夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
1月の審査結果発表
兼題「蒲団」
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
三人目できたら布団どうするか
青海也緒
-
夏井いつき先生より
小さなアパートの小さな部屋で健気に生きる家族を思いました。結婚し子どもも授かり、共働きをしながら力を合わせて今日を生き抜く夫婦。そして三人目の懐妊。授かるという喜びの向こうから、仕事はどうしよう、上の子どもたちの預け先は、出産費用の蓄えは……と、現実の厳しさがじわじわと押し寄せてくるのです。
夫と妻との間に二人の子どもたちを寝かせ、今日も無事に過ごせたという安堵にひたる夜。ふっと心を過ったのが、まさにこの思いなのでしょう。こんな単純な呟きでもって、やがて来る切実な現実と冬という季節の気配を書けるものかと、ささやかな感動を覚えました。俳句はこれでよいのだと、改めてしみじみと思うのです。
収まらぬ蒲団たたいてもたたいても
花紋
「蒲団」の一物仕立てって案外難しいと思うのですが、果敢に挑んだ一句です。干す前と後の違いは、吸収した太陽の熱と空気の分量。「収まらぬ」事実と「たたいても」のリフレインが愉快です。
古蒲団位牌の金の曇りゆく
古瀬まさあき
実家の仏間の光景でしょうか。代々の「位牌」の金色の部分はくすんでしまっています。久しぶりに泊まる実家。その「古蒲団」の綿は干したところで太陽を吸う力もなく、ぺしゃんこのままか。
蒲団敷く貧しき夜の逃げどころ
小池令香
「蒲団敷く」のは「貧しき夜の逃げどころ」を作るための行為なのだというのです。誰でもこんな夜ってあるよと、作者に語り掛けたくなった一句。敷かれた蒲団の冷たさまでありありと感知されて。
掛蒲団地震速報まだ出ない
シュリ
夜中の地震に驚いて目覚めたのでしょう。揺れがおさまった後、震源地はどこだったのかと手に取る携帯。「地震速報」が出るのを待ちつつ、もう一度「掛蒲団」をしっかりと掛け直す冬の真夜です。
蒲団抜け出そうヤクルトさんが来た
綱長井ハツオ
どうやって「蒲団」から「抜け出そう」という発想の土台に乗っけたのが「ヤクルトさんが来た」というフレーズ。いやはや、やられました、笑いました。毎朝届けてくれる音を知っててこその一句。
掛布団重しぞろぞろ身内消ゆじゃすみん
金縛りの寂しく匂ふ蒲団かなじゃすみん
蒲団干す艀溜りを見下ろしてすがりとおる
海鳴りへ蒲団と老母干してありすがりとおる
蒲団に垢生きてゐることにも慣れて古田秀
眼裏の生家恍惚なる蒲団古田秀
蒲団干す時報チャイムのファはにごる南風の記憶
蒲団打つ二回目の流産の予後南風の記憶
乱歩読む布団なにやら獣めく播磨陽子
わたしだけひとりのふとんママのバカ播磨陽子
筋斗雲に向かぬ蒲団と向く蒲団可笑式
干蒲団の数生きている人の数可笑式
包まるる布団や吾の孵りさう南方日午
蒲団干す朝を地球の匂ひだす南方日午
まぐわいの蒲団まがまがしく閑平本魚水
干蒲団憎し 日よもつともつと平本魚水
出国前夜 殊更温かき蒲団碧西里
誰ぞの手誰ぞの脚を踏み蒲団へ碧西里
酔ひどれを蒲団に任せ山静か北野きのこ
蒲団ごと祖父の骸を曳き出しぬ北野きのこ
誰よりも人懐っこいその蒲団鈴木(や)
訳あって実家の蒲団干してます鈴木(や)
詩のかけら蒲団を剥げば転がりぬ花伝
逃げ込んだ蒲団私は卵抱く花伝
すぐ謝る自分が嫌い布団好きあいだほ
先生をだまして保健室の布団あいだほ
親友や布団あらわに宿題会いかちゃん
丘陵に化石布団に私かないかちゃん
一つの蒲団背中合わせの二人いさな歌鈴
叫んでも殴つても蒲団は真白いさな歌鈴
フォアハンドバックハンドで蒲団打ついなだはまち
寝る蒲団三合の米それでよいいなだはまち
右側にずれる癖ある蒲団かなうさぎまんじゅう
蒲団干す屋根って空の続きらしうさぎまんじゅう
叱りたる子を引き寄せる蒲団かなくりでん
太陽もわたくしも暇蒲団干すくりでん
目を赤くして毎夜蒲団の中に自慰けーい〇
獏は夢を蒲団は時を喰らいけりけーい〇
このようにヒトは布団に飼われますさとけん
絶滅する時も布団の中だらうさとけん
蒲団干す死ぬにはちやうど佳い日ですあまの太郎
蒲団干す星生まれる日星死ぬ日あまの太郎
星生まれ死ぬる合間に敷く蒲団すりいぴい
蒲団敷く悪い噂を耳にしてすりいぴい
いつもの蒲団に亡骸を置くたんばたろう
人のかたちに凹んだままの蒲団たんばたろう
蒲団干すげに広かりき四畳半トマト使いめりるりら
恋文の折り鶴と化す蒲団かなトマト使いめりるりら
今日の夜蒲団山トンネル開通ちま(5さい)
今夜から蒲団の中は秘密基地ちま(5さい)
青天を昇るロケット蒲団干すとかき星
恐竜を抱いて独りの布団かなとかき星
畳が海布団は舟てふ遊びトポル
アパートの窓幅の陽に蒲団干すトポル
不自由な膝の起伏や掛布団ねぎみそ
滑り込む蒲団に母のぽうちゃぽちゃねぎみそ
母かなし厚き蒲団をうすく寝てふじこ
婆様の蒲団の他は寄らぬ猫ふじこ
富士美しくひらける朝や蒲団干すふるてい
蒲団から放たれこの世とは険しふるてい
干蒲団わが心臓の発酵すほろろ。
まづ蒲団くたびれて己くたびれてほろろ。
昨日より明日が好きな蒲団かなみやこまる
寂しさや蒲団の重さちよと減りぬみやこまる
蒲団干す屋根の真上をスパイ衛星みやざき白水
三百年太郎をもてなしたる蒲団みやざき白水
蒲団はねのけるみぎあしあついいきむらさき(7さい)
蒲団抜けまぶしいへやはうみのそこむらさき(7さい)
打ち直し布団真中に元の生地ゆすらご
大海に引き摺りこもうとする蒲団ゆすらご
海鳴りの聞こゆる宿の蒲団かなラーラ
蒲団敷く男無口や羽後の宿ラーラ
臨月の腹沈み込む蒲団かな安宅麻由子
暁や蒲団の初潮生温し安宅麻由子
蒲団購ふ此処に幾年住むやらん伊予吟会宵嵐
犬臭き蒲団に包まりて泣きぬ伊予吟会宵嵐
子宮に戻りたき日あり干蒲団一斤染乃
病室の布団を動く音白し一斤染乃
干蒲団の香に恍惚として正午浦文乃
