夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
【お詫び】「俳句生活」2月の審査結果発表(兼題「霞」)の延期について
いつも「俳句生活」へご投句いただきまして誠にありがとうございます。
4月10日(水)に公開を予定しておりました「2月の審査結果発表(兼題「霞」)」につきまして、公開を延期することとなりました。結果発表を楽しみにお待ちいただいている皆様には、深くお詫び申し上げます。
4月4日(木)、編集部から夏井先生にお送りしている全投句のうち、ほぼ半数を夏井先生に送付できていなかったことが発覚いたしました。
夏井先生からは、選句を終えられた完成原稿を頂戴していた段階だったのですが、事情をお話しする中で、未送付分も含めた全投句を対象に、改めて再審査と原稿の再執筆を進めていただくこととなりました。
つきましては、夏井先生には、改めて一からの選句のためのスケジュール調整をお願いすることになり、現在ではまだ発表の公開日をお約束することができない状態で、大変申し訳ありません。
2月の審査結果発表(兼題「霞」)の公開日時につきましては、後日改めてウェブサイト上にて告知いたしますので、何卒ご理解のほどお願い申し上げます。
この度は、「俳句生活」サイトを楽しみにご参加いただいている皆様、ならびに、関係者の皆さまにご迷惑をお掛けしましたこと、心よりお詫び申し上げます。
2024年4月9日(火)
ウェブ通販生活編集部
1月の審査結果発表
兼題「寒し」
大変お待たせしました!1月「寒し」の結果発表でございます。今回もたくさんのご応募ありがとうございました。ありありと目に浮かぶような「寒い情景」が編集部に届きました。
うっかり「寒し夜」や「寒し日に」などとしてしまったみなさま。形容詞として使う場合は「寒き」=連体形が文法的に正しい形です。また、「朝寒し」は、秋の季語「朝寒」の傍題になっているそうですよ。ぜひ夏井先生からの一言アドバイスを参考に復習して、さらなるステップアップを目指しましょう。2月の兼題「霞」へもご応募お待ちしております。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
ほぼ捨てていくつか売つて寒き家
大岩摩利
冬の時候の季語「寒し」は、体感だけでなく、心情を重ねて表現する場合もあります。今回、実家処分の場面を取り合わせる発想はそれなりにありましたが、掲出句には強い現場証明を感じました。
どこにも「実家」とは書いていませんが、両親の居なくなった家を片付けているに違いないと読みました。感傷的な気持ちはあまりなく、面倒くさい処分を託されていることを苦々しく思っているのではないか。一句の構成として巧いのは、「捨てて」「売つて」と動作を重ねたことだけでなく、「ほぼ」「いくつか」というニュアンスを添えた点。この工夫が真実味となりました。下五「寒き家」は、何もなくなった空間的寒さであり、家や親に対する冷ややかな心情をも表しているのではないかと。(個人的経験が、強く入りすぎた鑑賞になってしまったかもしれません。苦笑。)
ガムを噛む口へ寒さを混ぜて噛む
芦幸
ただガムを噛んでいるだけなのです。クチャクチャと噛むたびに冷たい空気も入ってきます。それを「口へ寒さを混ぜて噛む」と丁寧に描写することでリアリティが生まれました。助詞「へ」も確かな効果です。
配管の寒きオルガンめく庁舎
磐田小
剝き出しに張り巡らされた配管。古い「庁舎」には確かにこういう所あるなという共感的既視感。まるでパイプオルガンのようだという率直な感知が、「寒きオルガンめく」という詩語となりました。床も壁も寒い庁舎です。
着ぐるみを零れてさみいさみいのこゑ
山本先生
着ぐるみの中に、全身を入れているのです。そこから零れて聞こえてくるのが「さみいさみい」という呟き。兼題「寒し」の扱いとしては中々挑戦的な口語ですが、この「こゑ」に、季語の実感がみっしりとあります。
ごみ袋に折り鶴透けてゐる寒さ
伊藤映雪
一羽の折り鶴かもしれませんが、ずしりと嵩のある千羽鶴を思いました。沢山の人の祈りを束ねたものではあるけれど、処分せざるを得ない日もくる。「透けてゐる」という状態が、心情的な寒さとして読み手の心に刺さります。
札付きの寒さむざむざ軒伝ふ
坂島魁文
毎回、回文での投句。その努力を真っ直ぐ普通の句作に使えば巧くなるだろうにと思ってきましたが、この句は作品としても成立しています。「札付きの寒さ」という表現、「むざむざ」のオノマトペが詩を作り出しました。
青空の寒しもう羽を欲らぬ青田奈央
版画とは黒し青森とは寒しいかちゃん
寒いね寒いねジンベイザメ死んだよ雨戸ゆらら
寒さごと掬ってヘルメット被る藍創千悠子
湯も汁も欠く地思へばふと寒し飛鳥井薫
寒い夜は自分が生きていると思ういくたドロップ
詩のしつぽするりと逃げてつた寒い横縞
天金の聖書寒さがものたりぬRUSTY=HISOKA
写経会の硯も寒し墨の海あ・うん
直ぐなるも傾げるも電柱寒し相生三楽
水平に旭光長き影寒し相沢薫
磐座に女神まします寒からん愛燦燦
波の音にごり寒さの匂い来たり間岳夫
山寒し伽藍堂の駅に立つあいのびふう
寒き日の温水プールに髪濡らすあいむ李景
寒笛やトライ間際のノーサイド青井季節
寒き夜は深縹色月が友蒼月子
碧空の眼球に沁む寒さかな青井晴空
この寒さ空へびゅんびゅん素振りの子青居舞
検査着の畳まれてある寒さかな蒼空蒼子
山痩せて街に死す獣や寒し蒼鳩薫
青く光る朝の便器の底寒し青花潜
人形のひとみの寒し窓開けむ青水桃々@いつき組俳句迷子の会
寒き夜の星瞬いて陣痛来赤坂みずか
結婚はしないと告げる子よ寒し赤富士マニア
遠ざかるスタバの灯り日々寒し赤馬福助
海女小屋のトタン沛雨の音寒し赤目作
寒き夜を歌ひて女学生ふたり愛柑
かくれんぼ鬼になりたき寒さかな明惟久里
車椅子積む車掌包む寒暁空地ヶ有
動くものみな湯気まとふ寒き朝秋野しら露
この風のなじむを待てり寒き道秋星子
海寒し空寒し土地また寒し芥川春骨
寒暁や採血前の白湯ごくりあくび指南
げんまんのからめた指のなぜ寒し淺井翠
母ひとり実家に残る寒さかなあさいふみよ
シェルター寒し朽ちたおもちゃ抱きしむ朝雲列
祖母の「寒かったでしょう」がもう聞けない朝霧さら
独りぼちの上京マクドの夜寒し朝倉カグラ
ひとつ背を向けしこけしのゐて寒し朝月沙都子
放課後の校舎四角き寒さかな明後日めぐみ
けふもまた「寒し」とかきてにつきとづあさぬま雅王
4Hのえんぴつ尖つてゐる寒さ淺野紫桜
是は寒しシュークリームのがらんどうあさのとびら
億光年隔てて能登の星寒しあじさい卓
傷口の風にめくれるとは寒し葦屋蛙城
街歩く人みな黒しなほ寒しあたしは斜楽
これ以上伸びぬキリンの首寒し足立智美
店仕舞い告げる最後の聲寒しアツシ
引っ越しの箱、箱、箱の居間寒しat花結い
寒暁やどんどん迫る警報音渥美こぶこ
大空の寒さの底にみづ光るあなうさぎ
コイン返却自販機の音寒しあまぐり
道端に眠る男の膝寒し天橋立右彩
骨寒しいつも人ゐし家広しあまぶー
ため息はたましひ寒くなる兆し綾竹あんどれ
丑満に家の鳴きたる寒さ哉綾竹ろびん
体育館寒さ蹴り上ぐ空手の子あややD.C
海寒し引く波音を被る貝蛙里
座りこむ床寒し買いだめられし遺品ありいかな
灯の寒しラーメン店の列続く有本としを
赤紙を赤色とす寒き時代在在空空
老犬啼くや真夜中の声寒し淡湖千優
水底に空を吸い込む寒さかなアンサトウ
灯台の鳶笛尖る寒さかな安春
誰も来ぬ後ろは寒し赤城山杏っ子
電気なし水なし家なし能登寒し飯沼比呂倫
星見上ぐ渡り廊下の寒さかな生野薫
負け越しのざんばら寒き総武線池之端モルト
まっすぐに坐れば寒し一草庵イサク
外寒かつたよと亡き祖父の額撫づ石井一草
客人の鼻の頭にある寒さ石垣ようせい@いつき組
晩景寒し野良犬の遠吠え石川巴里
背寒し呼び出しかかる通夜席石塚碧葉
墨の香の清らに書屋の寒さかな石塚彩楓
明けの鐘胸の奥刺す寒気かな石村香代子
献本まで売尽してやいや寒き和泉攷
結び目に指の通らぬ寒さかな磯野昭仁
反故にせし燐寸二本の寒さかな石上あまね
火男の火男となる寒さかないその松茸
食卓に空席五つなり寒し板柿せっか
ささくれは鬼の名残の寒さかないたまき芯
終わりなき寒さとなりし母忌日一井かおり
月寒しどちらも嘘はついてない市川卯月
生家片す音蛍光灯寒し市川りす
切れかけたネオンの寒きホテル街無花果邪無
お燈明揺らぐ焔の寒夜かないつかある日
舌下錠甘さ残して部屋寒し樹魔瑠
医師の示す画像の灰色寒し一久恵
倒木の痩せゆくを見る兄が寒い一斤染乃
地下茶房しじま埋めたる我寒し一愼
病棟に誰か爪切る音寒し伊藤亜美子
飛ぶ鳥の悲鳴めきたる寒さかな伊藤恵美
風寒し鉄の扉をすり抜けて伊藤順女
寒さとは失踪届けの黒き枠伊藤柚良
部下からの面談予約雨寒し伊藤小熊猫
猫の腹つまむ寒夜の人心地糸川ラッコ
番号で呼ばれ内診台寒し井中ひよこ号
