夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
5月の審査結果発表
兼題「蛍」
初夏の夜、明減しつつ飛び交う。美しく神秘的。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
街灯のぽつと湾曲して蛍
渡邉一輝
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夏井いつき先生より
「街灯」が闇の中に暗く「ぽつ」と灯っています。その灯りは真っ暗な道に沿って「湾曲して」います。ぼんやりとした灯りが、道のありかを示していると言い換えてもよいでしょう。「街灯のぽつと湾曲して」とのみ描写しているにもかかわらず、作者が見た光景は、読者の脳内にそのままの映像として再生されます。
なんといっても巧いのは季語の出現の仕方。最後に「蛍」がぽつんと現れると、この湾曲した道が川のカタチに添ったものであることに気づきます。川音も聞こえてきます。湿った夜の匂いもしてきます。「湾曲」して並ぶ「街灯」の鈍い灯りと、我が身の近くに光る「蛍」。生き物としての「蛍」も川音も腥く立ち上がってきます。
虫籠に動かぬ蛍の匂ひ満つ
あまぐり
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「虫籠に動かぬ蛍」を詠んだ句は山のようにありますが、その「虫籠」に死んだ「蛍の匂ひ」が満ちているという詩的嗅覚。昨夜の乱舞する蛍の光景を思いつつ、「虫籠」に残る黒い虫を捨てる朝です。
蛍火の音なき音に湿る闇
樫の木
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「蛍」=「闇」はありがちですが、「蛍火の音なき音」がリアルな感知。「音なき音」は明滅しつつジワジワと「闇」を湿らせます。「音なき音」によって「湿る闇」という着地が見事な一句です。
ほうたるのぽろぽろ降れば夜が好き
香野さとみ
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本当は夜が嫌いなのです。一人が淋しいから、一人が怖いから、理由は色々あるけど、「ほうたる」が「ぽろぽろ降れば」嫌いな「夜」もほんの少し「好き」になれる。「ぽろぽろ」が切なくて好き。
集金袋に入れて蛍を持ち帰る
小市
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「集金」業務に明けくれた一日。とっぷりと暮れた帰り道で「蛍」に出会います。子どもたちが喜ぶに違いないと捕まえてみたものの、入れるものといえば、空っぽの「集金袋」。静かなほほえみの一句。
足首のざわざわ暗し蛍の夜
富山の露玉
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「夜」だから足下が暗いのは当たり前。が、この句は「足首」が暗いというのです。何だか不穏な気持ちになります。「ざわざわ暗し」という措辞に心がざわつきます。そんな「蛍の夜」なのです。
螢火や汲み取り式の祖母の家有瀬こうこ
螢火や表の鍵を閉めぬ家有瀬こうこ
ほたるほたる月面の罅からほたる一阿蘇二鷲三ピーマン
蛍火の解きし象舎の施錠かも一阿蘇二鷲三ピーマン
蛍もらふ手をやはらかくして硬し一阿蘇二鷲三ピーマン
蛍背に付けしまま待つ男かな可笑式
その中に蛍とは似て非なるもの可笑式
ほうたるを呼ぶは鬼とも木霊とも樫の木
十七年目の記念樹に蛍かな樫の木