歯磨き粉の臭う吐息や蒲団干す浦文乃
身の丈は蒲団に収まる程度なり加裕子
蒲団干す昨夜の栞ひらひらと加裕子
夜汽車の音かすかに届く布団かな夏雨ちや
つまのぬうねんねふとんにあおいとり夏雨ちや
木綿縞のそこだけ昭和布団干す花岡淑子
学寮の一畳に敷く柔布団花岡淑子
蒲団捨て安堵している父送り笠原理香
蒲団から獣のやうな匂ひする笠原理香
北陸は海へ突き出す布団干し亀山酔田
親戚の布団なんだか落ち着かぬ亀山酔田
さみしさは月の匂ひよ掛布団久我恒子
幸せは時々萎ぶ干布団久我恒子
押入れの底の布団の御所車宮部里美
寄る辺なき軽さ病院の布団宮部里美
蒲団入り足は尾鰭に戻りけり玉木たまね
まだ足の位置定まらぬ蒲団かな玉木たまね
蒲団干す斑鳩の鐘届きけり桑島幹
叡山電車の車窓に干蒲団桑島幹
特急は通過する駅蒲団干す畦のすみれ
京極夏彦の本を枕に蒲団かな畦のすみれ
通夜の蒲団硬く押入れの匂い彩楓(さいふう)
梁太き母屋の匂ひ羽根布団彩楓(さいふう)
終電や人に蒲団というゴール三茶F
羽蒲団あすの目覚めを疑わず三茶F
後悔の一夜を均す敷布団山内彩月
布団干す遠くでゴジラ対ガメラ山内彩月
をんなの蒲団に独りの夜を弄られ次郎の飼い主
まだ父のかたち留めし蒲団かな次郎の飼い主
蒲団綺麗なまま死にゆく口惜しさ七瀬ゆきこ
今日だけは空飛ぶ蒲団じやない七瀬ゆきこ
干し布団太陽のごと良き死臭潤目の鰯
風呂上がり蒲団三十組堂々潤目の鰯
野良猫と飼ひ猫蒲団嗅ぎにけり小林陸人
新しき蒲団と蒲団干されけり小林陸人
蒲団より出で蒲団に帰る一日かな上原淳子
日輪に遠きベランダ蒲団干す上原淳子
プロレスの技にも耐える布団かな上野眞理
義理の父母泊める布団のシワ伸ばす上野眞理
長男の部屋に妖怪蒲団棲む城内幸江
陽だまりの溶けた布団を掛けられる城内幸江
こんなにも薄い蒲団で寝てたんか常幸龍BCAD
蒲団かぶる僕はこんな匂いなのか常幸龍BCAD
二組の蒲団の一つ皺のなし真宮マミ
吾子よりも大きなバンビ蒲団干す真宮マミ
進化論に沿つて蒲団を出でにけり仁和田永
蒲団打つ記憶の父の舞い散らん仁和田永
島渡しに布団の包みと新任教師清島久門
人間に戻つてしまふ布団かな清島久門
片手づつ蒲団に温め『白夜行』西川由野
蒲団だいすき尻尾忘れて生まれ来て西川由野
いくばくの尿意持ち込む蒲団かな赤馬福助
蒲団かな地球儀のあのへんにゐる赤馬福助
真夜中の布団の中のラジオかな多喰身・ラックス
キルケゴールの闇布団の中の闇多喰身・デラックス
蒲団からジェットストリーム漏れて中村凧人
蒲団から出たらきっと良い人になる中村凧人
蒲団温くて魂今生を自由落下長谷川京水
誰か乗っているような掛布団長谷川京水
エチゼンクラゲの如き蒲団かな椎名貴之
蒲団に沈みゆく人間失格椎名貴之
はいはいと言ったきりまだ蒲団かな藤田ゆきまち
蹴る掛ける蹴る掛ける蹴る掛布団藤田ゆきまち
千台の時計を匿す蒲団かな内藤羊皐
精妙に吾を象る蒲団かな内藤羊皐
蒲団にて泣く太陽が怖かった白よだか
蒲団に付す真白き青の空の香白よだか
何起こらうと蒲団被つて再生す八幡風花
蒲団出で今日の重荷を羽織りをり八幡風花
銀嶺まぶし全快の蒲団干し板柿せっか
蒲団干す電車の人と目が合ひぬ板柿せっか
焼け焦げて放水受くる蒲団かな比々き
掛蒲団めくる初潮の朝かな比々き
蒲団軽過ぎてをとめのごとき夢富山の露玉
ぎゅーと寄せて三枚の蒲団敷く富山の露玉
ありたけの蒲団を干してまだ一人椋本望生
蒲団被てこむら返りを喰らひたり椋本望生
食べてるか蒲団要らぬか母の文門前町のり子
もう話すことなくなりて蒲団被る門前町のり子
四組の蒲団に五人日吉館鈴木淑葉
宿坊の蒲団に友の語る恋鈴木淑葉
布団布団朝に固体で居られるか青海也緒
蒲団出て此処より人生の続き綱長井ハツオ
沼のごと蒲団の底にある湿度古瀬まさあき
ギリギリまで空に差し出す客蒲団花紋
蒲団干す遂に息子は四十過ぎ小池令香
夜好きの死にたがり虫掛布団シュリ
ふとんぬれただってととろがきたんだよゆうら(3才)
奥の間の布団の金糸銀糸かなRUSTY
蒲団打つしなやかな腕きょうも見る榊昭広
愛犬は吾娘の蒲団を嗅いでおり⑦パパ
主なき蒲団畳みて献盃すANGEL ANGEL
熱の児の取り残さるる蒲団かなM.李子
ちどり足ルームキー蒲団に弾むnid
干蒲団トワレ微かに夜半の雨sakura a.
蒲団からつと現るる腱ほそしあきのひなた
客布団棄てて終活宣言すあくび指南
布団中(じゅう)深夜ラジオの推しの声あざみ
白絹の蒲団や祖母の百二年あまぐり
陽が歪み布団叩きし街の音おうれん
温もりの消えし蒲団よ父の香よおおい芙美子
千羽鶴折りし手畳む蒲団かなおざきさちよ
勾玉に膨らむ蒲団バスケの男(こ)おぼろ月
いつも右側に落ちたる蒲団かなかつたろー。
給水塔見ゆるベランダ蒲団干すかねつき走流
今日よりは自宅治療の蒲団かなかんきゅう
手術明け病室の蒲団は固しきなこもち
地下道の薄暗がりにゐる蒲団ぐ
蒲団すらあの世へ持って行けぬとはぐずみ
闇は優し布団を熟れてゆく憂ひぐでたまご
父を看る母の薄手の敷蒲団くま鶉
合鍵のなき鍵束や布団重しくるみだんご
羽蒲団褒めて寝ること恒例にクロエ
青春がナンボのもんじゃい蒲団干すサイコロ帝釈天
脱出は不可能かもと布団敷くさくやこのはな
木霊来る遅れて蒲団はたきけりさくら亜紀女
蒲団干す腑に落ちぬことたたきをりさとう菓子
友の部屋蒲団連ねて夢語るさなぎ
手も足も錆びし夜半や羽蒲団しかもり
蒲団干す海に向かいて直角にしゅういずみ
合宿の布団袋の鳩目かなシュルツ
ほっといて次女の言葉と焦げた蒲団じょいふるとしちゃん
故郷に五体を落とす蒲団かなジョビジョバ
民宿の屋根に迎える干蒲団しらふゆき
布団干す夫の気配は消さぬやうすみすずき
体内の海傾けて蒲団入るせり坊
せんべいと称する布団畳む朝髙辻康治
頭から蒲団かぶりて聴くロックたじま
小包の切手十枚布団干すたむらせつこ
寝ているというには静かすぎる蒲団ちゃうりん
先に出た布団の丸みほろぬくしツユマメ
泣いた時母の蒲団がふかふかでツユマメ末っ子@8歳
