夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
10月の審査結果発表
兼題「時雨」
初冬から仲冬にかけて晴れたり降ったりする局地的な通り雨。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
令和元年皇居時雨れてございます
凪太
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夏井いつき先生より
「令和元年」を迎えた私たちは、ありとあらゆることを「令和初の○○ですね」と言祝いできました。新しい御代に居合わせる偶然を喜んでまいりました。作者は「令和元年」の「皇居」の前に佇んでいるのでしょうか。高いビルの上から「皇居」の杜を走りゆく「時雨」のさまを眺めているのでしょうか。「皇居時雨れてございます」は、勿論「令和元年」現在の様子を述べる言葉ではありますが、いつか語られるに違いない侍従の回想録のような響きにも感じられました。季語「時雨」の持つ伝統的な美意識が、そんな連想を我が脳裏にもたらしたのかもしれません。作者の脳裏に記憶され続ける「令和元年」の「時雨」の映像。静かで美しいひかりの時雨です。
遥かまで暗き時雨の滑走路
ふるてい
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降ったりやんだりする「時雨」を、広い光景で捉えるなら「滑走路」は打って付けの現場。「遙かまで暗き」は、単純にして明確な描写です。離陸直前の機窓でしょうか。雨の様相は刻々と変わって。
山頂を天狗の走る時雨かな
じゃすみん
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「山頂を天狗の走る」という虚の世界が、山肌を走る「時雨」の映像に重なります。今日はやけに天狗さまがお山を走る日じゃなと、囲炉裏端で爺さんが語っているかのような味わいが一句の魅力。
洗ひ場に猪の頭ごろとしぐれけり
RUSTY
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「猪」は秋の季語ですが、一句の主役は「しぐれ」。時雨がくる度に、「洗ひ場」に「ごろ」と転がされている「頭」が濡れ、血が少しずつ流れていくのでしょう。これもまた猪と時雨の実相です。
時雨るるや校歌幽き保健室
古瀬まさあき
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「時雨るるや」と上五で強調した後、中七「幽き(かそけき)」の一語の位置が巧い一句です。「校歌」がかすかに聞こえてくる「保健室」にいる作者の心身の様相もまた、幽く揺れているかのよう。
時雨るゝや音楽室のバッハこわい
多喰身・デラックス
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同じく「時雨るゝや」で始まり、同じ学校ネタなのに全く違った展開。「音楽室」の壁に張り巡らされた作曲家たちの肖像画の中で「バッハ」が一番怖い顔をしてるのでしょう。愉快でリアルな一句。
しぐるるやのつぺらばうのゐる鏡とかき星
鋼鉄の塔より塔へ時雨けりとかき星
村時雨闇より御神木いつぽん古瀬まさあき
束の間のひかりは軽し夕時雨古瀬まさあき
あをあをと夢の切れはし朝時雨にゃん
時雨寒けつねうどんの旨い店にゃん
しぐるるや罅の入たる磨硝子ほろろ。
言の葉はみづとなりけり小夜時雨ほろろ。
五反田の時雨や傘無き客を引く伊予吟会宵嵐
時雨来て羽根の生えたる餃子かな伊予吟会宵嵐
白線を越えたがる爪先に時雨潤目の鰯
カート・コバーンは五月蝿いし短いし時雨潤目の鰯
朝刊に小さく吾の名片時雨ふるてい
捨て猫の舐める時雨の溜まり水ふるてい
鉄瓶のひゅんひゅん急かす夕時雨じゃすみん
小夜時雨喉に貼りつくオブラートじゃすみん
着ぐるみの脱ぎ捨てられてゐる時雨多喰身・デラックス
時雨るゝやプレパラートの小さき泡多喰身・デラックス
しぐれ来ていよいよ遠野物語森青萄
袖みえて指うつくしや小夜時雨森青萄
しぐるるやみな横顔の禽ばかり清島久門
しぐるるや茶房に海図大舵輪清島久門
竹定規から匂いはじめる時雨かなさとけん
点滴の間隔しづかなる時雨さとけん
氷山のやうな都心の時雨れけりすりいぴい
朝刊はれもんの匂ひ時雨寒すりいぴい
葬時雨添い寝の父の夜が白むM.李子
流行りものの傘に明るく時雨をりM.李子
軒で待つ西の明るい片時雨sakura a.
時雨るるや土産の黒糖砕きゐるsakura a.
レコードの針のとびとび時雨かなあまの太郎
しづかに眠る象の背中や小夜時雨あまの太郎
少年は手ぶら時雨の無人駅いかちゃん
消しゴムで消せぬ学歴しぐるる夜いかちゃん
セロ弾きを訪ねておいで小夜時雨いさな歌鈴
謗言は時雨の色に包まれていさな歌鈴
空のいろ決めかねてゐる夕しぐれいなだはまち
しくるるや外せる用は後まはしいなだはまち
歩道橋わたり時雨とすれちがふかねつき走流
夕時雨だれも登らぬ貯水槽かねつき走流
やはらかき拒絶のことば小夜時雨ぐ
しぐるるや錠剤溶けて空のいろぐ
人魚の骨仄かに黒くなり時雨ぐでたまご
朝時雨サルサソースの蓋が固いぐでたまご
花の二区走者時雨を抜き来たるくりでん
スクラムの背を打ち鳴らす時雨かなくりでん
しぐるるや舌にボーロはほろほろとクロエ
試験官一瞥したる初時雨クロエ
赤錆の覆う船舶夕時雨けーい○
空港の時雨れてシーフードドリアけーい○