この家の鬼門へ一つ大螢亀山水田
指先は濡るるに委す草螢亀山水田
街娼の眼の色したる夕蛍北野きのこ
蛍の焦げたる匂ひ星静か北野きのこ
蛍の夜曲線の夜となりにけり城内幸江
星と水あいだに蛍生まれけり城内幸江
遠野には蛍と話す爺がゐて小市
龍神の髭より出でし蛍かな小市
初ほたる斎王代の触れし水古都ぎんう
蛍飛ぶこの森かつて海だった古都ぎんう
蛍火のあとの点呼のマイクロバスヒカリゴケ
蛍火の漏れて手の中もがきけりヒカリゴケ
原爆の前夜ほうたる乱舞せり古殿七草
緑さんに見られたかった初蛍古殿七草
山彦のもとへほうたる離れゆくまどん
蛍火を割つて発電計画書まどん
ほうたるや父の語るはあの戦争百合乃
初蛍月の匂いを嗅ぎました百合乃
蛍よほたる初めて鶴が折れました座敷わらしなつき(6才)
その先は鬼の棲む山蛍湧くにゃん
手のしめり言い当てらるる初蛍富山の露玉
夜をほどくごとほうたるの軌跡かな 香野さとみ
闇を来てほうたる言葉うばひけり愛燦燦
蛍火や今ぼくは死にたいのかなあいだほ
同僚と鍵閉めし日に蛍をり青海也緒
かむなびの主宿りたる大蛍秋鮭
小夜曲の音符のごとき蛍かな明田句仁子
ジャズとディナー疲れた頃の蛍かな浅田久美子
ほうたるや探したる手の闇深し天野姫城
異国より蛍を売りに来たといふあまぶー
あれこれは置いてつかの間蛍追う文女
蛍火や付き合えたかもしれぬ人或人
ほうたるの光つめたし遠汽笛飯村祐知子
千の目が蛍まだかと待ちにけり池田功
ほうたるや和泉式部の墓多き石井由起子
蛍火や死後5年目の誕生日石川和子
仄暗き土間や糠床蛍籠石山俊道
蛍や娘のむねにとまりけりいずおか
ほうたるやへいあんかなのれんめんと伊介
ひとつぶの光をつかむ蛍籠遺跡納期
古民家に珈琲とあり夕蛍いち瑠
ラルゴ振るタクトの軌跡大蛍斎乃雪
ほうたるや君に暗示をかけませう一斤染乃
銀も金も玉も蛍狩りいっちゃん
幼子の下駄もどかしや蛍道伊藤美歌
佞人こそ長々と生け昼蛍伊予吟会宵嵐
道迷ひ鏡の中のほうたるよ入江幸子
火垂る踏む彼の星たれのものならむうい
友といふ距離をはかりて夕蛍上野眞理
豆鞘をむしる匂ひの蛍かなうさぎまんじゅう
キーボード叩く音して蛍の夜内本惠美子
ふんはりと父の育てし螢抱く江川月丸
闇啜り腹式呼吸蛍の木江口小春
蛍飛ぶや山水今も活く廃家笑草
蛍見やさみしさだけがいつまでも大久保響子
初蛍喉渇くまま退勤す大小田忍
蛍吹く売春宿の少女かな大槻税悦
笹舟は蛍の骸送る舟岡本育子
恒星の最期の光継ぐ蛍おざきさちよ
肺満たす夜気と蛍のふたつみつ越智空子
孤独な木蛍静かに闇を斬る小野田達仁
ほう、ほう、ほうたるこいの休符かな小野寺久眞
手のひらの蛍の体温さぐる闇おぼろ月
森深く月の化身は蛍かな小漣世
宵蛍万座裏手の栄村おんちゃん。
音もなく重さもなくて蛍とぶ開
乳飲み子の眼に映る蛍かな海碧
蛍狩サンダルだめと言ったのに笠原理香
一番は骸を食べている蛍片岡佐知子
蛍火や闇に隠れし水たまりかつたろー。
薮を飛び交う紙手裏剣と蛍克巳
相部屋の蛍談義や雨の宵加藤哲
今はなき阿蘇の大太刀蛍呼ぶ加藤茜
フラスコの底を嗅ぎをる蛍かな彼方ひらく
螢きて寂しき庭のなほ寂し花南天
言の葉のしじまへ消ゆる蛍かなかぬまっこ
渓匂ひ雨の音来る螢来ず亀田荒太
次々と闇調える蛍かなかよ
人魂の熱如何ばかり蛍飛ぶ花夜子
蛍火に妖狐の尾っぽ混じりたる歌鈴
スマホなき鞄の軽さ夕蛍川瀬八弛
夕蛍吾子は嘗めたるあめを手に川端孝子
一席は入賞者なし蛍の夜北大路京介
蛍の光あつめて詩をよむ喜多輝女
食卓の離婚届や初蛍きなこもち
西宮を生きる蛍や工場跡京野さち夫
