夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
12月の審査結果発表
兼題「去年今年」
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
去年今年魚眼レンズに膨張す
いさな歌鈴
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夏井いつき先生より
兼題「去年今年」となれば、私たちの前には虚子の「去年今年貫く棒のごときもの」が立ちはだかります。この句が出現するまで、「去年今年」はもっと単純に、去年が終わったとたん今年になる、というぐらいの意味に捉えられていました。が、虚子の句は、季語「去年今年」が一瞬の向こうにある永遠という時間を内包したものであることを教えてくれたのだと、私は解釈しております。
その意味において「去年今年」が「魚眼レンズ」に膨張するという感覚に度肝を抜かれました。一瞬が膨張しながら、一瞬にして永遠と同化し、新年の闇が出現する。「今年」が静かに在ることに気づく。見えないものを見せる、作者の底力に敬服するばかりです。
去年今年がちゃり製本機が綴じる
凪太
「去年今年」の瞬間を「がちゃり」という音で表現。それが「製本機」が紙を綴じる音であると分かると、一気に映像と音声が読者の脳内に再生されます。「綴じる」に「去年」のイメージも重なって。
死ぬる前の星の明るし去年今年
樫の木
「去年今年」を表現するために「死ぬる前の星」を取り合わせる発想。「明るし」は超新星爆発か。一瞬の大爆発、その光が地球に届く何光年もの時間。これも「去年今年」の本意に迫る作品です。
去年今年指にぴく ぴく不整脈
トポル
「指」の先の「不整脈」の断続を、この微妙な一マスの空白でするアイデア。文字面で「不整脈」の一拍を見せつつ、声に出してみるとちゃんと17音になっているあたりも、ベテランの粋な技だなあ。
こぞことしよはひふつかのねいきかな
板柿せっか
全て平仮名で書かれている柔らかさ。「こぞことし」の後に「よはひ=齢」がでてくるので、年寄りの句かと思いきや「ふつか」で生まれたばかりの赤ん坊へ。さらに「ねいきかな」の詠嘆の優しさ。
梵鐘に野鼠の耳去年今年
飯村祐知子
「梵鐘」と「去年今年」を取り合わせた句は山ほど届きました。が、中七が楽しいではありませんか。「野鼠の耳」を見たような気がしたよ、そうだ「今年」は子年ではないか! という新年へのご挨拶。
海中に列島数多去年今年さとけん
蝋燭の去年の今年の火の微動さとけん
壁に穴五つ去年今年の画鋲いかちゃん
喜最中を餡あふるるや去年今年いかちゃん
わたくしを裏がはとせよ去年今年ほろろ。
去年今年この星に吾の漏れゐたるほろろ。
チェーン店の灯を便る帰路去年今年ふるてい
サイドミラー畳めば黙や去年今年ふるてい
秒針の流るる軌跡去年今年あつちやん
オルゴールこつんと止んで去年今年あつちやん
裃に上と下あり去年今年いなだはまち
地球儀に知らない国や去年今年いなだはまち
大人は嫌い去年今年の煙草は不味いぐでたまご
去年今年テレビは嘘みたいに平和ぐでたまご
去年今年塗り直したる漆椀くま鶉
黒紅の空に富士山去年今年くま鶉
一個づつ通す真珠や去年今年クロエ
去年今年がちやりと鳴りし連結器クロエ
去年今年瓶に飼ひたる夢逃がすじゃすみん
去年今年かりかり猫の咀嚼音じゃすみん
去年今年生きてる不思議死ぬ不思議シュリ
ピクピクと物もらいの眼去年今年シュリ
染め直す塩瀬の帯や去年今年シュルツ
アメーバを陰で育てる去年今年ジョビジョバ
去年今年振り子往復する時計ジョビジョバ
去年今年研いだナイフは隠したままたんばたろう
去年今年深夜ラジオはクリアなりたんばたろう
去年今年お薬手帳は七冊目トマト使いめりるりら
去年今年臓器微かに錆の音トマト使いめりるりら
こんこんと美しき湧き水去年今年にゃん