思春期の抱く蹴る潜る蒲団かなテツコ
かび臭き布団敷かるる湯治宿でぷちゃん
ひそひそと双子の会議は布団にててんてこ麻衣
体温は蒲団にくれてやり太陽ときこ
明けぬ夜のありぬべし八十路の布団 としなり
息殺し蒲団目深に映画みるとみことみ
子守歌ふくみふくらむ蒲団かなとりこ
川の字の真ん中の蒲団が待っているなおりん
刃あり義母往生の布団下なかにしうさぎ
羊水に浮かぶ心地や絹蒲団なごやいろり
評判の宿の蒲団が軽すぎるにゃん
半分は日の当たりたる干蒲団のこも
病床の蒲団にゆだね窓の星はなあかり
遠鳴りや眠れぬ夜を吸う蒲団はのんぴあの
遺影ずらり仏間にひとり敷く蒲団はむ
布団が重いと君は言って逝ったはらぐちゆうこ
蒲団干す過不足だらけ私たちひっそり静か
入ったら寝ろそれが蒲団の本懐じゃひでやん
鳥の声蒲団に籠めし日曜日ひろき
蒲団の入り口朝のままの形ひろ夢
ネコだいて空飛ぶ羽毛布団かなポンタ
お布団に逃げ込んでいる喧嘩かなまりい@
ほんたうはあの人嫌ひ蒲団干すみかりん
民宿に客あるらしき干し布団みちむらまりな
布団部屋泣きに来し子のランドセルみなと
干し上げる蒲団の数や島の宿みやかわけい子
嫁ぐ姉の蒲団にもぐり込む夜更けみやこわすれ
寝る前の弱気を包み込む蒲団むつき
付き添いの簡易ベットの薄布団もつこ
吾を抱きしめる吾を包む蒲団かなももたもも
いつかあの雲で眠ろう干蒲団ゆりたん
母の間の見慣れぬ高額蒲団かなよしざね弓
気がかりのありて蒲団に四角く寝るりぼうし
母に抓られ父に打たれて干蒲団葵新吾
合宿の匂うて重き蒲団かな葦たかし
叡山を借景にして布団干し伊藤ひろし
初孫の布団に太き鯉はねる伊藤順女
黒き富士布団抜け出す夜明け前井原靖
吾の旅は温い蒲団で終いたし郁松松ちゃん
蒲団干す向かいの畑はコンビニに宇佐美好子
朝四時のバスを見送る蒲団かな宇田建
鏡見る母の背を見る蒲団より伊藤亜美子
寝返りをうつ蒲団から湿布の香遺跡納期
蒲団から飛ばす指令の数あまた永田凡々
亡骸の薄き蒲団を押し上ぐる円
太陽と地球の間蒲団干す遠藤一治
熱臭い寝息の孫や厚衾黄桜かづ奴
何処にでも何時にも行ける蒲団かな火炎猿
軍歌聞き夢の続きの蒲団かな花岡紘一
蒲団干せ干せ晴天は威嚇する花南天
猪も熊も出る村干蒲団雅喜
警備室煎餅蒲団沼臭く海口あめちゃん
蒲団干す隣のピアノ下手っぴね海老名吟
直敷きの避難所蒲団干すフェンス蛙里
蒲団からイタリアの風観る土曜甘酢あんかけ
布団敷きここに根城の出来にけり甘平
画布のごと鳥影走る蒲団かな閑蛙
寝ぞう悪し輪に輪をかけて掛け布団岸本元世
亡母の布団捨てよかと言ふ父の顔季切少楽
蒲団2枚捨てて介護は道半ば亀山逸子
二組の蒲団の軽き旅館かな亀田荒太
あれやこれや持ち込みこもる蒲団かな菊原八重
点滴の繋がる足へ蒲団かな菊池洋勝
おふとんね!もりのこびとがいるんだよ吉田結希
剣岳眺めてならべる干し蒲団吉田びふう
布団着て明日の命を疑はず吉野中瓶
島旅や風を孕みて干し布団居升典子
蒲団撥ね鞍馬の山に詣けり京野秋水
羽根布団小鳥になった夢を見た玉井令子
取り込めば蒲団かるがる日をはらみ玉響雷子
それぞれのにほひ温めて蒲団かな金田登
いい日です家族の蒲団並べ干す空
夫となり蒲団とりあう仲となり研知句詩
仮通夜の蒲団冷し母眠る原善枝
雲に乞う蒲団になれと病む我は源氏物語
東北の日ざし集めて蒲団干す光子
学生寮に新品の布団の匂い江戸川ちゃあこ
へたりたる緞子の蒲団真珠婚紅茶一杯
蒲団干す向こうから声かけられし高橋なつ
むかしむかし母は蒲団を飛ばすかな高橋寅次
蒲団めが吾を飲み込みて吐きもせず高石たく
お前いま蒲団にくるまつてゐるだらふ高田祥聖
細胞が沈みゆくやう干蒲団根々雅水
売れる日は来るのか蒲団引っ被る佐東亜阿介
コインランドリーに花柄蒲団繚乱す佐藤儒艮
故郷は重い蒲団と山羊の声砂舟
ふとんにぎたいする起きたくない朝座敷わらしなつき(8才)
蒲団より白き庭おもう子規のごと斎藤数
乳の香や蒲団の角を吸ひ眠る斎乃雪
犬小屋の布団はらわた千切れおり三島瀬波
ローカル線蒲団畑に入ります山﨑瑠美
サイレンの鎮みて蒲団の白かりき山沖阿月子
布団干す屋根に光の子守唄山吉白米
病床の蒲団でラーメン食べる夢山女魚
雨戸の節一本のひかり蒲団刺す山川恵美子
ぬひぐるみ集め蒲団は方舟に山太狼
月光や男が蒲団までも穢す山田喜則
暫くはココハドコてふ朝の蒲団山踏朝朗
垂乳根の蒲団柔軟剤の優山本先生
蒲団わさわさどんな寝方をすれば斯う山名凌霄
ふとんふとんラジオは中東のニュース獅子蕩児
猫、たぬき、キリンと眠る蒲団かな紫瑛
布団干してはならぬ巴里十六区紫小寿々
ダンヒルの匂いの残る布団かな紗千子
蒲団干す死ぬとき人はひとりなり若井柳児
穢れある私をくるむ蒲団かな珠凪夕波
鼻唄はいつもさびだけ布団干す寿松
介護終わる布団に残るくぼみかな秀耕
蒲団敷く母の遺影を仰ぐ部屋秋夕介
干蒲団たたく八分の六拍子春海のたり
団欒あと淋しき昼に蒲団干す渚
蒲団綿だらけの母の膝なりき宵猫
故郷の潮騒聞こゆ干蒲団小磯悠人
眠剤を欲す身体や蒲団干す小鞠
片想い僕は蒲団で丸くなる小栗福祥
かくれんぼ蒲団とともに折り畳む小笹いのり
最後の夜母と並べる蒲団かな小山晃
温もりに今日をくるむや干蒲団小川都
滅びへの渦中のけふも蒲団敷く小川天鵲
介護タクシーの薄き蒲団や夕まぐれ小倉あんこ
ちと拗ねてかぶる蒲団の重さ哉小谷百合乃
君のかた残りしままに蒲団冷ゆ小南子
一日を笑って沈みゆく蒲団小野睦
引っ越しの連れは蒲団と愛唱歌小柳悠子
大の字に凹んで蒲団の言い訳松井くろ
産声や小さき布団は真白なり松本裕子
蒲団まで焼肉臭くなってもた松野菜々花
におう蒲団生き残ったら残ったで焼田美智世
この蒲団は時空歪める羽毛なり城ヶ崎由岐子
轟音を蒲団がつつむ震度7植田かず子
濃き闇にふとん幽かにおもくなり色葉二穂
義母のくれし鼠の噛んだ蒲団かな新開ちえ
真向かいの山の名知らず蒲団干す森の水車
蒲団干しはにかむ子供の冒険談森井はな
蒲団干す街の彼方の光る海森弘行
蒲団干す如来のような薄目して森青萄
