夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
2月の審査結果発表
兼題「春浅し」
暦上は立春以降が春だが、実生活では寒さを感じるころである。
暮らしの中では、気を付けてみていると木の芽のふくらみや蕗の薹など春の気配を感じることが出来る。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
春浅し何も掴めぬ足の指
あいだほ
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夏井いつき先生より
「春浅し」は映像を持たない時候の季語。その季語を表現するために取り合わせたのが「何も掴めぬ足の指」です。確かに、手と同じように足にも指があるのに、手の指のように自在に掴めないのが「足の指」。長い冬を終え、春を迎えた我が足の指をしげしげ眺めているのでしょうか。それとも、足元に落ちた何かを無精にも足の指でつまみ上げようとしているのか。何一つ巧く「掴めぬ」我が足の指のなんと不器用なことかと「足の指」の不自由を嘆く。いやいや、まだ春が浅いから足の指の動きも鈍いのかもしれぬ。これが春爛漫の頃ともなれば! なんて考え始めている作者なのかもしれないと思うと、ますます可笑しくなってくる、愛すべき作品です。
春浅し雲は迂回ができなくて
さとけん
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「春浅し」を表現する映像として「雲」を選択しました。雲の存在や動きを「迂回ができなくて」と把握したことで楽しい詩が生まれました。早春の空は水色に広がり、雲は真っ正直に浮かんでいます。
浅春や眠りの足らぬパンの生地
ぐ
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「春浅し」の傍題が「浅春」。音読みの響きも美しいですね。パン種を眠らせている場面を「眠りの足らぬパンの生地」と表現したのがお洒落。春もパン種もあと少しで目を覚ましそうな日の一句。
春浅し音楽葬に千の花
倉木はじめ
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「音楽葬に千の花」という言葉が切なく美しい作品です。故人もまた音楽を愛しておられたに違いないという想像も広がります。季語「春浅し」が、奏でられる音楽や飾られている花々を彩るかのよう。
そばに寄るみづかき臭ふ春浅し
高橋なつ
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「そばに寄る」って何?と思えば「みづかき」だといい、それが「臭ふ」という。この語順が実に巧い作品。私は、池に残っている馴れ馴れしい春の鴨を想像。嗅覚で表現する「春浅し」もあるのですね。
春浅しケージにハダカデバネズミ
海老名吟
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「ハダカデバネズミ」という生き物をネットで調べ、その形状に仰天してしまいました。「春浅し」というよりは春寒な感じの皮膚。あまりにもな命名もさることながら、その存在意義に再び仰天!
春浅し喪章にでつかい安全ピン清島久門
春浅しわたくしだけが月に寝る清島久門
通販の仮設トイレや春浅く清島久門
骨盤を起こして歩く春浅し朶美子
浅春の夜の銀座の屋台かな朶美子
浅春の予定なき日のサガンかな朶美子
春浅しワセリン固く光りたるぐ
輪郭の美しき富士なり浅き春ぐ
春浅し砂浜かるく踏んでみしあー無精
日本の猫背なおらず春浅しあー無精
春浅し板書に残る賢治の詩あつちやん
詰襟はホルンをかかえ浅き春あつちやん
根のものの満たす味噌汁春浅きあまぶー
春浅し産み月近き馬へ藁あまぶー
歳時記の誤植愛しや春浅しいさな歌鈴
春浅し糞新しき獣道いさな歌鈴
お神楽の巫女の黒髪春浅しうさぎまんじゅう
浅春の秘仏を見むと長廊下うさぎまんじゅう
目が合って笑っただけだ浅き春うどまじゅ
春浅し九十九問目が終わるうどまじゅ
春浅しタツノオトシゴ口すぼめおざきさちよ
春浅し光の元へ発つ気球おざきさちよ
春浅し浅草六区のメンチカツぐずみ
春浅し絵師は画室に墨を磨るぐずみ
春浅し巻き癖取れぬ緋毛氈クラウド坂の上
青空はバネ仕掛けのよう春浅しクラウド坂の上
浅春や放牛百の散らばらずくりでん
遙かより鉄叩く音春浅しくりでん
玉砂利のひかりの淡し春浅しけーい○
浅春の襟足を剃る軽やかにけーい○
春浅し湯島池上坂の町ケンG
職方の踵は固し浅き春ケンG
春浅し他人行儀な換気口サイコロピエロ
覗き込む厠の水面春浅しサイコロピエロ