夕時雨お好み焼きを抱き帰るシュリ
時雨るるや屈折率の違う恋シュリ
稜線を少しくづして時雨かなちゃうりん
変拍子ほどの時雨に遭っているちゃうりん
泣きじゃくっていたこと時雨だったことときこ
太陽の塔の時雨を受くかたちときこ
慇懃なされど検問夕時雨としなり
奈良時雨イオンモールは満車なりとしなり
定めをりスタバにしぐれ眺む席トポル
しぐるゝや石畳にショコラ屋の灯トポル
時雨るるやツンとわさびの海苔茶漬ぬらりひょん
東京は谷多きまち片時雨ぬらりひょん
しぐるるや鞄の底の請求書みかりん
横たはる犬に躓く小夜時雨みかりん
時雨るや絹の端切れを縫ふ仕事るりぼうし
時雨るや漆の刷毛の走りたるるりぼうし
しぐるるや眠るが如く千曲川葦たかし
にしん蕎麦空けて北山時雨かな葦たかし
公園はしぐれ土管の子宮めく一斤染乃
信楽のざらと土の香たつ時雨一斤染乃
時雨たる幾何学の街はブルーグレイ加裕子
還りたる猫は時雨の匂いして加裕子
戸隠に迷う時雨になぶられつ花屋
絶縁の手紙を時雨から守る花屋
早舟の舳先に待つや沖時雨海口あめちゃん
朝時雨観音崎に走る潮海口あめちゃん
あの子犬もう半額に夕時雨樫の木
朝時雨話さぬままに転校す樫の木
無音なる車窓の街の時雨たり亀田荒太
八両編成一号車より時雨へと亀田荒太
信長もゴッホも鬼か片時雨久我恒子
しぐるるやショーウィンドウに我が疲れ久我恒子
離婚届パリパリ広げれば時雨宮部里美
生れたての猫の声する小夜時雨宮部里美
「…ばいいのに」語尾消さぬまま時雨去る玉響雷子
ビーズ選る指の縺れや小夜時雨玉響雷子
時雨るるや墓はしづかに立つてをり玉木たまね
時雨るるや歳をとらない古書店街玉木たまね
祈る手の静脈やはらかに時雨古田秀
夕時雨降霊会の始まりぬ古田秀
ドラえもんの涙どこから片時雨五月闇
木工ボンドの指に絡むや小夜時雨五月闇
傘たたむ音痛さうな時雨かな高橋なつ
しぐるるや茶碗の数が人の数高橋なつ
時雨るるや火影ほんのり貸本屋高沢草々
朝時雨火起こしは長女の仕事高沢草々
花席はへの十二番京時雨彩楓(さいふう)
しぐれきらきら烏丸四条西入る彩楓(さいふう)
しぐるるや声しか知らぬ歯科医の手山名凌霄
しびしび時雨こぼこぼおこぼ先斗町山名凌霄
覗いても見えない穴を夕時雨七瀬ゆきこ
月が尖るから時雨が細いから七瀬ゆきこ
教授宅の老犬鳴かぬ小夜時雨若井柳児
エスプレッソ苦し時雨のカフェ・グレコ若井柳児
時雨寒ぐい呑の表面張力崩れ宵猫
曾祖母の嫁入りミシン片時雨宵猫
マウンテンゴリラ憂鬱時雨寒小川めぐる
小夜時雨大樹に星のささめごと小川めぐる
凸凹をでこぼこ歩く夕時雨小池令香
よぢれだす涙のふくろ片時雨小池令香
しぐるるや傘に妬心を隠し持ち小南子
バチバチと爆ぜるカデンツァしぐれけり小南子
時雨です其(そ)に喜べる飼ひ猫です小林陸人
猫も人も時雨の中を帰りけり小林陸人
前職の源泉届く時雨かな松山帖句
朝時雨シナモンロール焼けました松山帖句
時雨るやボタン一個で風呂が沸く上原淳子
コーヒーを待つ相席や片時雨上原淳子
粉薬のどに残りて小夜時雨常幸龍BCAD
夕時雨家族といえば兄だった常幸龍BCAD
時雨るるや神戸元町産後ヨガ西村小市
片時雨移動スーパーやって来る西村小市
時雨るるや今日排卵日と妻が言ふ青海也緒
朝しぐれ本当にまだ産めるのか青海也緒
鮮やかに吐血時雨の昼下り赤橋渡
髪を掃く床屋は無言時雨寒赤橋渡
ポケットに詩片押し込む片時雨蒼奏
差し出したことばを叩く夕時雨蒼奏
小夜しぐれ街から色を消して明日村上敏子
咽で噛む饂飩一気に片時雨村上敏子
さびしさは遅効性なる時雨かな多々良海月
時雨寒まぶせば踊る鰹節多々良海月
そらどれふぁそらみれしらそしぐれしぐれ沢拓庵
掌に時雨のはじめ拾ひけり沢拓庵
オペ終わる窓は時雨に濡れてをり池之端モルト
時雨るるや勝利馬(かちうま)湯気を纏わせて池之端モルト
一駅を乗り過ごしたる時雨かな中岡秀次
夙川の松の葉匂ふ時雨かな中岡秀次
しぐるるや沖の灯台寂しがる宙のふう
しぐるるやLP盤の針の音宙のふう
妊娠検査薬はプラス外は時雨田川彩
シロナガスクジラの眠る時雨かな田川彩
ガス灯のけぶる銀座や夕時雨田村利平
大仏は動じぬ時雨程度では田村利平
しぐるるや豆屋の軒の立ち話渡辺陽子
ビル三棟解体進む夕時雨渡辺陽子
時雨るるを並ぶ祇園の蕎麦屋かな都乃あざみ
夕時雨愛してるって聞く車内都乃あざみ
山神の癇癪のごと時雨かな土井探花
メルカリで指輪売つちまへば時雨土井探花
しぐぐるや父の遺品に柳鏝内藤羊皐
貸倉庫迄の小路をしぐれけり内藤羊皐
鳥栖過ぎて新鳥栖までの時雨かな楢山孝明
夕時雨こつくりさんを呼んだまま楢山孝明
夕時雨拾ったのは墓石の欠片南風の記憶
この声は知らぬ子時雨のかくれんぼ南風の記憶
朝時雨天然酵母パン工房南方日午
しぐるゝや古書に残りしキリル文字南方日午
逆走の救急車へと時雨れけり播磨陽子
クランケとなりし一日の片時雨播磨陽子
しぐれたる町の祠の五円玉背馬
警察はずっと時雨の中に立ち背馬
電柱の貼り紙の猫打つ時雨梅嶋紫
ベビーカーの内から時雨蹴り飛ばす梅嶋紫
夜時雨や咀嚼の響くひとり飯梅木若葉
傘の柄の熱に戸惑う時雨かな梅木若葉
夕時雨母の電話の語気強し八幡風花
時雨るるや飴噛み砕くほどの事八幡風花
地下鉄の口は矩形にしぐれけり板柿せっか
昼の灯のぽぽと時雨の人造湖板柿せっか
家ぬちに時雨宿りの声を聴く比々き
トンネルを出て時雨へと入る電車比々き
声交す時雨の厠老と老比良山
考える人は猫背や片時雨富野香衣
時雨るるや睫毛重たき修道女富野香衣