月うつす去年の今年の水のあをにゃん
去年今年星の廻りは揺るがざるふじこ
ハーメルンの笛は長調去年今年ふじこ
平らかに人の行き交う去年今年みやかわけい子
身の内の軋む音あり去年今年みやかわけい子
かりそめの世の臍の緒や去年今年みやこまる
しなやかにほどける雲や去年今年みやこわすれ
去年今年父の振る舞ふ手打ちピザ葦たかし
新宿のネオンに祷る去年今年葦たかし
時計塔指す星の距離去年今年安宅麻由子
味噌汁の上澄みの色去年今年安宅麻由子
去年今年歯車錆びし時計塔宇田建
去年今年自動販売機は無言宇田建
足の薬指ばかり攣る去年今年横浜J子
箱買いのカップヌードル去年今年横浜J子
ポケットの見知らぬ名刺去年今年可笑式
振子時計みぎ去年ひだり今年かな可笑式
薄っぺらなトンネルのごと去年今年玉木たまね
煮詰まりし豚汁甘き去年今年玉木たまね
雨やはらかく宿直の去年今年古瀬まさあき
採血の針沈みゆき去年今年古瀬まさあき
去年の毛を拾ふ今年のワンルーム古田秀
去年今年ゆつたり白む鍋のあら古田秀
腹減れば人はもの食う去年今年綱長井ハツオ
少し永く目蓋の中や去年今年綱長井ハツオ
参道の星衝く杉や去年今年佐藤儒艮
去年の波今年の大地浚ひけり佐藤儒艮
ドーナツの穴はさみしい去年今年彩楓
くぎぬきに支点力点去年今年彩楓
吾をぬぎすて吾にもぐりこむ去年今年山太狼
蝋燭岩海に踏張り去年今年山太狼
去年今年第九はずっと反戦歌七瀬ゆきこ
去年今年この一秒がとても酸い七瀬ゆきこ
秒針の勿体ぶって去年今年潤目の鰯
ボール紙の壁通過する去年今年潤目の鰯
去年今年酔ひて大阪環状線小池令香
革包丁研ぎ終へ父の去年今年小池令香
頓服の色は変わりて去年今年城内幸江
絆創膏きれいに巻けて去年今年城内幸江
去年今年夜を呑みたる鰐の口仁和田永
腕時計越しの機影よ去年今年仁和田永
本棚の誰ぞのサイン去年今年赤馬福助
あの星の生まれた理由去年今年赤馬福助
鍵盤に月の光や去年今年蒼鳩薫
基督は近くて遠し去年今年蒼鳩薫
蕎麦つゆを葱の漂ふ去年今年多々良海月
我が焼きし皿の窯変去年今年多々良海月
去年今年庭の空気は折れ曲がる大和田美信
あめ玉でむくむポケット去年今年大和田美信
去年今年ゆりの鱗茎傷あまた宙のふう
一弦の琴の弦しめ去年今年宙のふう
火焔土器燦燦去年今年の風藤色葉菜
去年今年電波望遠鏡の黙藤色葉菜
泡盛の壺光りけり去年今年南風の記憶
遺書を書く我が指熱し去年今年南風の記憶
去年今年左右いびつなる年輪八幡風花
綱一本縒る漢どち去年今年八幡風花
揚げられし骨噛み砕く去年今年比々き
活きいきと水減る花瓶去年今年比々き
煙草火の一灯を持す去年今年樋口滑瓢
去年今年オオグソクムシ脱皮せり樋口滑瓢
去年今年しののめに竹割るる音菱田芋天
去年今年ソーセージ茹でまた独り菱田芋天
去年今年夜の一番深い場所富山の露玉
三分でできる拉麺去年今年富山の露玉
去年今年神は無色なる饒舌平本魚水
鍋すべて磨き終えたり去年今年平本魚水
唐辛子売る門前や去年今年北村崇雄
ベビーカステラのピック去年今年掻き出す北村崇雄
去年今年海穏やかに地震を待つ北野きのこ
肉を裂く形の化石去年今年北野きのこ
教え子の墓碑に小鳥が去年今年牧野敏信
臓器ひとつ召し上げられて去年今年牧野敏信
去年今年回転寿司は止まらない椋本望生
端と端結んで祝ふ去年今年椋本望生
去年今年人工衛星五千基へ明惟久里
五ノットの黒潮ぐねり去年今年明惟久里
去年今年潮満つ月下の大鳥居柚木みゆき
酩酊は酉へん二つ去年今年柚木みゆき
去年今年香取神社の亀の数朶美子
浴槽にひば油一滴去年今年朶美子
茹玉子の芯へと余熱去年今年いさな歌鈴
去年今年火種の残るパイプ吹くトポル
ほの温きベビーカステラ去年今年板柿せっか
去年今年雨漏りの粒ふくれたり飯村祐知子
去年今年たくさん余ったインスリン⑦パパ
進退を正し楷書で去年今年M.李子
去年今年故人の部屋に風を聴きRUSTY
大小の魚食みつ酌む去年今年sakura a.