義母帰る何はともあれ布団干す真雪割豆
脱け出せし魂帰りくる蒲団かな真繍
ひとり寝の欲云へばそう干蒲団真優航千の母
大空へ投げ出すように蒲団干す水夢
蒲団よりはみ出し足のもの悲し酔進
蒲団縫ふ綴ぢめの房は緋色なり杉浦夏甫
蒲団干すふとんに鳥の影とまり杉本果蓏
太陽の黒点増えし蒲団干す世良日守
こだまから見える蒲団やテロニュース星善之
子の布団挟む向こふの寝息かな晴好雨独
バタフライの息継ぎのごと蒲団干す正山小種
まなかひに大阪城や布団干す清水 容子
手と足と尻尾が覗く蒲団かな清水トキ
手もくの字胴もくの字に蒲団かな清水祥月
掛蒲団重とうなったと齢かな西原さらさ
掛布団の母と敷布団の父西村小市
蒲団取りこまぬ隣家の顔しらず西藤智
ベランダに蒲団の柄の愉しけれ青い月
炙りくさい蒲団に入って俺んちだ青井晴空
蒲団カバー真白な海を君想ふ青田奈央
蒲団干す隣同士の会釈かな石井茶爺
週末はリーグ開幕布団干す石川巴鈴
残り香の蒲団泣き出しそうな空赤橋渡
重ための蒲団かぶりて逃避行雪華きなこ
ほくろ見っけ蒲団温もるまで待って千日小鈴
トクホンの香亡父の蒲団しまい込む千葉睦女
貸ぶとん安酒あふりもぐりこむ川村昌子
花袋より私のふとん暖かい川畑彩
冬蒲団地球の裏までもぐりこむ泉子
太陽に心を開く布団かな倉岡富士子
日曜の雨匂ひくる蒲団かな倉木はじめ
積もりし気配や蒲団にもぐる月曜日痩女
熱二日蒲団の鎖絡みたり蒼空蒼子
海賊の船は沈没ふとん干す蒼奏
干蒲団叩くに調子ありにけり蒼鳩薫
まだ帰らぬか横には冷えた蒲団足立智美
天窓のひかり布団を抱きに来り多事
蒲団まづ我がししむらで暖めり多々良海月
夢読みを招き入れたき干蒲団大山小袖
羽蒲団乗って空飛ぶ夢なのか大村真仙
終の日はこんな日にしたき蒲団干す大庭慈温
人目には風抱くやうに蒲団抱く大和田美信
布団干文机のメモ風にのる滝川華子
天翔ける布団の船のあればこそ滝谷朗
電リクにナマエ蒲団を頭から沢拓庵
山小屋の薄き蒲団や風荒ぶ知足
同棲の長さ蒲団を干す重さ池之端モルト
巣立つ日のケトルと羽毛布団かな竹口ゆうこ
眠ったら会える蒲団に潜りこむ竹内みんて
この街で一人で生きる布団買ふ中岡秀次
帰る場所なくす蒲団を片付けて中山月波
小児病棟恐竜はねる掛布団宙のふう
蒲団から手の届くまでが今日衷子
蒲団まで太陽来たる日曜日朝日のど飴
蒲団被る体に残る震度七長谷川ろんろん
敷蒲団洗う冷水痛し少女の朝長尾桃子
蒲団着て星のない夜の孤独かな辻が花
蒲団干し見つけられたる成人誌辻句楽
起きぬけの蒲団のくぼみなだらかに天野呑水
蒲団干す彼の日の雲のにほひ染む天野姫城
ずっしりと蒲団を背負い読む兜太天陽ゆう
この三月(みつき)母の布団は干せぬまま田村伊都
このままに目の覚めなくば好い蒲団田村利平
督促状蒲団二枚の重さかな斗三木童
汗涙吸つて痩せたる蒲団かな杜弦
数頁読みて手仕舞ふ蒲団かな渡辺陽子
蒲団ぬくしポカリスエットの酸味渡邉一輝
寝返れば本の崩れる蒲団なり土井探花
今日の日を体温と分け合う蒲団冬のおこじょ
脱がされしあれこれ探す布団かな嶋田奈緒
蒲団干す東京の空高く見え藤色葉菜
蒲団まで聞こえて目覚める大ニュース道産子ひとみ
角綴じは金糸がよろし客蒲団徳
夕まぐれざざと積まれし暖蒲団徳庵
羽根蒲団の中の嫗の無きがごと奈良素数
蒲団から出ろ判決を言い渡す凪太
あの家も蒲団取り込み始めたり楢山孝明
空襲の跡蒲団くいこむ溶けし鉄楠田草堂
蒲団から見上げる木目滲む朝尼島里志
陽の匂ひ逃がさぬように蒲団敷く馬笑
暁や谷折り山折り蒲団折る梅木若葉
ふとん屋の赤きふとんの褪せた赤梅里和代
蒲団が離さないのです仕方ない白瀬いりこ
陽を浴びて一斉に飛べ蒲団達白沢修
玉虫のつかまり眠る干蒲団八木実
蒲団干す夢も一緒に干しちまえ飯村祐知子
蒲団干し良妻賢母と見られたし飛来英
ぬくぬく茸のはえさうな蒲団樋口滑瓢
しきぶとんごろりんばたりかけぶとん琵琶京子
二階からずり落ちさうな蒲団見ゆ菱田芋天
布団干す今日は断然やる気の日浜けい
家庭内別居の蒲団干しにけり富野香衣
宿直や三畳しじまの薄蒲団武田朋也
デゴボコの一日○(まる)く包む蒲団風間 公
ただならぬ風孕みたる蒲団かな風慈音
綴じ糸のふっくら沈み新蒲団風紋
民宿の蒲団の丁度よき沈み福井三水低
蒲団載せ輿入れ荷台据わり良し福良ちどり
膝立てて作る富士山掛け布団文月さな女
蒲団着て賭麻雀の仏頂面文女
骨のびるのびるきしみに蒲団かな豊田すばる
棺に布団あることを知る納棺に北原早春
蒲団とね結婚したんだ今しがた北山義章
起床作法うおっと蒲団を蹴り上げる北川蒼鴉
ランタンと禁書と吾と蒲団かな北村崇雄
干布団嫌な夢見た舌ざわり北村真由美
焼きそばの匂いそのまま布団干す北大路京介
蒲団を出る蝦の背わたを抜くごとく北藤詩旦
古希の手がやや華やいでいる蒲団牧野敏信
許さない政治が続いて蒲団が重い麻場育子
客蒲団干す永遠に来ないけど満る
本閉じて冷えし布団につつまれる満代
合宿や押忍がびがびの蒲団たち明惟久里
もぐり込む蒲団明日への入り口明田句仁子
撥ねのける布団に付いてくる湿布茂る
藍蒲団打ち直したり良き日なり木村かわせみ
明日香路の古墳の如きふとんかな門未知子
お隣りの子どもは元気蒲団干す野ばら
パンを焼く香りと蒲団比べをり野地垂木
零れ落ちぬよう陽や受けて蒲団干す野中泰風
蒲団干す交番勤務三年目野木編
冬ぶとん剃刀色の窓の外柳川心一
蒲団干す竹交わりて天を指す唯飛唯游
かろがろと夜尿の父の蒲団かな有本仁政
上手投のごとく蒲団を敷きにけり有本典子
干せば鉄錆の匂ひの蒲団かな柚木みゆき
花のいろ溢るるやうに干蒲団由づる
蒲団被るはだいろと名あるくれよん葉るみ
青空や腕一杯の布団かな来冬邦子
蹴り飛ばす蒲団の重さ銀婚式梨音
保健室の蒲団の外は四時間目瑠璃茉莉
花柄の蒲団にきしむ背骨かな鈴木由紀子
蒲団干す宿直明けの消防士鈴木麗門
蒲団干す母さんの邪魔楽しかり麗し
政治屋の話に倦みて薄布団連雀
母語二つ交へ蒲団の子の語る露砂
祖父の蒲団薬混じりの屁の匂い惑星のかけら