海技士の叩く電鍵さよしぐれ北村崇雄
出来立ての弁当提げて片時雨北村崇雄
しぐるるや隣の客は縮れ麺北野きのこ
夕時雨みなは授業が分かるらし北野きのこ
コンビニの狭き庇や小夜時雨椋本望生
傘掴む感情線や片時雨椋本望生
しぐるるや錦市場をひやかして野ばら
母の髪しづかに梳くや朝時雨野ばら
ナトリウムランプを帰る時雨かな有本仁政
綾取のやうに鉄塔しぐれけり有本仁政
夕時雨計りの麺は二人分葉るみ
母の手に載せる偽薬や夕時雨葉るみ
時雨寒昨日もしてたその話鈴木(や)
村時雨誰も使わぬ集会所鈴木(や)
小鳥屋の時雨小さき羽熱れ鈴木由紀子
おはようもおかへりもなき時雨かな鈴木由紀子
古書店の夢二にシート夕時雨鈴木麗門
しぐるるや麻雀のまだ一人来ぬ鈴木麗門
時雨るるや内科医が目を合わさない凪太
隠れ里ほろぶあかるさ朝時雨RUSTY
しぐぐるや弾かぬピアノの音がなるmomo
初時雨モンマルトルの白き塔あきのひなた
古の戦士は駆ける駆ける時雨あさふろ
コーヒーと録画整理と夕時雨あざみ
時雨寒ウッドデッキの黒き染みあさ奏
鶴を折る細き指さき北時雨あつちやん
夕時雨あと三十ページの暇もらうあまぐり
夕時雨甘辛き香の惣菜屋あまぶー
しぐるるや紅殻塗りの甘味処いまいやすのり
時雨るるや山の木立に紗をかけていろをふくむや
すれ違い列車時雨を連れて来しうさぎまんじゅう
時雨なり僕は頼れる副部長うどまじゅ
カフェ独りスウィングドアに時雨くるうめがさそう
しぐるるや夕餉の豆腐買ひに出るオカメインコ
夕時雨盲導犬の余生かなおくにち木実
小夜時雨腕の猫の耳ふるふるおんちゃん。
母の鞄存外軽し夕時雨カインド
夕時雨技能実習生帰るかつたろー。
C棟のフラスコ越しに初時雨きなこもち
軒先に古書香り立つ時雨かなくま鶉
ラジオから不正のニュース時雨寒クロまま
本船の食事は美味し片時雨サイコロ帝釈天
「はこびあめ」君呟く外は時雨たく
塩っぱめの煮付けあたため運び雨さきのすけ
しぐるるや点字ブロックきゆつと鳴くさとう菓子
時雨止む砂場も遊具もぼくのものさなぎ
燃えぬゴミひとつ残れる時雨かなさるぼぼ
小夜時雨中折れ帽の指の跡じょいふるとしちゃん
時雨へと階段上がる鰓閉じるせり坊
時雨るるや猫甘噛みをやめぬ指テツコ
ドイツ語の歌詞にカナ振る時雨かなてまり
妣へ手紙出したい時雨を見てゐればてんてこ麻衣
時雨の色若き魁夷の白カンバスときめき人
夕時雨降車のボタン点りけりとしまる
時雨るるや癖毛自由にしてあげるなごやいろり
時刻むゼンマイ絡まる小夜時雨ねがみともみ
抽斗の匂い甘やか小夜時雨のど飴
配膳待つ介護食堂夕時雨パッキンマン
時雨寒おすべらかしへ銀の糸はなあかり
止まりたる水飲み鳥や夕時雨はまのはの
「志望校厳しいですね」時雨聞くはむ
時雨れろ時雨れろお前のことは知ってるぞひでやん
放課後の時雨れて解きぬバックハグひなたか小春
孤独にはあらず時雨に聴き入る夜ふじこ
しぐるるや包丁塚の苔青しべびぽん
掃除機のなかは竜巻時雨やむまこちふる
100円の傘を握りて時雨かなまりい@
黒塀の露地に猫ゐる朝時雨みやかわけい子
猿の声蒼き時雨の動物園みやこわすれ
木場は時雨雪岱の傘と逢ふやうなみやざき白水
東京や最後の時雨はあたたかしみわ吉
時雨るゝや三鷹で聞いた京言葉メイ子
残業の締めにセコムをかけ時雨ももたもも
水飴のきらめきの如片時雨ヤヒロ
夕時雨蒼き島々現るるゆすらご
局前のポスト開函片時雨よしざね弓
時雨寒夜中に夫の爪を切るよにし陽子
ほの甘き卵焼きかな夕時雨ラーラ
時雨寒偶さか解けしパズルかなわかなけん
時雨るるや誰も座らぬ椅子二脚ゐるす
北山の時雨の際に立ちにけり愛燦燦
しぐるるや夜行列車のラストラン葵新吾
時雨るゝやラ・カンパネラを弾く十指安宅麻由子
時雨るるやカレーの匂ふ本の街伊藤順女
片時雨あの青空の下に行く宇佐美好子
他人見ては泣く子やまだ止まぬ時雨浦文乃
上京の時雨にしてはぬるき風永谷部流
東海道五十三次々時雨横浜J子
三条を時雨の音よ明るさよ可笑式
小夜しぐれ一円切手はるはがき夏雨ちや
しぐるゝや紙風船に深き息果蓏
時雨るるや松江堀川鷺しぶき花岡淑子
ニセモノの指輪キラキラ小夜時雨花咲明日香
介護ベッドの脚跡四つ夕時雨花南天
雨垂れは時雨の気持ちがよめない花紋
翻る白衣うつくし夕時雨海老名吟
スコーン焼く窓打つ時雨まだ時雨笠原理香
片恋や時雨眺める純喫茶甘平
カピパラもキリンもサイも時雨をり閑々鳥
時雨るるや法廷教室の灯しのみ季凛
片しぐれ水平線に日の名残り紀泰
二時間待つ0番ホームの時雨かな紀朋
叡山は時雨心地や里の家亀山酔田
しぐれしぐれきれいなあめのことなのね吉田結希(6才)
失恋をした日は時雨がようけ降る漁港
村時雨琵琶湖に霞む竹生島玉井令子
夕時雨銀座のサンドイッチマン桑島幹
アラザンをケーキに振ればしぐれけり薫子(におこ)
時雨るるや牛タンほろろと焼けるころ月の砂漠★★
好きだといふ時雨のごとく君はいふ源氏物語
多賀城址幾年月の時雨かな古史朗
夕時雨やけに失せ物多き今日古都鈴
不夜城に薫る時雨と巻きタバコ吾輩はペンである
時雨るるや筆談病床窓の外後藤久
片時雨ガイドと駆ける酒の街甲山
赤レンガ倉の弾痕片時雨紅さやか
消しゴムの屑の粗密や時雨寒綱長井ハツオ
良寛堂の中にシャトルや夕時雨高橋寅次
気まぐれに返す挨拶夕時雨高田祥聖
診察台足袋ほとびける夕時雨克巳@夜のサングラス
朝時雨さて免停の後始末今田哲和
しぐるるやブルーシートの多き町根本葉音
時雨ナリココラデ酌ミ交ワセウ友ヨ佐藤花伎
しぐるるや水少なめに捏ねる粉砂舟
