夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
9月の審査結果発表
兼題「秋刀魚」
秋から冬にかけて獲れるものが魚形も大きく脂がのって美味である。
七輪を出して焼くこともあるが、調理器具の発達で見かけなくなっている。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
ぼばばばとさんま飲み込む黒い魚倉
播磨陽子
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夏井いつき先生より
「さんま」で膨れあがる網、滝のように落ちる潮、強烈な飛沫、ウインチの轟音。それら全てが「ぼばばば」というオノマトペで表現されていることに驚きます。擬音語のようでありつつ擬態語でもある上五。網から「魚倉」へ落とされる「さんま」の群。秋刀魚漁の現場にいたのではなく、網を引き上げる光景をニュース映像で見ただけかもしれませんが、だとすれば尚更「ぼばばば」という表現のリアリティに感服します。中七「飲み込む」という擬人化は評価の分かれるところですが、最後の「魚倉」がぽっかりと口を開けているさまが強く印象づけられますので、この擬人化は邪魔にならない措辞ではないかと考えます。潮臭く魚臭い「黒い魚倉」です。
しなやかに秋刀魚まがりぬポリ袋
馬場崎智美
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スーパーで「秋刀魚」を買って「ポリ袋」に入れた時の実感がそのまま描かれています。「しなやかに」という曲線、「まがりぬ」という的確な描写。「秋刀魚」というはまさにこんなものだという一句。
秋刀魚焼きのび太くんまた0点か
うどまじゅ
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「秋刀魚」は庶民の食べ物、「のび太くん」はちょっとダメなとこもあるけど愛すべき普通の子の代表。「また0点か」という呟きには愛があり、こんな日の「秋刀魚」もまた美味しいに決まってます。
雨の日やどこから匂ふ秋刀魚の血
高橋なつ
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「秋刀魚の血」の匂いを意識した事が無かったのですか、こう書かれるとそれを知ってたような気がします。「雨の日」の湿度、どこに「秋刀魚」が?という謎も腥く匂ってくる。心惹かれる作品です。
ラジオからタンゴ秋刀魚に火が移る
樫の木
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「ラジオ」から何かが聞こえるという発想の句は沢山ありましたが、「タンゴ」のリズムがいい! 激しいリズムが「火」を煽り立て、「秋刀魚」の脂に「火の移る」瞬間が見事に映像化されています。
良き挙式だったと突き合う秋刀魚
高橋寅次
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「佳き挙式だった」という呟きで状況が、「突き合ふ」という複合動詞で夫婦の存在が読み取れます。胸一杯でご馳走を食べる余裕がなかった。その夕飯の「秋刀魚」に満足と淋しさが交錯するのです。
妹の恋文破いた秋刀魚食ぶじゃすみん
秋刀魚の背に星の欠片と海の青じゃすみん
曲馬団のテントの裏に焼く秋刀魚じゃすみん
初秋刀魚得て七輪の猛る猛るテツコ
人類は火を手懐けて秋刀魚焼くテツコ
尋ね人多し秋刀魚の焼ける街テツコ
文学を生業として秋刀魚焼く或人
歌謡曲流れる生家秋刀魚焼く或人
秋刀魚買いにとなりまちまでぼうけんだ或人
牛刀は孫六まな板の秋刀魚伊予吟会宵嵐
ラジオから函館の女秋刀魚焼く伊予吟会宵嵐
秋刀魚喰らふ骨も身も腑も思ひ出も伊予吟会宵嵐
スーパーの秋刀魚消え激震届く桑島幹
妻の飲み会またしても秋刀魚焼く桑島幹
秋刀魚焼くモーツアルトを聞きながら桑島幹
換気扇隣家ゆかしき秋刀魚かな克巳