埴輪より吐き出さるるや寒き塊伊奈川富真乃
寒冷や鶏小屋の長梯子いなほせどり
電灯の九日切れたまま寒し居並小
地産地消大書の寒き道の駅犬山裕之
グレゴオル・ザムザの部屋の窓寒し井上鈴野
婦人科の待合寒し窓眩し井上れんげ
部屋部屋の隅に寒さの溜まりけり井納蒼求
能登寒し干さるる魚は艶めけり猪子石ニンニン
熱帯魚じっと見ている寒さかな今林快波
頬寒し悲しきときも笑う癖妹のりこ
神域は撮影禁止なほ寒し伊予吟会宵嵐
千体のくるぶし寒し観音像いわさちかこ
コーギーに躓きこける膝寒しイワンモ
母泣かせラーメンすする夜寒しういろ丑
注意報ごときと思ふ寒さかな植木彩由
馬と来て水辺の朝の星寒しうえともこ
休校の戸車寒し鉄の門上野徹
指半分ずれてる指圧寒夜かな上野眞理
寒き夜や拡大で見る求人誌上原淳子
すり傷にきれいな縞目寒き夕うからうから
女を振り払わんとする文さむし宇佐美好子
白濁の寒さ光さす眼球うた歌妙
参観日和気あいあいの包囲寒し宇田の月兎
日本橋寒しハイヒールは無敵内田こと
寒夜かな壊れた壺の中の水空木眠兎
中継の記者の滑舌悪し寒しうつぎゆこ
家囲む鉢の造花の色寒し靫草子
国際線管制塔の空寒し卯之町空
楔打つ発掘現場寒き空海月のあさ
寒夜未だ明けず奥歯のきりきりと海野青
大幣の寒き頭上をひだりみぎうみのすな
漫画描き止む夕暮れの寒き寮梅野めい
寒き夜の轢かれ続けるレジ袋浦野紗知
気がつけば老人になつてゐる寒さ浦野紗知
夜の明けて一望できる寒さかな吽田のう
アルビノカラス二人でいても寒し江川月丸
ペン持てんくらい寒かったんだもん江口朔太郎
太陽はこんなにつよいのに寒い蝦夷野ごうがしゃ
ハモニカのドレミファソラシ寒夜かな越冬こあら@QLD句会
失恋の果てはすーすーして寒し海老原順子
九割が白人の街寒夜かな朶美子
耳たぶより痛さ広がる寒さかな遠藤千草
峰々に陽の刃突き刺されり寒し旺上林加
掬う手に湖国の寒さしんしんと近江菫花
朝市や釣りの紙幣の顔寒しおおい芙南
燭台を探し倦ねる寒さかな大越マーガレット
用済みの電池は寒し吾も寒し大塚恵美子
引き波は寒さを混ぜて戻りけり大和田美信
寒き朝吸ふ息針となりにけり岡井稀音
背に聞く繰りごと寒き家仕舞ひおかげでさんぽ
あるじなき部屋片付けてゐる寒さ可笑式
窓少し開くメンソルの呼気寒し男鹿中熊兎
夕寒し郵便受けに鍵ひとつ小川さゆみ
寒暁や煮干加工の白き湯気小川天鵲
ウォーホルのモンロー寒し貴賓室小川野棕櫚
壽の墨文字寒し仮位牌小川都
貝殻寒しこの海に母還すおきいふ
秒針の音なく動く寒さかなオキザリス
パンクした自転車見下ろして寒し沖らくだ@QLD句会59女性
職安はジャコメッティの寒さかな荻原湧
街道のうどん自販機真夜寒し小倉あんこ
夫の頬ぬんめり寒し死化粧おだむべ
万色を吸ひてピアノの艶寒し落句言
雨寒し黒の瓦礫の蒸気霧おでめ
レトルトの空き箱積んでゐて寒し音羽凜
「ただいま」の萎みゆく部屋ただ寒しおんちゃん。
頸椎の痛みのひかぬ寒気かな海音寺ジョー
墓仕舞い均した土の寒さかなかいぐりかいぐり
金属の残り香寒し革財布械冬弱虫
糠床の甕でんとする土間寒し風花まゆみ
寒からずいいきる母の背寒し風早杏
不真面目になれぬプリーツ門寒し加座みつほ
笑っても食べても寒しワンルームかしくらゆう
研場寒し指に刃物の吸ひ付きて樫の木
連綿の故宮よ寒き総督府華胥醒子
穴や寒し巻き爪のあったところ風薫子
寒暁や高倉健のいたホーム花鳥風猫
五人目が使うバスマットや寒しかつたろー。
星空のことばとどむる寒さかな桂もふもふ
名を呼べどただ波の音寒かろうひだまりえりか
人形の胡粉も寒し奥座敷桂葉子
止まり木に鶏並び寝る寒さかな金子泰山
また証明写真を撮りに行く寒さかねつき走流
無人駅寒さの他に連れは無し神島六男
エスカレータ右がら空きの寒さかな神谷たくみ
早暁の横顔寒し仮眠室紙谷杳子
何もない枯野でもない寒さかな亀田荒太
青空に伸びる給水塔寒し亀山逸子
肩寒しふとんの端が懐かない亀山酔田
通帳の磁気擦り切れていて寒し花紋
誤入力三回続く寒さかな加裕子
「寒いね」の後「寒いね」のなき寒さ加良太知
古民家の硝子の寒き歪かな刈屋まさを
舌の根の寒し浮かれた夢の跡枯木佳秋
寒き朝融通利かぬマーガリン河上摩子
人形の瞳動かぬ寒さかな川越羽流
鼻先の一点のみの寒さかな翡翠工房
国道を右往左往の缶寒し邯鄲
加湿器のフィルタ―洗う寒夜かな看板のピン
トランジットの硝子扉の影寒し閑酉
瞬きのたび新しき寒さかな喜祝音
瓦礫とは呼べぬ寒さよなゐの跡季々諧々
すんすんと寒し眉がしらのしこり岸来夢
通学路寒いと言った奴の負け季切少楽@いつき組広ブロ俳句部
散髪の額へ寒さのきよらかな北里有李
灯も水も寒さへ融けてゆく運河北野きのこ
平常を白磁のカレー皿寒し北藤詩旦
寒冷のみづや脈動のスパウト北村崇雄
生きて遺産これっぽっち寒し貴田雄介
盛り塩の少し凹みて寒き朝きなこもち
岩風呂の固形石鹸空寒し城内幸江
銃創の空寒し鳥羽ばたけりきのえのき
夜は寒し新幹線緊急停車木下桃白
朝刊の一束固き寒さかなきべし
月曜の文具はしんとして寒し木ぼこやしき
寒暁や笊に一つの赤玉子木村隆夫
声援の余韻の寒きスタジアム木村となえーる
老木は寒し被災の丘に居て木村弩凡
寒暁やががんががんとシュレッダーQ&A
路地裏に路地裏ありて又寒しQさん
輪島塗の深紅粟立つ寒さかな杏乃みずな
お早うの寒し小さきエレベーター清瀬朱磨
いつまでも月にピントの合う寒さギル
駅ピアノ寒さの響くがらんどう菫久
カタカナは寒しカ行とタ行など久我恒子
建長寺鐘ごんと来る寒さかな鯨之
槍岳の星振寒し聳り立つ楠田草堂
深爪をなほ抉りくる寒さかなくずもち鹿之助
炊き出しの行列体育館寒しくつのした子
海鳴りの寒し余震のやまぬ夜久保田凡
日晒しの牛のまなこに寒き海熊谷温古
金継ぎの網目の杯や寒き夜九萬太郎
寒し寒し死より明日が恐ろしい熊の谷のまさる@いつき組俳句迷子の会
寒き夜や何にも触れぬ土踏まず蜘蛛野澄香
寒くって妄想の恋してみたり倉岡富士子
人形の頭蓋からから鳴り寒し倉木はじめ
灯の寒しもう拭ふものなき部屋に眩む凡
ラーメンの容器の底の白寒し栗田すずさん
今逝きし父の手のひらから寒し空流峰山
掌の中に薬シートの角寒し久留里61
車中にて臨終を知る寒さかな紅さやか
ころころと人間の死ぬ寒さかな愚老
サイレンの澱みて寒しなゐの夜恵勇
抗うつ剤効かない寒い寒い寒いけーい〇
浜鳥の鳴く声寒き海の色家古谷硯翠
東京は寒しまたぞろ質流れげばげば
我のほか誰も並ばぬ寒さかな健央介
胃カメラへ手首をまわる鍵寒し謙久
天皇のつけし地名の巨碑寒し剣橋こじ
きうきうと啼きて停車の駅寒し小池令香
裏口は寒し合鍵空回り恋瀬川三緒
肺満たす寒気をトランペットの音剛海
加賀屋より海を見てゐる寒さかな幸田梓弓
老人の迷子報じる声寒し宏楽
筆寒し書きたきことは胸のうちごーくん
大地震の月半分の寒さかな郡山の白圭
鳩の訃として空ろなる羽根寒し古賀
棚田日暮れて玄海の風寒し古烏さや
老犬の濁る眼球底寒しこきん
水道管の壁走りたる寒さかな小笹いのり
ボランティアの竹林作業谷戸寒し小嶋芦舟
形なき心ほろほろ頬寒し小園夢子
奥に人ゐるらし通り土間寒し木染湧水
荒磯波光砕ける寒さかな来冬邦子
ドローン越しの寒暁静謐なる塹壕粉山
玄海の雲垂れこむる寒さかなこのみ杏仁
つまらない言い合い寒き骨拾う虎八花乙
電柱から電柱までは寒さしか小林脱太郎
瀕死の父繋ぐモニターの音寒し小林のりこ
一人より二人つきりの寒さかなこひつじ@QLD句会
寒暁の電車少女の抱く和弓駒村タクト
独り身の影も独りや肌寒し小湊八雲
過去帳に童子と童女ゐて寒しGONZA
近くまできて寒しと呟ける今藤明
実験施設コンクリ色の猿寒しこんのゆうき
書類山積み生徒会室寒しコンフィ
海へ向く砲台跡や風寒しさいたま水夢
どこからも灯台見ゆる寒さかな彩汀
幾千年隆起を続け海寒しさいとうすすむ
傷む地へ押し寄せて来る寒気嗚呼齋藤桃杏
寒さに喰われ月は少し欠けているさおきち
伝えるは電柱番号寒し寒しさ乙女龍チヨ
本堂の木魚のかほもまた寒し酒井春棋
天をつく尖塔ミサの夜の寒しさかえ八八六
暮れ泥む汽笛の寒き津軽かな坂口いちお
寒き夜や長さの足りぬ栞紐坂野ひでこ
乱反射寒しガラス戸ひびにひび坂まきか
警察署寒し遺失物届受理坂本雪桃
図工室寒しがしがし鳴る馬楝さくさく作物
ゆっくりと看板下ろす日の寒し咲まこ
色の無い庭先に猫の糞寒し櫻井弘子
まだ売れぬ犬と目のあふ寒さかな桜鯛みわ
寒きかな病巣の矢印画面青桜月あい
寒夜つてみんなでいてもひとりぼちさくら悠日
川の字の右肩寒し六畳間雑魚寝
言い募るほどにこぶしの寒さかな笹靖子
寒夜しずか覚えたての手話頻りさち今宵
独り身の家計簿付くる寒さかな佐藤恒治
寒き夜の喪主と遺影と三輪車佐藤茂之
胴切りの街路樹寒し4号線佐藤儒艮
ファイル抜く書架の隙間の闇寒しさとう昌石
真つ白な柔道着に畳寒し佐藤浩章