思春期の子らの不機嫌初時雨斎藤数
時雨るるや蕎麦屋に列ぶ陶たぬき斎乃雪
要介護2は1の次時雨寒坂まきか
しぐれ聴く境内に飛ぶ中国語榊昭広
やり過ごす時雨コンビニのコーヒー三茶F
和瓦を漆に塗り上ぐ小夜時雨山﨑瑠美
老眼にダリの世界よ片時雨山沖阿月子
夕時雨ハシビロコウが一羽立つ山女魚
叢時雨ダンプに震ふ地蔵堂山太狼
シーツずばばと取込む気合村時雨山内彩月
二杯目の紅茶は苦し小夜時雨獅子蕩児
豆腐売り「フ」の音残し時雨来る紫瑛
小夜時雨屋根のリズムと針仕事詩扇
月時雨オールディーズに針落とす次郎の飼い主
饗宴や時雨の警ら仁王立ち篠崎彰
しぐるるや始発列車に吠える犬紗智
靴紐の結び目直す時雨かな蛇井めたる
小夜時雨吉幾三を電リクす珠桜女絢未来
時雨かな硝子に映る我猫背寿松
小夜時雨ゆるりと下る神楽坂秋月なおと
負けねこを抱いて時雨の帰り道緒方しんこ
尾道の町は迷路や片時雨小鞠
ゴム伸びて尻出るパジャマ朝時雨小笹いのり
ホスピスの部屋に時雨は届かざり小川天鵲
月球儀に潜むタテ穴小夜時雨小倉あんこ
ガス燈のほのほあらふや小夜時雨小殿原あきえ
名画座のポスター朽ちて夕時雨松田文子
村時雨猿猪防ぐ電気柵松尾義弘
ばあちゃんの自転車来る来る来る時雨焼田美智世
ゴールまで3キロの文字時雨寒上野眞理
夕時雨美空ひばりを口ずさむ城内幸江
独り居や時雨はショパンと共鳴す植田かず子
夜の湖へ曜変天目めく時雨色葉二穂
終活の指輪残りて夕時雨新美妙子
校舎よりソプラノ甘き時雨かな森都
小夜時雨縦列歪む教習所真宮マミ
時雨るるや霊峰のふち金の色真繍
時雨夜を綴る楽器を買ひにけり仁和田永
ジャズの音に時雨の粒も彩度増す水玉
恋文の返事待つ日の時雨かな水夢
時雨るるや橋の向かひの屋台の灯杉浦あきけん
松風や袖に時雨るる法隆寺清水容子
伊勢路への尾灯消えゆく夕時雨清水祥月
しぐるるや猪口にほこりの浮く夜半西藤智
ツンドラの故郷は時雨深く寝る西條恭子
大学の解剖慰霊時雨るるや青い月
叡山は日向の匂ひ片時雨石井茶爺
時雨るるや台湾屋台で紹興酒石垣エリザ
時雨るゝや火車の轍の黒々と赤い彗星の捨楽
老犬の時雨に探す死にどころ倉岡富士子
全集の最後に遺書や小夜時雨倉木はじめ
空の影ひと絞りせる時雨かな多事
小夜時雨お産のしばし静寂よ大山こすみ
しぐるるや腹部エコーの深呼吸大小田忍
わが町に知らぬ道あり夕時雨大庭慈温
日録に時雨とだけの車中泊大和田美信
夕しぐれ入社二年の辞意を聴く鷹野みどり
しぐれ来る首ふり立てて嘶くや知足
しぐるるや寂しき町に歩み入る池田功
しぐるるや懐かぬ猫に餌をやり中山月波
辰鼓楼の刻を告ぐるや時雨るるや中西柚子
時雨止み刈安色の夕の空衷子
神さへも時雨るる熊野古道かな鳥越暁
時雨るるやポストに文の落ちる音辻が花
信濃路や土の色して時雨来る渡辺みちこ
西陣の続く機音夕時雨渡辺牛二
父を嗅ぐ車内夕時雨の車窓渡邉一輝
片しぐれ地に国境のある如く渡邉竹庵
ジュジュジュンと雀ダミ声朝時雨土屋雅修
朝時雨眼を血走らせ雄鶏鳴く土田耕平
小夜時雨老犬の眼はやさしやさし藤井信弘
時雨寒昼は社食のカレーそば藤原訓子
しぐるるや螺鈿紫檀五弦琵琶藤色葉菜
御堂筋時雨れて人の途切れざる藤田康子
会話なき四人病室夕時雨奈良素数
しぐるるや阿闍梨餅食ふアーケード日午
時雨口に受けて歩けば君笑まふ楠田草堂
時雨るるや母のシャンソンすぐうううー二鬼酒
教科書の子規に黒髪時雨来る尼島里志
時雨るるや一人聴いてるボブ・ディラン馬笑
闇?神(くらおかみのかみ)の気配や村時雨白よだか
時雨るるや早緒に返す櫓のしぶき白雨
時雨落つ躾の痣の新しき白瀬いりこ
籾殻を焼く煙呑み時雨来る菱田芋天
時雨るるや湯けむりに立つ夢千代像百合乃
五秒後の時雨に向かうオートバイ浜野洋志
新しき肌着に名札小夜時雨富山の露玉
トランプの顔横時雨の電飾版風泉
時雨来る待合室の杖の音風峰
時雨きてダンスビートの曲に替え福井三水低
時雨るるや盆地の底に京言葉福良ちどり
せんねん灸すゑて時雨るるゆふべかな平本魚水
愛犬の死因は不明時雨かな片栗子
夕時雨伝言に返事はなくて北原早春
時雨るるや法廷教室のみ灯し北村季凛
捨てられし時雨の記憶膝の猫牧野敏信
ナナハンのライトさえぎる時雨かな盆暮れ正ガッツ
友くれしカップ麺啜る時雨かな麻場育子
時雨は銀鼠いっときの喧騒麻生恵澄
ディオールの紅眺むるや秋時雨満る
覗色残る西端片時雨眠睡花
白藍の吾の傘を択る時雨かな明惟久里
「人間失格」ぬるりとめくる時雨かな木下桃白
夕しぐれ米三合に足す玄米門未知子
小夜時雨ゆれる吊り手の涙型門前町のり子
立食ひの皆淡々と時雨かな野地垂木
読み耽る頁の翳る時雨かな唯飛唯游
しぐるるや確かにあった一軒家柚月
鬱々とシーソー傾いて時雨柚木みゆき
しぐれるや病院巡るきのうきょう柚木窈子
棟梁の鉋加減や朝時雨遊飛
小夜時雨初めて触れし君のひじ来冬邦子
夕時雨まだ弾んでゐるボール梨音
時雨るるや献杯はあのシャンパンを鈴木淑葉
小テスト時雨を聴いてしまひけり鈴木上む
空白の職業欄や夕しぐれ露砂
夕時雨下手に弄った傷痛む惑星のかけら
庭猫の餌皿叩くや横時雨侘介
被災地に送る手紙や時雨寒國吉敦子
落ち合ひて傘は一つや小夜時雨巫女
「無礼者」時雨の中で叫んだり戌の箸置
ビロードのやうなチェロの音夕時雨朶美子
モダンジャズかけるマスター時雨のBAR淺野紫桜
付け睫毛はずして帰る朝時雨苳
ハイヤーを捌くドアマン小夜時雨邯鄲
外来のテレビは寂し時雨れけりカオス
映画館出でて神田に時雨かなかぬまっこ
後悔が走る時雨が追いかけるひっそり静か
