コータリさんの要介護5な日常

<毎月第2・4火曜更新>2011年、突然のくも膜下出血により要介護5となった神足裕司さん(コータリさん)と、妻の明子さんが交互に綴る「要介護5」の日常。介護する側、される側、双方の視点から介護生活を語ります。

連載第20回「外出と体温調節」

発熱騒ぎになると「ああ、この季節がやってきたか」と思う。

神足裕司(夫・介護される側)

自分で体温調節ができないのは結構きつい

 この数日10年に一度という大寒波が日本列島を襲っている。

  沖縄9度、今日の横浜の朝はマイナス4度だった。

「こんな日に出かけなくたって」と思うが、昨日は茨城まで墓参りに行ってきた。

  知人の命日であったのだが、久々に日中の霜柱を見た。寒い寒い日だった。 寒くたって暑くたって予定を変更することはまずないボクだが、外出する時に一番嫌だなあと思うことは「寒いこと」だ。

「え?今までの話は?」と思われるかもしれないし、「そんなの誰でも同じだ」そう思われるかもしれないが、車椅子に乗ってみて「ああそうか」と思うことがあった。地面からの熱や寒さが直にやってくるのだ。伝わってくる。実際感じてはいないのだろうが「冷気」という何かに包まれていく感じ。

 そうなると、今まで気が付かなかったが、ベビーカーの赤ちゃんや、小さい子たちもそうなのかもしれないな。
 寒さはジンジンやってくる。特に動かない足は外から帰ってきたら氷のようだ。

 大体においてボクは体温調節が自分でできない。
 色々な部分の脳が壊れて機能しなくなっているが、これは結構きつい。異変に自分で気付けないことが一番の難点だ。

最近外出した時の一枚
(写真・本人提供)

 春先になってちょっと油断していると「寒い寒い」。そう思って上着や布団をしっかり着込んでいると朝、熱が出ている。
「37.9度」朝のヘルパーさんが告げる。「神足さん熱があります」そう騒ぎになる。

「ああ、この季節がやってきたか」
 ここから夏の間「ちょっと暑いなあ」という夜に、熱がこもって体温が上昇する。エアコンをかける頃になればそういうことも起きないわけだけど。「もうエアコンの季節なのね」。そう思う。

 夏だって車椅子で長く外にいれば同じ現象が現れる。発熱。気温が30度越えの時に外にいたら、地面の温度は40度近くになる時もあるそうだ。そうだよなあ。体温調節ができる人だって歩いている人だって大変だ。

 最近、コロナ関係で店の入り口で体温を測ることがある。まあ、車で出かけてそのまま店内に入れば同行の妻もボクも35.9度とか「低!」って笑うけど。まあ熱がないことがわければいい。

 けれどちょっと歩いて店に入ると同行者「35.5度」、ボクは「LO」というエラーが出る。「もう一回お願いします」そう言われて何回かのエラーの後「34.8度」。「???」人間の体温ではない。ボクらはわかっているから「体温低いんです」そう入って店に入る。
 最近の顔認証のような体温計は「予測体温」だし、表面温度を測るシステムだから仕方ない。
 なので、我が家の体温計はおでこでの予測体温計の他に脇に挟むタイプの電子体温計もおいてある。

 けれど、春先になると先の「発熱」騒ぎを起こす。
 暑い夏は、まだまだ対策があるのだけれど「寒さ対策」はなかなか難しい。厚着もするし股引きも履く。あったかいと言われる下着もつける。ホカロンだって足裏や背中に貼り付ける。問題は麻痺があってホカロンなどはかなり注意していないと火傷してしまう。

 と言っても、外出好きなボクは外に行く。「なんとかしたいなあ」と家族も最善を尽くしてくれているが、ジワジワ下から伝わってくる寒さが襲ってくる。

 昔「未来の歩けないボクがこうなる」っていう絵を描いた。ドームみたいなカプセルに(宇宙服みたいな)入って、それが不自由なところのアシストをしてくれる。聞こえない、喋れなくても、みんなアシスト。
 暑さ、寒さの調節も全部やってくれるっていうふうになるんじゃないかなって思ってる。

未来の自分を描く神足さん
(写真・本人提供)

 それが開発されるまでの間は、体温調節が出来ない体をどうにか騙し騙し気をつけながら外出しよう。

「うんと大変だった事態」を考えて外出の準備をする。

神足明子(妻・介護する側)

外出で車椅子はいつも悩みの種

「赤ちゃんじゃないんだから」裕司はそういう。

 いやいや、赤ちゃんだったらこんなに荷物は多くならない。皆さんはどうしているんだろうか?私が心配性なだけなのかしら?