起き抜けに寒しと独り言寒し佐藤佳子
弔問の列真直ぐなる寒さかな佐藤レアレア
街灯の点滅寒し老いた町里こごみ
車椅子の祖母の手に寒いと子はさとマル
おとがいを打つや拳の音寒し錆田水遊
引きこもる記憶青空が寒い彷徨ういろは
黒鍵の白に混じらぬ寒さかなさむしん
胸寒し寒色ばかりなる箪笥紗藍愛
矢印のかたちに鳩の飛ぶ寒ささるぼぼ@チーム天地夢遥
さぶいさぶいさぶい唱ふる口寒し沢井如伽
寒い寒いって言うから炎揺れるのよ澤田紫
流産の子の産着ある寒さかな澤田郁子
知らぬ街の寒しアオのコンビニばかし沢拓庵@いつき組カーリング部
喪の明けてソファの凹みのなほ寒し三月兎
図書館の棚の迷路に入り寒し三休
怒りもて向かふ寒さの途方なく山月
母の膝抱きて寒し星の駅三尺玉子
児の歌ふ寒き瓦礫の街の中三水低オサム
記念樹の枯れてなほ在る寒さかな塩沢桂子
寺寒し柱の角の極まれり歯科衛生子
足元寒し夕暮れを進路相談志きの香凛
からんころかんから寒し行き止まりじつみのかた
湖の釣りびと無口なお寒し実本礼
蒼き子を抱く母に降る星寒し篠原雨子
犬の名で吾を呼ぶ夫よ外寒し篠雪
ドミノ倒しのような訃報や寒し柴桜子
地底湖をひとり寒くはないか龍渋谷晶
天窓は星の遊び場そら寒し島田あんず
手術同意書寒きサインかすれて清水祥月
人が泣くやうに擦れて椅子寒し清水縞午
星屑を踏むごと寒き帰り道霜月詩扇
ぼろぼろのテディベア雨の音寒し芍薬@独逸
鉄塔を降りきらぬ日の影寒し洒洒落落
脚寒し文幾重にも伝書鳩じゃすみん
美容院出て新たなる寒さかな沙那夏
友と居て友に話せぬ寒さかな洒落神戸
抜かぬまま術後の糸は背に寒し柊二
青空に鳶啼く声の寒さかな柊瞳子
寒しさむし喪列は夜の芯となる樹海ソース
馬鹿寒し街が綺麗になりすぎて種種番外
LED寒し早番のバス停寿松
沈殿する寒さ澱となる涙シュリ
寒暁や生きる力をへそに込め順之介@QLD句会
敦賀行ぞぞぞ乗り込む寒さかなじょいふるとしちゃん
海さびし魚にまぶた無き寒さ常幸龍BCAD
煌々と白灯の帰路かげ寒ししろくも
舌打をする癖寒き会議室白猫のあくび
仮位牌抱へて愚痴る寒さかな白プロキオン
旭川寒し14歳の玻璃白よだか
滑り台撤去の空所風寒しジン・ケンジ
ふるさとに太宰と圭子雲寒し新城典午
月寒しため息の雲かけちゃったしんなが新月
軍鶏の声朝日に裂くる寒さかなすがりとおる
潮風の干物に刺さる寒さかな杉田梅香
御幌のふるふ暁空なお寒し涼風亜湖
保護者控室無言の寒さかな鈴木秋紫
松の葉に寒さ切込む鋏の音鈴木由紀子
朝を這ふビニル袋や街寒し鈴白菜実
沈みこむ畳や何もかも寒し主藤充子
明日にまた用を持ち込む寒さかな砂山恵子
寒き野へ曳かれてひとつ引退馬すりいぴい
「半額」の弁当軽し風寒し静江
鏡中の歯磨きの吾ただ寒し晴好雨独
言ったとか言わないだとか寒夜かな瀬央ありさ
祖母の部屋眼鏡溢れている寒さ世良日守
受験票今日が寒さの底のはず千@いつき組広ブロ俳句部
陽だまりや寒きドイツの文を読むそうま純香
夜寒し人の形の某か曽我真理子
水蒸気枯れて怠惰な部屋寒し外鴨南菊
川風のひゅるると寒し首ねっこそぼろ
夜に聴く口笛寒し影寒しそまり
街並みの輪郭燻む寒さかな染井つぐみ
靴紐のゆるみの寒しるのあたり染野まさこ
凸凹の麒麟レゴ製寒き雨空豆魚
殊に鼻寒しアメ横突つ切ればぞんぬ
二次会断って待合室寒い平良嘉列乙
わが旗をどこぞに忘れ風寒したいらんど風人
泥波火全てが寒し揺れる朝高上ちやこ
武勇伝あいなし厠寒かりき高尾里甫
靴底の拭えぬ泥や畑寒しだがし菓子
紙きれの孤高に指を切る寒さ髙田祥聖
一錠の寒し胃の腑の爛れゆく鷹取碧村
警策をいただくやうな寒気かな高橋寅次
掘り返す土塊寒し獣臭たかみたかみ@いつき組広ブロ俳句部
耳鳴りは海鳴りのごと人寒し高山佳風
寒き夜や夢二の「女」なほ瘠せて滝川橋
たうめいな寒夜貫くエレベーター卓鐘
空寒し棺担ぐは皆爺似たけ馬広
昼の月寒し軍艦島洞ろたけぐち遊子
寒暁や鼓膜へ軍靴高々と武田豹悟
城堀の鷺身じろがぬ寒さかな竹田むべ
ありがたうとか照れくさい寒さですたけろー
山頂は鼻のてっぺん痛寒し祐紀杏里
剪定の切り口並ぶ寒き道多数野麻仁男
寒いねと寒いねと鳴き交はす森多々良海月
母に会う寒さ5センチの隙間から立花かおる
我が薄き影の踏まるる寒さかなだっく
手の平の昏き溝沿う寒さかな立田鯊夢@いつき組広ブロ俳句部
精神科より帰る始発の朝陽寒し立石神流
ぷっくりと卵黄寒し朝の陽に田中勲
ロータリー寒し届かない演説たばたなおみ
革ベルトかわき妣のミシン寒し玉家屋
ペディキュアの真赤を隠す寒さかなたまのねこ
寒冷や札を押し込む募金箱玉響雷子
亡き父の矩尺にぎる度寒し田村利平
窓どれも嵌め殺されてゐる寒さ千夏乃ありあり
タバコのむ唇が吐く嘘寒しちくりん
美しきもの総じて寒き中にあり千歳みち乃
ハウリング起こして寒し街宣車ちゃあき
寒さとはマッチ何本分だろう千代之人
寒き日の仏壇ゆるせなかった祖父彫刻刀
履歴無くスマホに触る寒さかな塚本隆二
西口は寒し青年誌の表紙月岡方円
吠ゆるべき相手なき日や犬寒し月城龍二
玻璃窓のさめざめ泣きてあゝ寒夜月待小石
寒しとて抱えた猫が爪を立て月見里ふく
隠れて泣く部屋に寒さなんてないつくも果音
庭の景浅黄に暮るる寒さかな辻美佐夫
奥寺に日暮広ごる寒さかな辻栄春
墓寒し縁者問ふ札ここかしこ辻内美枝子
炊き出し終了行列解けてゆく寒さつちや郷里
また乱杭歯が金をせびる寒い津々うらら
クリムトの水蛇金色の寒し綱川羽音
密教の洞のともし火まで寒いツナ好
クレーン車に猫新居の町寒し翼つばさ
明朝体寒しや調査報告書坪田恭壱
重馬場の寒し青毛のストライド丁鼻トゥエルブ
生きるものつぼみて丸き寒さかな徹光よし季
俯ける大仏の背の影寒してつねこ
高架駅ひとり降りたる寒さかな寺尾当卯
子の呟く「スクールカースト」息寒し輝由里
充電切れのペダルぎこぎこ背(せな)寒しテレシア
寒き日や候補も知らぬ市長選天雅
金持ちのイルミネーション寒い色電柱
納骨の輪の中にゐる寒さかなでんでん琴女
派手なピアスはずし夜の耳寒し天陽ゆう
駅外れビッグイシューの束寒し土井あくび
白狐わたる寒笛の空間どいつ薔芭
階段を寒さほるやう下りたりトウ甘藻
寒き朝白毛混じりの鼻の穴藤白月
恐竜の骨尖りたる寒さ哉とかき星
補聴器の電池の切れて寒き朝時まる
街寒し盲導犬の横に立つときめき人
罹災証明待つさむき寒き列常磐はぜ
焼石累々鬼押出し寒しどくだみ茶
獣道広くなりたる寒さかな戸口のふつこ
波がしら辿れば寒し佐渡島としなり
被災死の「小5」の文字の寒さかな戸部紅屑
露天湯へ続く廊下の寒さ愛づ斗三木童
石像寒し顧問異動の部室富野香衣
油屋の元気なバイト風寒し戸村友美
寒き夜君の車に見知らぬ香登盛満
銀の鍵二つそれぞれもつ寒さ富山の露玉
水垂れし鴉の嘴の寒さかなとよ
良く晴れて寒し我が犬旅立つ日豚々舎休庵
弔ひの首すじ寒し黒真珠とんぼ
寒暁のひかり籠れる鶏舎跡内藤羊皐
鍵回す音の重たき寒さかな中岡秀次
フェンス越し手向けられたる花寒しなか鹿の子
調弦の琴柱(ことじ)倒るる寒夜かな中里凜
売られ行く荷台の豚の耳寒し中島圭子
寒き日はことば選びて話したり中嶋敏子
寝返りて寒夜に帰る背に触れる中嶋奈緒子
くまのグミ供え佇む墓所寒し長月壱肆
子の骸の軽しモルグの壁寒し中原柊ニ
選挙カー残響寒し街は昼中村こゆき
昨日より遺産となりぬ家寒し中村すじこ
おむつ替父のお尻の皺寒し中村雪之丞
角の家やはり売らるる旗寒し中山由
ちちははと共にいる夢覚め寒し夏草はむ
海鳴りにいななき混じる寒さかな夏椿咲く
二次会を辞して帰宅の寒さ哉夏埜さゆり女
踝の寒さ腿の寒さを追いかける七瀬ゆきこ
寒冷や柵の向こうは弾薬庫⑦パパ@いつき組広ブロ俳句部
我が事にのみ閉ぢてゆく老い寒しなびい
この寒き空気もはさみ朝刊来名前のあるネコ
朝方の空気はつんと海寒し南全星びぼ
しやびしやびと錆のシャッター下ぐ寒し西川由野
待ち惚けのつらづゑ寒し無人駅西郡うり
悪口に笑へば寒き歩道橋西爽子
開場をいそぐ寒さに千の傘西田月旦
犬褒めて笑み返さるる寒さかな西村棗
角膜は寒し地獄の門の色二城ひかる
家寒し避難所寒し明日寒しにゃん
肩を入れ寸胴洗ふ夜の寒し仁和田永
ポストまで走りて寒き喉仏庭野環石
鋼材に柏手響く寒さかな沼沢さとみ
脳を視る機械に呑まれゆく寒さ沼野大統領
電波時計寒しとみえて合わせられず猫辻みいにゃん60女性
鋼の寒しクレーンは曇天へ根々雅水
吸う息の寒さに肺の形知る野地垂木
剥き出しの耳が悪夢を見る寒夜ノセミコ
寒し寒しむくろになりて沈みゆく乃立喰烟
神様は人の産物ゆえ寒し野点さわ
窓際の散らぬ雄しべの黄の寒し白雨
骨片の幾つ熱からう寒からうはぐれ杤餅
ぶかぶかの戦闘服や寒き首はごろも856
部屋寒し聴診器手で温めて波止浜てる
岬見る青信号の瞼寒し橋本有太津
寒暁やモスクに懸かる一つ星蓮井理久
辻立ちを伏し目に過ぎて駅寒し長谷川水素
段ボールに預ける寒夜の体温長谷機械児