アローン・アゲイン時雨の主題曲ひろ夢
しぐるるや「夜空ノムコウ」聴いており或人
灰皿へ時雨時雨に次ぐ時雨塩谷人秀
泣くときは猫抱き締める夕時雨江川月丸
片時雨黒き車列の正殿へ春日野道
営業の今が押しどき時雨どき竹内うめ
思ふことありて時雨の実篤邸直木葉子
風信子の球根余白へ時雨天野姫城
こんな時に時雨熱いお茶を買う渡邉野紺菊
つま先を離れる影に 時雨こい冬にうちわ
しぐるるや自称恋愛小説家嶋田奈緒
眺めやる時雨助手席空いたまま藤田ゆきまち
また一軒本屋なくなり夕時雨藤田真純
サスペンス音量上げる時雨かな丸山隆子
尻からげ駆ける浮世絵時雨かな希林
看板の一文字足りぬ時雨かな洒落神戸
小夜時雨うるみて嚔いと可笑しさくら亜紀女
小夜時雨どこをどう歩いても艶さだとみゆみこ
嫁ぐまで時雨心地の会話かな⑦パパ
通販は老いには難し夕時雨俳号無記入
時雨降り風の呼吸を止めにけりDr.でぶ
墓に立ち肌に冷たき時雨かなharu.k
時雨るるや1枚増えし受診券noraちゃん
憧れの友追いかけて時雨心地あおか
時雨寒老母の腰にシップ貼るあくび指南
時雨月まさかの思いで避難所にあらら
「のぞみ」快走天割れて片時雨イキイキ生活
迷いなくすすむ少年夕時雨うまうまさとさ
さざめくは時雨れる街の夜さりかなおうれん
傘立の隙間にグイと時雨ごとおおい芙美子
メトロノーム無視のリズムで時雨打つおざきさちよ
尻湿り時雨知る残業の帰路おさむらいちゃん
時雨どき屋内の子ら大歓声おっとりガメ
注射針皮膚を裂く音朝時雨おぼろ月
冠水のゴルフ場時雨てけぶるお品まり
しぐるるや彩り欲し虚無の庭かたちゃん
あきらめて着物をたたむ時雨かなかもめ
時雨ふるバス停前の喫茶店カワムラ
暗峠の芭蕉の句碑に時雨かなぐずみ
夕時雨駅弁分け合う母子旅くるめ絣
チイママの爪噛む癖や小夜時雨ケンG
時雨かな駅蕎麦の汁にコロッケこばやしまき
幼稚園の遊具売られて夕時雨こぶこ
ワイン会頬に時雨の湯気が立つさかたちえこ
湯気の立つ厨の殺気や朝時雨さくやこのはな
片時雨鍋ひとつ分富裕層さこ
高下する灯油の価格時雨かなしいたん
すれ違う君は別の名しぐれをるしかもり
足絡め時雨が響かす余韻かなジョウ紫絵
片時雨喧嘩のあとの君と僕しらふゆき
しぐるるやペットボトルの羽根廻るすがりとおる
小夜時雨ワインと冊子見やる窓すずくら
ピアニストの美しき指先小夜時雨すみすずき
朝時雨駆逐艦散るマレー沖スローライフ
夕時雨忙し音せしランドセルせつこ
被災地のブルーシートに小夜時雨たじま
島原の角屋に斜めの夕時雨タシャキ
対局はガラス越しにて打つ時雨たすく
頭ズキッ間もなく時雨到着かタマゴもたっぷりハムサンド
珈琲のおかわり頼む時雨かなたむこん
近づかぬ猫においでと夕時雨つちのこ
自転車をこぐ脚重い時雨かなツユマメ
大和路のお茶漬け旨し小夜時雨でぷちゃん
時雨降るだんまりの夫傘一つとみことみ
下校道いつものケンカ夕時雨なかしまともこ
キネマ館出づコートかぶりて時雨かななかにしうさぎ
断水長し避難の山宿しぐるるなんじゃもんじゃ
子の微熱手に伝はれり小夜時雨ねぎみそ
着信の聞きのがさずや夕時雨ねこバアバ
菓子折は目方を重視小夜時雨はっかあめ
小夜時雨うつつ遮るペアガラスはらぐちゆうこ
しぐるるや虐待のなくならない世ハルノ花柊
しぐるるやすべるるかんな音よ見ぬはるる
時雨るるか卒寿の姑は笑顔よしばんじょうし
うごかぬ身時雨をまとう人と居てひな芙美子
時雨寒検査データの紙破りひめりんご
微睡んで時雨の合間君手折るふくろう悠々
山家の灯遠く滲むや小夜時雨ふみ
夕時雨相合傘の腹積りぺ
気晴らしに時雨に合わせギター弾くヘッドホン
時雨止む和尚忘れし蛇の目傘ペトロア
和室より衣擦れのおと夕時雨ほしの有紀
泥の海の林檎打ちゆく夕時雨ポンタ
コーヒーを飲みほすあいだの時雨かなまりな
軒下の猫に犬と間借りす時雨かなみなお
朝時雨又三郎に夢で逢うもつこ
縞馬の模様はアートめく時雨モッツァレラえのくし
時雨寒喪中葉書を出しに行くゆりたん
時雨寒矢切の渡しの涙雨よしこ
老髪を撫でつつ時雨の曲がり角ルゥ
定時間帰宅ラッシュの小夜時雨わさびあられ
諍いの熱を時雨よ昇華せよわたなべぃびぃ
時雨のやう我が脳裏の学び欲亜紗舞那
時雨来て牧場に牛の匂い満つ亜美子
会社より異動の辞令夕時雨愛宕平九郎
愛を告げたくなるやうな時雨かな梓川やご
軒借りて三つ編みを結う時雨かな綾乃栞
薄日さす愛宕の山の時雨けり伊藤ひろし
上の空の背にはたはたと時雨かな伊藤小熊猫
お開きです女子会しゃべり夕時雨伊藤正子
時雨るゝや比叡の山の杉木立伊藤節子
しぐぐるや弱音を吐いて今日はいい遺跡納期
時雨止み山頂から見る富士山井松慈悦
雨音が足音乱す夕時雨井上繁
君の来ぬわけを思案の小夜時雨郁松松ちゃん
時雨時「時雨ています」絵手紙来稲架くぐる
もやもやと時雨を匂うオフィス街宇田建
日によって記憶崖なす片しぐれ羽沖
君が逝く時雨の空に君が逝く卯さきをん
紅残るカップ冷たき小夜時雨影山治子
盲目の母窓に立つ夕時雨榎本真希子
亡き夫の月命日や時雨来る円
病室で聴くセレナーデ時雨雨延杜
傘一つ並ぶ幸せ夕時雨縁恵
時雨くる三日月よりも細く赤く遠藤愁霞
病む友のメール一行小夜時雨塩沢桂子
相容れず焦れる心に似る時雨黄桜かづ奴
茶会終え友とコーヒー時雨かな岡れいこ
筆を止め見やれば窓に小夜時雨岡田玲凛
交差する二人時雨れてマイムマイム温湿布
サイレンの低まりつつ時雨へ消ゆ佳山
記録会雨が降り出し時雨かな加島
時雨来る前垂れ赤き六地蔵可藤虚
小夜時雨吾子は寝返るばかりなり夏目天陽
