コータリさんの要介護5な日常

<毎月第2・4火曜更新>2011年、突然のくも膜下出血により要介護5となった神足裕司さん(コータリさん)と、妻の明子さんが交互に綴る「要介護5」の日常。介護する側、される側、双方の視点から介護生活を語ります。

連載第19回「新しい年の抱負」

「故郷は遠くにありて思うもの」そんな心境だった。

神足裕司(夫・介護される側)

何か特別なことがしたいわけではないんだな

 明けましておめでとうございます。
今年はいったいどんな年なんだろう。なんとなく今年はちょっと違う「いい年」になりそうな予感がする。

 ボクの今年の目標は「色々なところに行ってみよう!」だ。あまり多く目標に掲げず、これ一本で行こうと思う。

 今までもこの動かない身体、要介護5の体にしては出歩いていたとおもう。でも、今年はよりアクティブに。笑

 昨年の12月、故郷の広島に帰った。「もう本当にこれで最後かもなあ」と思ってしまった。
 「いつでも帰れる」そう思っていた故郷だったが、なんとなく「最後」の予感がしてしまった。
 そう思って1泊ですむ仕事での帰郷を一泊延ばした。一泊延ばしたからといって何ができるわけでもなかったけれど、子供の頃から歩いていた街中を見て回っただけ。感傷的になるわけでもなく、訥々と歩く。
 よく、「死ぬ前に最後に何を食べたい?」とか聞かれて「フツーのご飯が食べたいかなあ」なんていうのと同じで、「最後かもしれない故郷で何をしたいか?」そう思ってみても「何か特別なことがしたいわけではないんだな」と思った。

 故郷にまだ住んでいる妹に来てもらって昼飯を食べる。古くからの友人に会う。子供の頃から家族で行っていたデパートに行ってみたり、いつも行っていた食事処に行ってみたり。特に大それたことをするわけでもなく、時はすぎた。

左:神足さんと妹/右:友人とFukuyaデパート前にて
(写真・本人提供)

 幸せなひとときだった。そこでもまた思った。「最後なのかもしれない」

 そして新しい年、故郷にはなかなか帰ることはできないかもしれないが、他の場所に「行ける時に行ってみよう」そう思った。

「故郷は遠くにありて思うもの。」故郷にいながら「落ち着いて帰れる故郷はもうないのかもしれない」という一説であるが、まさしくそんな心境だった。

 色々なところって漠然としすぎているが、海外も行ってみたいし、国内でも都内でも行ける時に行けるところに。今は故郷に変わって今の家がボクの故郷になったのはいうまでもないのだけれど、たまにはそこから離れて冒険をしてみたいと思っている。

 冒険の年の予感である。

何をするわけでもない時間は、ご褒美をもらった気になります。

神足明子(妻・介護する側)

なんとなくいつも「せわしない」と思ってしまう。

 私の今年の目的は「落ち着く」。
 なんかいつも忙しくしているような気がするのです。

 気は長い方だと思っていたけれど、とにかく私よりゆっくり時が流れている人々と一緒にいることが多くなって「自分がいつも焦っている」ような気がしてならないのです。

 子供が小さかった頃は、彼らが動くゆっくりなスピードだったり、考えている間、そっと待っている時間とか。今と同じリビングにいる時間も「のんびり」流れていたような気がします。そのゆっくりに合わせるというか、自分が透明人間になってみている感じでした。

 昨日、父母と裕司(パパ)を連れて外食しようということになり、ゆっくりしか動けない母を車にささっと連れて行き、パパを急いでリフトに乗せて。その間、父は車に乗ってもらい、私は鍵を閉めよう。などなど自分の中で順番のスケジュールを決めて、あちこちと動き回ります。

「テキパキ!」そういえば聞こえはいいのですが、なんとなく「せわしない」。いつもそう私自身が思ってしまう。
「出かけるのに10分くらい余分にかかったって、どうってことないじゃないの」
「もっとゆっくり母の手を引いて歩けなかったのか」
 後になって反省します。

 いつもバタバタしている。

 そんな時間の流れを少しゆっくりにしたいと思っています。ゆっくり流れていたはずのリビングの時間も、私が一人だけ時間軸が違うみたいに早回しになっています。
 気がつくと深夜1時を過ぎていて、寝静まったそのリビングで一人の時間を少し過ごすことがあります。そうこれこれ「こんな時間」。そんな時間が作れた日はご褒美もらった気になります。

 毎日せめて「こんな時間」を作れたらいいな、と思います。
 特に何をするわけでもないけれど、溜まったメールを整理したり、アイロンをかけたり。居眠りをしたり、ゆっくりパパと話す時間を作ったり。
 今年は少し落ち着いて「のんびり過ごすこと」が目標です。
 ゆっくり時が流れている両親や裕司にとってもそれの方がいいと思うのです。

 そして裕司が言うように、今年は「色々なところに旅にも行きたい」と思っています。
 あちこち歩き回る旅でなくてもいいのです。良い景色を眺めるだけとか。ここでものんびり。

今年最初の旅の切符
(写真・本人提供)

 この二つが私の今年の目標。

ああ、そうそう後一つ。昔のようにいっぱいでなくていいから、せめて1ヶ月5冊ぐらいは本を読みたいと思っています。

 できたらいいな。のんびりね。

本を読む時間も大切にしたい
(写真・本人提供)

神足裕司

こうたり・ゆうじ●1957年広島県生まれ。大学時代からライター活動を始め、グルメレポート漫画『恨ミシュラン』(西原理恵子さんとの共著)がベストセラーに。クモ膜下出血から復帰後の著書に、『コータリン&サイバラの介護の絵本(文藝春秋)』など。

神足明子

こうたり・あきこ●1959年東京都生まれ。編集者として勤務していた出版社で神足さんと出会い、85年に結婚。1男1女をもうける。

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