『なんかい目だろう』透析の針寒し長谷島弘安
遠汽笛雨に濡れたる音寒し畑中幸利
原発の再稼働なる海寒し葉月庵郁斗
寒し寒し猫は朝から同じ場所葉月けゐ
なにをしにきたか忘れる老い寒しパッキンマン
寒威にも行く反戦のプラカード八田昌代
窓寒し星の震へる湖西線花南天あん
カタカナ寒し直ぐに忘れる薬の名花南天あん
寒き夜やパッチワークの針堅し花はな
二藍のくちべに寒し有夫恋花彼岸
寒き夜や柩に小さき百二歳はなぶさあきら
木偶の眼に寒さの底を見てゐたり花見鳥
有線の割れて鄙の朝は寒しはむこ
群衆、寒さと淋しさのかたまり葉村直
(一月十七日)寒き朝二十九年目の黙祷原島ちび助
波音に緊まれる富士の寒さかな巴里乃嬬
寒き夜の棘すきとほる針鼠晴田そわか
ピアス穴じくと膿たる寒さかな春野ぷりん
青空寒し集落は碧き湖はれまふよう
寒き夜の硯を走る墨の音ピアニシモ
漆黒のひとすじの朱ただ寒し匹田小春花
供養とは雖も寒し造花咲く比企野朋詠
靴音寒し螺旋階段地下へ樋口滑瓢
ボイジャーの星の間を行く寒さピコリス
寒し!なぜ朝日こんなに新しい菱田芋天
止まれの「ま」が残るアスファルト寒し菱田芋天
亡父の古書束ねて寒し慈善市美竹花蘭
解のなきX講義室寒しひでやん
畳間の寒し供花は白ばかり日向こるり
寒暁や毛並み銀なるパンダカーひなた和佳
足下の川が押し来る寒さかなひな扶美子
言ひわけを笑ひつついふ寒さかな比々き
瘡蓋のかたくなれない膝寒しヒマラヤで平謝り
次の間の光の逃げて寒さ棲む平岡梅
飴といふ刃物ころころ寒き舌比良田トルコ石
塩鰤の顎ずくと割る寒さかな平本魚水
置き箱に入らぬ荷物待つ寒さ比良山
黒き羽拾うて寒し古戦場浩子赤城おろし
捨ててしまおうか寒江の鈍色へ廣重
頭蓋骨震わす程の寒さかな広島立葵
引越しの家具無き跡の寒さかな広ブロ&新蕎麦@摂田屋酵道
暁光の百万石といふ寒さ風慈音
ひとり夜の裾丈直す指寒し風泉
会場に鉛筆の音寒さ沁む風民
戦争の記事も詰物なる寒さ深町明
寒き夜や余震の中の車中泊深蒸し茶
能登寒し名を与ふべき星あまたふくじん
直線寒し阿弗利加に国境福良ちどり
被災地に灯うしなふ寒さかなふじこ
一瞬は寒し老父の無呼吸は藤咲大地
病室のシーツを撫でる寒さかな藤永桂月
被災地の乾いた顔の寒さかな藤本だいふく
寒笛や隣家の好爺出棺す舟端玉
病床の寒きスリッパ停止線風友
寒き野の一本の木に一羽の鳥冬島直
脱衣所の肋の寒き日暮かな冬野とも
捨印の藤がつぶれてゐる寒さ古瀬まさあき
ギロチンのごとく岡持ち閉じて寒ふるてい
半島の夕日あつまる寒さかな豊後のすもも
玩具の銃かくも軽々しき寒さ碧西里
法廷は寒し傍聴席は空ペトロア
約束の指輪きつくて帰路寒しべびぽん
赤い実よ赤い実よ降れ降れ寒しほうちゃん
唇の色寒し避難所に風暮戯
こびりつく寒さとろりととく湯舟黒子
インク濃き朝刊寒し手の堅し星鴉乃雪
積まれたる皿や寒夜の流し台星月彩也華
痛みの輪郭を寒さが噛んでゐる星詩乃すぴか
ワンルーム寒し食パン尽きてをり細川鮪目
寒し寒し見てるだけの海美しきポップアップ
ワンコインの牛丼パック部屋寒し堀邦翔
逢ひ見てののちのちのちの寒さかな凡々
小便器に上司の隣る寒さかな前田
呼吸する身やつくづくと寒き朝前田冬水
何か棲みつく響くみぞおち寒し牧茉侖
みちのくの旅籠に住まう風寒し真喜王
何にしろ寒い工場で螺子加工正岡田治
見送りは不要と義父に告ぐ寒さ眞さ野
インタビューするもされるも駅寒し松平武史
勝手口あぉんと寒し猫の声まっちゃこ良々
サキソフォン寒さしぶとき長廊下松本裕子
就活の期待の上着まだ寒しまほろば菊池
干からびる雑巾寒い更衣室真宮マミ
弱虫や灯油の匂う指寒し豆くじら
いらいらと寒き乳房や白湯を飲むまめばと
意味のないアンケート寒きアスファルト毬雨水佳
吾の行方寒き昴の見てをりぬまるにの子
逆縁になるかもしれぬ寒し丸山隆子
山頂の磐座抱き松寒し美衣珠
路地寒しフレンチだつたゴミを出す三浦海栗
風寒し心が枝にからまりて三日月今日子
点滴のボトル交換床寒し三日月なな子
鼻へ刺す綿棒防護服寒し帝菜
牛乳がぐっと濃くなる寒さかな三茶F
寒夜きた茶碗一つに箸一膳三上知行
一人居の寒し茶碗と皿の鳴る岬ぷるうと
水洗の音の寒さよ真夜三たび三崎扁舟
遺影とはこんなに寒く微笑むか水須ぽっぽ
灰皿の灰色寒し喫煙所MR.KIKYO
寒笛や人魚の消えたみづの国三隅涙
翼をばなくした罪か背が寒し巳智みちる
甲斐駒の白く突き立つ寒さかなみちむらまりな
転調のタクト寒きを振り下ろす満生あをね
屈葬は胎児の姿勢夜具寒しみづちみわ
寒くない指輪の跡の窪みなど満る
休憩室寒し返信書きよどむみつれしづく
いきいきとLINEは遺る地震寒し南方日午
寒き車窓富士近すぎる近過ぎる美村羽奏
踵にも楔打たれるやう寒し宮井そら
すれ違う言の葉残り居間寒しみやかわけい子
暖色の防災地図の街寒し宮坂暢介
戸袋に何か巣のある寒さかな宮武濱女
塗り椀の欠けて余震の寒さかな宮部里美
膝頭整列寒き体育館みやま千樹
対岸の震災の地や波寒し宮村寿摩子
地は寒しドローンの運ぶ薬箱妙
扉閉づ生家は寒きがらんどう麦野光@いつき組広ブロ俳句部
覆面介入てふ手口や寒し椋本望生
参道の鳩の骸へ陽よ寒し無弦奏
足首の入れ墨寒し御堂筋霧想衿
おはやうと笑ひ合ふ前歯の寒し睦月くらげ
消滅可能性都市二人の寒き夜むらのたんぽぽ
寒江のほとりにケルンのやうなものめでかや
海底に骨の重なる寒さかなメレンゲたこ焼き
寒し寒しと散り公園の無人望月ゆう
廃ビルは売れず寒々鉄の骨元野おぺら
被災地のカレーをさらふ匙寒しもふもふ
寒し寒し口から佛出てきさう百瀬一兎
照明ピッ電子レンジもピッ寒し桃園ユキチ
水紋は美しからず能登寒し森毬子
ほんたうのよるほんたうのさむさありモリコリゴリ
居残りふたり木琴の音寒し森中ことり
仰臥する梁寒からう寒からう杜まお実
旅立ちの船上寒し晴れやかなり森茉那
ブルースのような遠吠え月寒しもりやま博士
長らくのご愛顧シャッターの寒しもろ智行
読み飛ばす宇治十帖や椅子寒し山羊座の千賀子
駅寒し朝から減らぬ広報誌弥栄弐庫
能登寒しカメラの土足咎む杜氏痩女
ホスピス寒しウイッグの領収書簗瀬玲子
引越しの終の棲家のまだ寒し八幡風花
何者かになりたし成れてゐぬ寒さ山内彩月
しんしんと寒し夜の蔟編む山尾政弘
老眼鏡置きて遠見の寒さかな山河穂香
右膝のぽきと鳴きたる寒夜かな山口絢子
寒き朝刺股並ぶ陣屋跡山口銀鈴
空寒し悲しい程に琵琶法師山口雀昭
幾千の灯火の揺るぐ寒さかな山崎かよ
垣映す桜田濠の寒さ哉山崎力
寝間寒し押し入れ開けてなお寒し山崎のら
鈍色の象のまつ毛の寒さかなやまさきゆみ
僧坊の吐く息寒し絡まりて山田企鵝
ルームキー軽し磨りガラス寒し山田蚯蚓
ごみ袋に嘴の跡あおぞら寒し山葉元気
足裏より頭へ抜ける寒さかな山本亨
唇は寒し明日の希望吐き山本蓮子
街ひとつ滅ぶボタンのある寒さ唯果
スパゲティ折る音寒くひとりかな柚木みゆき
空寒し仮病の窓を開くる朝遊羽女
パスワード二回弾かれたる寒夜雪音
マンションの同じ寒さの隣り合う宙美
開かれしままの三面鏡寒し夢見昼顔
幾たびも子離れを云う寒さかな湯屋ゆうや
寒暁や豆腐盛る手に刃の触れて羊似妃
改札の扉の閉まる寒さかな横山雑煮
寒き日やペレットの袋あと一つよしぎわへい
晴天や堅パン噛る身の寒し吉武茂る
一鍬づつ浅間赤城の寒さかな吉田わさび
萩原朔太郎の横顔が寒いよしぴこ
龍襲う爪あと厳し能登寒し四葉の苦労婆
ゲルニカの灯火は寒し暮るる村楽花生
戸袋に入らぬ戸板や寒き朝理佳おさらぎ
発表の文字板寒し風のゆくリコピン
拗ね者の鼻のピアスが知る寒さ柳絮
鹿らしき死骸貪る空寒しルージュ
寒き指乾けば硬くなる野帳ろまねす子
丹田の寒さに対ふ力あり若林鄙げし
歩道に血痕現場検証の寒しわたなべすずしろ
「ゲルニカ」の太陽寒くある部屋の渡辺香野
都市ガスの炎の芯の寒さかな亘航希
卵割るちから失ふ寒さかな笑笑うさぎ
声ちさき祈りの寒し土鈴の音飯村祐知子
ひとりより寒し合わない人と居るかもめ
始発待つホストのタトゥーの色寒し欅坂風来
壁の鍬ほぼ垂直の寒き角度に公木正
ご祈祷の鈴の音しゃららんと寒し古都鈴
夕さりの波止場小銭の寒き音紗羅ささら
搾乳の牛舎の房や山寒し惣兵衛
鳩寒し神社の裏の駐車場高橋ひろみこ
式神の放たれし夜や風寒したきるか
夜明け待つ霊安室の壁寒し徳庵
藁を焼く匂ひの中の鷺寒し内藤清瑤
ガラスドアのわが顔寒し西麻布西村小市
引継ぎの鍵を掛くれば夜寒し西尾照常
また五分時計の狂う寒き部屋三水低オサム
ポケットになにかの紙のある寒さ二重格子
速報にペンだこ擦る寒き夜日吉とみ菜
老健の母に見送らるる寒さ藤白真語
ただ寒し暮らしの名残り掻き集むまやみこ恭
おでこつけあきれたきみやさむし寒し青空豆千代
母逝きて青空寒し道つづく大竹八重子
上書きのされる悲劇や明日寒し赤尾実果
ゴールまへ馬券舞ひ散る寒さかな秋山らいさく
寒い時はトランポリンでジャンプして雲の中入るアニマルヘム猫
