コータリさんの要介護5な日常

<毎月第2・4火曜更新>2011年、突然のくも膜下出血により要介護5となった神足裕司さん(コータリさん)と、妻の明子さんが交互に綴る「要介護5」の日常。介護する側、される側、双方の視点から介護生活を語ります。

連載第34回「ありがたい存在」

普通の要介護者ってどんなのかわからないけど。

神足裕司(夫・介護される側)

無理難題にも「そんなものはない」とは決して言わない。

 ボクを担当してくれているケアマネ(ケアマネジャー・介護支援専門員)さんは、相当苦労してくれているんだと思う。
 ほとんど寝たきりのような生活かと思えば、仕事をしに海外へも行く。本当は「そんな無茶なことしない方がいいんじゃないですか?」って感じているんじゃないかなっていつも思っている。

 最近では褥瘡問題。色々なところに出歩いた挙句、痛くて座っていることも、上を向いてずっと寝ていることすらできない状態で帰ってきた。次の日、往診の先生が入ってくれて褥瘡の状態を皮膚科の先生とともに診てくれる。それで、ボクも妻も適切な処置をしてもらって一安心と思っていた。そこにケアマネさんから電話が入る。「往診の先生からの指示で、明日からしばらく医療の方から緊急で訪問看護に入ってもらいます。毎日お尻のガーゼを取り替えて様子をみますね、外出や仕事はありますか?」「出かける日はいつといつ」「わかりました」
 妻とそんな話が終わると、褥瘡の治療チームが出来上がる。「でも夕方のヘルパーさんとバッティングしちゃうんじゃないの?」そう思っていると、そこは抜かりなくケアマネさんが調整済み。
 座ることもままならないが、取材が入っていた。「どうしようか?休んだ方がいいよね?」と妻。
 ケアマネさんは「クッション、手配します?」その場で福祉用具の営業に電話してくれる。「どれが合うか試してみてください」
「いつもすみません、助かります」そう妻がいうと「私は当たり前のことをしているだけですよ。特別なことではないのです。ただ、神足さんが仕事を少しでもできるように、みんなで力を合わせているんですよ。みんなもそう思ってくれてますよ」と有難いお言葉。
「普通の要介護者」普通ってどんなのかわからないけど「普通は仕事に出かける要介護者はあまりいないけど神足さんはそれができる。やっぱりこれからも頑張って欲しいと思っていますよ」そんなことを以前、言ってくれていた。

 こうして皆さんの前に出ている時は元気な姿のことが多いが、ケアマネさんの知っているボクは、ベッドで寝て動けないでいる普通の姿、まさしく要介護5の姿を知っている。そんな姿を普段ケアしてくれているから、外にも出ていける。

「ねえねえ、こんなのがあるみたいなんだけど」ボクが取材で仕入れてきた福祉用具の話をすることがある。「まだこちらには降りてきていない情報ですね、ちょっと聴いてみます」とか「ボクが乗りたい車椅子は電動でも軽いのがいいんだよね。あと介助者が動かせるやつ」なんて無理難題を言ってしまうことあるけれど「そんなものはない」とは決して言わず「探してみましょう」そう言って帰っていく。
 時には「そんなこと言ったって」って事もあるんじゃないかなって思うけど、なんとなく面白い計画をしているみたいな気分になる。ありがたい存在である。

ケアマネさんとの毎月の計画書(写真・本人提供)

「新チーム神足」の発足。

神足明子(妻・介護する側)

在宅介護の大改革をして良かったと思っています。

 ケアマネさんには足を向けて寝られない。最近では、私より家族全体を俯瞰で見てよくご存知かもしれないなあと思っています。

 我が家のケアマネさんは約12年間で3人目。「ケアマネさんって途中で変更できるの?」そうよく聞かれます。相性が合わない、女性がいい、男性がいい、など「違う人がいいな」と思う事もあると思います。

 1人目のケアマネさんは、病気になり1年も入院した後に自宅へ帰ることになった裕司に、どうしてもリハビリを続けてもらいたくて「リハビリ関係に詳しい人」という変な探し方をしました。

 ケアマネさんの数行の紹介文にある「元理学療法士」「大学病院のリハビリ科に勤務していた」といった小さな情報から探しました。で、直談判。正しいやり方ではないとは思いますが、藁をもすがる思いでした。

 そのケアマネさんは、ご自分でリハビリに特化した事業所を開いていたり毎日マッサージやリハビリを入れてくれたり、リハビリに強い施設を紹介してくれたり、我が家にとって当時ばっちりのケアマネさんでした。

 とにかく右も左も分からない時でしたから「彼のプログラムの上を歩いていけば安心なんだろうな」と信頼していました。でも、彼は色々なところにリーダーをやられていたり、偉い方でした。ケアマネとして動くのは稀なことだったみたいで「ボクの部下に担当を変えたい。ちゃんとこれからも見守っていきますから」とのことで、その会社の女性の方にバトンタッチ。

 今までとなんら変わらないサービスで、きちんと仕事をされる方でした。けれど、全面にお願いしていたリハビリ・医療の部分を変更して大改革を行う決断をした私。変えても今まで以上になる保証は何もないのです。でも、もう何年も続けているリハビリに変化をつけたかった我が家。「今までのリハビリに強い会社に所属していたケアマネさんも一気に変えてみよう」ということになりました。

 大冒険です。

 ケアマネさんにはなんの落ち度もありません。今までのケアマネさんがいい方で、それが自分の中の最良だと常に思っていたのですから。変更してその方がいい人とは限らないのです。

 思えば介護生活5年目で初めて「普通のケアマネさんの選び方」を体験しました。地域包括センターへ行き、昔見たことがあるケアマネさん一覧の冊子を眺め「この方か、この方がいいです」と条件が合う人を話し合い決めました。「受けていただけるかはわからないですが、、」と聞いていましたが、数日後にOKの返事をいただいて「新チーム神足」の発足です。

 新しいケアマネさんはとてもパワフルでした。今まで最良と思っていたケアマネさん以上に「働く要介護5」の裕司をサポートしてくれています。今では思い切って在宅介護の大改革をして良かったと思っています。

 そういえば周りの知人を見ていると、偶然やってきた自身のケアマネさんを嫌だと思っている人は少ないみたいです。我が家のケアマネさんが最良、と感じているよう。嫌でもない人を変更するのはどうかと思います。けれど「違う道があるかもしれない」と思ったら変更可能、ということもわかりました。「結構いらっしゃいますよ、ケアマネさん変更の方も」だそうです。

 我が家はそれからずっとそのケアマネさんのお世話になっています。

 これまでの方と何が一番違うかといえば、私がなんでも相談できること。気持ちを素直に伝えることができます。「パパはこうして欲しいかもしれないけど、私はこう思っている」など私が困っていることも言い出せないでいることも、汲み取ってくれることです。最善を一緒に考えてくれます。

 我が家は、昨年あたりから要介護者3人の入り組んだお願いをすることも多い中「本当に困っていることは何か?」を考えてくれます。

現行の介護サービス事業者ガイドブック(写真・本人提供)

神足裕司

こうたり・ゆうじ●1957年広島県生まれ。大学時代からライター活動を始め、グルメレポート漫画『恨ミシュラン』(西原理恵子さんとの共著)がベストセラーに。クモ膜下出血から復帰後の著書に、『コータリン&サイバラの介護の絵本(文藝春秋)』など。

神足明子

こうたり・あきこ●1959年東京都生まれ。編集者として勤務していた出版社で神足さんと出会い、85年に結婚。1男1女をもうける。

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