春浅し弓道場に響く声スローライフ
浅き春現場で開けるのり弁当スローライフ
鉄臭き猪のぬた場や春浅しとしなり
春浅し風見の嘴へ北斗星としなり
春浅し一人になれる歩道橋ぬらりひょん
春浅し埃のごとくヒゲは生ゑぬらりひょん
浅春の歯医者は白く匂いけりふるてい
春浅し焦げもこよなきもんじゃかなふるてい
浅春の轆轤を滑りゆくひかりほろろ。
砂山を流るる砂や春浅しほろろ。
春浅しゴシック体の貸間札みなと
春浅し消波ブロック工事中みなと
蜜色の朝のまどろみ春浅しみやこまる
埋立ての海の匂ひや春浅しみやこまる
雁皮紙の明度ほのかに春浅しもつこ
春浅しゴム長靴の底薄しもつこ
春浅し余呉湖は今日も深緑よにし陽子
春浅し湯気が梵字に見える朝よにし陽子
拘置所の並ぶ小窓や春浅し哀顏騎士
春浅し南京町に嗤う竜哀顏騎士
春浅し帝釈天の煙の中葵新吾
春浅し父の自慢の焼ビーフン葵新吾
吐いて吐いて胎芽壊れぬ浅き春青海也緒
子の服の猫と目が合う浅き春青海也緒
清志郎逝きて十年春浅し明田句仁子
春浅し地球はいつか止まるらしい明田句仁子
春浅し明太フランスパンを焼く油揚げ多喰身
餃子屋の行列長し春浅し油揚げ多喰身
春浅しステージ4の放射線有瀬こうこ
春浅し椅子に掛けたるコプト織有瀬こうこ
声出して読む社会面春浅し板柿せっか
静脈をたたく看護師春浅し板柿せっか
春浅し魔除け鍾馗の睨む空斎乃雪
掘り進む砂場のしめり春浅し斎乃雪
春浅し東京住んだことないし一斤染乃
始祖鳥のように烏や春浅き一斤染乃
川昇る艪櫂残波や浅き春海口あめちゃん
船だまり舫いの雫浅き春海口あめちゃん
春浅し八年前の海の黒可笑式
春浅き中間貯蔵施設かな可笑式
調律の進まぬピアノ春浅し小川めぐる
オーボエのラの音長く春浅し小川めぐる
ヘリコプター浅春の空鷲掴み風峰
春浅しもこりもこりともぐら道風峰
春浅し書店にならぶ樹木希林加藤哲
浅春や人身事故のアナウンス加藤哲
浅春や厨の湯気の猛きこと加裕子
肺病の熱くすぶりて春浅し加裕子
浅春のゴシック体の絶句かな久我恒子
春浅しこごとのごとく炊飯器久我恒子
春浅しカラフルグミのごとき傘栗子
春浅し血液検査の痕青し栗子
春浅し釣船のペンキ塗替桑島幹
春浅しイトカワの塵煌めかせ桑島幹
春浅し紅茶に金のミルフィーユ彩楓(さいふう)
春浅し光に透ける鉋屑彩楓(さいふう)
春浅し猫はもとより無一物砂舟
春浅し尖りて温き猫の舌砂舟
春浅しサファリパークのラマの群れ智美
体温の満るオカリナ春浅し智美
春浅し異動通知はシュレッダー椎の木くるみ
春浅しそっちの山は未読本椎の木くるみ
春浅しテラスの犬は作りもの塩谷人秀
浅春や優しく香る粉薬塩谷人秀
ゴシップの好きなわたくし春浅し茂子
浅春の澪の曲線飽きるまで茂子
外つ国の鳥はそら色春浅し洒落神戸
浅き春キリンのまつ毛震えをり洒落神戸
浅春に萎む子宮の温度かな白樺みかん
浅春の踏み音翳る杉林白樺みかん
春浅し志望動機はまだ三行次郎の飼い主
まだ私だけのくちびる春浅し次郎の飼い主
浅春は真っ白譲れない未来白よだか
履歴書の5mmの余白春浅し白よだか
春浅し忍者見習い修行中鈴木(や)
残尿感改善薬や春浅し鈴木(や)
浅春の踏切風残す鉄の香鈴木由紀子
春浅し膝にとどまる車窓の陽鈴木由紀子
春浅しジンベエザメの腹ましろ瀬尾ありさ
春浅し履歴書付きのEメール瀬尾ありさ
銅鐸の舌(ゼツ)の出土や春浅し宙のふう
仔象の鼻かあさんに伸び浅き春宙のふう
春浅し葉擦れの尖る御神木高橋寅次
祖母よりの歳時記重し春浅し高橋寅次
風呂の湯のかぽかぽ抜けて春浅し田川彩
春浅し庭にぬくげな穴ふたつ田川彩
蛹めく日本列島春浅し多々良海月
制服の糊のにほひや春浅し多々良海月
浅春の捏ねる粘土の鈍さかな玉木たまね
風が雲を鉋がけしてゆく浅春玉木たまね
春浅し岩塩あまく舌に溶け田村利平
春浅し埃まみれのマリア像田村利平い
春浅し祖母九五才の美容室月の砂漠
たまゆらに草匂ふやも春浅し月の砂漠
春浅しペンギンは皆海知らず辻が花
産み立ての玉子は緑浅し春辻が花
春浅し指の先なる雲に濡れ綱長井ハツオ
靴裏に春浅き夜の団栗ぞ綱長井ハツオ
拾へない骨は掃かれて春浅し土井探花
辺塞の黒き葡萄酒春浅し土井探花
オカリナの進まぬ譜読み春浅し徳
点滴の重たき袋浅き春徳
春浅し中間色のクレヨン画富野香衣
廃校のオルガンピアノ春浅し富野香衣
春浅し懐紙に包む黄身しぐれ富山の露玉
パンの耳さくりと砕け春浅し富山の露玉
百二十度のΣの折れや春浅し豊田すばる
春浅し沸き立つ鍋にびっくり水豊田すばる
風蝕の巌洞々と春浅し内藤羊皐
春浅し黶を数ふ脹脛内藤羊皐
弓の毛にロジンを塗りて春浅し中岡秀次
髭剃りの泡は冷たし春浅し中岡秀次
春浅しゴーフルみたいな恋始む七瀬ゆきこ
春浅し黒島海亀研究所七瀬ゆきこ