革ジャンの首もと寒き二十歳かな阿部八富利
ダイアモンド見厭きた富良野は寒し石の上にもケロリン
病廊の数で人呼ぶ声寒し泉晶子
記念日に背中合わせの夜寒し一歩千金
いやだから寒しと言うな季節だろ伊藤テト
山遠く白に慰む寒さかないとへん製作所
観音寺寒し住職の笑顔伊代ちゃんの娘2
子を乗せて急坂下る寒さかなS・葉子
トイレ介助廊下寒し午前四時榎本奈
チェロの音すこし外るる寒さかなえりべり
海に行く騎者拉ぐる寒さかな縁穐律
スーパーの消えたる町の寒さかな遠藤一治
[閉店]の紙貼らるゝや街寒し大谷如水
皆様に寄り添ふ政治聲寒し岡崎佐紅
寒暁や珠追龍が夢の中岡田恵美子
母ゐない子にも夜来る寒苦かな岡田雅喜
母をつい叱りし夜の寒さかな小川しめじ
うすあかり夫にそひねの寒夜かなおひい
目薬の瞼こぼるる寒さかな海峯企鵝
声寒し軍歌混じれる童歌加田紗智
水晶の耀う光ふと寒し桂子涼子
夜寒し手から零るる君の嘘河村静葩
地揺れして明日は未定や海寒しカワムラ一重
あの女へ孤閨の寒さ呪力とす川村ひろの
どすこいと風と戯ぶる寒さかな川村昌子
AIの読み上げニュース寒き声神無月みと
宅配の不在伝票寒き夜喜多丘一路
ブラームス脳裏に響く寒さかな北野都留
参道の剥製見上ぐ雲寒し木元紫瑛
唇の記憶は寒し紅を刷くケンG
遠山のへの字の尖る寒さかなこま爺
モスキート音のつらぬく寒さかなさざなみ葉
口喧嘩言ってしまった口寒しさざんか
寒き朝諏訪の湖には恋路とやさぶり
あな寒し真白き神の那岐の山塩の司厨長
アシ寒しハセダにされてしもたんよじきばのミヨシ
独り身の枕の凹みとは寒し四條たんし
覗き込む窓のまだ母なし寒し紫檀豆蔵
フイルムの焚き火寒しや路地裏の白井佐登志
神社うら寒さ払いし千素振り四郎高綱
寒き夜や捨石に座す吾ありて杉本果ら
螺子山の崩れて寒しDIY清白真冬
寒き奈落の底に千両役者鈴野蒼爽
賽銭の音願う手の寒し寒し鈴野冬遊
入相の鐘も尖りし寒さかな青児
山寒し火球からの宅急便海星葛
耳寒ししたくなくても車中泊高岡春幸
寒さよしウォーキングの腕を振るタケザワサトシ
小夜更くや寒き駅舎のすれ違い田中幸湖
ただいまと呟く部屋の寒さかな苫野とまや
貫かれ寒さに愛を感じるかなかかよ
ヘアスプレー固めて寒しビルの街中十七波
閨寒し胎児の態で日の出まで中島走吟
目覚ましが遠く聞こえる寒さかな中嶋緑庵
打たせ湯に剥きだしな吾の性寒し永田千春
牛寒し牛の間より山見えて那須のお漬物
体内を這う蛇のごと寒さかな夏風かをる
団欒の中に微かな寒さかなななかまど
八ヶ岳通学の児の鼻寒し七森わらび
「寒いね」に媼の返事なき寒さ奈良素数
足跡の二つ寄り添ふ寒さかな縄田ゆみこ
ギリギリノカラダ微笑む目の寒し猫ふぐ
キーボード叩けば響く寒さかな暖井むゆき
寒夜なり「舟唄」流し夫と飲む野原蛍草
通学のざわめき過ぎて又寒し則本久江
りす組のおねしょ警報でて寒し花和音
ハミングを風に連れ去られて寒し広瀬康
大小はあれど中なしこの寒さ平馬
厨寒しラップ乾かし使ふ母ほしの有紀
幾度目の派閥解散劇寒し凡狸子
宵寒しちょいと違う店に入り松井醉呆
またここも更地になりし町寒し松風花純
寒々とリハビリパンツ湯気を生むまんぷく
剥がれざる寒さ寒立馬の睫みやざき白水
眉薄し作り笑ひの寒き顔みらんだぶぅ
しなくてはならぬことなき日々寒し村上の百合女
逃げても逃げても追ひかけてくる寒苦紫小寿々
寒冷や雲より白き飛行機雲村松登音
足音に飛び立つ鳥ら川寒し目黒智子
スマホ繰り捜す咎人背な寒し茂木りん
警報の鳴り止まぬ日の寒さかなモコ
傘をさす瓦礫の上に「寒かろ」と望月とおん
そばおきしおつとのおほねの寒しや本山喜喜
寒苦かな瓦礫を舐る風の音森佳三
バセドウ病癒えたよこんなにも寒いもりさわ
賑わいを隔て寒々しき厨杜乃しずか
居間寒し張り合ひのなき虫退治野州てんまり
朝鏡梳く白髪の寒さかな安田伝助
台所寒しと云へばなお旨し安元進太郎
地神水神巡る池の端寒し山川たゆ
海寒し釣針裾に絡みたり山口笑骨
星滲む月なき空の寒さかな大和杜
ありがとうごめんの言えぬ家寒しユ綺
おかへりもいつてらつしやいも無し寒しらん丸
迂回路は大回りなり寒き朝ゆすらご
約束を違えた朝の寒さかな吉田蝸牛
閨寒し初産の知らせはふたご六星菴
病み上がり覗く鏡の寒さかな麗詩
斧ぐんと一つの株となる寒さ烈稚詠
死ぬための帰り支度や寒き夜朗子
救急の過ぎ行く音の寒さかな渡邉花
映像の暗闇に入る寒夜かなEarlyBird
懐や徒然なれば宮寒し会田美嗣
利他と利己おもてと裏の寒さかな藍野絣
結界はタイムマシンぞ寒き月葵そら
嘘ついて頬のこわばる寒さかなあおのめ
夢破れしけた面して街寒し青星ふみる
やはらかに光放ちて星寒しあお山まみ子
尿意とて寒さ勝りて寝るばかり赤尾双葉
寒き日の口数四つ「どさ湯さ」acari
未明の着信寒しフェイクメールあかり
那覇寒し泡盛湯割りで乾杯しあがりえ
寒い朝足音響く裁判所秋月あさひ
寒き朝座る人なし駅ベンチ空き家ままごと
ちぢこまれど寒し一人寝の床アクエリアスの水
ぬくもりを求めてみても夜寝寒し亜紗舞那
手酌酒酔えば酔うほど尚寒しあすなろの邦
明け烏ゴミ箱漁る街寒し阿曽遊有
旅鳥の居すわる浜の寒さかなあたなごっち
包まりて包まりてでも夜寒し渥美謝蕗牛
吐く息も白き溜息能登寒し跡部榮喜
250cc通勤寒し纏う白衣アニマル可秘跳
いと寒し能登の地震にひとり酒あまどかに
宴たけなわの両手を打ちて寒し天鳥そら
寒き午後皿温かきパンケーキアマリリスと夢
残業や暗き独居の部屋寒しあみま
音量しぼり寒暁の椿姫雨乙女
ババなればツーブロックの耳寒し雨降りお月さん
雑踏に路上ライブの声寒し雨李
諍ひてベランダに出る寒さかな荒一葉
端正に雑念払う寒気かなあらあらかしこ
地震後の傷口に塩あな寒し荒木ゆうな
ねえねぇねえ遺影に語る寒夜かな新多
寒き夜を仔犬も吾子もくっ付きて粟倉俳句教室宮本モンヌ
夜寒しみかんのかわを入れたふろあんばいとしき
貼り紙の吹き飛ばされて跡寒し飯田淳子
風寒し戸のガタゴトと空家増え飯田むつみ
一人ずつ去りし職場の寒きこと飯沼深生
それぞれにスマホ相手の部屋寒し郁松松ちゃん
気合い入れタイルの風呂場いと寒し池愛子
被災せし慟哭の数数寒し池内ねこばあば
口開かぬ貝ひたひたと水寒し池田悦子
貧乏暇なしをくつがえす寒さ池田華族
しんしんとひとりが染みる寒き夜池田炭
高僧の出棺長き列寒し石岡女依
地震後の能登半島の風寒し石川明世
風音の耳に直撃して寒し石田ひつじ雲
大地震え海空寒し命よあれ石堂多聞
暮れ時を地震揺れゆきてうら寒し石原花野
膝がしら抱えて寒し独り寝か泉恵風
風寒し奥歯かみしめバスを待つ遺跡納期
身ほとりの虚しさたたむ寒夜かな一穂
夜気寒し防災無線こだまする一秋子
奥能登の塩購えどなお寒し五つ星
叔母の死に紅をもささぬ姪寒し伊都
肩しとど芦ノ湖目指し靴寒し伊藤薫
寒さゆえ寒きに慣れるその寒さ伊藤なおじい
日の暮れて遺品整理の寒さかな伊藤れいこ
開口のめくる前座の顎寒し伊ナイトあさか
さびれゆく町並み無常雨寒し伊那寛太
十円のうごくは寒しこつくりさんいなだはまち
老いてしる人の噂の息寒し稲葉雀子
叱られて外に出されし寒さかな井上幸子
さよならの両手の寒しまた振りぬ井原昇
紫の雲寒々と日の出待つ今井淑子
癌検診二時間待ちの寒さかないまいやすのり
頑なに蕾の閉じしなお寒しイマスノリコ
指先の感覚消える寒さかな井松慈悦
能州のきみに逢いたし嗚呼寒し今乃武椪
翡翠の急降下する水面寒し今村ひとみ
出ぬ答え探し続けていて寒し岩木順
被災地のノースライトや寒き夜岩佐りこ
お岩木の拡がるましろ裾寒し岩清水彩香
寒き夜や寡の友の如何ならむ岩田勇
別れ来てただ歩く夜やただ寒し植田かず子
被災地に非情の寒さ畳み掛け上野汐里
耳に寒し「火の用心」析の響上原まり
「餃子巻も」と寒き列ラーメン屋兎野紫
一時間いつもの席の寒さかな内本惠美子
我が人生今だけ寒しと待ち侘びる鬱金香
久々に定期船来る凪寒し海口竿富
手を合わす父の石碑の寒さかな梅尾幸雪
自転車の形見の鈴音風寒し梅里和代
電子図書めくる寝床よ肩寒し梅朶こいぬ
太腿の寒し朝のロッカー室梅田三五
県道寒し打ち上がる波飛沫梅鶏
どこ行った猫寒かろう寒かろううめやえのきだけ
曾祖母の梅干し眠る蔵寒し粳としこ
立退きの明日に迫りて夜寒し麗し
この街で寒しと言えば罰当たり江川善光
街灯のちかちかを聞きなほ寒し蝦夷やなぎ
寒き家不協和音の父と母笑姫天臼
公園は山の中腹陰寒し絵夢衷子
前進と廊下に下がる書の寒し江村享
指先で辿るTL(タイムライン)寒しえりいも
誕生日嬉し淋しく寒さかな遠藤倫
かく寒し亀のごと寝て過したし遠藤玲奈
大杉を伐られて寒し原野かな円美々
湯めぐりの旅より帰る家寒し大木独活
満天の星に吸われし胸寒し大越総
燻らず線香燃えて風寒し大阪駿馬
城下町埋め流るる河寒し大澤眞
嘶きて寒し一日の息吹きかな大嶋宏治
あちこちで戦寒しや一つ星大島一声
