<毎月第2・4火曜更新>2011年、突然のくも膜下出血により要介護5となった神足裕司さん(コータリさん)と、妻の明子さんが交互に綴る「要介護5」の日常。介護する側、される側、双方の視点から介護生活を語ります。
連載第28回「国際福祉機器展」
「相棒」のいる生活を夢見てしまった。
神足裕司(夫・介護される側)
介助犬がいたら困っていたことを助けてくれるかもしれない。
毎年、必ずいくところに「国際福祉機器展」がある。今年で50回目を迎えるという。
ボクが、車椅子のお世話になるようになってから12年。最初の3年ぐらいは家族が出向いて「こんないいものがあった!」と右も左も分からない福祉の世界・介護の世界の便利グッズを見つけてきては我が家に導入していた。車椅子に乗って足元まで隠れるレインコートや、ベッドに横たわった重いボクの体とベッドの間にするするっと滑り込ませると簡単に体が動かせるものだったり「あったらいいな」と思うものを探すのも面白かった。
ボクが同行できるようになってからは、色々な取材でもお邪魔した。いつも毎回出かける車椅子のコーナーでは「なにか新しいものが開発されたんじゃないか」とグルグル歩き回った。
最近では、AIやらVR、ARなどの新しい技術と福祉機器をコラボした「開発中のものを体験できる」のもこの展示会のいいところだ。
今年は、存じ上げているお名前がパンフレットにもちらほら見受けられて、「車椅子でも本気で遊ぼう」とか、ユニバーサルファッションショーがあったり、子供の福祉用具などにも力が入っていたようだ。
eスポーツや車椅子ラクビーなどの体験コーナーもあった。もちろん体験はしてみる主義。車いすラグビーの車椅子へ。
レースをする車の座席のようにスポッとお尻がはまる。足もコンパクトに所定の位置へおさまる。足元にぐるっと一周丸くガードが張られている。車椅子同士がぶつかるのでガードもついている。
車椅子に乗ってぶつかってきてもらう。ソフトで。ぶつかり具合もソフトとハードが選べる。「ガツン」ソフトだってかなりの衝撃だ。
ハの字の車がクルクルと回転できるほど動きがいい。「普通の車椅子がこうなってない理由はなんなんだろう?」と考えるほど。
車椅子ラグビーの車椅子に乗る神足さん。(写真・本人提供)
あと、今回のボクの中での超目玉はなんと言っても「介助犬」だ。盲導犬や聴導犬はまだ馴染みがあるけれど、介助犬は初めて聞いた。
手や足に障害がある人のお手伝いをしてくれる。
「今まで困っていたこと、もしこんな相棒がいたら助かるよなあ」と思った。しかも一緒にいてくれる安心感。
今、ボクは妻がいなければ、ほとんど部屋でベッドに寝たきりの生活になる。
たまにヘルパーさんがきてくれたり、色々な人が部屋にきて世話を焼いてくれる。
が、なにかの拍子にiPadが手の届かないところに滑り落ちてしまったら、リモコンが手の届かないところにいってしまったら、暑くても、痛くても連絡の取りようもない。誰かが気がついてくれるまでどうすることもできない。
それを介助犬が助けてくれるんじゃなかろうか。
ボクはしゃべるのも困難だからまだまだハードルが高いかもしれないが、そんな相棒がいてくれたら、下に落ちた携帯を取ってくれる。ドアを開けてくれたり、ちょっとした段差につまずいていたら、ひぱってもくれるらしい。
「毎日安心だよなあと」ちょっとそんな生活を夢見てしまった。
介助犬と一緒に。(写真・本人提供)
ワクワクする裕司を横目に現実的に考えてしまいます。
神足明子(妻・介護する側)
欲しいと思っていた理想以上のものを見つけた嬉しさが宝探しのようです。
国際福祉機器展には、毎年毎年、何らかの新しい情報が手に入ることを楽しみに裕司と出かけています。裕司は、何か新しいものがないか常に情報収集しています。