空襲の話引き継ぐ布団かな國吉敦子
叱られて被る蒲団の暗さかな巫女
五階に干蒲団街灯に浮かぶ暝想華
どんぐりがこぼれ落ちてく布団かな涅槃girl
蒲団たたけば団地ふつくらふくらみぬ淺野紫桜
通学路わたしの布団干さないで澪つくし
蒲団干すぽたりぽたりと陽の滴祺埜箕來
子の息を頬に共寝の蒲団かな齋藤杏子
徹夜して本積んで積んで敷く蒲団かな齋藤むつは
ただ青き空よ堪らず布団干す豐田雄二郎
慟哭を吸って子宮となる蒲団邯鄲
ふとんさんはいってなんであたたかい流歌(りゅうた)@6歳
温もらぬ蒲団の中で足がつるGONZA
とられたりとりかえしたり干蒲団林智
干布団しまい忘れし前の家AKI
首筋に十円硬貨蒲団着るAQ
捨てたのは花色木綿の蒲団かもDr.でぶ
日の香り浴びてふっくら干し布団haru.k
干し蒲団味方が一人増えたごとmomo
布団干す速報は指定感染症Q&A
未だ夜や鼻づまり猫の布団S組子
ふた組の蒲団に宿の青畳あおか
敷蒲団と掛蒲団のずれに首あさふろ
川の字に蒲団干しある日曜日あさ奏
病む我の干せぬままにて重き布団あらら
我が足を温める人がいる布団アンマンパン
喧嘩した夫の蒲団は干さなんだイキイキ生活
干蒲団と深夜便聞く小さき幸いまいやすのり
良き夢を見よと願いて蒲団干すいろをふくむや
布団の闇スマートフォンの光だけうちだひでき
カンガルーの嚢に近づく蒲団かなうまうまさとさ
キャタピラのごと山奥宿の蒲団なりうめがさそう
ふゆゆかしからだにそわぬわたふとんえみばば
真綿布団ありし抱擁ふとよぎるオカメインコ
寝入り端剥いだ布団の陽の匂いおくにち木実
混沌の三時まほろば蒲団かなおさむらいちゃん
鳩どけい遠くに聞こゆ蒲団かなおひい
日向香に誘われ蒲団へ大ジャンプお品まり
ドア閉めて泣くぞ蒲団に体投げカオス
宇宙には私と蒲団しかいないかしくらゆう
憂鬱とノスタルジアの綿蒲団かたちゃん
重みある布団じゃなきゃと義母笑うかもめ
中二病の愛犬と己ひとつ布団かわいなおき
抱きまくら蒲団の中の月曜日カワムラ
ひとりでも右端で寝るふとんかなキートスばんじょうし
朝近し羽毛蒲団は重くなりきむらかすみ
掛蒲団そっと直して帰る影ケンG
客が来る蒲団干しやら風呂掃除こつみ
Dior浸む母の形見の布団沁むこぶこ
抜け殻の布団にもぐる猫と吾さかたちえこ
目覚めても蒲団に潜る朝寝かなさきまき
旅先の布団の重さよそよそしさこ
悲痛の涙蒲団まで濡れたら耐えられないサンデーナイト斎藤
十年夢吸いこんだ蒲団は妖魔しんび
離婚日や右手に布団抱え込みスローライフ
洋書聴く蒲団の中の八分間そのみな
羽毛増量布団ポチりはや温しそよ風そよ
パッチワーク祖母の蒲団の半世紀タシャキ
姉さん被り捌く蒲団ぞ綴じ合わせたすく
ヤバいガバッ鼻血一滴蒲団へとタマゴもたっぷりハムサンド
干布団叩く音あり午後三時たむこん
蒲団ひく母の気遣いふっかふかちやこ
縁側で蒲団と共に干されけりつばきもち
すぐ戻る起き抜け布団が冷めぬ間につる凛々
取り込みし蒲団へ突如ダイヴィングてまり
丁寧に年休届ふとんに屁ときこの母よしこの息子けんいち
古蒲団添い寝した子は親となりとしまる
お日様の蒲団にくるまる我は芋虫なかしまともこ
一日の仕事進みて蒲団軽しなんじゃもんじゃ
インフルの残り香叩き干し布団ねがみともみ
おひるね布団抱え月曜の朝はっかあめ
取り入れて土俵にされる干蒲団パッキンマン
日和よしこの日逃さん蒲団干すはるちゃん
振袖を解いて孫の蒲団縫うハルノ花柊
里帰り母の匂いの蒲団かなひかるこ
布団の中長男次男犬に猫ひなたか小春
温もりの残る蒲団や幸生ふるひな芙美子
ポニーテールゆらし往きぬ娘の蒲団干しビバリベルテ
布団干し叩く強さで気分知るひめりんご
布団溢るるが災禍の寒苦告ぐひろの
足指を蒲団の中で掻く夜半ふくろう悠々
疼痛の握りしむるや掛け蒲団ふみ
くいしばる蒲団の中でリスタートヘッドホン
床擦れの増えを蒲団に教へられペトロア
失恋や巣なる蒲団に潜り込みべびぽん
結ばれて捲れた蒲団みだれ髪ぽんず
冬布団陽にぬくもりて猫の舌ほんみえみねこ
四畳半フォークソング安布団まこと「羽生誠」
病室の蒲団が包む母の骨みはね
猫型に沈む蒲団の残り香よみわ吉
読みかけのかたい蒲団や夢の中やっせん坊
嫌われる布団は妻と同じ物ヤヒロ
ずり落ちた蒲団直す駄賃寝顔見るヤマブキイロ
布団より飛び起き連絡袋受くゆこ
亡きひとの蒲団回収ゴミに出すゆみずくん
病院の薄い布団の中で泣きよしこ
片泊まり蒲団床の間凛としてよしはら木犀
蒲団重ね仏間に眠る一夜かなよにし陽子
蒲団干す陽だまりの午後おおあくびラン。パパ
我が恋は破れて重き蒲団かなルテニウム
布団の山むすこ家族の置き土産るりまつり
干蒲団匂いに浮かぶ幼き日わかなけん
ふんわりとお日様の匂い干蒲団わさびあられ
陽のにおい蒲団に負けて猫に成るわたなべぃびぃ
蒲団から足が三本出てをりぬゐるす
夜深し吾子への蒲団の軽きこと芦幸
昭和の子干してる蒲団は遊び場に亜紗舞那
暖残る蒲団の山で隠れんぼ阿武美穂子
羽布団被つて子らは怪獣に愛燦燦
子どもらの匂いかすかな蒲団干す案菜
地続きの朝来るらし蒲団ごし伊藤小熊猫
蒲団かぶりふて寝するなり夫のくせ伊藤正子
部屋しめて蒲団をつくる祖母と母伊藤節子
平和てふ蒲団たたみに敷かれをり伊豆原半香
蒲団被て着信を見る夜明け前井松慈悦
起き抜けの蒲団の温み母に似て井上繁
山の小屋歴史の重み煎餅布団郁楽
別珍えり今は重たし組蒲団稲葉こいち
着信に声はずむ妻舞う蒲団稲葉雀子
蒲団着て膝立ててみる筑波山羽沖
蒲団干す娘の帰省2日だけ卯さきをん
母を待つ押し入れの中蒲団の間卯月貴子
夫眠る蒲団に涙のドライアイス影山治子
柴犬に蒲団奪われ丸く寝る 栄
布団被り少年は本の世界へと永屋部流
久しぶり客間じゅう蒲団敷く延杜
里帰り初孫待って布団干し縁恵
風呂と蒲団つつまれて我が身ひとつ遠藤愁霞
やがて吾の背の程合になり蒲団遠藤百合
横たへてくるまれてゆくふとん哉塩沢桂子
祖母の香の木綿の布団温まらず奥の木蛍子