キスだってウソがまじってまた寒し大野美波
避難所の空気は寒し人情温い大渕航
ひとり酒懐寒し歌合戦大道真波
寒き日や朝定食に紅生姜大谷一鶴
道の端に盲ひの猫や闇寒し大矢香津
被災地や行けぬ身の程寒さむし大山小袖
アバターとなりゆく吾や夜寒し岡井風紋
生足の血管浮きし寒さかなおかえさき
寒い旦着ぶくれし列ガラガラン岡崎未知
納骨の日のふたりきり寒き寺おかだ卯月
夕まぐれ無言の夫とゐて寒し岡田瑛琳
日時計の影薄くなる寒さかな岡田ひろ子
夕暮れに一羽残りて池寒し岡塚敬芳
肩寒し羽毛が重い病んだ身に岡村恵子
ふり仰ぐ濁る目寒しにじむ月オカメインコ
寒しかな鈍色の能登椀一つ岡本
手水舎の龍の輝く寒さかな岡山小鞠
もしかして幽体離脱我寒し丘るみこ
天災や怒る先なしただ寒し岡れいこ
首傾げ医師見入る書の黄が寒しおきゆきお
口小言悔やむ夕餉の座の寒し奥寺窈子
ショーウィンドウ映る姿の右寒しおこそとの
能登寒しあの漆器店よ無事であれお品まり
旧友は逝きて故郷の寒さかな小島やよひ
寒い朝吉永小百合風に漕ぐ小田和子
寒暁に一歩踏み出す夜勤明け小田虎賢
鉢花の枯れたふりする寒さかな小田ビオラ
脱衣場で愚図る子急かす寒さかな小田毬藻
ああ寒し行つて参ると申せしも小田慶喜
被災地の寒き日差しにパンジー揺るおんあいす
辻に立ち登校見守り隊寒し貝田ひでを
池寒し小さき鼓動陽に透けて海堂一花
骨軋み動かぬ指よ寒さ哉かえるゑる
両の掌の頬よ寒きを戻り来し火炎幸彦
トー横の立ちんぼ寒し唯ケータイカオス
日本海寒し灯りの消えた町加賀くちこ
大学の駅より遠き寒さかな化骨
報道の不確実性耳寒し風花美絵
灯りを水を寒冷の震災土地梶浦和子
襷受け寒し箱根路勇姿行く梶浦正子
病院の待合室の椅子寒し鹿嶌純子
空真青パトカー音の寒きあさかじまとしこ
石仏や当尾の里に風寒し片岡明
猫逝きて寒さを抱く腕枕帷子砂舟
舟唄や昭和去り行く世は寒し加藤水玉
ミッキーの耳たぶ寒し夢の国叶田屋
ロッカーを空ける終業後の寒し仮名鶫
蒼き灯のスカイツリーの寒さかなかぬまっこ@木ノ芽
買い物の人影寒し夕の市金子あや女
四歳は熟睡すれどわれ寒し金固歩見
スマホ打つ手元は寒し旅の宿カバ先生
警備員の振る寒き赤色灯花星壱和
暁闇のコンロに薬罐乗せ寒し釜眞手打ち蕎麦
寒き夜に放つ牛ゐて能登は今花蜜伊ゆ
目をそらしブラック掻き混ず君寒し神長誉夫
歯車のリズムの軋み米寿寒神谷米子
土踏めば阿蘇の連山なお寒し亀井汀風
昇る日やラジオ体操寒き朝亀田稇
寒気満つ厨に母の割烹着鴨の里
携帯の災害メール寒き朝カラハ
三時間ホームは寒しきしめんの香狩谷わぐう
巴里寒し早朝掃除日が出づるかれんゼニト
光り差す加賀の小径の空寒し川口祐子
遠くより始発電車の音寒し川崎ルル
寒しなど云ふまい芸を肥やす日々川端芙弥
鐘楼はタイマー仕掛け京寒し川村湖雪
畝薫る旨くなれよと寒き朝干天の慈雨
空白のつづく手帳の寒さかな菅野まこ
風寒し友を送りて喫茶店樺久美
Getupすがる寒さを払いのけ木口まり子
転校す放課後寒し六年生如月ゆう
風吹かれ寒しと言わぬ欅かな岸野孝彦
帳白し瓦礫が被う能登寒し岸本元世
終電車高尾で目覚め風寒し酒暮
三年も会えない夜の文字寒し喜多柚月
ランナーのたすきに寒し上州路北川茜月
猫覗くのみ隣室の寒さかな北の星
素手で触れ骨迄寒し足場板ギックリ輪投げ
また茶色ばかりの昼ごはん寒し着流きるお
まず体操”丸太クレーン車”山寒し木野まち
三つ顔の阿修羅の苦悩寒き堂気まぐれ亭いるか
寒き朝チケット争奪戦開始木村かわせみ
集落の灯りも寒し能登の海木村修芳
おお寒し乾布摩擦で肌赤く木村波平
静か夜や笑う遺影に香寒し久えむ茜咲
大伯父のイヤホンなほ以て寒し福耳のきゆうもん@木の芽
焼け跡のなおさら寒し能登の朝鳩礼
エンディングノートを買ひし寒夜かな紀友梨
(戦争)「にっぽん」とアナ繰り返す肌寒し京秋水
黄信号揺れる気持ちの寒さかな清鱒
行きずりの言葉も寒し旅鞄霧賀内蔵
朝まだきそぞろ行く人耳寒し銀長だぬき
三十路過ぎ一人寒しと子つぶやく近未来
単身赴任音なき部屋の寒さかなくぅ
絶縁の友の死したる寒さかな工藤悠久
寒暁や定年の夫送り出す國吉敦子
社外寒し大きな荷物退職日ぐりぐら京子
慎ましき余生の静寂寒き夜栗本リカ
待ち合わせ既読をたどる指寒し黒瀬三保緑
LINEでは理解しあえたふり寒し黒田良@しろい
風寒し唇寒し言えなくて黒猫さとみ
彼は誰の駅へ急ぎし寒き影桑田栞
柱裂け棘の残りし寒き指くんちんさま
母の風呂そばで見守る寒夜かな桂子
礼装時ら抜き言葉に耳寒し月下檸檬
ああ寒し風はぴゅうぴゅうビル谷間月昭
猫のゐぬ懐寒しきのふまで紫雲英
雁木を歩く知る人もなし寒し郷りん
気嵐の中に寒し我が心輝雲彩
病床の窓から覗く月寒し恒産恒心
空瓶へ無邪気な風の寒さかな紅紫あやめ
夜寒しシンクに落ちる水の音柑たちばな
ただ寒し真一文字に口を閉じ越乃杏
ジーンズの破るファッション寒き駅小杉泰文
陽を目指し一列縦隊鴨寒し小薗紀彦
不名誉を切り刻むシュレッダー寒し虎堂吟雅
「おはよう」に寒さ和らぐ旗当番後藤光秀
炊き出しの湯気や瓦礫の町寒し後藤周平
まだ寒し咲くには遠き吉野山後藤方丈
寒暁に傘杖つける翁あり後藤真昼
隆起せる海岸能登の海寒し後藤三梅
脱衣所は寒し里帰りの離れ小林弥生
錠剤の喉に溶け出す寒き朝小藤たみよ
母見舞う五時バス停の肩寒し駒形昌克
君が声寒し心に谺するこむぎ
退屈な保育参観部屋寒し小山晃
能登の海岸壁崩れ波寒し小山秀行
想像を絶するばかり能登寒し五葉松子
ロブ上がるテニスコートや風寒し碁練者
肩寒し若きナースの白い指西條晶夫
白寿なり秒針の音の寒き夜半西條恭子
渓谷のトロッコ列車風寒し埼玉の巫女
無線機の声はハワイ部屋寒し齋藤鉄模写
親父との通話を終えた耳寒し齋藤方南
寒暁に研ぎ澄まされし明星やさかい癒香
おお寒し小鳥がエサを食い散らす榮秋代
無料品慌てて落とす手の寒し榊昭広
埋められぬ親子のみぞよ寒き夜坂田雪華
すき焼きの肉から無くなる寒さかなさかたちえこ
寒い街篤い救援叫ぶ人坂本千代子
寒さしむ唸る電線帽子とぶ相良まさと
片隅にカサカサ積もる留守宅寒し咲美マキ
寒さ縫う鐘本日や老いに勝つさくら亜紀女
火灯し頃猫亡き後の膝寒し櫻井こむぎ
寒し寒し車で過ごす地震の夜佐倉英華
亡霊のごと寒し明けの五稜郭桜月夜
報知音響きて不気味なほ寒し桜華姫
寒しさむし電線のキイキイと泣く桜姫5
宵居の坪庭寒し石灯籠佐々木佳芳
皆逝きて居ぬ部屋寒し我が故郷薩摩じったくい
雲浮かべ龍をも浮かべ天の寒気団佐藤似貂
本堂の如来と向かう足寒し佐藤公
それ聞いた同じ嘘の寒しかな佐藤しのぶ
カフを巻く妻のか細き腕寒し佐藤志祐
日常の非日常化の寒さかな佐藤俊
すごい人らに呑まれて寒し明日本戦里山子
アパートの一階寒し子の新居さやじゅん
提案のカタチの指示ぞ殊寒し沢胡桃
青空と真白き美景身は寒しさわだ佳芳
給水に三時間待たされ寒し澤野敏樹
臨終は蚊帳の外なる夕寒し三角山子
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風寒し北陸凪いだか地震雲多胡蘆秋
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うなだれて学童帰る坂寒し埜水
(知人の死を悼む)笑顔の花一輪散る寒さかな野瀬博興
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湖に映り込むもの皆寒し野ばら
速度違反の介護内外寒し野原一草
体育館毛布被れど背(せな)寒し徘徊狂人
仙骨の奥まで寒し抜糸跡白庵
裏切を知りほんたうの寒さ知る白山一花
避難所にカップラーメン空寒し橋爪利志美
ミス多し視線冷たし首寒し橋野虎空
一筋の飛行機雲の寒さかな蓮見玲
銀河鉄道汽笛尾をひく寒さかな畑美穂
能登半島地震ビニールハウス寒を断つ蜂鳥子
猫抱きて堪える夜明けの寒さかな初野文子
朝まだき薬一錠水寒し花岡淑子
公園のベンチに兆す影寒し花弘
寒暁や血の巡らない足の先花咲明日香
街寒し待たせぬやうに急ぎ足花咲めだ香
災害の能登は寒しや空咆える英凡水
電線の雀ら丸き寒さかな花水木
故郷の仏間に立ちてただ寒しはね花
寒き背や過去問ひとり解く夜更浜けい
寒き部屋妙齢の身には心地良き早川雅世
卒論寒し真夜中のデータ処理林省造
病棟の灯り幽し寒さなほ林田リコ
招き猫売り切れ寒し豪徳寺林めぐみ
起きぬけの首に猫ゐぬ寒さかな原水仙
寒し寒し地震にかこつけフェイクとは原善枝
刻む針に爆弾処理未街寒し原田民久
地揺れて山揺れてふるえる寒さharu.k
朝刊のバイクの音や耳寒し春あおい
もふもふや寒し寒しと猫を吸ふharu_sumomo
口内炎増えて滲みる寒き朝ハルノ花柊
古戸棚選る一枚の寒さかな葉るみ
缶コーヒー握る手寒ししぶんぎ座はるるん1号
寒暁や経を三巻読み上ぐる半ズボンおじいさん
寒き空支援物資を運ぶヘリ伴田聡
寝汗拭く吾子は寒しと一震えパンドラみかん