朝刊の少し湿りて春浅し楢山孝明
燻らする薄荷煙草や春浅し楢山孝明
春浅し便座下ろして思ふこと尼島里志
電車模型レール継ぎ継ぎ春浅し尼島里志
春浅く兄は音符で話します登りびと
春浅しこんなものにも説明書登りびと
春浅し遺影へ通り雨ぽつん花南天
浅春や引力奪ふエレベーター花南天
春浅し水笛水を彩らん播磨陽子
絹雲は育ちがいいの春浅し播磨陽子
膨らみてインコのブルー春浅し春風
春浅し自治会長の役が来る春風
春浅し水の言葉がうむ光比々き
硫黄嗅ぎひらくマップや春浅し比々き
明確な闇の輪郭春浅し福良ちどり
春浅しロールキャベツの蓋重し福良ちどり
春浅し溢るる油絵具の香藤色葉菜
純白のエッグスタンド春浅し藤色葉菜
春浅し梢は空がむず痒し冬のおこじょ
戦死者のDNA鑑定春浅し冬のおこじょ
春浅しマルシェにジャンのなぐり書き古瀬まさあき
春浅し墓へ子として分け入りぬ古瀬まさあき
春浅し読めない文字の菓子を食ふ古田秀
春浅し移住計画せんと月古田秀
春浅し閉ぢてつめたき裏表紙凡鑽
水切りの水は白濁春浅し凡鑽
点滴のやうな蛇口よ春浅し宮部里美
浅春のキャンパスにヒジャブ翻へる宮部里美
春浅し玩具箱よりパンダの子椋本望生
賓頭盧の膝の手触り春浅し椋本望生
起きしなの徳用氷菓春浅し山本先生
千円で貰える神や春浅し山本先生
トイレットペーパーの芯はカラカラ浅き春唯我独善
春浅しパッとひろがるパスタかな唯我独善
木椀の手に和みをり浅き春宵猫
鉛筆の芯尖れ尖れよ春浅し宵猫
春浅き駅の吐き出す学生群横山薫子
アナウンス春浅き富士の上を飛ぶ横山薫子
A音の響くホールや春浅し葦たかし
春浅き螺旋階段爪の痕葦たかし
春浅し懺悔室より低き声若井柳児
夕日差すラブホテル街春浅し若井柳児
古書店の親父の白髪春浅し鷲尾さゆり
春浅し一両目の人みな眠る鷲尾さゆり
春浅し舌に臓腑に白湯甘し露砂
春浅しコンポストより強き湯気露砂
春浅き朝は山手線無口さとけん
蹴れば閉まるスチールロッカー春浅しあいだほ
春浅し玄関にまだ犬の小屋高橋なつ
春浅し喫茶「スバル」のオムライス海老名吟
浅春の東京かかと打ち鳴らすぼたんのむら
朗読の最後は悲鳴浅き春天野姫城
ティッシュつい受け取る朝や春浅し24516
春浅し転居先は雨模様ANGEL
春浅し待合室のヴィヴァルディQさん
春浅し今朝のポタージュ深緑あまぐり
春浅し兄弟だけの登校班あらあらた
春浅し赤子の便のミルク臭いのり
かんかんと滾る薬缶や春浅しいまいやすのり
何処からの篳篥の音や春浅しいわきりかつじ
レジ袋きれいに畳む春浅しうい
春浅し靴擦れ蒼きピンヒールおくにち木実
ナナハンの猛るフードや春浅しおぼろ月
春浅し点描画めく朝の富士おんちゃん
春浅し軽く尖らせる鉛筆かつたろー。
春浅しジャズのもれ来る夕べかなかっちゃん
キャンディーのセロファンのしわ春浅しかぬまっこ
ビルよりも低い富士山春浅しかもめ
歯を磨く映る無表情春浅しかわいなおき
浅き春母の紬に袖通すかわせみ
予報ほど晴れぬ山路や春浅しきみえは公栄
武道館揺らす噺家春浅しくま鶉
心へと日の射す角度春浅しクロエ
春浅したこ焼きひとつおまけありさくやこのはな
猫の目に詩の生まれて春浅しさだとみゆみこ
老犬の縄のたるみや春浅しさとう菓子
ラーメン待つ貧乏ゆすり春浅ししかめっ面
春浅し動物パンの並ぶ卓じゃすみん
春浅し漁船浮動す小樽港しろくま
大型ビジョンの字の「虐待死」春浅ししんぎ
浅き春不妊治療はやめましたすーぱーまみこ
玻璃越しのルームランナー春浅しすみ
春浅し万年筆の吸ふインキすりいぴい
金銀の亀折る仕事春浅しせり坊
尿袋下げて退院春浅しタシャキ
ギッタンバッコ跳ねる匂いや春浅したすく
春浅し手足ゆるりと仕舞風呂たむらせつこ
春浅しぞうの如雨露にはねた泥ちま(4さい)
埴輪の眼のやさしいうつろ春浅しちゃうりん
白内障術後の空よ浅き春つなちゃん
猫知らぬ人工知能春浅しテツコ
薔薇の棘すべて下向き春浅してまり
夫の瞳の焦げ茶に気づく春浅してんてこ麻衣
水滴を飛ばすペンギン春浅しとかき星
春浅しと思う銀の匙磨くときこ
春浅し大人のぬり絵白きままとしまる
おにぎりの具は味噌にして春浅しとみことみ
トランペットの音はずれ浅き春なおこ
春浅し啄む鳥の目怖しなごやいろり
春浅し洗ひ上げたるプランターにゃん
スカートは紺とかグレー春浅しねぎみそ
五千度の地球の芯や春浅しのど飴
春浅し十三番目はひかり色パシフィコ
春浅し肘窩打たれる採血場パッキンマン
春浅し暦の通りこれで良しはなあかり
春浅しガラスの靴は痛いだけはまのはの
絵馬掛ける隙間を探す春浅しはむ
ピカピカの鉛筆削り春浅しハムサンド
靴下のゴムのゆるゆる春浅しひでやん
春浅し借りっぱなしのガイガーカウンターひろ夢
浅き春大樹をのぼる水の音ふじこ