蒲団ぎわ無治療の意志にドギマギし奥野富起子(乃風)
耳栓は布団カバーの耳の隅横浜J子
幼き日祖母と温くみし羽根蒲団岡れいこ
明日がある明日があるさと蒲団入る温湿布
父一人今日も早寝の蒲団かな可藤虚
寝返りに夕べのおなら厚衾河原つばめ
聞き分けて蒲団重石に父寝入る河畔亭
蒲団上げ猫も一緒におし入れへ花岡幸嗣
猫逝きて片寄らず寝る蒲団かな花屋英利
うさばらし夫の布団乱打して花咲みさき
陽の匂ふ蒲団被りて月旅行花咲明日香
重蒲団昭和の男何故かこれ華
蒲団干し1.2.3!とアダージョで華香
一塊の蒲団となりし添い寝かな華林灯
ふとんなか少し汗気味御歓楽蚊僧
幼児の気息に弾む綿布団海碧
布団出ず手足縮めて亀になる海里
嫁入りの緞子の蒲団50年笠江茂子
考の部屋ポマード匂ふ蒲団かな樫の木
ボクの蒲団どこお泊りの孫のせつない夜茅ケ崎のりこ
水鳥の命の軽さか羽毛布団閑々鶏
蒲団振るホレおばさんは綺麗好き丸山隆子
今朝死する父の蒲団のまだ温し岩井馨子
夜明け前犬潜り込む我が蒲団希林
十二歳で売られし少女蒲団干す季凛
孫ら去ぬ蒲団干す干す空青し紀泰
ふる里の陽の匂い満つ蒲団かな紀朋
羽毛蒲団宇宙遊泳にいざなふ貴志洋史
湯から出て滑り込む夜の干蒲団亀田稇
綿蒲団重いがほっと里の夜吉哉郎
目覚めたら掛け蒲団がインドのナン吉藤愛里子
夫愛し蒲団に残る香も愛し橘右近
蒲団敷く愛犬挟み川の字に宮杜都
ぬくい蒲団にひやり犬の鼻先宮村寿摩子
夜明けの蒲団そろりと出す足すぐしまう朽木春加
蒲団を伴侶にしたのち現から消ゆ魚返りみりん
温温と蒲団の中で手を合わせ教来石
ポンポンと今日も響く蒲団干し橋本結女子
干し蒲団お天道様のありがたみ暁孝
「ただいま」を迎える支度布団干し玉井瑞月
擦り切れた蒲団の側はもと四つ身銀のグランマ
主役はボク猫と蒲団を取り合って句滔天
独り寝の布団に猫の重みかな空龍
ぺたんこの蒲団に残る川の文字栗子
タテジマの蒲団にカナを保育園薫夏
病んでいま蒲団の国の王となる薫子(におこ)
襟元に陽の匂ひ嗅ぐ蒲団かな月の砂漠★★
独り寝の隙間風沁むダブル蒲団絹太朗
煎餅をホットケーキへ蒲団干し見屋桜花
亡き母のパジャマ着て入る蒲団かな原貴美子
惰眠にも布団かけをりおふくろは原田民久
名札だけ残った園児の布団棚古いっちゃん
ぬるま湯につかる心地や干布団古史朗
子の刻蒲団めくると夢の国古川勝弘
煙草焦げ裏返したる薄布団古田もも
従兄弟来て部屋いっぱいの蒲団かな古都鈴
避難所にて譲ってもらいし蒲団の温かったこと戸海倫
蒲団干す取り入れるとき一番好き戸根由紀
二匹目は蒲団の真中踏み来たる戸部紅屑
母縫いしずずと重たき蒲団着る湖雪
蒲団に蒲団重ねて蒲団蒲団かな五月闇
鞆の浦干物の横に蒲団干す後藤久
十年の蒲団重しと足で蹴り弘
ダイブする蒲団は吾子の海と空江川月丸
叩く音響く斜陽の干し蒲団江田綾子
陽は高し蒲団かぶりて知らぬふり江藤薫
独り寝や悶々として蒲団抱く甲山
饗応の果てなる重ね蒲団かな紅さやか
上階の奥様今日の蒲団の叩く音高橋久恵
宇宙の匂ひかき集め蒲団干す高橋光加
ありがたい腰痛吸い取る蒲団なり高野郁子
陽に干しし布団ふっかり猫眠る今井淑子
日に干した蒲団で眠る夢楽し今井正博
諍いも包んで温し共寝蒲団今村ひとみ
部屋で干す蒲団畳に触れぬよう今田哲和
干布団雲に誘われ空を恋ふ今野夏珠子
柴犬も猫も子どもも干蒲団今野浮儚
掛け布団目覚めたときは敷布団佐山玉愁
縁側で見ていたばあばの蒲団打ち佐藤叡子
あさぼらけ蒲団にお別れのキッス佐藤花伎
蒲団一枚よくぞここまできたものだ細木梢
直前模試の結果蒲団に食わせる坂まきか
陽に満ちた蒲団を顔まで被ってる坂本千代子
潜り込み待つは嬉しい母の蒲団桜月夜
古風なるかいまきぶとん重かりき桜姫5
大砲の轟き蒲団叩く音三浦ごまこ
老い母の予報あたれと蒲団干す三浦真奈美
一枚の蒲団取り合う夜明け前山育ち
息してる 蒲団の上の腹式呼吸山科美穂
起こされて竿に布団をかける朝山口要人
布団積み母の香ありと夫言う山口香子
温もりは子宮のような蒲団かな山城明子
子ども布団足出るを皆で笑う山川真誠
遠き日の祖父にに掛けたし羽布団山川芳明
蒲団に入る瞬間が好き生きてます山田啓子
生業の重き服ぬぎ蒲団きる山辺道児
猫くさい布団の中の小宇宙山本ふじ子
一日をすべて飲み込む蒲団かな山本康
陽の香る蒲団ふくらむ母の笑み市川理恵
明け方の猫の入りたる蒲団かな鹿沼湖
泣き面のもぐる蒲団や握りしめ鹿嶌純子
太陽の恵み貯めをり干蒲団篠崎彰
退院の連れに贈りし羽布団篠雪
蒲団着て極楽行の夢にのる紗智
お昼寝の小さき蒲団何処へやら珠桜女絢未来
年毎に妻の蒲団よ離れ行く酒暮
丑の刻嗚咽を包む蒲団あり樹出比皷沙
心包む蒲団の中は夢世界秀道
山小屋の日差し満腹干し蒲団秋月なおと
職決まる品定めする布団かな秋代
蒲団蹴る吾子の寝息の健やかさ春告げ鳥かずえ
大の字の犬にも蒲団掛けてやる春日春都
客布団ふくらみ故郷の母を待つ春日野道
蒲団重く祖母の命の時刻む純香
縁側の布団ふかふか一休み初野文子
ねこがのる蒲団の重さあたたかさ緒方しんこ
布団干す山小屋の屋根に五十枚小春
けふはけふ蒲団に溶くる今日の業小杉泰文
家部屋布団一人きりの空間へ小雪いつか
陽に香り有ると知る干蒲団小倉藍朱
加齢臭へと外方向く蒲団かな小田慶喜
夜勤せる身を包み込む昼蒲団小田虎賢
涙吸ひ鼻水も吸ひ痩せ蒲団小田龍聖
お蒲団のやうに初孫包み込む小田和子
布団から息子の足のはみだして小都見
避難所の命預る蒲団かな小嶋芦舟
羽布団「毛布上に」が腑に落ちぬ松下敏行
憂きことを忘れんとして布団干す松原隆雄
家中に辛き悪阻なり蒲団干す松山のとまと
亡き夫の残り香蒲団にさがす日々松虫姫の村人
里帰り冷えた蒲団や夫想ふ松島美絵
目覚めれば蒲団に重し眠る猫松尾義弘
一炊の夢さへ願ふ干蒲団焼津昌彦庵
母の夢蒲団に乗って世界旅行上原郁美
蒲団たち疲れし人を暖めて植木ふうこ
足入れた蒲団に先客猫の腹新谷ノル
寝たふりの吾子布団かけ眠り入る新美妙子
蒲団という名の妖怪に呑み込まれ森山博士