暴れをる龍の荒れ肌能登寒しHNKAGA
滞納金払い愚息の寒さかな万里の森
寿ぎが虚しく響く寒さかな萬碌山口晴雄
不安つのる避難所の夜の寒さなほピアノおじさん
裏切りを知る夜無情の雨寒しひーちゃんw
赤き裾ひるがへす寒き日に綺麗東田一鮎
海沿いを去り行く列車の音寒し東の山
独りきり星空寒き誕生日東原桜空
ちさき坂自転車引きて風寒し東山たかこ
激震の大地のさける能登寒し日置好美
友送る通夜の読経やなほ寒しひぐちいちおう(一応)
解錠し廊下の緑目に寒し火車キッチンカー
ペアお箸失ひし日の寒さかなひすい風香
湯気の立つ汁を啜るやなゐ寒し一石劣
羽寒し翔ぶ鳥の背に白き山ひと粒の種
言の出ぬ能登の地震の寒寒し陽
右隣手繰りてもなお空寒し向日葵姐@いつき組広ブロ俳句部
変わりゆき人の心と笑み寒しひまわりと碧い月
夫逝きし部屋の広さよ寒夜雨平井千恵子
ヘルペスのちくりと痛む寒夜かな平井由里子
避難所や余震感じる床寒し平岡花泉
耳すます夜廻り寒し機械室平野純平
駄菓子屋の嬌声子等は寒き風平松一
残月と共に帰宅す風寒し平山仄海
十六の夜行寒し能登の海昼寝
窓枠にうずくまる猫声寒し弘井夢士
あめのした寒しと思ふ今宵かな廣田惣太郎
寒い朝ザッピングしてテレビ消す弘友於泥
日溜りに猫奪はれて膝寒し広野光
ひとりで待つ朝体育館寒しひろ夢
寒暁や邯鄲の夢覚ます声琵琶京子
ウ冠はねが掠れる寒さかなフージー
一合の酒が助くる寒夜なりFUFU
とげ刺さる心の穴に風寒し福井桔梗
放課後の面談寒し生徒の眼福川敏機
ごうごうと鳴る竹林の空寒し福ネコ
肖像の掛かる欄間の間(ま)の寒し河豚ふく子
皺寒し齢かさねし表情筋福弓
真夜中の降りる階段寒さかな藤丘ひな子
壁白し点滴寒し初入院藤原涼
「面会謝絶」特別室の札寒し藤原訓子
温度計余計に寒し父の部屋二見歌蓮
翳み目に薬一滴寒き夜船橋こまこ
終着の長きホーム見ゆ風寒し古川しあん
湖の水鳥寒しボート小屋古道具
障子紙一枚隔て外寒気古谷芳明
ノーマルタイヤ心身寒し午前4時ヘッドホン
スカートを折るや寒くなんかないよへな☆けん
つないだ手寒さうれしやポケットの中紅雀ぽめ
夕映えや衿元寒し散歩道望月
薄墨の記名滲みし風寒し峰晶
朝市のけふも影なくなほ寒し房総とらママ
東雲の動けぬ番いいと寒し墨純
震度7神の出来心ぞ寒しほしぞらアルデバラン
口ついて出る寒し日に幾たび星田羽沖
避難所さむし余震さむし避難所堀卓
心は寒しふるさとの異邦人堀隼人
我思う素足が寒し女学生本間滋之
牧場に白き大きな耳寒し牧場の朝
襟を立て寒さ伝染する都会まこと七夕
バッチ来い寒し野球部は丸刈り正男が四季
夢破れ心身寒し崖の上雅蔵
文庫本めくる手寒し受診待つ増山銀桜
部屋寒しふるさと滲む送り状町田勢
結果待つ待合室の気は寒し町屋の日々輝
阪神の畏怖蘇る夜寒し松井貴代
地の隆起陥没能登の夜や寒し松浦姫りんご
生きてくれ寒き避難所板のゆか松浦宣子
被災地になほ追討ちの寒さかな松岡重子
暮らしごと半島揺るる月寒し松岡玲子
どれこれも唇寒し避難場所松岡拓司
眠られず怯えて余震闇寒苦松尾祇敲
富士の山寒し仰ぎて空になり松尾美郷
風渡るホームは寒し終電車松尾老圃
一人よりおそらく寒い無表情松坂コウ
安曇野は西高東低晴れ寒し松沢ふじ
天災も人災も寒い地球ゴマ松高法彦
語らざる遺影の笑みや居間寒し松永好子
半島は今日も寒しと思う朝松本俊彦
暗闇に街灯寒し長き影松本牧子
たまご飯孤食の夕の寒さかな瑪麗
故郷の親亡き家やいと寒し真理庵
石切のお百度参り顔寒しまりい@木ノ芽
見るだけで寒しと思うこの写真三浦ゆりこ
寒けれど鼻歌でゆく待ち合わせ澪那本気子
黒雲や富士をかくして風さむしみかりん65号
マニキュアの朱(あか)なほ寒し逢はぬ恋みかん成人
竹灯籠明けぬ神戸はまだ寒し神酒猫
日の出待ち宗谷岬の寒さ知る水間澱凡
血流を測りし後の寒さかな三田忠彦
おりんの音寒し座布団一周忌美月舞桜
古里の住まいは寒し独り居り光月野うさぎ
雨寒し空腹かかへ検診日みづたま
次々と友の訃報を手に寒しミツの会
半島の海山寒し地震かなミナガワトモヒロ
友逝くや帰路の列車の席寒し湊かずゆき
検査値の「H」と「L」の寒さかなみなみはな
「別れよう」って夜の公園寒し源早苗
下灘のポツンと自撮り指寒しみのり甘子
生きてゐた地殻歩測の誤差寒し三群梛乃
落葉樹寒し隙間の先に富士見屋桜花
朱墨の手本ぢつと見る寒さかな宮川令
戸の前の固まる猫に外寒し都忘れの音
まだ寒し結露で曇る朝の窓深山柚仁
独り立ちした子の部屋の寒さかな美山つぐみ
つらばかり寒きを覚ゆ露天風呂宮村土々
寒暁や一号半の炊き上がるミラベル
寒き日に二十歳の祝いチーフ折る三輪白米
ガーナチョコうまく割れない寒さかなミンコフスキー
鏡窓にふるさとの空寒き朝夢雨似夜
定形の訃報のメール文字寒しムーンさだこ
受診日の雲の切れ間や空寒しむねあかどり
振り向いた君のまつげが白寒し村上きょう
早よ来てとメールの返事待つ寒夜村先ときの介
薪の香や五右衛門風呂の夜寒しむらさきねこぶ
なお寒し微笑んでいる写真立て村のあんず
寒暁の海沿い閑か始発バス暝想華
街が消え灯りが寒し能登半島恵のママ
大皿を洗ひて寒しUターン毛利尚人
渡り廊下寒し生徒の声無くて望月朔
熱き人せせら笑うや世も寒し樅山楓
誰もいぬ終着駅の寒さかなmomo
南天の寒き雫と葉音かなももくりかんきち
鏡見て誰と問いたる妻寒し森佳月
風寒しデイサービスを休みます森茂子
両の手で妻頬寒し謝りて森嶋師子草入道
サ高住の入居案内文字寒しもりたきみ
寒々とランドルトのわ溶けていく森太郎
腕枕鼻息寒し静寂かな森の水車
干すシャツの揺らめく湯気やいと寒し諸岡萌黄
親友の喪中はがき寒さみつ焼津昌彦庵
雨戸ガタッガッタガガタガタ底寒し八重葉
曇る空ソーラーライト夜は寒し八木実
青き星いくさ続けり寒さ増す矢澤かなえ
高千穂峰日に映ゆる寒さかな簗瀬美嘉
友住みし激震の町風寒し山内泉
子を想う空の巣寒し鳥も吾も山内文野
フリースの間隙縫って寒き風山内悠生
救援物資わずか避難所寒し山川腎茶
身過ぎとて老いし子を訪う日は寒し山口愛
見つめる目つめあと寒し心つぐ山崎鈴子
教室は寒し共通テストの日山里うしを
中道の猫の死骸の寒さかなやまな未
ふけし夜の呼びあう獣声寒し山育ち
すくむ足上擦る速報揺れ寒し山田季聴
声寒し対価無き仕事頑張る山田啓子
風寒し流るる雲の早さかな山田翔子
寒き夜震度伝えるカーラジオ山田はち
またですか心身寒し待ちぼうけ山田はつみ
起き抜けの洗面寒し青い空山田文妙
夜泣きの子抱いてぽかぽか夢寒しやまな未
ダメですと正論吐けど靴寒し山野花子
夕されば我が家寒し卒寿かな山辺道児
早朝のひとり散歩や肺寒し山本たか祥
寒き列を汝「ケセラセラ」とおにぎりやまもと葉美
あな寒し父の口癖ぽろり出るやまやま
鳶色のソファ寒暁のホスピタル有野安津
立ち読みもはたきも何処へ肩寒し雪子
救急のサイレン寒し開かぬ窓柚子こしょう
気配消すされど見つかる寒夜かなユリノイロ
どの店もシャッター閉じて街寒し緩木あんず
配牌を眺む眼寒しみかん酒陽花天
南国の人めかしゆく寒さかな陽光樹
リタイアの迫る痛みと寒さかな陽介山
「寒いね」と笑って言える日々愛し夜香
待ちぼうけ寒し言い訳の着信横須賀うらが
能登地震虚報溢れてああ寒し横田信一
ぷるぷるのちわわ怯ゆる寒さかな横浜J子
紅の橋暫し見つめる寒さかな横山道男
四国寒し能登は如何許りぞやYoshimin空
頭から着陸スリム月寒し与志朗
避難所はただ広し家族は寒し余田酒梨
口開けば寒し寒しの繰り返しよみ、ちとせ
返信の「ハイ」の一言月寒し楽翠
「行ってきます」三音高き寒さかな楽和音
心変わりDNAも変わり寒しリーガル海苔助
トランプを習う日寒しプーアル茶流流
担当者の頭の硬き寒さかなルーミイ
ドア閉まり寒さ閉じ込め発つ列車連雀
土産話なければ実家の風寒しわかなけん
流星探す選鉱場跡寒し若林かな
集落や巡回バスの寒き屋根和光
ひたすらに寒し朗報いまだ来ず海神瑠珂
鼻先で測る目覚めの寒さかなわたなべいびぃ
錆びたガードレール撫でる指寒し綿鍋雪
漁できぬ能登の港の寒さかな渡辺陽子
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
●俳号のお願い二つ
①似たような俳号を使う人が増えています。
俳号は、自分の作品をマーキングするための印でもあります。せめて、俳号に名字をつけていただけると有り難く。共に気持ちよく学ぶための小さな心遣いです。②同一人物が複数の俳号を使って投句するのは、堅くご遠慮下さい。
「いろんな俳号でいっぱい出せば、どれか紹介されるだろう」という考え方は、俳句には馴染みません。丁寧にコツコツと学んでまいりましょう。
皆で気持ちよく、この広場にて共に学び楽しめますよう、俳号の付け方にご留意ください。※同一アドレスからの投句は、同一人物と見なしております。
●俳句の正しい表記とは?