野の中のカフェにふらりと寄る蛍銀長だぬき
まなうらに蛍を飼っている私ぐ
フクシマの水は苦いか蛍来い空龍
若き肩抱けど蛍かごの螺旋久我恒子
馴れ初めをぼそぼそ祖父母夕蛍葛谷猫日和
ラスベガス突如ていでんして蛍ぐずみ
松陰の生地見たる日初蛍くっちゃん
濡れし眼に父は蛍を母は手をくりでん
蛍狩親戚の知人の夕餉くるみだんご
虚は実に実は虚になり蛍とぶけい子
あれは誰そひときわ高くゆく蛍小池玲子
煌々と蛍の二匹はぐれたり硬膜外
蛍火や横顔好きと言われしも小鞠
酔漢は消えし蛍火探しをり小南子
一山を蛍の鼓動膨らます彩楓
蛍を食べてより身の内に闇彩楓
十までを数えし吾子に蛍飛び紗桜
湿り気の息する蛍の息に添ひ座義永遠
体内で「すん」と音する蛍夏さくら
心中の死体からうまれる蛍桜姫5
蛍火や淡青色の金鱗湖櫻淵陽子
湯あがりの袖の袂の蛍かなさだとみゆみこ
奈良山の大いなる意志蛍の灯佐藤千枝
語り部に蛍の顔のみえておりさとち
改札なき駅舎へ帰り着く螢紗蘭
草の上に光の粒子ほたるかな塩沢桂子
スパルタの部活帰りにつく蛍篠崎彰
蛍のあしたノストラダムスの日しば蒼玉
夕庭の芝濡れにけり初蛍芍薬
湧水の柄杓に蛍のうすみどりじゃすみん
締め馴れぬ角帯の端に蛍かな洒落神戸
やや強く肩を抱かれて蛍狩り惇壹
兵児帯も夜も濃藍さあ蛍来い城ヶ崎由岐子
蛍火や左手首の脈ととと次郎の飼い主
ほうたるやまだ泣き止まぬ赤ん坊真繍
ほうたるのマットブラックの穹を負ふ深幽
オベロンの森に蛍は飛ぶだろかすーぱーまみこ
難産の母牛の声草蛍鈴木芳子
胴裂けし三味線のあり蛍飛ぶ鈴木淑葉
墨堤を走るボクサー蛍の夜鈴木麗門
ほうたるや真つ赤な爪の母が嫌すりいぴい
螢墜つ息があるなら光るはず青萄
ほたる狩りはとこ同士の小さき手手瀬尾ありさ
蛍火について行きたる肝試し惣兵衛
靴紐がほどけて蛍見逃して曽我真理子
夕ほたる幼なじみの結婚式大弐の康夫
川底の小石に蛍火のサイン第二まる安のテン
この橋か蛍に触れしことのあり妙子
ざくざくと帰る砂利道蛍の夜高橋寅次
蛍火のつつむ戦士やひめとなる竹伍
蛍得て少し淋しき運命線多事
ほうたるやもう遠くへはゆけぬ足立川六珈
五右衛門風呂に蛍飛び来る夕べかな田中ようちゃん
腕を這う蛍六本の脚細し田邊由利恵
湧き立つや蛍ぐるりと城の跡田村朋子
光りつつ蛍は闇の匂ひ吐く田村利平
水面の夜蛍が描くこぎつね座田良穂
姑の絶食七日蛍火よ辻が花
蛍型の看板五キロ歩いて川ぼたる綱長井春一
突き出した拳骨の開けば蛍テツコ
蛍火に浮きて腕の疵のあと輝久
妊らず生きるこの国夕蛍土井探花
あの際の螢乱舞はかくりよか土井ヒロシ
三秒に一度蛍の透きとおるとしなり
側溝の迷い蛍と夜話をするとものこゆめ
妻という無言をつなぐ蛍かな豊田すばる
水疼き蛍翔つ夜をあやまたず内藤羊皐
蛍消ゆ世界終末時計の針楠央
せせらぎや洗う絵筆に初蛍直
濡れた葉の匂ひを吸うて螢とぶ中岡秀次
ワイパーに蛍会話の間を埋める中神主税
ほうたるや首輪遺せる軍用犬中原久遠
負け試合グラブにとまる蛍かな中間康博
病室の瓶一匹の蛍かな夏野窓枠
流蛍や再婚しないかもしれない奈良雅子
色街を蛍の川へ戻り舟楢山孝明
眼の塵を舐め取る心地蛍火は西川由野
蛍火や子は暗闇をもてあます24516
蛍ひとつ水なき空に漁りする薫子
飛ぶホタル掴めばホーキボシの匂いぬらりひょん
右耳のつんとつまりて蛍の夜猫愛すクリーム
裏切りの味の苦さよ蛍こい野胡のこ
手を打てば光の波紋蛍の火野地垂木
生命線歩む蛍を放ちけりのど飴
原発の夜にて燈る蛍の火野中泰風
大ちゃんもせんせも老けたな蛍の夜登るひと
精一杯伸ばす蛍を知らない手灰田兵庫