浅春のあさ紫や峠ゆくふみ
衣手に坂下りくる春浅しふみゑ
春浅し身に覚えなき請求書ほしの有紀
黒土に幽けき湯気や春浅しポンタ
春浅し今朝の散歩はBコースぽん太
フェルメールの蒼き光や春浅しまどれーぬ
春浅き机の傷を磨きけりまどん
春浅し子は決戦の東京へみかりんん
浅春の知らせ保護犬譲渡会みかりん
弾き終えしピアノの余韻春浅しみそまめ
春浅しカッターナイフで指を切るみはね
草の香の冷たき朝や春浅しみやかわけい子
アトリエのゼリービーンズ春浅しみやこわすれ
春浅し調律師の弾くソラシドレみゆき
春浅し水面たゆたふ加賀五彩みわ吉
筆箱の中の汚れや春浅しむらさき(6さい)
通勤の鞄のほつれ春浅しももたもも
春浅し坂道飛ばす三輪車ゆづ
粉薬溶かすゼリーや春浅しラーラ
山際の少し揺らいで春浅しるりまつり
浅春の影絵やさしき障子かな亜紀女
相輪の真青へ伸びて春浅き愛燦燦
学食の給茶ランプや春浅し青い月
浅き春ペンチメントの中にゐる青山あじ子
春浅しポルノ雑誌を捨てにけり赤馬福助
春浅し床ひんやりと能始め秋月なおと
富士見ゆる湘南道路春浅し麻場育子
チャルメラのながく響きぬ春浅し淺紫
春浅し証明写真撮りなおす安曇野多恵
春浅し豆腐作りの水の音愛宕平九郎
春浅し砂丘に残るもぐら道亜美子
キャラメルをカチンと噛みて春浅し文女
春浅し庭の木錆びて待つ便り蛙里
不機嫌な自動改札春浅し有本仁政
踊り場に落ちたる画鋲春浅し或人
帰り待つ秒針の音春浅し石川ぱりん
旅客車の硬きシートや春浅し板垣美樹
割れ光る檜の木肌浅き春市山利也
諭吉忌のくゆる線香春浅し一貴
浅き春牛丼提げて姪来たり遺跡納期
木の椅子の少し固くて春浅し伊藤順女
春浅しジンベエザメのごとき雲稲垣由貴
春浅し鼻唄低く変声期今野夏珠子
春浅しドーナツの目から覗く都市伊予吟会宵嵐
引き出しの奥に蝋石春浅し岩品正子
春浅し昇給の兆しはないようだ上野眞理
浅き春ドナー登録をしてみる梅一輪
耕運機の轍くっきり春浅し梅笠
曇天に鉄屑ひやり春浅し潤目の鰯
春浅し祖父と辿ったけもの道江川月丸
猫の鼻かさかさかはき春浅し円
長髪の滴冷たい春浅し合馬博子
空壜の中に君と僕春浅し大久保響子
菰まとうお化け蘇鉄や春浅し大小田忍
贔屓より銀のかんざし春浅し大槻税悦
春浅し友の死告げる葉書来て都忘れ
陽に晒す旅行カバンや春浅し岡れいこ
ペダル無きプレ自転車や春浅し小倉あんこ
浅春の鼻の欠けたる塑像かな香衣
春浅し日本は縦に長き国馨子
私は藤村贔屓春浅し影山治子
春浅し大きな地震ありそうな笠原理香
春浅し退院近し鶴を折る鹿嶌純子
春浅し京の夜明けのたまご色花伝
芭蕉庵の池の濁りや浅き春門未知子
春浅し淡き蜜には淡き羽彼方ひらく
手術待つ絶食の朝春浅し亀田荒太
春浅し眼科病棟薄明かり亀山逸子
春浅し大仏殿へ鹿溜まる亀山酔田
浅き春歯ブラシ換え時は過ぎて花紋
春浅し大気膨らむ雨上がり閑蛙
浅春や二人立てたる保証人邯鄲
春浅しペコペコ鳴らす紙パック甘平
幾重にも包みし子を抱く春浅し気球乗り
春浅し腕の短かき駆血帯菊池洋勝
春浅し家に籠りて雨の音菊原八重
春浅し皇女の足の長きこと北野きのこ
春浅し切り取る空と影送り祺埜箕來
球場の応援疎ら浅き春城内幸江
浅春の空気を送り込む車輪木村摩耶
春浅し眠れるごとき桂浜楠田草堂
春浅く起きる気のない人魚姫倉岡富士子
浅春の風にはためく上棟旗紅さやか
空の奥潜るヘリの音春浅し月夜同舟
なほ青き福島の空あさき春小池玲子
「総括」をめぐる議論や春浅し小市
春浅し思案の尽きぬ席次表香羊
春浅し弁財天の笊の札小嶋芦舟
春浅しお鍋を少し焦がしけり湖雪
春浅し雑巾を縫う日曜日児玉香織り
春浅き猫ぽつねんと影をひく小南子
春浅し歪みて見ゆる鏡かな玄次郎
遺憾にも吾は浪人浅き春小山晃
春浅し廃墟のにほひ深く吸ふ榊昭広
春浅し骨髄バンク燦と在り坂まきか
荷物出た部屋光満つ春浅し櫻井弘子
春浅し撫で牛の眉間のテカリ佐藤儒艮
蒟蒻をちぎる指先春浅し佐藤千枝
病室は優しい黄色春浅し早帆
猛獣の檻の隙間や春浅し山太狼
猫一匹遺して逝きぬ浅き春慈悦
踊り場に監視カメラや春浅し塩沢桂子
春浅し一寸外れるハーモニカ茂る
薄墨の武甲の山や春浅し篠崎幸惠
春浅しあぐらにもぐる仔犬かな清水祥月
春浅し晴耕雨読が始まる清水仁
春浅し始発列車は闇の中重仁
木剣を削る山里春浅し秋水い
浅春やシャッターと窓の間柔し城ヶ崎由岐子
春浅し蘇州夜曲を鼻歌に上坊幹子
並縫いの不揃いの目や春浅し白瀬いりこ
ころころと始動の水車春浅し眞
春浅し初心者マーク置き忘れ真優航千の母
鳥の声沼膨らませ浅き春水夢
春浅し警策賜う朝かな杉浦夏甫
浅春の潮の音はるか小惑星杉本時子
春浅し飴細工屋の今年も来鈴木淑葉
春浅し赤の広場のバラライカ鈴木麗門
春浅し椿子人形目の澄めり李子
