コータリさんの要介護5な日常

<毎月第2・4火曜更新>2011年、突然のくも膜下出血により要介護5となった神足裕司さん(コータリさん)と、妻の明子さんが交互に綴る「要介護5」の日常。介護する側、される側、双方の視点から介護生活を語ります。

連載第26回「我が家の一大事②」

熱中症はあっという間になる。

神足裕司(夫・介護される側)

体温調節ができないボクは本当に注意している。

 もう1ヶ月ぐらいになるか、落ち着かない生活が続いている。

 おかげさまで、コロナな生活が元に戻ってきて、地方への取材もふえて来たこともある。
 が、ベースの家のエアコンが使えなくなり「やばいな」そう思った矢先に、まず義母の具合が悪くなった。元々調子が悪かったそうだが、エアコンなしの4時間ぐらいであっという間に「くるくる目が回る」そういい出した。

 その日は日曜日。

 妻は「ん〜とりあえずみんな車に乗って!どうするか、、、一応泊まる準備をして出よう」
 エアコンが効いている車の中で「どこかでご飯でも食べて考えようか?」「それともホテルでも取って一応避難場所を確保しようか??」「こんな熱帯夜にエアコンのない家で過ごすのは無理。誰かの家に避難か?」と思い浮かべるが「こんな大人数で、しかもボクの体の状態を考えたら、ごろ寝でいいからってところにも行けない。少なくともベッドは必要となる。迷惑かけるしなあ。無理だなあ」と思う。

「ホテル取ろう、今のままじゃ、お母さんが無理だ」と妻。

 義母は車の中で、OS-1を飲んで「もう大丈夫よ」というぐらいまで戻った。
 病院に連れて行ったほうがいいんじゃないか、と悩んだけど「大丈夫、大丈夫」と本人がいうので、検索サイトで調べてみたら「医療機関に連れて行ったほうがいい症状」というのがあげられていた。

・本人の意識がはっきりしない
・自分で水分補給ができない
・水やナトリウムを摂取しても症状が良くならない

 そうなった場合は、医療機関にかかったほうがいいそうだ。もちろん、ボク達だって「そうなると救急車かもなあ」という症状だ。
 今回は妻が義母の様子をみて「大丈夫そうだね、じゃ、ホテルを取って向かおう」と判断した。

 熱中症というのはあっという間になる。今回の義母は、調子が前からよくなかったというのもあるが、体調が悪ければなおさらである。

 ボク自身も何年かに一度は、入院騒ぎになったり、家で点滴をする事態に見舞われている。本当に注意していてもだ。
 エアコンもつけているし、水分補給も量を測るようにして、ヘルパーさん同士でもボクの水分摂取量の連絡を密にしてもらう。

  でも、それは、急に襲ってくる。

 ボクの場合は、体温調節もできないのでなおさらだ。
「神足さん、38.4度あります」
 ああ、またやっちまったか。

 とにかく水やお茶を飲むのが不得意なボク。
「飲みたくないんだから」「そんなに飲め飲めって言われたって飲めないよ」

 飲ませるのを諦めちゃうヘルパーさんもいるし、根気よく付き合ってくれるヘルパーさんもいる。申し訳ないとは思っているけど「そんなに飲めないよ」

「パパ、また入院になっちゃうよ、嫌でしょ?」
 妻の言葉で嫌々もう一口飲む。
「はいもう一口」
 子供騙しのように「あと一口」というのを5回ほど繰り返す。
 ベッドの上で、いつのまのか熱中症になっているってことも多々ある。

 よく「首筋などの三大局所冷却部を冷やす」というのを聞いていた。子どもが熱を出したときに初めて習った。

・首の前がわ左右。
・両脇の下 
・足の付け根の前側。

氷枕や、外なのでない場合は自販機のペットボトルで冷やす。

 あと意外なのは、手のひらと足の裏。
 ここには普段閉じていて、暑くなると開いて体温を下げてくれる血管があるんだそう。冷たいペットボトルを手で握るだけでも効果があるのだそうだ。

 これならすぐできる。保冷剤を手で握るのだ。

 義母なんかもそうだけど「暑いということ」になかなか気がつかない。暑くて汗がたらたら流れてくるならば、熱中症に気がつきやすいが、そんなわかりやすいものではない。

 昔ながらの10時のお茶飲み、3時のおやつの時間は、大切なんだなあと実感する。

保冷剤を握る神足さん。(写真・本人提供)

アクシデントがあると、歯車がうまく回らなくなってしまいます。

神足明子(妻・介護する側)

コロナ前とは勝手が違う

 あれやこれや、小さな事件が続いて、なかなか落ち着いていられない1か月でした。

 高齢者や裕司のように病気で要介護者になったら、具合さえよければゆっくりと時間がながれるんじゃなかった?
 まあ、我が家は特殊で、動けないはずの裕司が仕事であちこち飛びまわったり、コロナの制限が解除され、仕事の外出が増えたこともあります。
 だけど、コロナ騒ぎが始まった3年前とはちょっと違います。

 それは、私も両親もちゃんと年を取ってしまったこと。

 両親は、コロナのせいで足腰が弱るスピードがぐっと速くなってしまったと思います。3年前とは勝手が違います。

 そして、今月のように「エアコンが動かない」とか、私を含む4人のうち「誰かの具合が悪い」なんていうアクシデントがあると、歯車がうまく回らなくなってしまいます。些細なことでも毎日のルーティーンが狂うのです。

アクシデントに備えて用意している熱中症対策グッズ。首につけるものから帽子の中に入れるものまでさまざま。(写真・本人提供)

 ばたばたしていている間にあっという間に1日が終わってしまいます。
「そりゃ、一人でも大変なのに、3人も家に要介護者がいるんだもの」
 そう友人に言われますが、のんきな私は「大変だあ」と普段はそう思っていません。
 それは、両親に、年を取っていろいろ自分でできなくなってきたり、「あれ?認知??」とうっすらと分かっていても普通扱いして普通に生活をしてもらっているからかもしれません。高齢な両親や動けない裕司に協力してもらって、日常が流れているのです。

 だけど今回のように、頭で計画していることの半分もうまくできていない日々が続くと「いやはや、どうするかなあ」と夜中に思いをめぐらせます。

 まず思い浮かべるのはケアマネージャー(ケアマネ)さん。

  実際ケアマネさんに相談すると、半分ぐらいは解決できるのです。
 我が家の敏腕ケアマネさんは「いろいろ悩んでいないで声に出して相談してください」そんな心強い言葉をくれます。「もっと弱音を吐け」と友人には言われてしまいます。
 けれど、弱音を言い始めたら「なにかが終わる」とちょっと怖くもあるのです。

 でもやっと日常を取り戻して普通の生活に戻れそうな気配のある我が家。私も普通に戻れそうです。

神足さんの仕事を手伝う明子さん。(写真・本人提供)

神足裕司

こうたり・ゆうじ●1957年広島県生まれ。大学時代からライター活動を始め、グルメレポート漫画『恨ミシュラン』(西原理恵子さんとの共著)がベストセラーに。クモ膜下出血から復帰後の著書に、『コータリン&サイバラの介護の絵本(文藝春秋)』など。

神足明子

こうたり・あきこ●1959年東京都生まれ。編集者として勤務していた出版社で神足さんと出会い、85年に結婚。1男1女をもうける。

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