人集りの先椿山荘の蛍パシフィッコ
露天風呂前を晒して蛍追うパッキンマン
蛍火や六代前は名字無く花南天
午後7時車列の先が蛍の地羽巣
片恋はメビウスの帯ほたる舞ふ馬場崎智美
良き男(おのこ)胸に蛍を住まわせる浜けい
この橋を渡れば蛍ほたるほたるはまのはの
螢の吸ひ込む闇の深さかな腹胃壮
蛍火や落とした櫛が見つからぬ播磨陽子
ほうたるや燃え尽したる生き方にはるかん
ひいやりと露一粒の蛍かな春野いちご
鈍行の遅延の知らせ初蛍葉るみ
蛍ほどの明るき生を探しをり柊月子
一葉の写真燃やすや夕蛍柊の花
飴色に昭和の父の蛍籠ひとみ
光らせたし失語の夫の蛍かな雛まつり
死をつまむ指あり朝の蛍籠比々き
谷津の奥闇を食らいて湧く蛍ひふみ
ほうたるほたる明日のパンを買いにゆく姫山りんご
ほたるびや孕む娘の掌にひとつ布杏多
蛍火や口にふくめば苦からむ深草あやめ
蛍火やくノ一潜む古書の市樋口秋水
われしらずさらさら簪夕蛍福留真弓
蛍火はまばら単眼症の吾子福本羽心
踝に水の調べや宵蛍福良ちどり
ほうたるや鏡の中の泣きぼくろ福良ちどり
とらへたるほたるいっぴきたまはりぬ朶美子
こそばゆし手末のぼる夕蛍文月さな女
姫螢火は闇の中で自由冬のおこじょ
伏す母の枕にすうと夕蛍星野茜
振りまはす菜種の殻に蛍かなほしの有紀
螢火が運命線を照らし出す蛍子
思い出の化学反応蛍の夜ぼたんのむら
蛍ならなってもいいわもう一度ボリ
「愛しい」を「かなし」と習う夕蛍ほりぐちみほ
ひらひらと手話は饒舌蛍の夜凡鑽
学習机の裏の蛍の屍骸かな麻衣
「蛍出たぞ」父の声聞く有楽町麻衣
絣織ほたる閉ぢ込めにじみおり真壁正江
蛍火の闇震え訓練飛行牧野敏信
ここからは急がぬ家路蛍待つ眞砂子
夜を分かつ蛍の園に踏み入りぬ間島美穂
恒星へ向かひ上るや一蛍まち眞知子
月の蜜吸うて蛍となりにけり松田てぃ
手に罪の匂ふ蛍を捕まえて抹茶金魚
朝ぼらけ籠の螢を放ちけり松永裕歩
蛍揺れ少し乙女座なまぐさし松廣李子
我を抱く横顔の母夕ほたる松ぽっくり
LED点けてホタルを解剖す真野悠
ため息のやうな曲線蛍かな真夕子
また蛍肩の蛍に惹かれ来る真優航千の母
控えめな蛍あの人だと思う三浦ごまこ
数式にできぬ曲線ほたる飛ぶ三重野とりとり
夕さりに片道切符や蛍狩巫女
防犯カメラ気になってゐる蛍籠みなと
二次元の夜景に沈む蛍かな蓑田和明
山姥の死ねず蛍を友として都乃あざみ
ほうたるの匂ひ開聞岳の風みやこまる
濁り目の犬とひた待つ蛍かな都忘れ
さういへば約束したね初蛍みやこわすれ
やわらかき湯桶の音や夕蛍椋本望生
ほうたるを数えなおせばまた増えて宗澤美子
手の中の蛍は川の匂いかなむらさき(5さい)
蛍や闇は怖くて触れたくてももたもも
じゃんけんの強き君なり夕蛍桃猫雪子
飛び石をはねては子らの蛍調査森田祥子
蛍あり音譜の如き水辺かな八木実
ベガを指すひとさしゆびに蛍かな痩女
ほほ蛍歌ひ蛍と過ごす夜ヤッチー
蛍火や介護尽せし静けさに山田洋子
降り出しぬ蛍観賞会の夕やまちゃん
ほうたるやかすかにきしむ捨て小舟八幡風花
押入れのペットボトルや昼蛍ゆうほ
やはらかな闇を弔ふ蛍かな由づる
白百合の塔の暗きに蛍かな横山薫子
蛍ほたるその軌跡にて籠編めり佳枝
金婚の旅装を解きぬ夕蛍葦たかし
蛍火に半田付けせる青き傷礼山
指させばすでに闇なり初蛍露砂
帰れぬ子ゐるかも知れぬ蛍追ふ若井柳児
我が庭に蛍は来ぬか来られぬか和歌山の勘太郎
小さき手にほうたるの灯のふくらめり鷲尾さゆり
点描として鄙の夜の蛍かな渡邉竹庵
ほうたるやペットボトルで売れる水菊池洋勝
湯上りの髪をたばねて蛍とぶ倉形さらさ