去年今年起こさぬやうに置く湯飲みあいだほ
去年今年告げる秒針のなめらかあきのひなた
去年今年ヨガ教室の鼻呼吸あくび指南
流木の名は知らねども去年今年あさふろ
酔客に足を蹴られて去年今年イキイキ生活
鉛筆の変はらぬ机上去年今年いまいやすのり
老犬の瞳に濁り去年今年うさぎまんじゅう
去年今年『夜景の綺麗な病室です』うどまじゅ
去年今年サビだけわかる歌ばかりオカメインコ
去年今年漢字ばかりが目立つ街おくにち木実
去年今年誰も死なない絵本読むかしくらゆう
洗濯物の絡まりほぐす去年今年かつたろー
海峡を寝台列車去年今年かぬまっこ
母の居ぬ実家に帰る去年今年きえもん2号
被災地と呼ばれし故郷去年今年きなこもち
地球儀のきしりと傾ぐ去年今年ぐ
去年今年ほんのり墨の香の夜明けくりでん
握る手を握り返して去年今年けーい○
去年今年波打際に螺の殻こぶこ
五徳を磨く去年今年の静寂さだとみゆみこ
去年今年小穴あけたる毛玉取りさとう菓子
去年今年合わせ鏡をさすらいてしらふゆき
「新」の字にまだ胸弾む去年今年しんび
去年今年トランペットを出る空気すりいぴい
去年今年猫を洗いて癒えぬ傷スローライフ
天空へ続く山道去年今年たむらせつこ
秒針の刻む沈黙去年今年テツコ
去年今年一杯分の湯を沸かしてまり
去年今年水の巡れば新しきとかき星
去年今年ポンと飛び出すパン二枚ときこ
登記簿に残る乙欄去年今年としなり
地下鉄の出口入口去年今年としまる
子守唄の息継ぎ深く去年今年とりこ
ほの熱きクロマトグラフィ去年今年とりこ
去年今年被爆駅に人語戻るなんじゃもんじゃ
去年今年厨に残る煮しめの香はむ
紙皿のピザの食べさし去年今年ひでやん
神前の一献清し去年今年ふみ
目口とも開き寝る子や去年今年ペトロ
カレンダーに命日を記す去年今年べびぽん
三椏の枝箸となる去年今年ほしの有紀
去年今年見えない糸で縫うボタンぽんず
星の置き忘れ去年今年の御空まどん
去年今年鏡の前の同じ顔 まりい@
風呂の窓揺らす終電去年今年みかりん
終バスは運転手のみ去年今年みちむらまりな
コンビニも駅も無き村去年今年みなと
我に打つ輪ゴム鉄砲去年今年みわ吉
点棒の代わりのマッチ去年今年ももたもも
去年今年 80歳の中学生ゆうら
老犬の目のなかの霧去年今年ゆりたん
旅人としてのふるさと去年今年ラーラ
去年今年ゆつくり回る星の上るりぼうし
山の端の月影白く去年今年わかなけん
骨軋むほど眠りをり去年今年伊予吟会宵嵐
去年今年朝日の粒子頬に受く遺跡納期
三面鏡の奥まで笑へ去年今年一斤染乃
神鏡や開手の響く去年今年稲架くぐる
去年今年牛蒡ごときに手をこまね羽沖
禁色の暗記シートや去年今年浦文乃
糸をなめ針穴探る去年今年円
山手線起点に戻る去年今年遠藤一治
高階に大樹の揺れや去年今年塩沢桂子
風見鶏一点示して去年今年奥の木
去年今年主待ち居る父の椅子岡田玲凛
去年今年惰性で自転しつづける佳山
漬け樽の朽ち塩吹きて去年今年花岡淑子
去年今年列島龍と化し渡る花屋英利
去年今年発酵進むヨーグルト花伝
船の先岬をかわし去年今年海口あめちゃん
湾を出る汽笛のびやか去年今年蛙里
使い切るペン清々し去年今年甘酢あんかけ
頂上や吐く息荒く去年今年閑蛙
泡吹いて燃える生木や去年今年紀泰
教会の鐘の音混じる去年今年亀山酔田
退院の遅れし個室去年今年亀田荒太
去年今年持病の薬を飲み忘る菊原八重
こぞことしないたりないたりはしったり吉田結希