春浅しパンの欠片をもらう山羊青萄
春浅く飲みたる水や喉撫づる惣兵衛
春浅し歌舞伎チケットついに買ふ高橋光加
春浅しむっちりと炊く加賀蓮根橘美智世
春浅し漁港の蟹のうらがへり蓼科川奈
春浅し木彫りの鳥の青き羽根玉響雷子
音符むかし四角なりけり春浅し田村朋子
春浅し湯気にこもれる京ことば田良穂
遠き山ひとつ明るし春浅し衷子こ
浅春や牧神のホルン彼方より土屋雅修
研ぎたての死神の鎌春浅し直木葉子
浅春の洗礼や木漏れ日の山奈賀和子
ほつれたるぬいぐるみの手春浅し中西柚子
太ももの縫ひ目の痒し春浅し中原久遠
ぐらぐらの乳歯のちから春浅し中山月波
浅き春ポストに落とす文一つ中山白蘭
新聞のインキの重み春浅し夏柿
春浅し造花まみれの理髪店奈良香里
青年の手とる青年浅き春奈良素数
弓弦引くたまゆらの黙春浅し薫子(におこ)
オルガンの鞴重たし春浅し西川由野
浅春の天守に重き刀かな丹羽孝
春浅し眼を病む母のまつげ濡る猫愛すクリーム
春浅き朝練あとの味噌うどん根本葉音
子とオセロ八連敗や春浅し野木編
介助する指の温さや春浅し野胡のこ
春浅し広告で折るツバメ号野地垂木
フルートのロングトーンや浅き春野ばら
浅春や遠くニコライ堂の鐘野ゆき
春浅し夕日に残るろう石絵白米
濃茶練る碗に底あり春浅し函
春浅し手向けの酒や一周忌馬笑
浅春の空に犇めく組合旗走流
春浅し帰任は遠き摩天楼長谷島弘安
春浅し息吹きかける指に傷葉月けゐ
浅き春母の小袖を肩に掛け華
老犬の肉球硬く春浅し花咲明日香
墨を擦る人と隣りて春浅し羽沖
春浅し流行り病の峠あり馬場東風
浅き春寝覚めの朝の薄明かり原善枝
春浅し夜勤の人とすれ違ふ原びいと
春浅しガラスケースの阿波人形春野いちご
春浅し洗車に残る玉模様葉るみ
春浅し三秒合わぬ電子時計雛まつり
春浅し薄花色の点滴瓶比良山
春浅し好物だけの独り膳昼寝
春浅し曇天を抱く細き枝琵琶京子
春浅し琥珀の色に街透けて風紋
春浅し寿命の尽きた魔法ビン福永浩隆
六年生の群読の声春浅し福ネコ
ていねいに眉描く女形春浅し藤井茂
三人の十石舟や春浅し藤田康子
春浅し新二ツ目の紋の白藤千鶴
春浅し南京町に龍躍る藤原訓子
切りすぎた前髪ラララ春浅し文月さな女
春浅し神社の大樹コブ多し蛍子
狛犬の傷深き耳春浅し真壁正江
春浅しお天気だけを書く日記抹香
春浅し風天像は頑なに松田文子
花束の葉物を捨てて春浅し抹茶金魚
千体の人形供養春浅し松ちゃん
春浅き渡り廊下のあかね色松永裕歩
春浅し地元に戻る内示受け松虫姫の村人
春浅しいきなりクレペリン検査松山帖句
旅鞄出して日に干す春浅し真野悠
赤帽に家財一式春浅し三河五郎
立山に行けぬこの路春浅し巫女
落雁が茶請けのホテル春浅き溝口トポル
春浅し朝陽に煌めく停止線蜜華
春浅し磨くグラブと松葉杖南風の記憶
カルストの山肌黒く春浅し美帆
浅春や棺に花は入れぬとふ都乃あざみ
猫の動き日時計のごと春浅し都忘れ
石ころを蹴って突き指春浅し宮坂変哲
春浅しひかがみ触れる風の色村上敏子
春浅し星の地面に鳥の影暝想華
春浅し問2の解答欄白紙森田まなみ
国後にちょっとそこまで春浅し森弘行
春浅し列車待つ顔宙ぶらりん門前町のり子
湯気たてて餡饅光る浅き春八木 実
春浅し風のもつるる壇ノ浦八幡風花
ポケットにチケット残り春浅し山内彩月
薄日さす墨艶やかに春浅し山川恵美子
春浅し血圧計の冷たかり山育ち
永年のご愛顧とあり春浅し山田喜則
春浅し二台続けて空のバス山本ふじ子
滑り台使用禁止や春浅し雪兎
浅き春窓に顔つけ琵琶湖線夢見昼顔
制服の採寸部屋や春浅し佳枝
春浅しエースの肘の手術痕梨音
一枡の豆の隙間を浅き春梨音
浅春や群走牝馬の丸い腹礼子
春浅し紙石鹸はいちごの香籠居子
春残し玄関で塩かけ合う日惑星のかけら
AT車免許交付日春浅し渡邉一輝
春浅し軽四輪のエンストす渡邉竹庵
春浅し庭にぽつんと車椅子渡り鳥
浅き春訃報に始むる村総会侘介
浅春の風や都に島の唄田村ともこ
はるあさしまどをあけたらふじさんきれい西村音香
春浅し動物たちは夢の中西村咲音
浅き春夢から醒めた栗鼠に遭う西村優美子
春浅しこきりこ鳴らす百八枚三浦ごまこ
春浅しシューマン聴いて夫は囲碁百合乃
春浅し優しくされて懺悔かな大本千恵子
春浅し帽子を悩む姪と発つ川端孝子
春浅し主治医変わって年下に藤田真純
春浅し水木シゲル似の夫が好き双子の父
春浅し好みの歳時記つくりをり山田啓子
春浅し敬語崩さぬ痴話喧嘩由づる
あおぎ見る剣の山や春浅し吉田びふう
肩貸した女性まどろみ春浅し連雀
ねじ式をまねて呟く浅き春AKI
春浅し朝刊取る指ジンジンとHARU
山里の朝を歩きて春浅しKISOBA・UFO
鬆入りたる根菜の畑春浅しmika-na
春浅し少女の目には空青くmomo
小康の試歩緩やかに春浅しM雪ノ下