JR全線不通さんま焼く克巳
予報円直撃は無し秋刀魚焼く克巳
百年前の秋刀魚百年後の秋刀魚青海也緒
缶詰めになる秋刀魚らの輝けり青海也緒
子が欲しと血の騒ぎをり秋刀魚焼く青海也緒
要するに秋刀魚は兵器とは無縁登りびと
反り合はぬ父でも父ぞ秋刀魚買ふ登りびと
財嚢の天秤秋刀魚に傾きぬ登りびと
江ノ電を秋刀魚の煙包みたる楢山孝明
曲がりたる秋刀魚数匹混ざりをり楢山孝明
本物の愛はあるかと秋刀魚焼く楢山孝明
集魚灯の口ぽつかりと秋刀魚湧く播磨陽子
硬直す陸の秋刀魚の刃文かな播磨陽子
三十路の青春のごと臭きはらわた秋刀魚食ぶぐ
携帯コンロの秋刀魚を囲う部活棟ぐ
小説に似た恋でした秋刀魚焼くクラウド坂上
秋刀魚焼く妻の無言のきな臭しクラウド坂上
零れたる水まだ青き秋刀魚かなくりでん
聞き込みの警官来たり焦げ秋刀魚くりでん
酷い目に遇うた男と秋刀魚喰うみなと
さんまさんま寡婦の夕餉に開く詩集みなと
先輩の失恋話秋刀魚焼くみやこわすれ
星一つ揺れて秋刀魚の腸を食ぶみやこわすれ
空っぽの女秋刀魚のわた舐めるラーラ
秋刀魚秋刀魚佐藤春夫は好きであるラーラ
喜馬拉雅の塩キラキラと秋刀魚かな葦たかし
さんまさんまさんま噂話の盛り上がる葦たかし
空を目に映して秋刀魚焼かれおり加裕子
秋刀魚喰って死ぬ気も失せる単細胞加裕子
父のごと焼き母のごと食ふ秋刀魚かな可笑式
宿直室きのふの秋刀魚にほひけり可笑式
遺言の更新終えり秋刀魚焼く歌鈴
庭へ出て良き夫として秋刀魚焼く歌鈴
顔だちのよい秋刀魚なら旨かろう花伝
蛍光灯燻すが如く秋刀魚焼く花伝
水揚げの秋刀魚は海の青を吐く花南天
さえら苦し春夫の恋のなほ苦し花南天
時々は右向きで来る秋刀魚かな霞山旅
思いきり飯炊いて焼く秋刀魚かな霞山旅
単身の寮の門灯さんま焼く輝久
順行に戻る火星や秋刀魚焼く輝久
潔き顎を炎へと秋刀魚久我恒子
会話はや目配せとなる焼き秋刀魚久我恒子
秋刀魚焼いて生き別れといふ自由宮部里美
筆箱の鉛筆のやうに秋刀魚宮部里美
戒厳令大さんま一路北上す薫子
喰ってみろと目を怒らせる大さんま薫子
掌にひたと秋刀魚の胴は蛤刃溝口トポル
焼き秋刀魚きれいに食す夫が嫌溝口トポル
初秋刀魚群青色の息吐けり紅さやか
宅配のをとこ佳きかな秋刀魚焼く紅さやか
秋刀魚焼く風車倒るる報を聞く斎乃雪
海膨れ網をあふるる秋刀魚かな斎乃雪
説明を言い訳とされ秋刀魚の夜榊昭広
秋刀魚喰ふブラックアウトに来る余震榊昭広
秋刀魚焼く腹わたのことで喧嘩して七瀬ゆきこ
秋刀魚さんまアンタの代わりはおらん七瀬ゆきこ
皮をぱりつ音で喰ひたし焼き秋刀魚若井柳児
箸づかい姑見ている秋刀魚食ぶ若井柳児
金色の脂の爆ぜて秋刀魚かな小川めぐる
妻といふ見知らぬわたし秋刀魚焼く小川めぐる
火の鳥の啄ばむやうに秋刀魚弾ける松山帖句
刀工のやうに秋刀魚を七輪へ松山帖句
焼さんま無料配布と聞けば行く松野菜々花
焼秋刀魚考は十五で酒覚ゆ松野菜々花
さんま漁船傾いて通りけり城内幸江
命燃えるやうに秋刀魚焼かれけり城内幸江
秋刀魚喰む農耕民族の我ら石山俊道
掠れ字の「サンマ」水曜日の食券石山俊道
頼朝の沃懸地の太刀初秋刀魚中岡秀次
秋刀魚買ふ帰りに秋刀魚皿を買ふ中岡秀次
秋刀魚焼く網は破れて三年目冬のおこじょ
秋刀魚焼く火屋のボタンを押した指冬のおこじょ
寂しいと言わず秋刀魚を裏返す猫路
よく肥えて土も秋刀魚もあかんぼも猫路
真つすぐに置くほかはなき秋刀魚かな比々き
秋刀魚煮て山家に籠る酢の香かな比々き
腑に落とす秋刀魚の腸と今日ひと日本上聖子
お見合いの秋刀魚一尾に見せ場くる本上聖子
秋刀魚の頭掴み臓物抜く静か麻衣
指輪したまま秋刀魚を捌く母麻衣
ふた心鎮めて暮れの秋刀魚焼く椋本望生
さんま焼くかに座うお座も煙たかろ椋本望生
秋刀魚弁当三陸の海見えはじむ門未知子
美しく秋刀魚を食べる男あり門未知子
無いものは欲しがりません初秋刀魚野ばら
入院の準備万端さんま焼く野ばら
コークスを知らぬ娘や秋刀魚焼く有瀬こうこ
相席のサラリーマンの秋刀魚かな有瀬こうこ