去年今年独りの窓辺家族の窓辺吉藤愛里子
ページ繰る指の嬉しさ去年今年久我恒子
守衛室テレビの灯り去年今年宮部里美
去年今年都会に向かう高圧線玉井瑞月
ラジオの向きを黄泉の扉へ去年今年桑島幹
零下無風夜空の軋む去年今年薫子(におこ)
神棚に一礼重き去年今年月の砂漠★★
去年今年建築本に俳句本研知句詩
山手線の発車メロディー去年今年原田民久
去年今年豊かに出汁の澄みきつて花南天
芳しきハンドクリーム去年今年古都 鈴
去年今年宇宙にありてひょいと越ゆ戸根由紀
去年今年結石動く気配かな戸部紅屑
去年今年眼鏡と空の割れにけり五月闇
掛軸の達磨大師や去年今年後藤久
去年今年船は繋げたままにあり後藤允孝
去年今年太き筆の穂尖りをり高橋なつ
ひとり食む天ぷらうどん去年今年高橋光加
防犯の腕章硬し去年今年高橋寅次
祖母が煮たチクワを覗く去年今年高石たく
明神の鯉のうねりや去年今年克巳@夜のサングラス
野の風に星の砕けて去年今年今野夏珠子
掃除機の唸りの弱る去年今年今野浮儚
去年今年薬ケースの子の薬佐藤千枝
竜頭巻く指先の傷去年今年斎乃雪
アフガンの水路滔滔去年今年坂まきか
鍼の山打ち捨てられて去年今年榊昭広
去年今年モノクロームの歌謡祭三河五郎
窓の奥に首里城は無し去年今年山﨑瑠美
残されし館内の書ぞ去年今年山沖阿月子
たくあんを咀嚼する妻去年今年山吉白米
老犬と腎臓1つ去年今年山口香子
誂えのしつけ抜きさる去年今年山踏朝朗
去年今年靴は静かに人を待ち山内彩月
去年今年帆船の少女夜明けへ山辺道児
去年今年湖面に光降り立ちぬ山本康
放尿の軌跡朗らか去年今年山本先生
黙然と写経の匂ふ去年今年山名凌霄
去年を発つドミノが辿り着く今年志乃
去年今年なお寝かせ待つ蔵の桶獅子蕩児
かがやきちがふ去年の鐘今年の鐘紫小寿々
地下鉄のヴィトンに毛玉去年今年篠崎彰
呼吸だけしている父や去年今年若井柳児
関白の金箔瓦去年今年珠桜女絢未来
なくならぬ飴玉噛まぬ去年今年珠凪夕波
未熟なる海を愉しむ去年今年秋夕介
文机に古事記繙く去年今年秋水
糠床の塩指に沁む去年今年春告げ鳥かずえ
喪の家の灯りもれ来る去年今年純香
病室の天井白し去年今年小笹いのり
鍵盤につまずく指や去年今年小山晃
去年今年くすり袋の三日分小杉泰文
繋がれし管それぞれに昨年今年小川天鵲
六百カロリーの点滴で母去年今年小倉あんこ
去年今年変わらぬ招き猫置き場小谷百合乃
去年の塵今年の塵が重ならむ小南子
去年今年『夏目漱石俳句集』小林陸人
海老蔵の隈取り青し去年今年松井くろ
去年今年水切りかごに箸二膳松本裕子
去年今年照明の埃は静か焼田美智世
去年今年ピアノが奏で星の曲上原淳子
県境のコンビニ眩し去年今年常幸龍BCAD
凍結卵はなくなりました去年今年色葉二穂
借景の三山遠く去年今年新美妙子
去年今年百花金泥磨き抜く森青萄
寝に入る薬数えて去年今年真繍
去年今年バスの光はこぼれつつ水夢
こぞ今年金太郎飴とんとんとん水木華
文机に筆と硯や去年今年杉浦あきけん
去年今年神棚光る武道場世良日守
去年今年龍角散がすつからかん清島久門
去年今年蕎麦を待つ間のモツ煮込み西川由野
トンネルの先に蒼あり去年今年西藤智
ほどいてもメビウスの帯去年今年西尾至史
去年今年動かぬままのマグマあり西條晶夫
去年今年胎児の強く蹴り上げる青海也緒
留紺の闇に咳去年今年青田奈央
座布団の上の花札去年今年石井茶爺
月の色淡く変はりて去年今年石崎京子
長財布程よく肥えて去年今年倉岡富士子