浅春や「始め!」急く鉛筆の音nid
春浅し君の残した第二ボタンあかり
中級のレッスン終えて春浅しあざむ
陽を浴びて犬目を細め春浅しいずみ
浅春や地域新聞チェックしていち瑠
新ランドセル飾りて浅き春を愛でいっちゃん
春浅し空を突っさす木々の枝いろをふくむや
鳴く鳥と風の匂いに春浅しうっしー
薄荷味ばかり残して春浅しうみの海月
浅春や陽を浴びゆるむ畔の端オカメインコ
春浅し餌喰う亀の背日の光おから晴子
春浅し路傍に散らばるお豆どもおさむらいちゃん
国境のニュースは重く春浅しおっばあ
春浅し外つ国の人半ズボンオパール
浅春に合格報せる孫のTelお品
春浅し進路決まらぬ娘かなガーネット
制服に着替し娘や春浅しカオス
春浅しLINEの既読つかぬままきなこもち
ドアノブの鉄ぞ温むは春浅しキョロちゃん
平成を見果てむと乞う春浅しくるめ絣
電車旅めぐり裾野は浅き春ケンジー
泣く声も伸びするグーも春浅しこすみ
枝の先固き蕾に春浅しコタランド
春浅し「あったかうどん」のぼり褪せさかたちえこ
春浅し午前7時の陽の高ささきまき
春浅し日だまり分かつ鳩と我しかまる
ショウウインドウ覗く吾に春浅しすずくら
春浅し臨む我が子の背に祈るすずらん
春浅し14の春樹も似たりけりそれいゆ
春浅し復員列車のにぎり飯たじま
春浅し大地に力ひかえおりたむこん
春浅し白と茶の尾根を歩くちやこ
春浅し桜模様のスカートでちょぴまる
春浅し縁で跳ねてるランドセルとっちん
春浅し煙草燻らす船出かななめろう
整枝後の樹々はゴツゴツ春浅しなんじゃもんじゃ
赤い実がゆれてぽつりと春浅しねがみともみ
天気図に一喜一憂春浅しねこバアバ
春浅しスマホに替えて迷路入りの菊
骨壷に手鏡と紅春浅しハルノ花柊
春浅し温泉街の下駄の音ひかるこ
墓と墓あいまの小道春浅しひっそり静か
文言や淵源たどり浅き春ひな芙美子
広き家一人となりて春浅しひゃんひゃんと
春浅し夫の歩行車足重しふじかよ
春浅し周る時代のひとカケラヘッドホン
プロ野球キャンプ始まる春浅しまさ
春浅しズボンにしてやれ全学生マザーダック
暦見てつぼみを探す浅き春みなおお
猫二匹箱で寄り添う春浅しユキノ
北陸は曇天曇天春浅しゆこ
春浅し夕陽のショット待つ駅舎ゆすらご
春浅しひとり出かけるコンサートよりこ
春浅し咲きためらいて待つ蕾ローズ
春浅し金属光るゴミ捨て場わたさん
若き日の恋に焦がれる春浅し亜紗舞那
浅春や幟はためく茶屋の奥赤橋渡
朝刊もノブもひんやり春浅し明惟久里
ブレイクはホットコーヒー春浅し明良稽古
サイホンの香り立つ朝春浅し淺野紫桜
春浅しミキサーの音に目の覚むる安部さくら
春浅し休眠打破の吾子の靴史
ブラッシングに微睡む老犬浅き春有馬裕子
春浅し首筋に風新しき飯村祐知子
春浅しだて薄着に心弾む池愛子コ
春浅し子宮の中のぬくぬくと池上敬子
寝転んで体操するや春浅し池田功
浅き春波の行方に手を合はす日石垣エリザ
春浅し黒川温泉に予約石ころ
春浅き神保町やキーマカレー伊勢史郎
春浅し連日大学受験なり一杯
乾干しや予報外れの浅き春一本杉
靴音の行き交う駅や春浅し伊藤節子
裏庭の枝ふくらんで春浅し井上 繁
春浅し出くわし猫の睨みたる今井文子
バッターボックスを引く人のあり春浅し今井野絵
庭に出て猫浅春の土を嗅ぐ今井淑子
歯磨きのチューブの「の」の字や浅き春居升典子
春浅し午後はどこ向く風見鶏入江幸子
浅春や百枚綴じの納め札色葉二穂
海色はまだ緑ならじ春浅し植田かず子
春浅し「この先急カーブ」の反射上原淳子
サクラサク朗報聞きたい浅き春卯さきをん
浅き春象描く子等と檻の中内本惠美子
浅春に泣きじゃくる子のいるホーム右茶
線路跡歩く二人や春浅し梅里和代
早朝のブラウスひやりと春浅し梅納豆
紅を差し引き際探る浅き春麗し
花の香を混ぜ行く鳶や春浅し永花
春浅し蹲踞揺らす気配あり大山小袖
長湯でも癒えぬ悔恨春浅し海碧
日陰よけ買い物帰り春浅し甲斐ユキノ
浅春に鳥飛び立つや銀の海香子
春浅し患者の我妻を待つ加島
外に出たポチが後戻り浅き春柏新之助
通院の往復タクシー春浅し一枝
春浅し孫のおNEWのランドセル霞草
招き猫の埃拭いて浅き春片岡佐知子
浅春の山梅鼠へ下化粧克巳@いつき組
明るさに目覚める朝まだ春浅し桂山典子
春浅し迷うふり巾気温計神谷米子
雀二羽背中まるめて春浅し河合久子
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目がかゆく霞む夕空春浅し河村あさみ
春浅しジグソーパズルも完成川村昌子
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掲示待つ午後校庭の春浅し岸本元世