時雨打ちパンパスグラスの疾走じゃ河畔亭
時雨つつ山懐に町眠る火炎猿
もういいと野菜が叫ぶ村時雨花咲みさき
パン焼けるまでの沈黙時雨かな花伝
disagree折れた替え芯夕時雨海碧
時雨るるや屋根うつ音と窓の音馨子
夕時雨横断歩道を赤い傘蛙里
健診結果たじろぐ帰路の時雨寒蒲公英
鍋蓋を閉じて見つめる夕時雨甘酢あんかけ
野良猫の逃げ足を追う夕時雨閑蛙
母語る記憶の波は時雨のごと岸本元世
夕時雨赤ちょうちんが揺れて呼ぶ幾恋良石
ボルドーを懐に入れ時雨道紀章
屋外のイルカショー時雨と飛沫貴志洋史
そっと肩包んでくれる時雨かな亀山逸子
薄日さし瀬戸内海は片時雨亀田稇
折り畳み傘持たぬ日の時雨かな菊池洋勝
北陸道三日月隠す時雨かな吉田びふう
火葬場の煙に別れ告ぐ時雨橘右近
時雨寒葉なき梢に雀咲く宮杜都
幾千のフラミンゴの背に時雨刺す魚男
剣の舞めく手すりに時雨時雨京水
時雨来て二杯追加の喫茶店玉井瑞月
しぐるるや百均の傘また増えぬ銀のグランマ
着ぐるみを脱いでや移動車に時雨銀長だぬき
ベランダは日ざしに時雨日ざしかな空
部屋干しの匂いもしずむ小夜時雨空龍
小夜時雨明日面会かなふかな薫夏
時雨てよ今時雨てよ時雨てよ畦のすみれ
波静か海は時雨れて翡翠色蛍子
富士かさ雲時雨くるくる傘出番月昭
鐘の音の消えてそのまま時雨けり月夜同舟
小夜時雨坂かけぬけり帰り道研知句詩
駅出口時雨暫しか待つに賭け見屋桜花
ペダル踏む力こめるや夕時雨原貴美子
夕時雨コンビニコーヒー美味いやん原善枝
デパ地下へ惣菜さがす時雨かな原田民久
登園する合羽ぽにょぽにょ朝時雨古いっちゃん
時雨やみ鳥が賑わう紅の庭古川勝弘
夕時雨初めて肩を引き寄せし戸根由紀
しぐるるや八幡堀の常夜燈湖雪
朝めざめひんやり空は時雨かな鼓打美
古式ゆかしき儀式となりぬ時雨かな五月野敬子
梵鐘の余韻背に受け時雨寒後藤允孝
天空冷えほろほろほろと時雨かな光子
物干しに糸ひき蜘蛛の時雨かな弘
夕暮れに浮きまだ静か時雨かな江藤薫
珈琲を持つ手に陽射す時雨明け香港ひこぞう
草取りを始めてすぐの時雨かな高橋光加
野辺を駆けめざす浜宿時雨かな高村安子
失敗を慰められて夕時雨今井淑子
時雨なか待ち疲れるもバス来ない今井正博
小夜時雨墨をする香と我のみぞ根々雅水
時雨寒ゴリラも誰かと身を寄せる佐藤ゆづ
城望み立つ白虎隊墓地しぐれ佐藤儒艮
病窓から時雨が濡らす路上見む坂本千代子
初時雨シェスタの村を通りぬけ桜姫5
大病の体にしみる小夜時雨三浦ごまこ
亡き人の思い出語る小夜時雨三須田敏
パトカーや車蹴散らし夕時雨三島瀬波
発表日逸る心の朝時雨山育ち
風凪いでやがて時雨るる外の面かな山科美穂
しぐるるや知らない町の郵便ポスト山吉白米
粋な髷端折る芸妓に時雨くる山口要人
小夜時雨庭の白花うきたちぬ山口香子
老紳士手首に傘の片時雨山川恵美子
遠ざかる背中もかすむ叢時雨山川芳明
時雨にも座っておれぬ厄続く山川真誠
月時雨隣家のチェロ音掻き消さる山田啓子
時雨来て墨絵の徒なる巴里の人山踏朝朗
時雨ぽとりぽとり地に落つ夜の合間山辺道児
去り際の頸焼付け片時雨山本先生
横しぐれ大地踏ん張り山頭火紫雲英
集まりぬ鋭声の烏時雨まえ紫小寿々
時雨とて会いたい人に会いにいき鹿嶌純子
左手の温み右手に時雨かな篠雪
死人めくママの寝顔よ小夜時雨紗千子
湯呑の中見つつ茶を飲む小夜時雨珠凪夕波
時雨寒各々の傘開かれて秀耕
夕時雨鴉の鳴くも山黙す秀道
友禅に石塀小路の小夜時雨秋水
両の手で支ふる傘や夕時雨春日春都
自転車の通勤悩ます朝時雨初野文子
あたたかき手のひらかさねて時雨の夜渚
玉雫新車に映える朝時雨小栗福祥
マスカレード時雨れる街の無表情小山晃
濡れ靴やコンビニ傘に朝時雨小杉泰文
口喧嘩去りゆく背中と小夜時雨小雪いつか
背なの子の涙のすじや夕時雨小川都
小夜時雨廃校に白い百葉箱松井くろ
夕時雨散歩の犬は意気揚々松原隆雄
大井川時雨と共に渡りゆく焼津昌彦庵
自社ビルのかくも高き小夜時雨鐘ケ江孝幸
時雨るるや軒の家主に借りし傘城ヶ崎由岐子
時雨来て逃げた軒先のデジャビュ植木ふうこ
子と犬が我を忘れて夕時雨森井はな
声上ぐる思はぬ時雨の遊園地森澤佳乃
朝時雨カサをくるくる女学生真冬
山越えて風が運ぶか村時雨真理庵
遠き山時雨て淡く景寡黙神谷米子
小夜時雨重なる影の儚げな水木華
時雨来て散歩拒否する犬2頭酔
時雨るるや樹々の煙りし山の駅酔進
夕時雨ピアス片方見つからぬ雛まつり
能登しぐれ海女の小屋より煙立つ杉浦夏甫
時雨寒薄い封書に不合格世良日守
時雨くる安全太郎のメット深し星善之
時雨なり牛肉煮るや想ふ母星夢光風
トンネルを抜けて時雨の日本海晴好雨独
初時雨殊更赤い猿の尻正岡恵似子
浮見堂しぐれに鹿の雨やどり正子@いつき組
濡れ顔の電車届きて時雨知る清水トキ
丹波路にジビエを買えば時雨けり西原さらさ
小夜時雨優しき人を弔ひぬ西川由野
時雨寒家路を急ぐ親子の背中西村優美子
片時雨ひと足ごとの杖の跡西尾至史
思い出と時雨持つ雲漂流す西條晶夫
目を閉じてきく和尚のこえと小夜時雨青井晴空
時雨るるや啼くが如くに時の鐘青児
紅落としひとり参列小夜時雨石岡女依
抱きし猫に獣の香り小夜時雨石川由美子
さよしぐれ靴下はいて寝床入り石田恵翠
タクシーのポン引きのごと時雨かな赤馬福助
包む手の缶コーヒーや小夜時雨雪割豆
時雨坂一歩一歩と心脱ぐ千日小鈴
北山は時雨魁夷の杉山木立千葉睦女
それぞれの傘に時雨や戻る場所川岸輪子
時雨るるやサイレン鳴らし救急車川村昌子
レコードのチェロの音に浸む夕時雨川端孝子