青さんま代表作はまだ無くて鈴木(や)
誰の妻にもならぬと決めて秋刀魚焼く鈴木(や)
本日の小言賜り秋刀魚喰ふ露砂
庶民にも階級あって秋刀魚焼く露砂
うらおもて食べて目が合う秋刀魚かな蝋梅とちる
ビニル袋の一カ所を突く秋刀魚たち蝋梅とちる
頭だけ残る秋刀魚をつつく夜あまぐり
秋刀魚焼くときどきぼっと怒っているあまぶー
演歌など聞く気になれず焼く秋刀魚うさぎまんじゅう
海の青をひとみにとどめてる秋刀魚うたけいこ
北国の秋刀魚に絞る豊後の香オカメインコ
するすると秋刀魚ほどきし指見惚れおぐもぐ48
裏庭に風来ず秋刀魚は内で焼くおざきさちよ
美し秋刀魚嘴の黄と輝る眼とおんちゃん。
清貧のふりしてつつく秋刀魚かなカオス
サンマ漁妻は今日出産予定かつたろー。
匂ひ立つ秋刀魚に醤油二、三滴きなこもち
世渡りの拙き男秋刀魚焼くクジラ
平成のこれが最後の秋刀魚かなぐずみ
安芸弁に慣れて秋刀魚をふるまはるくっちゃん
酒か飯楽しく迷う秋の魚くまくま
呑むやうに食ふ吾の皿秋刀魚二尾くま鶉
秋刀魚や気仙沼は北斎ブルーくるみだんご
三陸の秋刀魚は泪流しけりけい子
光るさんま波のきざみをプラスしてここな
一分て結構長い秋刀魚焼くサイコロピエロ七変化
丹沢の稜線深く秋刀魚かなさがの
パリパリと黒く愁いて秋刀魚かなさくやこのはな
水揚げに溢るる光初秋刀魚さちよ
裏紙に吾子の指令や秋刀魚焼くさとけん
翌朝の匂いも旨し初秋刀魚さとち
華奢な骨残し二尾目の秋刀魚食うしかもり
好きにせぇ秋刀魚きれいに食べる父シロクジラ
力道山の空手チヨツプや秋刀魚喰ふすりいぴい
まどゐなき卓に並びし焼秋刀魚タチヤーナ
失業やサンマ火を噴く真っ昼間ちゃうりん
地震揺るは大風吹くは秋刀魚食ふはときこ
夕刊の大きな文字や秋刀魚焼くとしまる
三陸のさんま咲かせて飯を炊くとっちん
ハイヒールかかと鳴らして秋刀魚かなとみことみ
幾万の秋刀魚が岸壁銀色になんじゃもんじゃ
ぶしゅぶしゅと爆ぜる秋刀魚を裏返すにゃん
交響楽響く夕餉の焼秋刀魚ぬらりひょん
秋刀魚焼く七分の裏技で焼くのど飴
政宗の兜のごとき秋刀魚かなはむ
秋刀魚焼く大衆歌謡響きけりハルノ花柊
サンマ二尾夕日差すレジ後にしてひふみ
親潮の群青深し秋刀魚の目ふじこ
秋刀魚食ぶ天才なべて左利きぼたんのむら
昼酒のひとり秋刀魚はなめろうにまどん
あれこれともつれる事情秋刀魚焼くみかりん
路地裏に秋刀魚の煙とジャズの音みどり
秋刀魚焼く偽装結婚の匂ひみやこまる
沈黙を破る糸口焼秋刀魚ももたもも
彼は焼く秋刀魚をスマホの片手間でゆうほ
広告と同じ貌した秋刀魚選るゆこ
海原の白銀色の渦秋刀魚ゆすらご
物の怪の爆ぜて秋刀魚の一尾かなゆづ
二年ぶり火星近づき焼く秋刀魚愛燦燦
相続の話の消ゆる秋刀魚かな穐山やよい
余震また山肌裂けて秋刀魚食う英男
井戸水を纏ふ秋刀魚の腹艶げ塩谷人秀
馬生聴き明日は秋刀魚と決めにけり加藤哲
海の色背負ふ秋刀魚の焼ける音夏柿
欲しいのは秋刀魚の腸のような彼樫の木
暇なれば秋刀魚の骨を炙りをり亀山水田
秋刀魚焼き里のならひの果汁かな菊原八重
秋刀魚焼く七輪の煙挽歌かな吉成しょう子
穏やかにころりと逝きたし秋刀魚焼く吉田秀一
外科医らの腑分け談義や秋刀魚苦し吉良水里
情緒すて主婦の秋刀魚は真っ二つ宮武桜子
トロ箱の冷凍サンマ背を正す居升典子
曇天に夕餉の秋刀魚解しをり京野さち
偽物の太陽来たる秋刀魚死す玉木たまね
少年は秋刀魚咥ふるカムチャッカ鯨木ヤスカ
七輪は任せろ秋刀魚買ってこい古都鈴
無煙ロースター秋刀魚の顔は蓋の中幸子
星空に秋刀魚煙りて母何処弘
献血で秋刀魚一箱なら我慢江口小春
せうゆ薄まるや初秋刀魚のあぶら綱長井ハツオ
秋刀魚は一尾センサーライト点灯す香織
秋刀魚食べすこし喧嘩をして眠る香野さとみ
豊漁や河岸に振る舞ふ初さんま高村安子
嗚呼うちが秋刀魚焼く香の四軒目佐藤儒艮
をんなひとり秋刀魚食らひて無上かな佐藤比古太
秋刀魚焼く探査ローバー跳ねるころ砂舟
一日を良く働いて秋刀魚焼く彩楓(さいふう)
ジュッと焦げそうな赤空秋刀魚焼く咲楽