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遥かまで波頭見ゆ春浅し紀泰
鉛筆を左右に振るや春浅し北大路京介
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野を焦がす煙や村の春浅し教来石
浅春の窓に君の名書いて消し空龍
浅き春娘の背中夢を追う恵翠
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日が昇り光る線路春浅し玄武
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肩先にのぼるカメムシ春浅し小鷺
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若き日の夢で目覚める浅き春青児
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花束を買って帰るも春浅し園田みゆき
春浅し沖縄の旅バスに乗る駄詩
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春浅し君逝きし夜のベルの音竹口ゆうこ
春浅しかなり刺し来る茨の冠多事
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通学路吐く息濃ゆし春浅し谷川秋子
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浅春のイーハートーブでマカロン焼き 妻有
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浅き春アロマとジャズとティータイム桃雨
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湯けむりに手をかざしたる浅き春徳庵
浅き春土に覗いて緑色戸根由紀
花柄のブラウス買うも春浅し永井基美
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御殿場線広き裾野や春浅し中嶋純子
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春浅しいつもの憎し花どろぼう中谷典敬
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口紅はコーラルピンクに浅き春二鬼酒
引越しの掛け声飛び交う浅き春握り飯太郎う
風に素手かすかに痛し春浅し西尾至史
春浅しレギュラーポジションゲットせん西原さらさ
春浅し深まる花の香りかな西村圭
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平成の語部の声春浅し野紺菊
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春浅しアイドルの自撮りのピント野良古
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髪うねり湿度に気づく春浅し原口祐子
冷えピタの孫(こ)の息を診(み)る浅き春原田彰子
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浅き春君がうまれる予感の日春の母
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春浅しピアノの椅子を噛む赤子姫山りんご
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掘削の音けたたましきや春浅し風来
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カラーガードに白き歓声春浅し福弓
入試の答へ合わせに春浅し藤川哲三
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野面積続く川岸春浅し星野茜
手水舎の竹は色褪せ春浅し星善之
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春浅し映画の余韻身に纏う牧野敏信
首背ナ足に入るカテーテル春浅し正岡恵似子
おさな児はくるくる回る春浅し増田典子
新しい靴で待つ旅春浅し真澄
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春浅し電車に百羽百合鴎松尾義弘
窓辺のねこ見廻る庭は春浅し松島美絵
ホロホロと酒が体に春浅し松田和之
春浅しケーキ供える誕生日真宮マミ
