど、そうはうまくいきませんね。

自分の楽しみを
犠牲にしないサポート
毎日の少しずつの疲れの積み重ねで、たまにしんどくなるときがあります。今のストレス解消法は、野菜を飾り切りして動物や植物を作る「カービング」。コロナ禍で仕事がなくなって、お金は心細い、でも時間はあるみたいな頃、挑戦してみたら楽しくて。自分の部屋で集中して作業していると無心になれます。最後は料理に使えるし無駄が出ない。でも、にんじんが10本も冷蔵庫に入っていると、「これから毎日にんじん攻めか」と家族は怯えてます(笑)。
最近もお金に余裕がないのは相変わらずですが、それでも「ええい!」と、ごくごくたまに豪華ランチを食べることも楽しみの一つ。家族を優先して自分の楽しみを我慢したり後回しにするような生活にはしたくない。自分の元気や幸せ第一優先でと思っています。
今は、先のことを考えて、想像で疲れることほどバカバカしいこともないなと思うようになりました。でも勝手に脳によぎることもあります。そんなときは「今日、母となんでもないことで笑えたらOK」とか。考えたとしても「明日の朝ご飯何にしようかな」までにします。「とりあえず今日、とりあえず明日」と自分に言い聞かせながらの毎日です。
取材・文/小泉まみ イラスト/タムラフキコ 写真/島崎信一 写真提供(幼少時代)/にしおかすみこさん 協力/株式会社Miyanse
『月刊益軒さん 2023年11月号』(カタログハウス刊)の掲載記事を転載。
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