すすり泣き蒲団が全て包み込む森澤佳乃
綿布団子の足触れた午前四時深澤あゆみ
病める身をそっと包める布団かな真理庵
雑魚寝部屋蒲団不揃不揃瘤神谷米子
干蒲団叩けば野良の五六匹水木華
粗大ゴミ蒲団を捨てて別れけり雛まつり
幾年をかさねて重き蒲団かな杉浦あきけん
青い朝帰省する子の蒲団干す杉浦真子
病床の夫の蒲団に遊ぶ吾子瀬尾ありさ
蒲団乞う小さき公園テント村瀬尾白果
容赦なく打ち据えられし干蒲団成田こむぎ
羽根ひろげ陽射し抱き込む蒲団かな政乎
もぐりこむ干布団へと子と猫と星野雫
姑の肩薄きにふはり布団拡く正岡恵似子
重し役猫引き受けた干し蒲団西尾至史
ためらいて終活最後の客布団西條恭子
這い出せば蒲団に未練吾が微熱西條晶夫
老いてなほ畳む蒲団の重さかな青児
子供蒲団さらに小さき猫蒲団石岡女依
蒲団の染み天井だけ見ていた頭の石垣エリザ
部屋中の雑魚寝蒲団に人と猫石原由女
犬のおらぬ旅の冷たき蒲団かな石崎京子
娘待ち一瞬の晴れ間に蒲団干す石川雪ん子
干しぶとん下ろし我先もぐり込む石川八右衛門
靴下を脱がせと歌う布団の子石田恵翠
どら息子布団干せよとメール打つ雪豹
母さんの着物でつくる布団皮千鶴姫
暮雲のごと常夜灯下の蒲団かな川端孝子
いく度も蒲団干し待つ子の帰省浅井和子
お留守番主人の布団で夢心地前眞弓視
君送り花袋の「蒲団」さがす我前田澄子
大の字になれず死人になる蒲団曽我真理子
片恋や布団のなかの小宇宙倉嶋志乃
失恋し蒲團という名のシェルターへ倉澤慶子
生き死にや孕みもありて蒲団かな惣兵衛
障子開け日なたの布団猫向かう早山
蒲団の凹み亡母の肩は此処なり霜月詩扇
一跳びや雲の蒲団によーいドン則本久江
宿に着き布団に座して寛げり多田ふみ
重い蒲団に満足の父明日は休み駄詩
蒲団干しあとは待つだけ娘孫大原雪
病む我を陽の香蒲団に夫の心大原妃
ひと蹴りで形を変える羽毛布団大山こすみ
口げんか車の屋根に蒲団干す大小田忍
蒲団干す平和のちから瞬きす大西笹風
真っ白の蒲団にややの涎かな大槻正敏
推敲句スマホへメモる蒲団中大槻税悦
愛しさは蒲団に残るあたたかさ大本千恵子
里帰り古した蒲団ふぅんわり第一句けいぜろばん
心停止布団にまたがり浮遊する鷹野みどり
幾年も夢受けとめた蒲団かな谷口あきこ
金婚の蒲団父母の笑み胸に染みて谷中薫氏
干蒲団猫もほのかに日の匂い谷本真理子
あと1分たのむ頼むの朝の布団池上敬子
安眠を誇れる国の蒲団かな池田功
羽布団とられた朝の欝憤よ池田華族
叩きたい綿切れるまで仇布団池田洋子
羽根布団落ち着かないと言いし父池内ねこバアバ
客蒲団干して仕舞って妻と呑む竹内うめ
にほひだけ残る主のなき蒲団竹内桂翠
夢見つつ蒲団の中で旅をする中山弘武
布団干す今夜の夢見期待して中山清充
遺されし姉の蒲団をリフォームす中山白蘭
抱へたる古き蒲団の陽のかをり中西柚子
蒲団からベッドに替わりし祖母の部屋中島知恵子
目を盗み枕投げする蒲団かな中島圭子
日常のかえる家族や布団干し中嶋京子
せんべ蒲団家族総出の打ち直し中嶋純子
蒲団より雨音を聴き二度寝かな昼寝
布団蹴り受験票抱き締む朝朝雲列
「おふとんがおひさまのにおい」爺と寝る長谷川麻季
寝落ちする老母に蒲団子守唄長谷島弘安
おのろけ豆一粒ぽろん蒲団かな 直木葉子
我が子との蒲団恋しいいそぐ帰路田口明香
布団干す夜あの人は知らぬこと田川さくら
青空に蒲団は飛ばず風を受く田端畑
干蒲団愛の匂いにくるまれて田中ようちゃん
労働にご褒美ひとつ蒲団かな田中睦
押入れの亡父の布団七回忌田畑尚美
僧帽筋今朝も動けと布団干し杜まお実
子年の夫せんべい布団がいいと言う渡辺みちこ
蒲団重しサンドイッチの具の気分渡辺牛二
日常を取り戻すごと蒲団干す渡邉野紺菊
布団干す妻の笑顔を包むため渡邉竹庵
帰郷して母の蒲団の重き知る登久光
猫のゐる蒲団は猫のあたたかさ都忘れ
吾子の寝息甘し干蒲団香ばし土屋雅修
修学旅行蒲団を被り寝たふりぞ土屋朗裕
蒲団空間宇宙旅行出発土田耕平
蒲団にスマホ忘れたや寝過ごし駆ける初詣刀虫
半べそや地図ある布団干してをり嶋良二
蒲団干し身震いひとつ菰の虫東風弘典
冷えた足ずれた蒲団に気付く朝董人悟念
背伸びして蒲団干す朝母想う藤井聖月
青空や先ずはふわりと布団干す藤井茂
日だまりに風の招くや蒲団干藤井眞おん
病得て羽毛蒲団の重き母藤原訓子
姑の期待重たき干蒲団藤千鶴
ふるさとの温もりに似て羽蒲団藤田康子
病院の蒲団白くて軽すぎて藤田真純
蒲団のネコ干しておひさま降りてくる徳田ヨーコ
旅先の陽の匂ひする布団かな独星
窓を開け蒲団三枚流星群寅次郎
布団冷たっ!たまの一人は温もり恋し内田誠美
蒲団干すいがぐり頭の後頭部内本惠美子
干布団魑魅魍魎を叩き出し二鬼酒
小さき日の蒲団の重み豆明かり入江幸子
新設のベッドに古き羽根布団埜水
祖父の寝る蒲団ロココの薔薇模様巴子
無きことがあり得ぬ布団乾燥機馬祥
ちょうどよい温さのころに出る蒲団背馬
掛けれども掛けれども布団剥ぐ息子梅嶋紫
独り分畳む布団の軽さかな白井百合子
積まれたる蒲団に隠る小兵士白雨
捨てられぬ母の手縫いの蒲団ゆえ白土景子
ばあちゃん家はみ出る足やミニ布団白藍こはく
幾年も重み蓄へ蒲団棄て畑詩音
赤子寝る布団の余白の広きかな八重葉
寝返りの数だけ馴染む干蒲団板垣美樹
引き寄せし蒲団の重さ甲羅めく比良山
お向かいは喧嘩中なり蒲団干す緋乃捨楽
病床の母の蒲団の薄きかな樋熊広美
真夜中に蒲団掛けし子ら父になる尾関みちこ
老いのみの部屋の日だまり蒲団干す美山つぐみ
ずっしりと重き蒲団の快然たる美翠
稀なるか蒲団は木綿母恋し蛭本喜久枝
のしかかる子宮のぬくもり綿布団風泉
もがきたる蒲団の中の深海魚風峰
こんな夜は蒲団かぶりて小宇宙風来
かけぶとん子等の寝相の姿して福ネコ
頬染め寝入る孫の布団ほこほこ福弓
届け先は東京シングル布団福月スミレ
あずき色の布団袋届く四畳半福泉
一人寝の蒲団に猫の重さかな平井みき子
本めくり早く温もれ冬布団平塚明美
妊娠初期の妻を制して蒲団干す片岡ひまり
夫定年も一度潜る蒲団かな片岡佐知子