大人になりし家族そろう夜秋刀魚買う三島桜
巷談をたどれば秋刀魚焼く香り山口トシ子
十字架は重し秋刀魚の骨は軽し山内彩月
焼き秋刀魚野良の威嚇の甘たるし史
湯巡りや秋刀魚は山に煙りたり市山利也
風呂上がり五感開放さんま食ふ鹿嶌純子
板さんの選る秋刀魚の美しきかな宗本智之
東雲の太刀風鳴りて秋刀魚かな秋水
秋刀魚一尾春夫はどんでんがえし春野いちご
サンマ食べたいと英国からメール純子
分かつ人の居なくて秋刀魚一尾焼く渚
はらわたの苦き秋刀魚や悔し泣き小池玲子
房総の風止む港秋刀魚漁小嶋芦舟
鋭角の東京タワー秋刀魚の香小漣世
秋刀魚焼く破れ団扇を叩く音松永裕歩
父親や秋刀魚の膳がよく似合う松岡幸子
松葉杖もたれて秋刀魚焼にけり上野眞理
頑なに筋一本の秋刀魚かな色葉二穂
待ちぼうけ食って寂しき秋刀魚かな森都
箱秋刀魚同じ目をして我を見る森弘行
嘘つきが言葉少なに食む秋刀魚深雪
わだつみに揺るる島々秋刀魚来る真繍
銀衣ひかりに向かふ秋刀魚かな真壁正江
遠近のメガネで秋刀魚の貌を見る真野悠
焼き秋刀魚はらわたそうっと祖父の皿真優航千の母
秋刀魚来て三陸の海太りだす水夢
斬りつけよぴしりと青き秋刀魚あり雛まつり
よき友と呟く君と焼く秋刀魚杉山
海底の揺れ宿るのか秋刀魚の眼瀬尾ありさ
さいらてふ言の葉美しやさんま焼く星野茜
痛恨の極み秋刀魚を焦がしたり晴好雨独
目ん玉の青そのままに秋刀魚焼く正岡恵似子
特売の秋刀魚撓ひて二日月西川由野
塩振れば秋刀魚海かと想うかな青児
うねり立つ網の秋刀魚や船傾ぐ青萄
幸不幸取り敢えず無視秋刀魚喰う青柳ふみ子
峠路でオート三輪秋刀魚売り泉
雲ながめ何もせぬ日の秋刀魚かな浅井和子
秋刀魚焼く枯らした花の色である曽我真理子
活きのよい秋刀魚を食らう鬼の裔惣兵衛
生き生きて我の身となる秋刀魚かな痩女
パチンコに負けた夜だが秋刀魚食う増田典子
秋刀魚焼くちょうど良き皿ありにけり村松登音
恍惚と燃え上がる火や秋刀魚焼く多々良海月
いにしえの父のさんまの骨整然駄詩
永遠のよるがそこにある秋刀魚の目大久保響子
はらわたの怒り融けゆく秋刀魚かな大山小袖
沖つ風秋刀魚の束のうねり去る大小田忍
長皿に異議なしといふ秋刀魚かな大槻税悦
帰ろうか秋刀魚が待ってるあの家へ大弐の康夫
タイ国に骨を遺せる此の秋刀魚中原久遠
秋刀魚焼く和尚の口ずさむ演歌中西柚子
はらわたに那由他の苦しこと秋刀魚中島圭子
嫌煙を解く今年は焼く秋刀魚中嶋純子
秋刀魚買う火星は遠のくばかりなり宙のふう
海を呑み骨まで青き秋刀魚かな昼寝
告白の機会秋刀魚をほぐす箸衷子
太き腹選りてトングの秋刀魚かな長岡ルリ子
妻ならばもっと上手に秋刀魚焼く池田功
東京の空は四角で秋刀魚焼く辻が花
潮の香や軒に連なる干し秋刀魚天満の葉子
人斬りの錆びた刀やさんま食う天野姫城
棟上の空へ秋刀魚の煙のぼる田川彩
隣家より尺八の音秋刀魚焼く田付一苗
良いことがあっても無くても初秋刀魚田良穂
なみなみと枡の地酒や秋刀魚食ふ渡邉竹庵
辞世の句ことば探しつ秋刀魚焼く都忘れ
肝を抜く女神のごとき秋刀魚より土井探花
いつまでも目を開けてゐる秋刀魚かな土屋虹魚
振り塩の高き秋刀魚や夕の風東奈美
さんまさんまゴーグルをして焼く爺藤色葉菜
秋刀魚焼く音符の跳ねるフライパン藤田真純
網揚がり跳ねる秋刀魚の銀の声徳
特養の決まりて秋刀魚食べさせる奈良素数
口元を歪め秋刀魚の焼かれけり内藤羊皐
秋刀魚焼く春夫の情(こころ)ほどもなし内本惠美子
声変わりの喉を香れる秋刀魚飯楠央
休場の力士あまたや秋刀魚焼く猫愛すクリーム
炊き立てのコシヒカリあり秋刀魚あり埜水
両親は秋刀魚の食べ方きれいです婆若
気を遣ふ人と一尾のさいら食ふ馬場崎智美
秋刀魚らはうねりて朝を光り行く白よだか
豊漁を祈り秋刀魚の御贄かな白雨
ぼちぼちの検査結果の秋刀魚焼く白樺みかん
焼けるまでしりとり始め秋刀魚のま白瀬いりこ
東京に住んで半年秋刀魚喰う白米
箸押し返す道産の秋刀魚かな八幡風花
飛べそうなジュラルミン色秋刀魚かな八木実
丸皿に一尾の秋刀魚さびしいよ鳩礼