未来に向けての素晴らしい車椅子をキョロキョロ。トヨタ自動車株式会社のブースでは電動車いす「JUU(ジェイユーユー)」(2022年発表)にも乗ってみました。名前は「自由」に由来するそう。
最大の特徴は、後部のフリッパーアーム。このフリッパーを倒して本体を支えることで、17cm段差の階段を登ることができるようです。坂道や悪路もスイスイ。駆動輪のほか、オムニホイール(あらゆる方向への移動が可能なホイール)も使われていて、大きいボディに見えるけれどかなり小回りもききます。階段の上り下りができる車椅子なら自由度がかなり広がると、私たちもかなり期待しています。
大きいのでまだ車で一緒に出かけるわけにもいかないみたいだけど、レジャー施設に設置されていれば、随分行動範囲が広がるかもしれないと。
トヨタ自動車株式会社の電動車椅子JUUと実演(写真・本人提供)。
私はと言えば、そんな「裕司大興奮の車椅子」をみても、現実的な場面をついつい想像してしまいます。「家で使えるかな?」「ん〜大きいよね、家の中で使えても外出に持っていくわけにはいかないか。それ専用の大きい車が必要かも」なんてついつい考えてしまうのです。「近い未来の」なんだから「コンセプトタイプ」なんだから、と夢にワクワクする裕司を横目に、かなり現実的に考えてしまいます。
以前もブルドーザーのようなタイヤの車椅子が出展されていて (それはもちろん既に売られている)、裕司がいたく気に入り「これなら山にも入っていけるしなあ」と、ブースで乗ったりしていました。価格も高級車と同じくらい。
「これ日本で買われた方いるんですか?」と聞いてみると「お一人様いらっしゃいます」とのこと。「ほら、この車椅子がある意義があるってもんだ」と裕司も話を聞いてうれしそうでした。まあ、もちろん面白いとは思うし夢も膨らみます、私だって。裕司がこの車椅子に乗って、キャンプとか山へ遊びに行っているのを想像します。
ですが、私が国際福祉機器展で「これは!」と思うのは、裕司とはちょっと違うのです。
適温でご飯が食べられる(温度で色が変わる)とか、食べやすいスプーンやお箸などに目をひかれます。「わっ、これ欲しい」と思うものを探すのが嬉しいのです。
レインコートも車椅子用には、後ろは背中の腰くらいの長さ(背もたれの外にあるタイヤの手前くらいの長さ)、前は足が隠れる長さ(できれば下にゴムが入っていて足置きをくるっと包める感じにできる)。「ないかなあ、、、」と探していましたが、その理想のレインコートを国際福祉機器展で発見した時は「あったあ、本当にあったなあ」とかなりかなり感動した覚えがあります。
想像したのと同じ、もしくは専門家が開発したので当たり前かもしれませんが、それ以上のものを見つけたときの嬉しさ。そんな宝探しのような日でもあります。
今回の国際福祉機器展で、裕司と2人同じくらい感動したのは、やはり介助犬のブースでした。
「ああ、我が家に来てくれたら、1人で過ごす時間のある裕司も寂しくないかもしれないなあ」と思ってしまいました。
数日後、羽田空港へ行くと、偶然トイレに「ほじょ犬トイレブース」を発見。「盲導犬や聴導犬など人間と共に過ごしてくれるワンちゃんたちが、もっと住みやすい環境にならないといけないんだなあ」と改めて思いました。
空港で見つけた「ほじょ犬トイレ」(写真・本人提供)。
神足裕司
こうたり・ゆうじ●1957年広島県生まれ。大学時代からライター活動を始め、グルメレポート漫画『恨ミシュラン』(西原理恵子さんとの共著)がベストセラーに。クモ膜下出血から復帰後の著書に、『コータリン&サイバラの介護の絵本(文藝春秋)』など。
神足明子
こうたり・あきこ●1959年東京都生まれ。編集者として勤務していた出版社で神足さんと出会い、85年に結婚。1男1女をもうける。