柔らかに蒲団の中に足のばす片栗子
人の家四肢縮こめる蒲団かな穂積のり子
一日を生きし褒美に入る蒲団睦月くらげ
母手製の今にし重き綿蒲団本間美知子
阿弥陀くじ団地の窓の干蒲団盆暮れ正ガッツ
蒲団に潜り慟哭宇宙(そら)を漂う麻生恵澄
長電話終わって妻は布団干す抹香
蒲団へ中継チンアナゴ砂漠から抹茶金魚
笑みこぼる肩のぬくもり朝蒲団湊かずゆき
六畳に蒲団を敷けば我家成る蓑田和明
まだぬくもりのある蒲団看取り果つ眠睡花
湯上がりの匂ひ持ち込む蒲団かな夢見昼顔
星へ海へ絵本と母と子のふとん名計宗幸
押入れの主なき蒲団薄くなり木下桃白
孫たちの残香ほのか蒲団干す木村修芳
伏した父掛けた蒲団の嵩ひくく木村波平
冬の布団我の動きを鈍くする夜香
青空へ客布団干す早や三日野尻敏子
100までも生きてくれろと布団かけ野村良徳
午前二時まるまって爪先の布団野々香織
朝5時の余震蒲団に身を屈め矢引達教
アン畜生うっぷん晴らす布団干し有馬裕子
臨終の母に冷たき布団かな柚木窈子
帰省した娘の残り香蒲団しまう由実
潜るべき蒲団の無くて体育館遊飛
孫あずかりて眠れぬ夜の蒲団かな雄山卓女
抱き合ひて互ひが蒲団となり落つ藍野絣
空模様慌てて蒲団干し入れる利光
蒲団干す夫の背ことに丸くなり立花綾子
押入れの蒲団の隙間で眠りたい隆月
出汁を取る蒲団の夫の鼻ぴくり龍季
お日様の香に埋もれたし蒲団干す林田りこ
閉じ籠る真昼の硬き敷蒲団鈴木上む
明け方の温き布団の我は猫蓮花麻耶
わが着物蒲団に化けし戦後かな鷲野の菊
手書き文字父の布団に頭と足凛
蒲団干し温もり残し取り込むや戌の箸置
蒲団着て獣の如く丸くなり戌亥
青天へやすのりちゃんのおねしょ蒲団朶美子
ひんやりと生家の匂いの蒲団かな楡野ふみ
宝くじ当たれと蒲団西向きに櫻井弘子
陽の香り吸ひて吐きたる布団かな洒落神戸
肩口にすわる猫あり蒲団あけ澤真澄
幾千の夜を吸いたる蒲団かな籠居子
せんべい蒲団吾のグチ呑んで日に放つ 苳
整えて主婦の満足蒲団かな蓼科川奈
蒲団乞う犬のかわいや裾上げる黎成
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
●俳号には苗字を!
〇俳号とは、その句が自分のものであることをマーキングする働きもあります。ありがちな名、似たような名での投句が増えています。せめて、姓をつけていただけると、混乱を多少回避することができます。よろしくご協力ください。
◆ひとことアドバイス
●俳句の正しい表記とは?
- 蒲団出し 大足ぴくり 零度の夜角谷圭子
- 幼き日 温く温く蒲団 母の横vivi
- 布団入れ 思わずうずめる陽のふわり
- 干蒲団 叩くやパッと 鳥去りぬ小林憲子
- 乳房吸い 寝る子に譲る 羽毛布団猫梟
- 無沙汰にも 布団の温し 寒椿葉月
- 蒲団干す 夫のラインに 病室で笑む梶本幸子
- 窮屈も 犬には甘く 蒲団シェア細谷弘美
○「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記です。まずは、ここから学んでいきましょう♪
- 冬ふかし
念仏のごとく
キャベツきる安藤信子
○テレビの俳句番組では、三行書きにする場合が多いのですが、あれはテレビの画面が四角なので、そのような書き方をしているだけです。重ねていいますが「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが正しい書き方です。
●一句一季語から練習
- 春の嵐蒲団飛ばされ豆を撒くカメ
- 充電の湯たんぽ入れる冬衾一枝
- 犬抱きて布団いらずの昼寝かな榎本真希子
- 炬燵から猫が這い出し腰布団岡月すず
- 耳寒し布団の角を弄ぶ音声
- 待ちわびる蒲団のように雪よ降れ加島
- 早朝の除雪車感謝しつつも出れぬ蒲団齊藤裕
- 冬の朝蒲団の中は時間切れほそのまさる
- 更年期蒲団剥いでは風邪を引き原口和博
- 冬晴れの日朝顔柄の布団干す珠草
- 咳すれば咳が応える蒲団ふたつ村若案山子
- 意を決し蒲団蹴散らす寒い朝栞
○一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。
●兼題とは
- 稲おじぎいばる案山子に富士笑う幸田泰子
- タピオカや 飛んで弾けて 子供泣くマグナムの兄貴
- 水仙を差して眺めてあっ図書館弓削美和子
- 帰省子の去りたる部屋の寒さかな田中由美
○今回の兼題は「蒲団」です。兼題を詠み込むのが、本サイトのたった一つのルールです。
- ドアを閉じまたドアを開け去年今年野曾良
○おーっと、これは前回の兼題。遅かりし由良之助~いや、遅かりし野曾良~やな、とほほ。
●季語深耕
- 午後六時結びの一番蒲団舞う亀田勝則
- 座布団の特等席や猫どかす大道真波
○「蒲団」は冬の人事の季語です。土俵へ向かって投げられる座布団は、あくまでも座布団であって、季語の蒲団とは言い難いなあ。
- 腰蒲団木賃宿座す山頭火ときめき人
○「腰蒲団」も冬の人事の季語に分類されます。腰の冷える女性や妊婦などが使う小蒲団です。うーむ、山頭火かあ。ちょっと微妙。
- 冬衾水道水の甘きこと石井一草
- 太陽の香りまみれや冬衾村松登音
- 死期迫る母に添い寝の厚衾木村修芳
○「衾(ふすま)」も冬の人事の季語です。ネット辞書には以下の解説。【身体の上にかける寝具。木綿・麻などで縫い、普通は長方形であるが、袖や襟を付けたものもある。現在のかけぶとんの役割をした。】 ページ数の少ない歳時記や季寄せなどでは、「蒲団」の傍題として「衾」を載せているものもあるかとは思いますが、大判の歳時記などでは、別の季語として分類されています。
今回も3348句もの投句数があり、3ヵ月連続の3000句超えです。
毎晩のお供である『蒲団』という馴染み深い兼題に、みなさんの作句意欲も高まったのではないでしょうか。このままの勢いで今月の兼題『梅』の作句もなにとぞよろしくお願いいたします!みなさまの素敵な作品、心よりお待ちしております(編集部)。