秋刀魚買ふエッフェル塔にさす夕日飯村祐知子
横並び目が合いそうな秋刀魚かな尾添ひろ美
かんてきは姑の調理具さんま焼く姫ばあちゃん
新婚やパン皿に乗る焼き秋刀魚姫山りんご
秋刀魚焼く震災の前と同じように浜けい
地震の海より押し寄せる秋刀魚かな富山の露玉
メールするほどのことかよ今日、秋刀魚風来
キシキシと秋刀魚炊く釜磨きたる福弓
秋刀魚苦し政治談議の行き詰まる文月さな女
病抜け秋刀魚が話しかけて来ぬ穂積のり子
裸婦描く隣の画家や秋刀魚焼く豊田すばる
作業着が二着秋刀魚は一人二尾北野きのこ
星落ちて秋刀魚になりしてふ口伝凡鑽
言葉尻ひとつ秋刀魚のわたを舐む抹茶金魚
新秋刀魚よく切れそうな光あり満る
明日はまた何とかなると秋刀魚食い無頓着
ふるさとの色町とほる秋刀魚かな明惟久里
胃袋無き魚よ秋刀魚吾の胃へ明烏
「笑点」を見つつ晩酌秋刀魚食ふ明田句仁子
リクルートスーツ正しく秋刀魚食ぶ木村摩耶
店先の秋刀魚は一尾疲れ居り野ゆき
秋刀魚焼く幸せもう望まない野古のこ
目の前に初の字跳ねて買う秋刀魚野紺菊
食べ方は褒められしまま焼秋刀魚野地垂木
会心の織部はみ出す秋刀魚の尾矢野茂樹
秋刀魚焼く空に青さの残りたり油井勝彦
秋刀魚選る万年筆を選るごとく有本仁政
喜寿過ぎて秋刀魚の甘さ覚えたり有迷人
秋刀魚焼く歌詞の分からぬ歌謡曲由づる
オスプレイ拒否する町や秋刀魚焼く葉るみ
悔し泣き秋刀魚の煙にかこつける葉月けゐ
辞表書き終えて今宵は秋刀魚焼く理佳
酒選びぐい呑選び初秋刀魚琉璃
一つだけ少し青色秋刀魚かな隆之介
棟上げの酒に与り初秋刀魚鈴木淑葉
古希までは働くのだな秋刀魚喰ふ連雀
ミッドウェーの記憶運びし秋刀魚の眼惑星のかけら
よい人と思われたいか秋刀魚焼く鷲尾さゆり
行列の好きなお江戸や秋刀魚焼く巫女
夕支度秋刀魚日和と風の言ふ暝想華
キムタクの映画観てきて秋刀魚焼く朶美子
初さんま##の焼き目かな洒落神戸
サザエさんはじむる秋刀魚焼きはじむ淺野紫桜
学びの日一膳飯屋の大秋刀魚眞
秋刀魚の目はぜる火の中白くなる祺埜箕來
水の色ちょっぴりのこる焼秋刀魚齋藤富美代
秋刀魚焼く香に見送られ夜勤かな蓼科川奈
秋刀魚焼く俺は泣かしてなんか無い華
さんま焼く背中がやけに楽しそう小山晃
秋刀魚買ふ夏目雅子の役どころあつちやん
秋刀魚焼く男心を探らせずうい
秋刀魚とやお一人様の差向ひせつよ
秋刀魚焼く秋刀魚の歌を吟じつつたむらゆうこ
災害のニュースの合間さんま食うパシフィッコ
飯場小屋秋刀魚が匂うU字溝パッキンマン
漁師町三軒ごとに秋刀魚の香ハムサンド
秋刀魚食う今日の実習どうだったほしの有紀
300日すっぴんの妻秋刀魚食うほりぐちみほ
春夫の詩思ひ秋刀魚を食らふ夜ミセウ愛
大雨の予報を耳に秋刀魚食む遺跡納期
激論の環境保全秋刀魚焦ぐ一斤染乃
秋刀魚網海鳥群れる集魚灯夏甫
積もる話秋刀魚焼けたか焦がしたか橘美智世
海原やしろがね轟く秋刀魚群上田明子
腸抜きし秋刀魚に怒るさだおかな酔進
模試控え秋刀魚一尾を喰らう朝川端孝子
野良猫や秋刀魚の骨の美しきこと中山月波
大地震ニュース見つつも秋刀魚焼く中村純代
をかしらの茶碗におほき秋刀魚かな彼方ひらく
堂々と煙る秋刀魚よ閖上港腹胃壮
さんまさんまさんまおさらにさんまとさんまちま(4さい)
秋刀魚のはしっこは山が海におちるところむらさき(6さい)
おおむかしからさんまっていうなまえゆいのすけ3才
秋刀魚って昭和の味ねと娘言う亜美子
スナックのメニューにまさかの秋刀魚焼き中間康博
ひっそりと信長の刃が、あ、秋刀魚に...田川さくら
空腹を満たせますかねこの秋刀魚摩周人
衛星に秋刀魚見つかり七輪へ原田民久
ごめんねと言えず夕げの秋刀魚焼く江川月丸
口先の黄色めんこいサンマかな三茶
あ秋刀魚だ焼いております隣組秋代
塩加減さんまおにぎり褒め言葉植田かず子
目に尾刺す秋刀魚長女に還る夜美人教師
秋刀魚焼く焦げ目正しく幸の色百合乃
海中で流星群になる秋光魚野ねずみ
朝陽浴び銀(しろがね)に弾むや秋刀魚網ANGEL
笊盛の秋刀魚の目玉澄める黒KISOBA・U.F.O.