黒猫が涙に変えた時雨かな川畑彩
しぐるるや時も居場所も見失なふ浅井和子
人も駱駝も徒歩でくる時雨かな曽我真理子
濡れゆきて艶立ち上る時雨かな惣兵衛
時雨打つ列車の窓を睨む我早山
恋愛中の娘のごとき時雨かな痩女
宇宙からは写らぬ時雨か細きや蒼空蒼子
時雨走り木も葉も吾も生の中村山信子
時雨るるや四時間待ちの診察室村松登音
時雨るるや札所参りで軒かりて多田ふみ
東山喧騒洗う時雨かな駄詩
露座仏の乾湿せわし時雨かな大山小袖
戸を叩く誰かと思へど夕時雨大村真仙
時雨降る街を百色塗りにけり大槻税悦
古都奈良の思い出に添う時雨かな谷口あきこ
お日様に時雨が来ては嫁入りぜ谷中薫氏
朝時雨コーヒーを手に猫膝に谷本真理子
片時雨吹き撒かせよ鼓笛隊池愛子
夕暮れ泣き吾子越しに見る時雨かな池上敬子
夕時雨白線が灯す赤信号竹一
時雨るるや古木の映る煉瓦道竹口ゆうこ
履歴書を幾度も直し時雨かな竹内みんて
夕時雨帰路を急ぐ身少し濡れ中山白蘭
ダム囲む燃える山肌夕時雨中西うさぎ
永遠という坂の途中に時雨降る中村凧人
しぐるるや南の島で骨が泣く中島知恵子
トローニーの虚ろな瞳夕時雨中島圭子
時雨時助六いそな渡月橋中嶋京子
おんぶの子温もりくれる時雨かな中嶋純子
ベールの如く時雨迫るや海の上中道潮雲
もうひとつボタンを留める時雨かな昼寝
胸にあるシヴァタウの鼓舞時雨るるや長岡馨子
人を待つ人に時雨や嵐山長谷川ろんろん
夕時雨スマホうごめく駅構内長谷島弘安
過去を問う日韓時雨長雨に鉄卓
時雨降る都市はますますモノクロへ天津飯
片時雨滑りすぎたるすべり芸天野呑水
表札の墨のかすれや夕時雨田中ようちゃん
音も無く過ぎ行く日々よ時雨跡田中玄華
亡き犬の散歩の時間夕時雨田畑尚美
時雨道行く手上空青い空田尾瞳果
野風呂へと首竦め入る朝時雨斗三木童
東大寺カーテンのごと時雨来る嶋良二
靴底の水虫痒し時雨傘東風弘典
時雨るやロボットゲート降りる時藤井茂
山門の時雨て無為の仁王かな藤井眞おん
窓辺居る犬の目映る時雨かな道産子ひとみ
小夜時雨女優気分のアールグレイ徳
人待ちの駅舎の湿り時雨かな徳庵
美ら海の儒艮絶滅して時雨奈良香里
時雨るるやブルーシートの撓う音内本惠美子
犬逝きし火葬場暗くしぐれゆく入江幸子
時雨輝く命繋ぎて草眠る白康人
時雨来て雨音縫ってシャトル音白沢修
夜の底銀色の針時雨かな白土景子
時雨寒朝食前の葛根湯白浜ゆい
待ち人も濡れて来ぬかと片時雨畑詩音
夕まじか時雨浸み込む庭の芝八木実
ガゼルの群駆け出せるかに時雨けり飯村祐知子
夕時雨五時のチャイムと遠吠えと飛来英
長谷寺は山の中腹片しぐれ樋熊広美
時雨路や音符の如く弾け休む尾花なお
時雨来て父作る砂糖湯を飲む尾関みちこ
時雨やみ黒く光りし露地の夜琵琶京子
母見舞う涙の顔に夕時雨美山つぐみ
夕時雨上がり香立つアスファルト美翠
時雨上がるローストビーフ焼き上がる浜けい
山陰の時雨気まぐれ恋破れ浜ちゃん
とりどりの家路を急ぐ時雨傘風花まゆみ
終止符を打つと決めかね時雨くる風紋
傘はなし家はそこだよ夕時雨風来坊
時雨ゆく里わに沈む人家の灯福ネコ
時雨傘白無垢の紅絹艶めかす福弓
影法師天橋立小夜時雨福泉
しぐるるや隣の樋は修理中文月さな女
色声の烏鳴く朝時雨かな片岡佐知子
絵手紙を懐に抱く夕時雨弁女
あの時雨より一歳の今日もまた穂積のり子
切り通し抜け出るまでに時雨止み豊山伸夫
時雨たか愛車の鞍に濡れ葉乗り北薗敬
時雨るや日常会話が聞こえない北山義章
残されし人生の日や時雨来る北大路京介
時雨ても千の灯篭なおくゆり墨西
珈琲のおかわり頼む夕時雨睦月くらげ
水飢饉洪水恵みの時雨かな本間美知子
片時雨ベリーショートの似合ふ敵凡々
最終区のデッドヒートや片時雨麻生和風
時雨るるやフェンスの向こう側広し抹茶金魚
道半ば時雨がせかす一人旅湊かずゆき
退職の荷は重きかな夕時雨蓑田和明
時雨れても良いと思える長い道無頓着
小夜時雨ラストライヴの帰り道明田句仁子
憂鬱のマンモグラフィ時雨雲茂る
時雨かなさすかささんかさらのかさ木村かすみ
時雨寒成長痛に泣く孫や木村かわせみ
時雨来る昨日のカレー食べてみる木村時子
片時雨花街の屋根きらきらり木村修芳
知らぬ人相傘さそう夕時雨木村波平
介護終え帰路の吾が眼に夕時雨野中泰風
時雨寒もらいし犬にレインちゃん野木編
少年のグラスの中の片時雨矢野利昌
並木道のカフェレモングラスティーのごと時雨柳川心一
時雨去り水はねて去るEVカー有迷人
待ちぼうけの冷めたコーヒー時雨かな雄山卓女
しぐるゝ夜燗は二本とせがまれる葉月けゐ
歳重ね喜怒哀楽の時雨かな葉路
宴のあと芸妓の肩に小夜時雨里惠子
店先に立つ息浅し夕時雨龍季
相合傘胸打つ時雨のトレモロ玲凛
朝時雨肺も湿るや渡月橋麗し
小夜しぐれ乳房の痛み破顔の絵文字蓮花麻耶
跨線橋レール光って夕時雨連雀
小夜時雨名句を友と共感す鷲野の菊
片時雨碍子に並び耐へる鳥暝想華
ことことと時雨れるたびのスープかな楡野ふみ
余命などわかってたまるか時雨来る櫻井弘子
時雨降るゴドーは今日も来ないまま涅槃girl
深呼吸立ちこぎ続く時雨坂澤真澄
スーパーでつまらぬ買い物時雨けり澪つくし
夕時雨帰れませんが進みます祺埜箕來
アロマの香やさしき夜に時雨かな齋藤杏子
論敵も思いやる人小夜時雨齋藤むつはな
時雨るるか少々急ぎ踏むペダル齋藤富美代
積みたての土嚢の白さ時雨打つ籠居子
しぐるるや涙乾かぬまま眠り蓼科川奈
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
●俳号には苗字を!