- 大寒に 寒いとコタツで 足伸ばすしげ
- 仕事から 帰って寒し 俺の家ギザギザ仮面
「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記です。まずは、ここから学んでいきましょう♪
●兼題とは
- この山もあの山も皆雪化粧小松聡太
- しんしんと揺れながら燃ゆホトケノザ善哉
- 厚くはる氷の村を踏み進むはるる
本俳句サイトでは兼題が出題されています。兼題は、テーマではないので、「寒し」という季語を詠み込む必要があるのです
次回の兼題を確認して、再度挑戦して下さい。
●「寒」は入っているが「寒し」とはちょっと違う季語
- 縫合痕ぎゅいと攣れにし寒の夜泉水あやめ
- 日の落ちる時間はゆるり余寒かな十八番屋さつき
- 政治家の謝罪の言やうすら寒秀耕
- 寒鴉昔庄屋の破れくらだるま
- 春寒し枝の間にまに月白し哲山(山田哲也)
- 二分で退散寒九の外気浴二十八
- 新宿より青梅着の歩寒日和小林昇
- 厳寒の会話個体と化して落ち猫またぎ早弓
- 寒厳の最終バスの赤ランプ三上栞
●これは季語の「寒し」とは違うのでは
- 物価高懐寒し民の我草堂Q幸
- 先生のジョーク寒しと笑う子らTekko
●「朝寒し」
- 朝寒し讃美歌うたふ手話の指アロイジオ
- ローソクの火の静かなる朝寒しかつおぶし
- 傷痕をこじ開けたがる朝寒しDr.でぶ@いつき組広ブロ俳句部
- 決戦の吾子送り出す朝寒し馬笑
- 単線のポイント軋む朝寒し渡邉わかな
- 髪上ぐる初実習の朝寒し笠谷タカコ
- 刃こぼれの包丁を研ぐ朝寒し 百瀬はな
- 朝寒し徹マン勝ちて珈琲の香 昭谷
- 朝寒し柑橘系のコロン振り伊澤遥佳
- 朝寒し黒い天守の佇まいいまにしともき
- 爺の目に稲の残根朝寒し宇野翔月
- 朝寒し俎板やけに賑やかに おぼろ月
- 角の席主(ぬし)亡きカフェの朝寒し風かおる
- 朝寒し独り寝慣れず又くの字 越乃光
- 朝寒しとほぢの法事電車乗る砂月みれい
- 朝寒し古き屋敷に二人ゐて 大ちはる
- エアコンのリモコン探す朝寒し高原徒然想
- 朝寒し点滅渋谷スクランブル玉川緑風
- 大丈夫?孫に言われし朝寒し 浪速の蟹造
- 富士山と北岳見える朝寒し ぱらん
- 避難所の朝寒し能登は快晴晴菜ひろ
- 階段の手すりは頼り朝寒しまつとしきかわ
- 朝寒し車の下に丸い猫矢澤瞳杏
- 稽古場の砂はりついて朝寒し 山本美奈友
「朝寒し」は、秋の季語「朝寒」の傍題になっているようです。
●文字化け
- 寒はりつく揺れて?がれた半島に石垣エリザ
- 「寒いね」と言う彼と飲むあったか?い来ヶ谷雪
- 土間寒し赤子の声は♭?ふくろう悠々
文字化けは不可抗力に近いけど、文字化けしそうな字を予測できるかも。
●季重なり
- 隙間風にも耐える避難所寒し あねもねワンオ
- 寒暁や茜空舞う大白鳥太田くにお
- マラソンの朝見る景色は雪寒し岡眞弓
- ひよどりの蜜舐める影寒さかな幸内悦夫
- 白梅や高枝に寒くニ三輪 志村狂愚
- 転院の担架にかかる雪寒し駄詩
- 雪凍る白夜を渡る音寒し月の時間
- 夕焼に避難思ひてなほ寒し戸根由紀
- 冬寒し母とこっそりほくほくおでん中川せん
- 寒し日に屋根から下ろせし雪被る野崎文明
- 寒牡丹日和を言うて寒しかな藤川雅子
- 元日能登地震津波天寒し星雅綺羅璃
- 暖冬でもかわいくない値段いと寒しみー
- 朝刊のバイク朧に闇寒し 雨霧彦@木ノ芽
- どの鍵も合わぬ鍵穴冬寒し 藤本 仁士
- ハタハタを片手に寒暁朝市よいちばほうすい
- まご帰省あそびがなくていと寒しえみくれ
- ニュース寒し元旦の夕餉揺れる慶子
- あら寒し梅を見あげる盲導犬 秀道
一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。「蝉」以外のどれが季語なのか、歳時記を開いて調べてみるのも勉強です。
●「寒し」? 「寒き」?
「寒し」は形容詞の終止形です。以下の句は、句意から推測して、「寒き」と連体形にすべきではないかと、というものです。「寒し夜」「寒し朝」「寒し風」等
- 震える手合わせて祈る寒し日よあいあい亭みけこ
- 君送る晴し空港寒し朝朝日雫
- 喜びを並べてみても寒し年石原しょう
- 配達の音に目覚むる寒し朝石本美津
- なゐふるに土の匂へる寒し夜伊藤節子
- 寒し夜やをとこをんなに負けつづけ伊藤正規
- 寒し日の輪切り線切り天日干し稲葉こいち
- 遠来の友の言葉の寒し日よ今井みどり
- 寒し世の老いの温もり夫婦椀大野喬
- 被災地や寒しニュースがひろがりぬ大原妃
- 寒し指弁当抱え早歩き大原雪
- 寒し日の優しい笑顔にありがとうお寺なでしこ
- 神仏どうぞ愛を寒し世に小野ぼけろうじん
- ただいまと寒し座敷に時戻り小山田之介
- 詠み人や寒し思考の床につく影夢者
- 寒し夜や止まらぬ筆の音眠らず蝸牛
- 寒し夜光合成した猫を吸う亀子てん
- 耳当てで聞こえぬ振りも寒し故川辺世界遺産の居候
- 並ぶ旗タイム飛び交う寒し坂岸壁の龍崎爺
- 寒し窓孫さりてかまくらの跡木の貫雪
- 野天から障子一枚寒し宿慶唯
- あかぎれとハム一枚の寒し朝小林共捺哉読
- 寒し日に野良猫一人倉庫来るコロンのママ
- 寒し戸で肩の重さと耳の赤サイトウ北名津
- 寒し朝耳に刃の当たるごと澤田恵子
- ペダルこぐもも赤色に寒し朝幸
- 廃業の二文字よぎる寒し夕縞子勾苑
- 寒し朝綺麗な景色を絶景とショートケーキ
- 寒し夜のライトアップで距離ちぢむすずしず
- 寒し身を縮めて耐える寝床かな鈴音まな
- 寒し日の本棚に射す薄陽かな全美
- 寒し夜エコバック手に乳児背に高辺知子
- 寒し夜屋台と見たり工事中たなばたともこ
- 寒し朝繭の白さの雲生まれ辻野 花
- 母の通夜添い寝の猫の寒しこと土手かぼちゃん
- 流れ来る寒し吐息に句点うち中谷中
- 祈るしか出来ぬ星空寒し夜流れ星
- 寒し仏間やひび割れゆく落雁夏雨ちや
- 手ワイパーキュッキュと拭けども寒し朝ねがみともみ
- 能登に向け星の泪や寒し夜野中泰風
- 寒し寺凛とした気が満ち渡りひめりんご
- ため息やただいま叫ぶ寒し部屋福前彩芽
- 寒し廊下よ三者懇談終へて藤井かすみそう
- 避難所の足音止まる寒し夜古澤久良
- 寒し日も歩けた歩数笑み温む鳳凰美蓮
- 寒し夜まつろわぬようただ彷徨うぽて巻
- 寒し夜花嫁はただ汽車に乗る堀籠美雪
- 寒し能登がんばらず耐えて花咲かす村田玉うさぎ
- 寒し日は祖母のぬくもり思い出す元村幸月
- 寒し部屋人事異動の駆け引きや柳井るい
- 髪とかしカウントダウン寒し廉山田 一予
- 携帯画面震災の寒し地よ山本八
- なにげなく間おかるる寒し席宥光
- 寒し朝カラスの群れの騒ぐ声吉岡幸一
- 寒し夜鍵落つ硬き音空へ吉藤愛里子
- 寒し夜我正座して墨をする瑠璃あさがおT
- 死ぬといふ寒し点滴の一滴煉獄佐保子
文法は分からない、めんどくさい、という人もいるかとは思いますが、俳句において、間違いやすいケースを覚えていくだけでも、ある程度克服できます。
まずは、「寒し」=終止形(言い切りの形)、「寒き」=連体形(名詞に接続する)、この違いを覚えておきましょう。
●他にも……
- 寒しけれど心熱く強く歩む道一之木ろみ
「寒し」で切れているのかも? しれませんが……。
- ビル揺れてじじばば達の寒し時間夢一成
こちらも切れているのか? それとも、「寒き時間」ということが書きたかった?
- 内視鏡寒い地下道寝てる間に逢花菜子
「地下道」は、人体の喩え? なのでしょうか。
他にも、句意が読み切れないものや、季語「寒し」ではない使い方などがありました。
ご自分の句を一度寝かせて(少し時間をおいて)から、再度、客観的に眺めてみましょう。どこに問題があるのか、分析してみることは、正しい俳筋力を付けていくために、とても重要です。
●ルビについて
- なぜ止まぬ戦も地震(ナイ)も地球(ホシ)寒しあらかわすすむ
「地震」を「ない」と読むことについては、ルビを振る必要はありません。読み手は、音数を考えて「じしん」と読むか、「ない」と読むか、考えてくれます。
ただ「地球」を「ほし」と読ませるようなやり方(例「時代」=「とき」、「女」=「ひと」)は、オススメできません。音数が足りないから「地球」=「ほし」と読ませるのではなく、「地球」=「ちきゅう」という三音分が確保できるように、全体を見直してみる習慣をつけましょう。
●先行句
- 会いたかろう帰りたかろう寒かろうはのん
気持ちをこのように畳みかけるのも、一つの表現。佳い句だと思います。ただ……
「痒からう寒からう人に会ひたかろう 子規」
このような句がすでにあるものですから、どうしても頂きにくくなります。先行句の有る無しを完璧に調べることは不可能ですから、このような折に、少しずつ覚えていけばよいと思います。
【お知らせ】「俳句生活」2月の審査結果発表(兼題「霞」)の公開日について
いつも「俳句生活」へご投句いただきまして誠にありがとうございます。
公開を延期しておりました「2月の審査結果発表(兼題「霞」)」につきまして、
4月30日(火)8:00
の公開が決定しましたのでお知らせいたします。
改めまして、この度は「俳句生活」サイトを楽しみにご参加いただいている皆様、ならびに、関係者の皆さまにご迷惑をお掛けしましたこと、心よりお詫び申し上げます。
2024年4月26日(金)
ウェブ通販生活編集部