皿の上の秋刀魚の骨を褒めらるるmika-na
店先の青いさんまの目はうつろmomo
秋刀魚の背青空の青輝けりTACOCO
嗚呼母の秋刀魚固くて焦げていてあいだほ
大漁の秋刀魚一転地震憎しアガペ
秋刀魚焼き父と笑いし火だるまよあかり
北の海の色か秋刀魚の深い青あきこ
秋刀魚焼く煙じゅわじゅわ猫吠えるあらさなえ
茜空睨む秋刀魚たじろぐ箸あん
亡き母が骨まで焼いた秋刀魚かないいむらすず
買い物に急ぐ母見て秋刀魚かないずみ
さぁ聴こうサンマ苦いの?さかな屋さんいっちゃん
三連覇旨い秋刀魚と祝う酒うっしー
かぐわしき秋刀魚塩焼き二年ぶりうなえ
焼きサンマ目玉が好物だった姉おくにち木実
三十路過ぎ肝(はらわた)食す秋刀魚かなおっばあ
大漁や派手な煙の秋刀魚二尾おぼろ月
居酒屋に食べ方競う焼さんまお品
魚屋の秋刀魚の夕餉老二人かっちゃん
水清く銀の光の秋刀魚かなかぬまっこ
さんま泣く大地は揺れて海濁りかもめ
嘴の黄色い秋刀魚もほろ苦くかわいなおき
夫焼く秋刀魚食すや半世紀かわせみ
大人とは秋刀魚のわたの苦味かなきみえ
秋刀魚一尾百八円也鰥夫買うケンG
秋刀魚焼く続く献立決まりたりこずみっく
ピキピキと秋刀魚の積もる市場かなこすみ
陽を受けて輝き南下秋刀魚かなゴンタ
秋刀魚漁や先生は夜中に泳ぐさだとみゆみこ
水色の鱗ほろほろ秋刀魚扱くさとう菓子
こぞは消えどこで過ごせしこの秋刀魚しかめっ面
鼻歌とカラスの行水初秋刀魚シュナーゼ早智子
新秋刀魚骨まで愛す父の亡きシンディーロウ婆
イケメンの買い物かごに秋刀魚二本すーぱーまみこ
焼き秋刀魚猪口を片手に月を見るすずくら
光りもの今日はサンマの握り食うすみ
秋刀魚食む父の箸から骨標本たすく
秋刀魚のわた食うか食わずか婚家の夜たなかとまと
昨夕のなごり微かに焼き秋刀魚たんぽぽ
高いと言い安いと言いて秋刀魚食うちどり
秋刀魚焼き夫婦喧嘩を忘れけりつちのこ
またしても秋刀魚焼く家帰宅の途てまり
自転車の人に秋刀魚を貰いけりとかき星
反る秋刀魚三枚に割く皿の上としなり
愛妻と秋刀魚のわたと熱燗ととよかわ
母が言う秋刀魚も顔で選ぶものなおこ
秋刀魚焼く下校を促すチャイムの音なごやいろり
初サンマ食いて明朝入院すななみ
竹製のしなる仰ぎや秋刀魚焼くねがみともみ
秋刀魚焼く母の背いまだなつかしきねこバアバ
猫の手も借りたい夕暮さんま焼くのっこ
三十を越えて一人でサンマ喰うのりぞう
さんま焼くキラリ返せば古剣かなの菊
美味が増す娘が焼いた焦げ秋刀魚バードマン
角皿に秋刀魚の骨のしゅっと伸びはちべえ
秋刀魚の目太平洋を恋しがりひかるこ
缶詰の秋刀魚も旨し香港島ひこぞう
まんまるの目の濁りゆく秋刀魚焼くひでやん
秋刀魚の骨をいつも取ってくれた祖母ビバノンノン
田舎より届いたみどり秋刀魚焼くひろ夢
幸せだ秋刀魚ご飯を君と食べフーミン
久しぶり豊漁なりし秋刀魚焼くふじたけ
銀髪のチャラ男長身旬秋刀魚ふみゑ
大秋刀魚七輪で焼く母は笑みフランスア
急拵え秋刀魚マリネはやや苦くフリージア
子と秋刀魚脂まみれのバトルかなヘッドホン
秋刀魚食ぶ笑顔の祖母のかっぽう着ポリ
ハワイの海はあったかだろうな秋刀魚買うポンタ
初秋刀魚今年も来たり三連覇まさ
蕩け行く秋刀魚の腸のほの苦しまち眞知子
秋刀魚好きの残した皿に品格ありまつぽっくり
揺れる海逃げ果せたる秋刀魚買うみかん
出番待つ長すぎる皿秋刀魚焼くみなお
夕暮れに煙に香る秋刀魚かなミネゴ
氷箱ちびたき秋刀魚浸りおりもつこ
前世へ胃を忘れけり初秋刀魚モッツァレラえのくし
店先の光る秋刀魚に母想うやったん
秋刀魚食ぶ骨のみ残す箸捌きヤッチー
七輪に熾す炭火の秋刀魚かなやまちゃん
団欒や秋刀魚焼くのは父の役ゆきお
はらわたをにがしうましと秋刀魚くうゆきちゃん
標本のごと残さる骨や秋刀魚食ぶようちゃん
秋刀魚食べ笑顔の裏でのど痛しよさなしけ
店頭に秋刀魚も消えし地震のあとよりこ
庶民の味方さんま骨まで食らうるりまつり
被災地の港に歓喜初さんまれいこ
きらきらと網より秋刀魚どっと湧く亜紀女
夜更けて秋刀魚に煙る夕げかな愛子
秋刀魚喰う深き山にも潮満ちる安川紀利
