コータリさんの要介護5な日常

<毎月第2・4火曜更新>2011年、突然のくも膜下出血により要介護5となった神足裕司さん(コータリさん)と、妻の明子さんが交互に綴る「要介護5」の日常。介護する側、される側、双方の視点から介護生活を語ります。

連載第25回「我が家の一大事」

洗濯機が壊れてはじめて「そんなに洗濯してたのか」と気づく。

神足裕司(夫・介護される側)

介護とは「匂い」が気になるもの。

 洗濯機が壊れた。我が家の一大事だ。

 ベビーのいる家もそうだと思うが、洗濯機がない生活なんてボクの家では「1日でも耐えられない」と妻。
 もっと若くって血気盛んな頃だって、今のようにシーツや枕カバーを変えていただろうか?
 それにパジャマや、朝ヘルパーさんがきたら体を拭いてもらう。顔を洗う。何枚タオルを使うことか。服だって下手をすれば「神足さん、汗かいてますね」と 1 日の途中で着替えたりもする。

 ありがたいことだ。「人の目が入る」ということは、そういうことだ。自分が普通に生活していたらそんなに着替えないだろう。

 妻は、ボクが寝たきりになってから「部屋の匂い」をすごく気にするようになった。介護というのはそういうものだ。色々な匂いがこもる。そうならないように、ホント感心するほど洗濯をするのだ。窓を開け放ったり、アロマに凝ったりもしていた。
 色々な洗剤を試すのはもちろん、洗濯グッズは昔懐かしいタライから、色々取りそろえているらしい。
 介護生活が始まって意外に重宝したのがアメリカで買った丸洗できる布団たち。羽毛の布団も洗えるので良いらしい。けれど羽毛は洗いすぎてへたった。アメリカ製の布団は洗濯に強い。タオルケットのように洗う。

 そうそう、布団の丸洗いができるように今の洗濯機を買った。8 年前ぐらい。11 キロ洗えるドラム式。ガラガラ。毎日大量に洗う。洗濯機に頼りきっている。

壊れてしまった神足家の洗濯機(写真・本人提供)

 実はこうなるまであまり気が付いていなかったが「洗濯機が壊れた」と大騒ぎをする妻を見ていて「ああ、そうか、そんなに洗濯してたのか」と申し訳ないような、逆にそんなに気になる匂いがするものなのか、、、とショックだったりもする。
 まあ、仕方ない。「自分の匂いには気がつかないものだ」そう原稿に書いていたら、「そうならないように気を使ってるんだから、変な匂いはしないよ」と妻。

 洗濯もさることながら、風呂もシャワーも頻繁だ。「パパ、シャワー行くよ」ベッド上で何か飲んでいてこぼしたりでもしたものなら「ええ、朝入ったばかりなのに、、、」着替えて体を拭くよりもシャワーで洗い流したほうが早いそうだ。

変な匂いはしないらしい。よかった、、、。

 1 日も早く洗濯機を治したいと連絡をして、その日の 21 時に電気屋さんがやってきてくれた。その方によると、洗濯機は 4700 回まわすとどこか壊れるものなのだそう。毎日 1 回から 3 回、必ず使っていたらちょうどそんなものだ。壊れる時期。

 先に話した通り大きい洗濯機だ。今の洗面所に入れるときドアを外して入れてもらったほど大きい。出すときもドアを外さなければならないそうだ。大仕事だ。

「直すよりもう 8 年経ってるから買い換えたほうがいいとは思うけど、、」と電気屋さん。妻のため息で電気屋さんが「直してみましょうか?分解して、できなかったらごめんなさいだけど」とまた来てくれることになった。

 ボクは、汗だくになって洗濯機と格闘してくれている電気屋さんと妻を見て「介護してもらうってこういうことなんだな」って、うまく言えないが申し訳なく思ってしまった。

大きな水色の洗濯カゴはすぐいっぱいになってしまいます。

神足明子(妻・介護する側)

洗濯は嫌いな方ではないけれど

 先日のコラムで、「昔の生活と介護生活でどこが変わったかといえば『洗濯物がたくさんになった』」という話を裕司が書いていました。

 そう、介護生活になり洗濯物は本当に多くなりました。

 ヘルパーさんに「モーニングケア(朝の着替えや歯ブラシなどの準備をそう呼ぶらしい)」をしてもらうと「体を拭く」「お下を清潔に拭く」「顔を拭く」「髭を剃る」もうそこで4枚のタオルが使われます。

 「体や顔を拭くタオル」「下の専用のタオル」。洗っちゃえば同じなのだけど、なんとなく分けて積んであって、それを使ってもらいます。
 もちろん朝は、汚れていてもいなくても、洋服、下着、靴下も「全取っ替え」。1日おきぐらいに、防水のラバーシーツやシーツ、枕カバーも変えます。もちろん失禁や、水をこぼしたなんて時は、1日に何回も、ということもあります。
 日中に来てくださるヘルパーさんが汗など色々気を使って着替えさせてくれることもしばしば。夜も同じく。

 大きな水色の洗濯カゴはすぐいっぱいになってしまいます。食べこぼしのしみや、謎のしみ。カラー用の漂白剤につけるもの。白物の漂白剤がいいもの。
 「これって混ざったらいけないんだっけ?」脱色や色移りしてしまったり、失敗は数知れず。
 洗濯は嫌いな方ではなかったけれど、大量の洗い物です。
 その原因の一つに失禁があります。
 本当にたまのことですが、失禁してしまうと、シーツから全て「全取っ替え」が待っています。

 「介護しているお宅は毎日こんなに大変なのかしら?」「オムツの当て方が悪いのかしら?」「オムツのサイズがあってないのかしら?」
 疑問が沢山生まれます。

 そんな時、馴染みのヘルパーさんと雑談するのですが、人によっておっしゃることもまちまち。私がゆるいと感じているオムツのサイズ、人によっては(漏れるから)「大きいサイズにしたほうがいい」とか、「こんなパットを用意してください」とか。「あるものでやるんでなんでも大丈夫」って仰る方もいます。
 経験で色々感じて教えてくれているんだと思います。

 オムツを扱う会社の白十字さんで「当て方レクチャー」に何度か参加しましたが、「足と股の間にしっかりおむつを密着されていればほとんど大丈夫」と習ったことがありました。パットを重ねたり、大きすぎて隙間ができてしまうサイズは、NGと習いました。今でもその教えを守っているつもりなのですが、違うのかしら?

 とにかく、部屋に入ってきて「ん??」という匂いがしないように、洗濯は毎日続きます。「洗濯が嫌いでなくて良かった」と思う今日この頃です。

洗濯用洗剤や漂白剤がずらっと並ぶ洗濯コーナー。(写真・本人提供)

神足裕司

こうたり・ゆうじ●1957年広島県生まれ。大学時代からライター活動を始め、グルメレポート漫画『恨ミシュラン』(西原理恵子さんとの共著)がベストセラーに。クモ膜下出血から復帰後の著書に、『コータリン&サイバラの介護の絵本(文藝春秋)』など。

神足明子

こうたり・あきこ●1959年東京都生まれ。編集者として勤務していた出版社で神足さんと出会い、85年に結婚。1男1女をもうける。

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