コータリさんの要介護5な日常

<毎月第2・4火曜更新>2011年、突然のくも膜下出血により要介護5となった神足裕司さん(コータリさん)と、妻の明子さんが交互に綴る「要介護5」の日常。介護する側、される側、双方の視点から介護生活を語ります。

連載第23回「諦めること」

色々なことに制約があっても悲劇的になることはない。

神足裕司(夫・介護される側)

本当にすごいと思うユニバーサルデザイン。

「こういう身体になって、「諦めること」も多くあるんじゃないですか?」

 そうたまに聞かれることがある。

 結局、仕事は昔通りにはいかないし、遊ぶことにだって制約がある。「諦めること」なんてしょっちゅうだし、でもそれで、悲劇的になるわけでもない。

 ディズニーランドが40周年を迎えた。本格的に仕事を始めたばかりの頃、開業したディズニーランドに興味がないわけではなかったが、「取材でもない限り行くこともないだろうなあ」と思っていた。

 が、ディズニー好きの妻と結婚して、ディズニーは身近なものになった。彼女は学生時代からアナハイムのディズニーランドにもフロリダにも行った筋金入りだ。オープンセレモニーにも雑誌社でご招待も受けた。色々な側面を取材してきた。もちろんボクが障害を持ってからも取材に出かけた。

 一番驚いたことは「障害者割引」ができたこと。

 昔から、ディズニーランドのユニバーサルデザインというのは本当にすごいと思っていた。
 トイレ(多目的レストルーム)には、ボクが寝られるサイズのベッドがついていたし、男女どちらの人でも使いやすいよう、男子用トイレ・女子用トイレの真ん中に配置されている。もちろんユニバーサルデザインなので性的マイノリティーの方にも配慮されているわけだ。
 今はないが、水飲み場も大人用・子供用を高いところと低いところに配置していたが、それはおのずと車椅子に乗った人への配慮にもなる。
 様々なところにバリアフリー(ユニバーサルデザイン)が施されている。
 そのディズニーランドは、「障害者も同じお客さま」そういうポリシーなのだといって障害者割引はなかった。
「へー思い切ってるなあ」と思ったが、あれだけ徹底されたユニバーサルデザインを見れば納得もいく。そう思っていた、、、、、が、それ以来取材を残念ながらしていないので、わからないのだが、2020 年から障害者割引ができたようだ。

 ある時、美女と野獣“魔法のものがたり”というライドに乗ろうと思って入り口まで行った。そこで「火災があったらキャストは一切お手伝いできないのですが、同伴の方だけで避難できますか?」「段差が3段ありますが」など最初から「あなたは無理です」とはいわない。
 こちらが諦めるまでずっと危険な事例をいい続ける。最初はよく分からずに聞いていたが「じゃ無理ってことですよね?」と同伴の者が聞いた。前にいた車椅子のカップルの状態とあまり大差ないとボクは思ったからだ。全く歩けないボクとその彼。こちらは女性の同伴 2 名。あちらは彼女。なんで彼は乗れてボクは乗れないと判断されたんだろう?ボクが年寄りだから?
 いや、キャストの方は「ダメだ」とはいってはいないのだけど。
「じゃあ、乗れないのですね?結局」そうもう一度念を押すと、違う事例を出して説明を始める。逆に「大丈夫です、私たちが責任を持ちますから」そういえば良かったのかもしれない。キャストもあの役をするのは、毎日きっと嫌な思いをしているんだろうとも思ったり。夢の国でアトラクション裏の機械の話をされ、構造の話をされ、無理とは決していわない。こちらから諦めるしかないなあ。
「わかりました、ちょっと考えてきます」「そうですね、お待ちしています」といって別れた。

 夢の国なのに後味はちょっと悪い。まあ、そんな感じのささやかな諦めは日常茶飯事ではある。

ディズニーランドの乗り物は断念したが屋形船は楽しめる
(写真・本人提供)

裕司がやりたいことはできる限りトライしていこうと思っています。

神足明子(妻・介護する側)

「諦めなければならない」場面で感じる疑問

 裕司が「要介護5」の身体になって、本人が諦めなければいけないことを数えたら、いっぱいあるのだろうなあと思います。

 歩く練習だってたくさんしました。もし1、2歩でも歩けたら、さらに言えば支えがあれば歩けるというだけでも、無限にやれることは増えます。
 しゃべることができたなら、仕事はもっと多岐に渡ってできたかもしれません。

 必死でリハビリもしていたし、その真剣さは、見ていて涙が出てくるほど頑張っていました。金銭的な問題から諦めたリハビリもあるし、「ああしてあげられたらもっとよかったかも」そんなことは山ほどあります。
 でも、我が家で、できることはすべてやってきたつもりです。だけど、ちゃんと歩けるようにはならなかったし、しゃべれるようにもなりませんでした。

ロボットスーツHAL®を用いてリハビリをする神足さん
(写真・本人提供)

 本人が「もっとこれをやりたい」「試していきたい」そう感じることがあるのなら、できる限りトライしていこうとも思っています。「諦めないでほしいなあ」と思っているし、やりたいと言っていることはできる限りサポートしていきたいとも考えています。リハビリに限ったことではなく、生活の中でもさまざまな「できないこと」は健常な頃よりはあると思います。

 それに「決まり」という社会のルールというか、、、偏見も含めて圧力に阻まれることがあります。

 たとえば、昔のようにごく普通の旅を自分でしたいと思って計画しても、安い航空会社を使おうと思うと「ここまでしかお手伝いはできない」なんていう制約があることもあります。
「じゃ、パパは無理だわね」と諦めなければなりません。すると自由度はちょっと下がります。
 障がいを持って乗るのだから手もかかります。「この安さにはそのお手伝いは入っていませんよ」ってことなのかな?当たり前のことのもかもしれませんが「諦めて」ちょっと高額なチケットを購入します。

飛行機で着席のサポートを受けているところ
(写真・本人提供)

 諦めたってことなのか?なんでダメなのか?どのラインがダメだと思われているのか?
 ディズニーランドのライドの件も「もしもの時は死んでもいいです」という誓約書でも書けば乗せてくれるのか?災害ではなくともライドが途中で止まってしまったら「這ってでも自力で逃げますから」と言えばいいのか?でもそれができないならやっぱり乗っちゃダメってことなんだよね。他の皆さんに危険が及ぶかもしれないのだから、など裕司も考えて調べています。

 それは、当たり前のこと?こんな身体だから諦めなければいけ合いの?細かな諦めなければいけない場面で「なんでだろう?」と疑問に思います。

 でも裕司は「これなら大丈夫」そのラインを自分のためにもみんなのためにも試してみたいと言っているので、諦めたわけではないのかも。
「諦めてないよ、ちょっと考えているだけ」と言われそうです。

私が諦めていること?あるかなあ。今のところないかな。

神足裕司

こうたり・ゆうじ●1957年広島県生まれ。大学時代からライター活動を始め、グルメレポート漫画『恨ミシュラン』(西原理恵子さんとの共著)がベストセラーに。クモ膜下出血から復帰後の著書に、『コータリン&サイバラの介護の絵本(文藝春秋)』など。

神足明子

こうたり・あきこ●1959年東京都生まれ。編集者として勤務していた出版社で神足さんと出会い、85年に結婚。1男1女をもうける。

コータリさんと明子さんへの応援メッセージ、取り上げてほしいテーマをお寄せください。

ご意見・ご感想はこちら

バックナンバー

コータリさんの要介護5な日常TOPへ戻る