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枝先の蕾また見る春浅し三浦真奈美
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手のひらで豆腐切る朝春浅し三茶みさ
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春浅し私の花も笑い出す水野祥子
浅春や米代川の色動かざる光子
春浅し鉛色のパンタグラフ満る
春浅しえ、もうこんなに!枝の先湊かずゆき
春浅し雑木林に地鳴き在り見屋桜花
浅き春風のつめあと動く樹木美山つぐみ
夫婦岩打ちつく波や春浅し無頓着
春浅し葉の紫の緑めく村松登音
ぶかぶかの制服のリボン浅き春桃葉琴乃
浅春や一途に枝を運ぶ二羽八重葉
浅き春我守らんと他を罰す痩女
春浅し上京したて頬紅し矢的
九十路手に押し車浅き春矢野茂樹
春浅しフルカラーなり街路市山沖阿月子
納沙布に望む島々浅き春山川芳明
春浅しカフェで長居の商談後山口要人
春浅し命の息吹木の根開け山本康子
春浅し二度寝をしたる泥田坊油井勝彦
春浅し音痴の小鳥庭で鳴く有迷人
春浅し丸まる犬をぎゅっと抱き雪割豆
箒木持つ地蔵の姿春浅し吉成しょう子
手入れされ出を待つ農機春浅し里惠子
病棟の廊下の長し春浅し林檎
春浅しおニューの靴を履きあぐね小熊猫
春浅し「倚りかからず」はのり子椅子渡辺音葉
春浅しほうとうの湯気纏ひをり渡辺陽子
春浅し私の心といっしょかな四月一日美代香
春浅し仄かに見える余生かな川村一重
シマエナガ来たとメールす浅き春ななみ
春浅ししばしこげらの声もして河畔亭
春浅き濃霧に乱る武蔵野線苳
春浅し現像液の匂ひかな氏名不明
膝掛の毛玉とる母浅き春氏名不明
春浅し秒針二秒遅れをり氏名不明
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
●俳句の正しい表記とは?
- 春浅し 言葉に出来ぬ 山の色遠藤百合
- 春浅し 旅路に迷う 鳥一羽銀長だぬき
- 保険証 また変わりたる 浅き春山口トシ子
- 煮えきらぬ 会議は続く 浅き春山口正百
- 指先に 淡色を塗る 浅き春充夜
○五七五の間を空けず、一行に縦書きするのが俳句の正しい表記です。ネット俳壇の横書きは、泣く泣く受け入れていますが、まずは正しい表記から覚えて下さい。
●季重なり
- 春浅しコハクチョウの花湖北の田に桜月夜
- 浅き春田に群れる白鳥にお帰りと桜月夜
- 春浅し野焼き火くっきり天寿を送るオリオン
- ねはんまで合掌の日々や春浅しクドウ
- ストーブは赤赤と言う春浅しシップ
- 春浅しコートは箪笥息白しひこぞう
- 春浅し小雪散らつく城の跡ひめりんご
- 春浅し雀ら冬木に花咲かすふうこ
- 春浅き庭に来るつがいの四十雀ふじたけ
- 春浅し雨と雪とがかわりゆくやったん
- 浅春のドライブ新芽見つけんと宇佐美好子
- 掌に吐く息白く浅き春縁恵
- 春浅し車走らせ福寿草延杜
- 浅き春白木蓮の芽は固く佐保子
- 春浅し暖かき立春の候細井勇輝
- 春浅し祖母の足元湯たんぽの朝紫小寿々
- 春浅く植木市行き芋頬張る秋代
- 懐中のカイロの熱や春浅し天野規之
- 浅春の生きよと命ず早桜白雨
- 春浅し受験の朝に深呼吸福泉
- 春浅し気合い抜けじと受験生本間美知子
- 麦踏む父の懐かしき浅き春夢おとめ
- 湯けむりや霞むやまなみ春浅し野村相子
○季重なりの句です。一句に複数の季語を入れて成功させるのは、高度なテクニックです。まずは、一句一季語から練習していきましょう。
●兼題が入っていない
- 折り紙と エルサも並べて 雛飾る菊池祥子
- 東雲に初花序の舞の急尋征
○本サイトでは、毎回「兼題(予め出題させるお題)」が決まっています。次回の兼題は「燕」(3月末日〆切)。次のご投句お待ちしています。
●前回の兼題!
- 雑貨屋のギター小僧のマスクかなロマ
- ラッシュアワー点描動くマスクかな宮武桜子
- 気休めのマスクずらして大くしゃみ原田一行
- 今朝もまだマスクの友に蜂蜜湯織田めい
○これは、前回の兼題「マスク」への投句か?! 〆切時間を過ぎると投句が受け付けられません。時間厳守でよろしく!
2月の兼題『春浅し』は前回を2句上回り、2,717句いただきました。今月で3ヵ月連続の最多投句数。投句くださったみなさま、本当ありがとうございます。
評価の最後に、夏井先生からの「今月のアドバイス」がございますので、ぜひ投句のご参考になさってください。
また、3月の発表から、発表日を20日にさせていただきます。締切日は変わらず月末ですので、引き続きのご投稿、どうぞよろしくお願いします。