蛍火の宿る居醒の清水かな百草千樹
キラキラとわたしを見てよほたるたちここな
暮れぬうち飛び出す蛍江戸っ子でぃ小島信男
鉄の街歯車の中に蛍無し斎藤太郎
星灯る中蛍火の光りけり晴好雨独
願いごと3つ唱えよホタル飛ぶ知日
蛍がね僕の服にもくっついたちま(4さい)
ほたる火に吸い寄せられて絆かな中山清充
ペンライト下りゆく蛍の谷川へ那須野
少しだけ態と遅れる蛍の火七瀬ゆきこ
かな文字のリズム軽やか飛ぶ蛍松村香代子
高値で鑑賞たるや銀座生まれのホタルまめとかめ
闇泳ぎ瀬を渡りあう螢の火青柳ふみ子
心拍のリズムをなぞる蛍かな綾夏
闇に出で闇に還りし蛍かな居升典子
板書から雅ただよう「蛍籠」磯部美帆
子らの目をあつめてふわり蛍ゆく伊藤節子
清閑の闇にせせらぎ蛍かな上田明子
瀬音きく昼の蛍の息遣いうみの海月
衣替え蛍は光を身にまとい大本千恵子
舞い降りし天女の光り蛍かな占新戸
ほたる火の軌跡航空ショーのごと奥田洋子
光る樹よほたるの寄りて闇の中小野あけ美
水潺々千余の蛍の火流る影山治子
漆黒を切り裂き踊る蛍火かぐりぐり
乱舞する蛍火描く銀河かな小林啓子
朝の尾瀬平家蛍は靄の中木村邦男
せせらぎの葉裏に明滅蛍かなさがの
ゆうるりと草間に灯る蛍かなさとう菓子
ほろよいの瞳にゆれる蛍かな杉山理紀
幾千の闇を切りとり蛍舞う鈴木常郎
蛍光の飛び交う奥の闇深しすずくら
雨上がり谷戸田に乱舞蛍かな武樹
暗闇に森の蛍の真砂かな蒲公英
ゆらゆらと老いた蛍が舞いにけり千賀吉
点いて消え闇とどまらぬ蛍かな桃香
刈りのこす是の葉に光れ初蛍東風
都会の夜まぶたの裏に蛍見る道明寺
ひとすぢの螢火庭へ誰が戻るときこ
幼子が熱いと払う蛍かな徳
ほたるの子水の中でも光ってる!とよかわ
不気味なる闇夜に灯る蛍かな野花
向こう岸ゆらりゆらりと蛍色畑詩音
ひとり寝の蛍誰にも気づかれず葉月けゐ
蛍火や瞬くリズムの残像花節湖
八時には早番蛍出てくるよ原田民久
冷光の求愛密か蛍燃ゆ比良山
蛍火の川辺に光る過ぎしとき本銅守
暗闇に蛍がふわりふわりゆく真紀子
雨上がり蛍火波をえがき飛ぶ真理庵
ほうたるもサンテグジュペリも夜間飛行水口無果
蛍の光余命いくばくもなくみっちゃん@第2まる安
蛍火のひとつ逸れ来る葉陰かな山内彩月
闇纏う猫の鼻先過ぐ蛍山口トシ子
川床の闇に流るる蛍の火葉子
無秩序に飛んでるわけじゃない蛍吉野ふく
つり橋のゆらりゆらりと蛍ゆく本銅守
舟で観る異国のホタル満艦飾あきこ
夕闇に歓声あがる蛍火やオカメインコ
息潜め蛍の光に耳澄ます石ころ
パジャマ着て駆け出すホタルつかまえん香織
冷光という名の光蛍狩かっちゃん
目がふたつ蛍追う犬闇のなか加藤俊子
声ひそめほたる受け取り輝く目河合久子
追ひかけて行けぬ蛍よさようなら木村さとみ
光れホタル網にぎる背にスピカの輝久美子
幼子とつなぎし手と手蛍狩りコノヨハマボロシ
漆黒に立ち上る影初蛍四十雀
手を引いて老の一服初蛍島田智亜喜
教えてあげる田舎の流儀蛍狩鈴木靖
ほたるこい手をあげはねる都会の子鹿嶌純子
橋渡り細き野路ゆく蛍狩高村安子
人造の川しか知らぬ蛍見るとみことみ
蛍火に応えて飲みし苦き水中島ふう子
蛍光にてらさる吾子やかわいさよ長瀬海
蛍舟千の光へ漕ぎ出せり初野文子
ぽつぽつと灯る畦道蛍追ひ春まだ浅し
蛍来い呼べど気ままに舞ひおりぬ藤川哲三
幼女の可笑しな身じたく蛍狩り山田啓子
指先の誇らし蛍止まりたるゆすらご
蛍飛ぶ崖にあつまる人の声吉成しょう子
都会のホタル列をなす人の闇亮介
初螢固まるこどもはしゃぐ親りんごあめ
かくれぼひとり川べり蛍火と伊勢佐智子
愛犬の命日よぎる蛍かなあおによし