去年を来て今年を遠く救急車倉木はじめ
去年今年妻は継ぎ足す急須の茶蒼奏
去年今年箱にマルボロあと2本多喰身・デラックス
音たかくおゝきな振子去年今年多田ふみ
検査オペ戻る病室去年今年太田鵯
エスプレッソ干して残り香去年今年大槻正敏
去年今年妣の着物を枕元大槻税悦
鐘楼の中は空っぽ去年今年大庭慈温
去年今年ダンボール箱はあのまま沢拓庵
美濃和紙の墨のかすれの去年今年知足
去年今年星も瞬きますように池之端モルト
湯気に浮く銭湯富士や去年今年竹口ゆうこ
蜘蛛の吐く糸の光や去年今年竹内みんて
祖母の尻子の尻と拭き去年今年竹内桂翠
去年今年拭けばたちまち曇る窓中岡秀次
去年今年燈籠毎の火のゆらぎ中西柚子
人生に苔付き始む去年今年中村凧人
奉献の樽並びをり去年今年昼行燈
屋根裏にかさと音して去年今年昼寝
コインランドリー衣服膨らみ去年今年衷子
去年今年持ちたるままの脳腫瘍朝日のど飴
ホコリかぶった手帳に踊る字去年今年長谷川京水
去年今年点滴の針貫きぬ長谷島弘安
テロップの地震情報去年今年直木葉子
ブルースの流れる銀座去年今年辻が花
束となる第九のチラシ去年今年天野呑水
去年今年雲のかたちをこわす風天野姫城
去年今年人差し指のやじろべえ天陽
剃刀の替へ刃新たな去年今年田村利平
ザック、カンテラ杣道を入る去年今年斗三木童
拭き残す鏡の指紋去年今年杜弦
山小屋のふるまい酒や去年今年渡辺みちこ
大鍋に黄金の出汁昨年今年登久光
避難所の仕切りは低し去年今年都乃あざみ
スパコンの発熱ゆたか去年今年土井探花
シリア国境去年と今年の土埃土田耕平
つけ汁のよく絡まるや去年今年嶋田奈緒
封印の紅白紐や去年今年藤井茂
仕舞風呂「箱根の湯」入れ去年今年藤原訓子
去年今年老猫だけの学生寮藤田ゆきまち
今週の薬のケース去年今年奈良素数
トランプのクィーン殺めて去年今年内藤羊皐
天落つることなく通過今年去年内本惠美子
海の去年今年機内の去年今年南方日午
点滴につながれし身や去年今年入江幸子
三越のライオンしづか去年今年播磨陽子
太陽が滅ぶまで亜ぐ去年今年白よだか
朝映えに無彩の富士や去年今年白雨
去年今年ねことだるまさんが転んだ白瀬いりこ
書くと決め墨の行方や去年今年畑詩音
去年今年進行形はありがとう八木実
瓶に積む雑穀の層去年今年帆風
去年今年逃げ得の棒貫かれ比良山
チェレンコフ光放つ羊水去年今年緋乃捨楽
去年今年丁寧に伸ばすカレンダー飛来英
去年今年実に治らぬ鼻づまり浜野洋志
新聞のねじ込まれおり去年今年武田朋也
洗濯機染み残し鳴る去年今年福井三水低
尿道カテーテルの管に湯気たつ去年今年福良ちどり
歩むための杖を磨くや去年今年文月さな女
がらんと道の終点去年今年碧西里
白足袋のこはぜ冷し去年今年片岡佐知子
去年今年引き摺っている死んだ蝶北原早春
去年ことし明るき窓と桟のしみ北藤詩旦
下手な歌と酒に酔ふとぞ去年今年睦月くらげ
去年今年夜半の雲の白さかな麻生恵澄
「令」の字の尻尾の長し去年今年満る
去年今年湯船に数ふ百と九茂る
去年今年父祖は伊勢より来しと云う木村かわせみ
去年今年屋波点々青シート木村修芳
一病にあてがう薬去年今年門未知子
輪転機ニュースはき出す去年今年門前町のり子
まだ温い尿瓶取り替え去年今年野ばら
去年今年引き波に鳴く碁石浜野地垂木
四万十の水の音色や去年今年野中泰風
折込に金文字踊る去年今年野木編
去年今年海に投げたる石の音柳川心一
