<毎月第2・4火曜更新>2011年、突然のくも膜下出血により要介護5となった神足裕司さん(コータリさん)と、妻の明子さんが交互に綴る「要介護5」の日常。介護する側、される側、双方の視点から介護生活を語ります。
連載第32回「積み重なるもの」
何人もの人がやりやすいようにやっているから仕方ないとは思うけど。
神足裕司(夫・介護される側)
見て見ぬ振りは良くない。
介護してもらっている身分でこんな些細なことを考えているなんて思われているのもイヤだが、ささやかな「イヤ」が溜まっていって「どうしてもイヤ」になっちゃうんだろうなあ、とも思うのであえて書く。
ボクは、ご存知の通りそんなに綺麗好きというわけではない。でもね、訳と秩序を持って人には乱雑に見えていたかもしれないけれど、物を置いてあったのだ。
だから、例えば見るに見かねた妻がちょっと片付けたりしたら、途端にわからなくなる。「あれ?あの資料はこの山の途中にあったはずなんだけど」てな具合だ。
話は逸れたがそんな綺麗好きではないボクが、ヘルパーさん「片付けて欲しいなあ」と思うもの。おしもの世話で必要だったのだろうか、トイレから持ってきたトイレットペーパー。使いかけのものが体をケアするセットの洗面器の下とかに何個も入っている。「使わないでそこにずっとあるんだろうなあ」とか思っちゃう。「そこにタオルを置いていってどうするの?」とかね。
何人もの人がそれぞれ自分のやりやすいようにやっているから仕方ないとは思うけど、妻もそれにはいつもは気がつかない。普段そのセットを使わないからだ。そのセットは布のボックスに洗面器2個、おしもを洗い流すボトル、ボディソープや床を濡らさないためのレジャーシートなどが一式で収められている。主に朝、身体を拭いたり、顔を洗うケアをしてくれる人が使用するのだが、だんだん乱雑になる。
気がついて妻が片付けることもあるし、こまめないつも決まったヘルパーさんが整頓してくれることもある。そんなヘルパーさんは本当に決まった人。毎回片付けてくれても、またぐちゃぐちゃになってるんだろうなあ。いたちごっこである。申し訳ない。笑って「なんで元の場所に物を戻さないんでしょ」と片付けてくれながらボクに言う。苦笑いである。
まあ、部屋だって綺麗なわけじゃないけれど、汚していいというわけじゃないだろ。現状復帰だと思うんだよね。最低。見て見ぬ振りは良くない。そう思うんだよ。
毎日何人もの人がやってくる我が家で「ほんのちょっと」が積み重なっていく。いい方向に積み重なっていけばいいんだけど。
乱雑になってしまう体をケアするセット(写真・本人提供)
車椅子等の専用駐車スペース使用には許可証が必要な国もあります。
神足明子(妻・介護する側)
車椅子での乗り降りには専用スペースが有難い。
些細なことで介護する側の私が「ん〜ちょっとなあ」と思うこと。些細すぎて健常な方は全く気がつかないと思われることです。
例えば、スーパーや空港、さまざまなことろで見かける駐車場の車椅子専用スペース。
よく行くショッピングセンターの車椅子専用スペースには、両脇に車椅子の人を乗せるための、余分な斜線スペースがついていません。駐車してから車椅子の人をおろす設計になっていない、珍しい形です。駐車場内の車道で車椅子の人をおろしてから駐車するシステム。車からおろした裕司を一人きりにして車を停めなければいけないので、いつもちょっと不安です。
でも、この形の良いところは、駐車券を受け取る入口で、車椅子・身体が不自由な方スペースを使いたい旨を係員に伝えるところ。このショッピングセンター入口に近いスペースを、他の人が利用することはできません。「けれどなあ、、、」といつも思います。混雑する有名なショッピングセンターなので、駐車場スペースの確保も大変なのでしょう。
他のスーパーの駐車場などにある、この車椅子マークの所には、三角コーンが立っていることがほとんど。「ここはお身体が不自由な方のスペースです」と示すためです。
これをどけるという些細な動作は、裕司のような「介助がついている障がい者」はまだいいのですが、知り合いの自走している車椅子乗りの方などは「降りることも、どかすこともできなくて本当に困る」とぼやいていました。スペース確保のための三角コーンがとても困ると。
先日、仕事で出かけた先でのこと。車椅子マークの専用スペースに停めようと、通路で一度停止し、車から降りて三角コーンをどかしにいったら、後続車にクラクションを鳴らされ「そんなことに停めんなよ」と怒鳴られてしまいました。「すみません、三角コーンをどかしたらすぐ車を移動します」と謝りましたが、妨げになってしまうのも確かです。けれど、やはり車椅子で乗り降りするのには専用スペースが有難いので、そこに停めたいのです。
アメリカなどでは、その専用スペースを使うには許可書が必要で、フロントガラスにその許可証を貼っていなければ、即違反切符です。なので三角コーンも置いていません。
旅行者であっても、一時的な身体の不具合でも、この許可書は必要書類を持って警察署で手続きをするともらえるのです。その代わり、旅行者でも違反切符は容赦ありません。車椅子であるなしに関わらず、許可証ありきなのです。
そういうものが日本にもあったらいいのになあ、と思ったりします。
注:駐車違反を緩和される許可書は日本でも発行されています。
アメリカ旅行中に撮影した車椅子専用スペース(写真・本人提供)
神足裕司
こうたり・ゆうじ●1957年広島県生まれ。大学時代からライター活動を始め、グルメレポート漫画『恨ミシュラン』(西原理恵子さんとの共著)がベストセラーに。クモ膜下出血から復帰後の著書に、『コータリン&サイバラの介護の絵本(文藝春秋)』など。
神足明子
こうたり・あきこ●1959年東京都生まれ。編集者として勤務していた出版社で神足さんと出会い、85年に結婚。1男1女をもうける。