手をつなぎ蛍を追った君は亡く飯島康司
手桶もち母を迎えに行く宵に蛍飯塚幸子
養い子位牌に五歳や蛍の子いろり
ホタル寄る亡き母に使いたのまれて梅納豆
払暁に哀し蛍の骸濡る遠藤百合
いまわにて舞う蛍すらわずらわしおぐもぐ
久々にホタル見つけし七回忌桂木惠
蛍とまる白き手首に自傷痕加藤賢明
母の忌に初蛍舞ふ夕べかな神本多貴子
後追えば蛍異界の入口へ亀山逸子
蛍火のかすかに残る祖母の火よ川畑彩
川を越え父を導く淡き蛍河村あさみ
父母逝きぬ庭の灯ふたつ初蛍岸本元世
流蛍や通夜の室から見惚れをり榊昭広
母のレシピ訊きそびれたね舞う蛍佐藤ふさ子
点滅は蛍のたより彼岸詠む小名枝
通夜の窓迎えの使者の蛍かな沢田朱里
三回忌ひ孫のほほに蛍来る修芳
母と見た蛍飛び交う七回忌聖月
蛍狩り手を添え放つ亡き兄と鷹野みどり
深閑の森の蛍や父忌日田畑尚美
母の墓きみと合わせし手に蛍つちのこ
母置いて蛍追うた子今は亡く永井基美
初蛍秀樹は発ちぬ青山からなんじゃもんじゃ
主人亡き庭迷い来しほたる居りのっこ
青山に母さんの火か宵蛍博光
蛍火の群れて考妣の笑い声藤井眞おん
「ほら、いたね」去年は蛍もきみもまたふみづき生まれ
魂のはぐれて山へ蛍ゆく本上聖子
蛍火は亡き母からのメッセージ前田泰子
日本兵大勢死んで蛍とぶ三浦理恵
蛍狩りせし日は夫も居たりけりみなと
父さんの逝く道照らす蛍かなもみママ
ほたるゆらぎ「火垂るの墓」の死を悼む山川芳明
蛍の宴亡父の笑みに杯交わし遊
蛍火の光黄泉から義母の声緑水
あなたの手両手につつみ蛍かな雨音
ぬばたまの夢で会いたき恋蛍磯村正夫
ほたる狩り二人で探す夕まぐれ稲垣由貴
蛍の灯大きく小さく恋の舞岩沢一行
横顔のほたるに見入る目の優し大蚊里伊織
蛍火や昨夜の想い揺れて飛ぶかもめ
傘に入れたのがはじまり宵螢木村摩耶
口下手な恋に指南の蛍かな小池きよし
つなぐ手の鼓動ドクンと蛍の夜齋藤富美代
跼みたる汝が肩白し蛍の夜佐藤儒艮
昼蛍棄てていきたい恋がある汐湯
つないだ指の鼓動蛍のまたたきしかもり
再会のしじまに流る蛍かなシュナーゼ早智子
傍の夫にどきどき蛍の夜祥子
蛍火の行きつ戻りつ恋心すみ
あそこだよ小声の君と初蛍たか女
蛍火や忘れ去られし恋の数蓼科川奈
つないだ手に彼の鼓動や蛍狩知足
蛍入る彼の手つつみ愛しむ渚
それとなく指先触れて蛍の夜野ばら
蛍火ゆれ繋いだ手さへ確かむるぷりずむ
思ひ人雲水不住の恋蛍いそむら
来世のプロポーズはパス蛍の宴正岡恵似子
まぶしいな恋人求む蛍らよ真冬
闇を蛍世界は二人だけになる真宮マミ
賑やかな舞台に黙して蛍の恋南谷とう富
蛍火の赤き糸に繋がれけり村松登志子
蛍飛ぶ今年十五のかた想い山本
のこり香の闇の艶めくはな蛍やよい
望むなら星座に上がれや恋蛍油井勝彦
一瞬の老いの岡惚れ螢の火有迷人
蛍潜む湿気の中の君の息OO7
都会の宴に放たれて哀し蛍の恋?子
追憶や方言放ち蛍追い亜紀女
遠い日の蚊帳の匂ひや蛍来て浅井和子
古えの記憶を綴る蛍かな未田翌檜
笹持ちて蛍とあそぶ我こども井村澄子
蛍火や青春の残像に似て大山小袖
遠き日の闇へ誘う蛍かな小笠原町子
あっホタル父と手つなぎ田舎道小田切ゆう
蛍道父の繋いだ手を思ふ神崎
語るべし知覧の蛍たがためか希林
幼き日たもとにほたる駆ける下駄純子
戦禍の日々疎開先の蛍かな関口はるな
螢追い田に落ち泣いたね遠い日の子よせぴあちょこ
爺と蛍追ひし子じじとなりにけり平迪子
蛍追う兄泣きながら追う私田川有利子
弟よホタル狩りの地いま宅地多田桃雨
おそろいの魔法の靴で蛍追う立待
野球帽帰るあぜ道宵ほたるたなかとまと
平安の闇夜も今も蛍かな中島圭子