遠巻きに秋刀魚コーナー眺めおる安曇野多恵
珪藻土切り出し七輪秋刀魚焼く杏と優
秋刀魚食ふ義兄や異質の箸使い伊介
さんま焼く煙の消えた町に住む伊藤順女
紙垂のごと宙舞うカモメ秋刀魚船井蛙
目に染みて心空ろい秋刀魚焼く井上早苗
新さんまわた食む口の横の皺一花
豊漁の秋刀魚一匹買いに行く一枝
ねこ狙う焼いた秋刀魚の晩ごはん稲垣由貴
半身は藍の垣根のさんま柄右茶
インスタのことじゅうじゅう秋刀魚来て忘れ羽沖
失恋を秋刀魚焼きつつ煙に巻く卯さきをん
さんま2尾いなせな姿網の上影山治子
海荒らし秋刀魚水揚げ増やすとも永井基美
風禍の帰郷売店のさんま鮨永花
秋刀魚焼き苦きはらわた最後喰ふ円
バーベキュー肉の隣りに初サンマ遠ミカ
旬まだき握りで秋刀魚食ふ築地遠藤 百合
秋刀魚食ぶ残滓似通ふ三世代塩沢 桂子
七輪に脂のはぜる秋刀魚かな横山薫子
ロースターで焼かれ秋刀魚の目に涙岡本育子
昔日の秋刀魚の煙に母の割烹着加藤俊子
はらわたを抜き捨てるなと秋刀魚の目嘉藤継世
焼き秋刀魚皮はパリパリ身はトロリ河村あさみ
高値続く秋刀魚の煙換気扇海
みちのくを笑顔に満たす秋刀魚かな海口あめちゃん
秋刀魚二尾下げて家路を急ぎけり海碧
今晩も秋刀魚でいいよ秋刀魚好き笠原理香
穴場なり秋刀魚定食ワンコイン葛谷猫日和
藁焼きの秋刀魚輪のごと目に尾留め蒲公英
詰め放題まじかと秋刀魚青くなり茅ヶ崎典子
秋刀魚喰うはらわたは皆我が皿へ柑斗梨舞礼
風吹かれ猫も誘われ秋刀魚かな閑坐
初秋刀魚腹は親父に差し上げむ閑話休題
焼きサンマ眼鏡外して骨探し岸本元世
秋刀魚食らい骨の絵柄の皿と為す岩永静代
洋皿の秋刀魚のポワレ箸で食む岩野翠
ベニヤ壁気使ふ隣さんま焼く希林
作法よく食べらる秋刀魚口尖り幾恋良石
初さんま父は戯けてニャオと鳴く気球乗り
換気扇最強にして初秋刀魚亀山逸子
塩さんま猫に眼鏡を隠される吉田好大
秋刀魚ほぐす母の手焦れる吾子の口久美子
居酒屋でネクタイはずす秋刀魚かな宮坂変哲
久々の秋刀魚サンマや隣家もや宮崎フミ
屋根の上見上げる空に秋刀魚行く橋本あけみ
経済の紙面で秋刀魚苦くあり銀長だぬき
喧嘩して焼きすぎた秋刀魚の苦さ空龍
ずんぐりとひかる秋刀魚に塩をふり恵翠
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秋刀魚描く(かく)色作れない青光り大本千恵子
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初秋刀魚何も残らず祖父の皿知足
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婚約の日晩酌の父へ焼く秋刀魚竹口ゆうこ
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ポチと行く坂道裏道秋刀魚の香沢田朱里
水揚げの群れる秋刀魚よたくましき中山清充
お疲れと秋刀魚の胆は染みわたり中谷典敬
墓参終えひとり夕餉の秋刀魚焼く直
夢の国戻りて食べる秋刀魚かな鶴田京子
独り身や焦げた秋刀魚に手酌酒天津飯
ボルドーのデニムの君が焼く秋刀魚田川有利子
初秋刀魚またも一年延命す田村伊都
湯上りのタオルふわりと秋刀魚の香田村朋子
枕木に身を焼かれたる秋刀魚かな田中玄華
老いた母の笑顔秋刀魚の身をほぐす田畑尚美
夫喰らふ秋刀魚の骨ぞ一文字渡り鳥
山盛りや秋刀魚一尾の旬を買う渡辺音葉
クール便どう食べようか初サンマ渡邊さゆり
祖父と見る白くなりゆく秋刀魚の眼渡邉一輝
夕餉どき秋刀魚かおりし家路かな土器
チャルメラ近し夕餉の膳の秋刀魚群嶋村紀子
父も子も腸喰らふ秋刀魚かな東奈美
秋刀魚より骨とる父の指みつめ灯子
横丁の今年の秋刀魚光りけり藤井眞おん
喧嘩した妻の秋刀魚の焼け具合藤川哲三
高級魚になんぞなるまいぞ秋刀魚藤田康子
手つかずの秋刀魚残して孫帰る惇壹
退院し先ずは秋刀魚を買いに行く奈良香里
この頃は一期一会の秋刀魚かな楠田草堂
秋刀魚焼くはらわた猫にそっとわけ肉球氷菓
ちゃぶ台と記憶の中の焼きさんま入江幸子
