コータリさんの要介護5な日常

<毎月第2・4火曜更新>2011年、突然のくも膜下出血により要介護5となった神足裕司さん(コータリさん)と、妻の明子さんが交互に綴る「要介護5」の日常。介護する側、される側、双方の視点から介護生活を語ります。

連載第24回「雨の日の外出」

こんなに天気に左右される身になるなんて想像もできなかった。

神足裕司(夫・介護される側)

雨の日は家から外に出ることが滑稽なほど大変。

 今年も梅雨の季節が来た。

 今日は、台風の影響で雨、風が随分ひどいようだ。
 あいにく窓から外の様子はベッドから見られないのだけれど、窓ガラスが地響きのようにぶるぶる震えて、雨が当たっている。こんな日はもちろん「普通の人」でも、不要不急の方は外に出ないのだから「ボクみたいな人間」は外には出られない。(とあきらめる)
 大雨でなくごく普通の雨の日でも、外に出るのは大変だ。
 雨具グッズも各種取りそろえ、試してみている。

 まず、家から外に出るのが第一関門で、玄関から門までの 12 段の階段。「スカラモービル」という車いす用階段昇降機を使用しているのだが、もちろん雨の日には推奨されていない。
 傘を差さなくても平気なほどの雨ならば、どうにか昇降機を使用して降りてしまうこともあるが、ちょっと強い雨の場合はマンパワーに頼る。階段を車いすごと降ろしてもらうのだ。それができるヘルパーさんにお願いする。

昇降機に乗っているところと雨具をつけている神足さん。(写真・本人提供)

 どうしてもその日に出ないといけない用事。大体が取材だったり、遠方から来られたずっと前から決まっていた方と会ったり。ずらせない用事なわけだ。

 こんなに天気に左右される身になるなんて想像もできなかった。
 ボクは、雨具によって完全防備される。が、もちろん車に乗り移るときに座るところも濡れるし、カッパを脱ぐ。それを現地についてからも使用するために持っていく。びしょびしょだ。

 そして同行してくれる人は常に濡れてしまう。車いすを押せば傘はほとんどさせない。家を何とか出られても、現地で駐車場と待ち合わせの場所が離れていれば今度は、ヘルパーさんなしで同行者(妻)が車を止めて、移乗させて、、、。
 まあとにかく思い出すだけで滑稽なほど大変なのだ。

「こんなとこを指定してくるなんて」「雨ならビルの中に駐車場があるようなところに、せめて待ち合わせの変更をしてくれればいいのに」と心の中で思ってしまう。

 車いすの経験がなければ、そんなこと、思いもよらないのだろうけれど。そして、それはこちらのハンデーキャップによる都合なわけで、なかなか言いずらい。
 最近車いすの知人にそんな話をしていたら、「神足さん、相手は気が付かないのだよ、言わないと。だから遠慮しないで『場所がそこじゃ不便だ』と言わなきゃ。」それが普通のラインらしい。そんなラインがわからない車いす初心者のボク。

 いや、もう 10 年もたつのだから、初心者ではないはずだ。でも介護される側からしたら「これは言ってもいいライン」「これはわがままなライン」の判別ができず、とちょっと悩んでしまう。

 もっとずけずけものを言える人間だと思っていたんだけど、そうでもないらしい。

外出時の最低限の下調べは「介護する側」の大事な準備。

神足明子(妻・介護する側)

さまざまな理由から車での移動が多くなる

 外出の場所決め、我が家の場合、車での移動がほとんどなので「車が止めやすいところ」が第一優先になります。

 逆に行き場所が決まっている場合は、近くに駐車場がないか探します。今は、便利な世の中で、Googleマップなど、現地の地図とともに写真で確認できるので「車椅子で動くのにはどうなのか?」などいったことのない場所でも事前に確認できることが多いです。
「そんなことはごく普通のこと」かも知れませんが、私たち夫婦、以前は「ちょっと時間に余裕を持てば行ってみてどうにかなるね」そんな性格だったのです。今は最低限の準備を私はします。「雨に濡れないように」
 ビルに繋がった駐車場はないのか?そのパーキングから目的地までに坂はあるのか?パーキングの前の道は車椅子に乗るときのスペースはあるのか?そんなことをネットの写真(地図)で確認します。それは私の「介護する側」の大事な準備です。
 車にするか、公共機関にするか?我が家が、最寄り駅までバスを使わなければいけない立地ということもあると思いますが、車を選ぶことが多いです。

 先日、家族旅行で蓼科の方へ行ったのですが、車を使わない場合、タクシーかバスで最寄り駅まで。田園都市線から中央線を乗り継いで、特急に乗り換えて茅野まで。そこからまたまたタクシーか送迎バスで、と。
 実際移動して何回も座り直して、本人が一番大変なのですが、車椅子の席を予約したり、ホームでスロープを用意してもらったり、タクシーに車椅子が積めるか心配したり。「介護する側」の調べることは、なかなかたくさんあります。「そのぐらいの距離だったら、自宅の車で、行っちゃったほうが楽なんじゃないの?」が私の本音です。運転が嫌いではない方ということもありますが、煩わしいことが一気に解決。しかも一番近くまで直接行けます。
 8月に大阪、神戸方面で取材があるのですが、新幹線で行くのが楽か?車が楽か?その辺りまでならどっちかな?と考えるほどです。

 車椅子乗りの友人にそんな話をしたら「信じられない、絶対電車の方が楽じゃない?」とのことです。でも荷物を持って車椅子を押していろいろな手続きをして、と考えたら、私的にはそれの方が大変なのだけど。
「やっぱり車椅子を自走できるかできないかでずいぶん話は変わってくるのですね」とその友人に言われてしまいました。「まあ、明子さんが若いうちの話かもね」

 そうかも知れないなあ、長距離運転なんてもうできなくなるかも知れません。外出のほとんどを車に頼っています。そのために介護車にもしました。裕司が取材で出ることがあればやっぱり車に頼ってしまいます。それは私の都合でもあると思います。

電車と自家用車での外出の様子。(写真・本人提供)

神足裕司

こうたり・ゆうじ●1957年広島県生まれ。大学時代からライター活動を始め、グルメレポート漫画『恨ミシュラン』(西原理恵子さんとの共著)がベストセラーに。クモ膜下出血から復帰後の著書に、『コータリン&サイバラの介護の絵本(文藝春秋)』など。

神足明子

こうたり・あきこ●1959年東京都生まれ。編集者として勤務していた出版社で神足さんと出会い、85年に結婚。1男1女をもうける。

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