 出かける時の荷物である。

 尿意のない裕司は普段オムツを使用している。
「出先で、ズボンまで汚してしまったらどうしよう」「出先で、便意を催したらどうしよう」赤ちゃんを育てている時のように、一通りの着替えとオムツの替え、パッド、お尻拭きなどをポーチに詰める。
 ポーチと言ったって赤ちゃんのように可愛らしいものではない。結構な大きさになる。この「非常時ポーチ」を使用したのは 20回出かけて1回あるか、ないか。「じゃ、いらないんじゃないの?」そう思うけど、その20回に1回の「うんと大変だった事態」を考えると持って出る。

 そんな準備をいつもして出かける。

外出時の非常用ポーチ
(写真・本人提供)

 外出といえば、車椅子はいつもいつも悩みの種である。レンタルだからいけないのかしら?車椅子乗りのパパの友人は、確かにみんなマイカー(マイ車椅子)。
 今までにも何回か自分専用車を作ってみようと試みたこともあったのですが、裕司はすぐ病気をするので、体の状態が恐ろしいくらいに変化する。なので、自宅に出入りする専門家が「ちょっと作るのはねえ、、、」と口をモゴモゴさせる。
 で、結局マイカーの話は立ち消えになっています。

 大体裕司は車のカタログを見るように車椅子のカタログを見ては「かっこいい車椅子」はないか探しています。かっこいい車椅子は大抵自走式。裕司のような介助用、しかもレンタルとなったら、デザインの優れた車椅子は少ないんです。ないと言ってもいいくらい。

 それが2ヶ月くらい前の話。車椅子の勉強をするためネットで色々検索していた裕司。「ねえ、すごいの見つけた!!」そこにあったのは、Wheeliy(ウィーリィ)というあのボールなどを作っているスポーツ用品メーカーmolten(モルテン)が作っているかっこいい車椅子。これはもう4年ぐらい前に発売された時、moltenの東京営業所に行って試乗させてもらった。「すぐにでも購入したい」とまで裕司は考えていました。

 ですが、介助者の手元にサポートブレーキをつけられないとおっしゃる。まだまだ自走式の車椅子として作られていたものでした。そのWheeliyが「介護保険福祉用具貸与品に指定されてる!!!しかもオプションでサポートブレーキもついた」そう興奮気味に嬉しそうにいうのでした。
 それから「チーム神足」に、ケアマネさんを中心にレンタルWheeliyを探してもらいました。

 迷走。

「どうやら神奈川では扱ってないらしい」「諦めてください」「じゃ、メーカーにどこに卸してるか聞いてみる?」色々あったらしいですが、1ヶ月以上たってつながって、ようやくレンタルWheeliyが我が家に今日やってきました。

 福祉用具の会社が扱っている業者を一生懸命探してくれたそう。「まだまだレンタルでこれを借りている人はいないと思いますよ。」裕司はめちゃくちゃ喜んでいました。
 ですが、今日のところではサポートブレーキがついていない。それは我が家の最低条件なのです。これから、サポートブレーキがつくかどうかで、この「かっこいい車椅子」に乗って出かけられるか。

 乗れるようになったらいいのになあ、と願っています。お出かけも「カッコよくおしゃれをして出かけたい」裕司の思いを、是非少しでも叶えたいと思っているからです。洋服でおしゃれもしたいし、車椅子もおしゃれにしたい裕司なので。裕司のお出かけで大切だと思っている乗り物と持ち物のお話でした。

届いたばかりのWheeliyとドレスアップした神足さん
(写真・本人提供)

神足裕司

こうたり・ゆうじ●1957年広島県生まれ。大学時代からライター活動を始め、グルメレポート漫画『恨ミシュラン』(西原理恵子さんとの共著)がベストセラーに。クモ膜下出血から復帰後の著書に、『コータリン&サイバラの介護の絵本(文藝春秋)』など。

神足明子

こうたり・あきこ●1959年東京都生まれ。編集者として勤務していた出版社で神足さんと出会い、85年に結婚。1男1女をもうける。

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