夢追しあの日に戻る蛍かな俳句の鬼平
悠久を照らす蛍石舞台まどれーぬ
再会や蛍の灯す通学路蜜華
夕蛍子は母になり乳飲ます光子
草刈られ蛍の宿は今いずこ山本康子
父の背を思い起こせし蛍火よ渡邊さゆり
ホタルの子水底で見る流れ星伊藤芳雄
水キララ蛍に会えず空の星さかたちえこ
山群青星座となりし遠蛍苳
見上げれば億光年の蛍かな千川小舟
ルシファーの闇か光か蛍舞う中嶋純子
流れ星願いかけたは蛍星藤智
子供部屋宇宙に変えた蛍かな松岡幸子
ルシファーが光を放つ蛍かな水野祥子
初旅行星と見まごう蛍かなみまる
天に星老犬散歩地に蛍良藏
星々を見返り急ぐ蛍かな連雀
手のひらに里の匂ひのする蛍28あずきち
手の内に蛍捉えて声あげる大野浩平
流蛍をそつと包むや掌に川島むう
手の上で灯る命や初蛍園田みゆき
螢火やそのほの白き手のひらに根本葉音
手の中でその生終えし蛍かな増田典子
掌中に閉ぢ込めたるも蛍の火宮部里美
掌中の蛍の息を聴いており山内彩月
ほうたるの指から漏るる命の火吉本節代
小さき手にそつと手囲ふ初蛍よりこ
虫かごにためらう子等の手に蛍里惠子
村の名の消えて蛍の郷となり小川めぐる
漆黒の万燈(まんどう)のごとほたるの里五味芳高
漆黒の里にふわりと蛍かなゴンタ
里山の夕暮れ蛍スマホオフ駄詩
蛍火のあかるきことよ野の宿よ中西柚子
里山は蛍舞う里水美しみっちゃん
姫蛍ビルの囲みし廃線路有本仁政
廃校に放物線や蛍飛ぶ梅里和代
カワニナも蛍も消ゆる蒼き川たんぽぽ
避難地区想い夢のせホタル舞う波平
夕蛍不通のままの線路錆び三茶
蛍火に案内され行く田舎宿亜美子
闇の夜蛍の光り道しるべ尾添ひろ美
雨後のみち案内人の蛍かなのりや
蛍火のヘッドライトが道しるべ矢野茂樹
うつし世は蛍火のごときはかなさか伊藤悦子
つかめどもつかめども夢蛍かな井上早苗
嫁ぎゆく寂しさひとり蛍観る野村相子
芳一の琵琶の語りや蛍よぶ伊藤順女
壇ノ浦翠海(すいか)の底の絶ゆ蛍篠原三三子
平家谷落武者通り蛍飛ぶ白い雲
スタンダールほやり弓手の蛍かな明惟久里
蛍狩り首都失念の椿山荘安曇野多恵
宵蛍転た寝揺らす雨の匂いあみのみ
われ蛍願いをこめし群れとなる泉子
みちのくにUFO訪ね来て蛍カオス
ほうたるのもてば蜷の苦みあり梶原安之
蛍火や六甲の夜景に交じる花伝
愛い孫にひかる蛍を見せたいな川原すみ枝
珍客に慌て帰すや初蛍邯鄲
エルイーディーライトの作る蛍かな菊池洋勝
また生きてみようとホタルに誓う夜喜多岡季子
S席で今宵蛍の光響曲櫻井弘子
闇の宵蛍火唄ひ雨近しさちこ
スマホには映らぬこころ初蛍シニアモモ
螢灯や一寸先の希望かな篠崎幸惠
膝赤しぬかるみ越しの蛍籠嶋村紀子
蛍火や先の果無し事となり衷子
蛍さり深き鈍色ひそやかに杉山
森明けて月夜の底を蛍かな鈴木あむ
蛍火やガラスの我とにらめっこ鈴木昭
病棟の灯り蛍に見ゆる夜ターチャ
藍の地に散りし蛍が待つ夕べたかまま
街コンやビオトープの蛍狩竹口ゆうこ
阿蘇神社蛍戻りて輝けりちゃたろう
川掃除報うは子等の追う蛍鶴井紅葉
図書館に脇目も振らず蛍狩てまり
エコクラブ蛍の飼育に挑む吾子中間幸代
源氏蛍絶唱の明深ける夜野ねずみ
蛍飛ぶ空捕まえた小さな手走流
夜の森ホタルほたるか雨しきり原田
蛍ゆれ滲むひとみが定まらずひでざね
闇なれば触れん蛍川は静寂平田葉
虫かごの蛍や老母の枕元博子
屋上はつまみにホタル注ぐ泡ひろ夢
川音や闇より生まるる蛍かな琵琶京子
敗血症切り抜けた夫初蛍藤田真純
蛍見てやる気スイッチ入れなおすヘッドホン
もう寝るよ残光居間の蛍かな惑星のかけら
背負われて君の高さで見る蛍麻琴