独り居の秋刀魚一匹我ひとり波の音
高くても一人に一尾買う秋刀魚馬場東風
病床の友の血になれ初秋刀魚梅納豆
食卓の一尾少なし焼き秋刀魚梅里和代
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取って置きの口癖ききて秋刀魚喰う畑詩音
食い初めの膳に一箸秋刀魚足し八重葉
君去りしはらわたまるごと秋刀魚食う飯島康司
昭和の夕咥へ煙草と焼く秋刀魚比良山
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サンマ焼く母と七輪うちわかな美山つぐみ
一尾買う今年の秋刀魚侘びしけり美帆
どんとこい菜は一夜干しの秋刀魚百草千樹
岩つかみ群青深し秋刀魚かな武樹
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いただきます塩化粧した初さんま福ネコ
中骨を舌が奏でる焼き秋刀魚福良ちどり
豊漁と朝の市場の活気づき文女
どの皿も寸足らずなり初秋刀魚片岡佐知子
骨となり凛と横たう秋刀魚かな牧野敏信
衣そぞろ中国奥のさんまの香本間美知子
秋刀魚焼く向こう三軒両隣抹 香
秋刀魚一匹三等分尻尾は母未田翌檜
祖父所望できぬ秋刀魚の姿焼き蜜華
腸(はらわた)も丸ごと食らう秋刀魚かな湊かずゆき
焼秋刀魚皿をはみ出す尾鰭かな蓑田和明
目力に引き寄せられて初秋刀魚妙子
食卓に秋刀魚ならべて黙らせる明良稽古
砕氷の下に在りしや初さんま野曾良
一人食う秋刀魚の味や恋の味野中泰風
煙なし自問自答の秋刀魚焼く野木編
僕だけが腸食ひにける秋刀魚矢川コウ
秋刀魚焼き落ちる脂に涎垂れ柳田スハヤ
銀色に青ぼかしたる秋刀魚の背有馬裕子
夕暮や秋刀魚輪にして網の上有本典子
母の味秋刀魚の甘露煮骨ほろり湧津雅子
エルニーニョ回遊苦なり秋刀魚かな里恵子
ほろほろと舌を転がる秋刀魚かな亮介
いそいそと帰る我が家は秋刀魚の日亮旬
骨を避(よ)け小皿の秋刀魚鳴く老犬良藏
大漁の光る背の背の秋刀魚かな礼子
当たり鐘秋刀魚を二尾の丁度よし鈴木あむ
皿一枚やたらと長き秋刀魚かな鈴木由紀子
ジュテームと仏蘭西映画秋刀魚焼く鈴木麗門
七輪に秋刀魚一匹茜雲和代
リハビリと麻痺残る手で義父秋刀魚食む櫻井弘子
焼き秋刀魚残るは細い骨少し澪つくし
コンビニに冷えて塩焼さんま哉瀟白
赤黒き秋刀魚のわたの苦さかな芍薬
七厘をはみ出す秋刀魚ブーメラン苳
焼秋刀魚ほぐしてご飯炊きませう茉莉花
食べ跡の美しく在る秋刀魚かな邯鄲
二人でも寂しき年や秋刀魚喰む作者名不明?
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
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- 暑さ越えへたった心に秋刀魚効くおから晴子
- 独酌や供は秋刀魚とまるい月安川伊津子
- 秋刀魚焼き秋を済ませる不惑かな甘平
- 暑さ越え秋刀魚食べれば陽が暮れる薫花
- 空晴れて栗きのこ飯焼き秋刀魚原善枝
- 秋だけはさんまさんより秋刀魚さん石川幹裕
- さんまからり揚げてビールの今宵かな大蚊里伊織
- 手にはまだ秋刀魚香りて缶ビール大岸歩美
- 輝いた秋刀魚を焼いて濁り酒鶴谷緑平
一句に季語が複数入ることを「季重なり」といいます。とはいえ、季重なりの名句も存在します。「季重なり」はタブーではなく、高度なテクニック。初心者は一句一季語から練習していきましょう。
- 水槽に秋刀魚さんまさんま過ぎ行く春耕
「水槽」の「秋刀魚」にどこまでと季節感を受け止めることができるか。そこが悩ましいところです。むしろ、このような句こそ、別の季語と取り合わせるべきかとも思います。
【添削例】 水槽に秋刀魚の過ぎてゆく秋ぞ
9月兼題『秋刀魚』の投句数は1,929句いただきました。
四季の中でも短い秋ですが、たくさんの方が秋を代表する味覚で季節を感じられているのだと思いました。
10月も引き続き秋の季語『新米』です。たくさんの投稿をお待ちしています(編集部より)。