〇俳号とは、その句が自分のものであることをマーキングする働きもあります。ありがちな名、似たような名での投句が増えています。せめて、姓をつけていただけると、混乱を多少回避することができます。よろしくご協力ください。
◆ひとことアドバイス
●俳句の正しい表記とは?
- 時雨寒 子と足踏みし 待つ園バスあーかー
- てるてる坊主 吾子は眠りて 小夜時雨まこ
- 「好きじゃない」人とも談笑 冬時雨りんご
- 半グレも 軒下入る 秋時雨斎藤猛
- 紅をひく 君失う女や しぐれれば山谷拙文
- 交差点 傘の花の波 夕時雨山本幸
- 夕時雨 味噌汁の鍋 温める紫江
- 犬小屋に 猫まんまるや 夕時雨星野茜
- 豆を煎る 淋しき女 しぐれれば拙文
- びっしょりと 心を濡らす 愚痴しぐれ竹安修二
- 耐え抜けよ 時雨に烟る 吾の心田川さくら
- 時雨つつ ポケットの飴 渡し場へ服部ゆうな
- 待ちわびる 揺れるヒールの 赤時雨和進
○「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記です。まずは、ここから学んでいきましょう♪
- 夕時雨
酒場の愚痴に
かき消されかわいなおき - 往く兄を
止めれぬ我と時雨は
無力ミツヤ - 時雨かな
お仕立て上がり
袷せ着る花織水香 - 時雨時
スズメや子らと
雨やどり犬飼茶太丸 - 奥歯噛み
時雨に渡した
きみの笑み菅原千秋 - 母の愚痴
時雨が少し
かき消して渡辺一重 - 煌めく日差し
水やりの手に
時雨かな任人 - 時雨駅
父の車みつけ
うれし博多通子 - 顔叩き
負けぬわ時雨よ
父の病室(もと)樋上直美
○テレビの俳句番組では、三行書きにする場合が多いのですが、あれはテレビの画面が四角なので、そのような書き方をしているだけです。重ねていいますが「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが正しい書き方です。
●一句一季語から練習
- 布団干し出かけりゃ時雨ああ無情笠江茂子
- 刈り終えたひこばえの田に時雨ふる髙橋理佳子
- 朝時雨白馬から虹プレゼント山本康
- 冬野菜植えて一服しぐれ待つ秋代
- 咳続きふわりとはおり外時雨大本千恵子
- 時雨やみ令和を祝して虹かかる桃葉琴乃
- 腕擦る夫汗吹く私雪時雨真田真澄
- 自虐的な夏に空は時雨れたくなったのか唯沢遥
○一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。
- 時雨るるや窓辺で休む綿の虫小鷺
○「綿の虫」は「綿虫」のことでしょうか。「綿虫」とすると季重なりになりますが、「綿の虫」という書き方はちょっと中途半端。綿虫と雨の句にすることも可能ですから、推敲してみましょう。
●兼題とは
- 嵐すぎ青空の下(もと)泥りんごume
- 鉄拳覆る機械の鮮血風吹けば名無し
○今回の兼題は「時雨」です。兼題を詠み込むのが、本サイトのたった一つのルールです。
- 時雨煮の白滝の甘さ飯三杯もしもし
- 時雨煮の優しさ懐かし家の宴酔敦京
○この二句には確かに「時雨」という字が入っていますが、「時雨煮」はちょっと違うなあ。本サイトでは、毎回季語を兼題として出題しています。兼題を季語として使っている句をお寄せ下さい。
- 秋時雨鈴鹿を超える二人旅山本ふじ子
- 遺伝子は地蔵となりて露時雨夢見昼顔
○「秋時雨」「露時雨」は秋の季語です。
- お題見て浮かばぬ俳句に心しぐれり美由子
○気持ちは分かるが、ファイト!(笑)
●季語深耕
○「初時雨」の句も沢山届きました。
- 初しぐれ京のまちやの紅(あか)のれんおひい
- 母の手にあやとりの橋初時雨AKI
- 傘で聴くラ・カンパネラ初時雨ANGEL
- 初時雨訃報に既読つかぬ夜クラウド坂の上
- ピアニカの袋を探す初しぐれみなと
- 初時雨心せかるる家路かなやったん
- 初時雨小瓶に詰めたシーグラス茜空子
- 忘れ傘やっと見つけし初時雨菊原八重
- 子マンモス毛ほやほやと初時雨佐藤千枝
- ふるさとは危険水域初しぐれ三河五郎
- 初時雨おニューの傘に雫映え柴山今日子
- 「なごり雪」のコード進行初時雨峻井
- 初時雨歩き通しの京の宿大原妃
- 夕刊のわずかな湿り初時雨田村伊都
- 初時雨黒土の香に佇むや登久光
- 初時雨わが子のお頭あせのにおい日野王子
- サルベージ船戻る波止場の初しぐれ梅里和代
- 君が耳無防備すぎる初時雨馬場東風
- 病棟の窓に流れる初時雨矢野茂樹
- 初時雨手をはなし子はビルの中立山枯楓
○「初時雨」を「時雨」の傍題にしている歳時記や季寄せもあるようですが、「初時雨」とはその年初めて降る時雨を指します。「初」の一字の味わいを考える時、やはり「時雨」とは詠み分けたいものだなと考える次第です。その本意の違いについて考えてみるのも、また季語深耕の作業です。
10月の兼題『時雨』は2806句もの投句をいただきました。毎月投句いただき、本当にありがとうございます。
次回11月の兼題は「クリスマス」、皆さまの投句、お待ちしております。今月も夏井先生より、投稿についての注意事項をいただきましたので、投稿をされる方は「今月のアドバイス」を必ずお読みください(編集部)