宵蛍誰か求めん右左マドレーヌカフェ
にぎやかな歩道の下に蛍の墓まめたろう
蛍火よ乳房はむ妻顔見えし茉莉花
蛍かごテニス合宿八ヶ岳まりも
ばあちゃん家はしゃぎまどろみ蛍待つみかん
黄泉の戸を守る結界張る蛍ミセウ愛
もういのか薄闇の畦ホタル点く八重葉
ハザードランプ吸い寄せらるる蛍かな矢的
故郷へ戻るに重き蛍の夜八幡風花
異世界を旅して覚めし蛍かな山田俊弘
仲間たち声が静まる蛍の火柚香
竹田城天空のぼる蛍の夜琉璃
虫かごの蛍が逃げてうつむく子湧津雅子
静寂が近づいてくる初蛍渡邉いろは
美生川蛍火揺れる伯母の夢たかし
おおかみの匂ひのしたる蛍かな下町おたま
深閑と銀河かぶさる蛍の夜あつちやん
つち蛍長患いの母灯り小田風遊子
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
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「先行句」
- 蛍火や床臥す母の弱き脈淺野紫桜
これはこれなりに佳い句なのですが、石田波郷に「蛍火や疾風のごとき母の脈」という句があります。似たような発想の句=類想句だといえます。自分が作った句よりも先に発表されている類想句のことを、先行句とも呼びます。俳句は短いので、偶然似たような句ができるのは、よくあることです。自分ならではのオリジナリティを加える工夫をしてみて下さい。
「季重なり」
- ツバナ摘み蚊帳に蛍火ひとりじめ祈り桜
- 蚊帳のうち蛍放して眠りたりの菊
- 蚊帳の中蛍のひかり母のかお品子
- 病む母の蚊帳に放ちし蛍かな美光
- 五月闇蛍手の中ほのあかり和代
- 蛍火に暑さ忘れて田んぼ道還暦おはな
- 散歩道蛍いざなう麦の秋工藤聡子
- 愛犬とビール片手に蛍狩り山時千栄子
- 炎天下今日は真夏日夜蛍高橋豊
- 蛍火の失せにし朝盂蘭盆会田中玄華
- 月の夜に蛍二匹の影光るねがみともみ
- 新月に闇は九時まで呼ぶ螢野曾良
季語が複数入っている句を「季重なり」と呼びます。季語が複数入っている名句も存在しますが、初心のうちは一句一季語から丁寧に練習しましょう。手元に、歳時記を置いて、こまめに調べてみることをおすすめします。
「季語を主役にする」
- 母が立つ夕立ちあとの蛍坂太田修
- ヒカリキノコバエ今蛍になりしくま鶉
- 蛍田にブルドーザーの轟く朝瀟白
- 氷面をホタルのごとく舞うムスメ信月
これらは季語「蛍」が主役になっているか?という点で、疑問が残ります。季語を主役にするとはどういうことか、考えてみて下さい。
また以下の句は、そもそも生き物の季語として「蛍」が詠まれているのかどうか。そこが気になります。
- 歌詞が好き蛍の光ふるさとも渡辺音葉
- 夢を見た蛍雪時代原子の灯畦布哲志
- ふたりの手またすり抜けて海蛍小枝咲楽
- タイタニック号千個の蛍火海淵へ大樹天皇
- あの頃の輝きはどこ蛍石ゆきゆき
「兼題を季語として使う」
- 転々と浴衣に遊ぶ夏の夕千泊
- 一つ屋に老いの独り寝半夏雨宮崎フミ
- 皇后の眼差し最後の山つけ山田陽子
- 泣く吾子の袖に灯すは夏祭り横田なを子
- 五月雨に滲んで見える舞う光平郡偉公子
- 夏の宵小さいおひさま月と舞う凛花
本サイトでは、毎回季語を兼題として出題しています。その季語にそった作品を投句して下さい。次回のご投句お待ちしています。
初回「薫風」の1,319句につづき、第二回「蛍」にも1,300句の投稿をいただきました。
さあ、6月の兼題は「向日葵」です。まだ投稿されていない人は、ぜひチャレンジしてみてください(編集部より)。