御守りを包む炎や去年今年唯飛唯游
母と子の機織る背や去年今年有本典
去年今年宿直室のカップ蕎麦由づる
去年今年闇にほどけるカップ麺遊飛
まっさらな講座テキスト去年今年雄山卓女
新しき筆の糊解く去年今年葉るみ
去年今年しまひ湯のややぬるかりき葉月けゐ
哲学者は男ばかりと去年今年藍野絣
去年今年消せるペンでも消えぬ文字梨音
観音のドレープに纏わる去年今年連雀
去年今年釉薬玉となりて落つ露砂
将棋駒磨いて仕舞う去年今年惑星のかけら
電子辞書電池取り替へ去年今年鷲野の菊
病室に射しこむ光や去年今年國吉敦子
シャンパンで祝ふ機上や去年今年巫女
姿見の向こうは昏し去年今年暝想華
雨の吸ふ遍く音や去年今年洒落神戸
去年今年自分の墓を掘り続け涅槃girl
雨だれはA♭音(アス)の連なり去年今年淺野紫桜
シンバルの放つ閃光去年今年澪つくし
去年今年同じにおいの部屋にいる祺埜箕來
猫缶と小鍋の夕餉去年今年齋藤むつは
こゑひびく強気の烏去年今年齋藤富美代
瞬きの硬き星々去年今年蓼科川奈
傍題(初昔、宵の年、去年、今年など)
初昔まぶたの裏の蛍光灯かねつき走流
金箔を散らし厨の初昔すがりとおる
初昔すでに野望を抱えたりゆすらご
空の薬包の匂ひ苦くて初昔加裕子
青焼の夫のにほひや初昔薫夏
オクターブまたげぬ指やはつむかし桜姫5
窯出しのいびつ茶碗や初昔三島瀬波
初昔かすかに甘き釜の湯気鈴木由紀子
宵の年鳥居の列に星座かなさくら亜紀女
菜箸の先甘きかな宵の年黄桜かづ奴
宵の年吾子の寝息の太きこと加裕子
宵の年一匙ほどのマスタード夏雨ちや
窓ごしの鐘に身支度宵の年玉響雷子
空き箱のなかに去年の空気ありゆりたん
不精髭剃れば背中に去年の鐘侘介
隣にも寝息の在りて去年今年季凛
またひとつ病名いただき去年今年吉田びふう
家の味引き継ぎ詰める去年今年鹿嶌純子
薪を足す顔赤赤と去年今年篠雪
去年今年連なる枝に蕾付く小鷺の足
出来立てのうま煮供えて去年今年小川都
去年今年泣きぼくろ消す笑ひじわ上野眞理
名刺から肩書き消えて去年今年星善之
髪染めぬ人の麗し去年今年赤橋渡
去年今年流行語何だったっけ第一句けいぜろばん
変わり玉をなめ続けるや去年今年名計宗幸
去年今年閉めたカーテン開ける朝見屋桜花
鐘の音の余韻を拾う去年今年さくやこのはな
ゴミだしは俺の仕事や去年今年伊藤ひろし
夢を追い地球儀回す去年今年福泉
残り湯で風呂場掃除や去年今年AKI
ジルベスタシンバルの余韻去年今年ANGEL
オーロラのゆらめいている去年今年Dr.でぶ
去年今年貫くバールのやうなものGONZA
朝日浴び歩く靴跡去年今年haru.k
こぞことし孫抱き上げてそらたかしHirobumi
雑踏の隙間に見るや去年今年Kまさこ
去年今年見えない糸を手繰るごとmomo
去年今年明日は私の味方するあおか
去年今年見切り苗買い咲くをまつあきよ
耳澄ます去年今年の通る音あまぐり
往来の気配静けし宵の年あらら
里帰りの娘の小言去年今年アンマンパン
鐘の音に思いを馳せる去年今年いろをふくむや
置き去りの第九の歌詞や去年今年ウチダヒデキ
砂時計ひっくり返し去年今年うめがさそう
去年今年進路が決まり孫娘えみばば
おくどさん湯気が幸せ去年今年おうれん
躓けど地球は回る去年今年おおい芙美子
去年今年老いの意気込みひとり酒おおはらひめ
一張羅にあてるアイロン去年今年おざきさちよ
去年今年ゴーンは楽器ケースでgoneおさむらいちゃん
歯ブラシの四っつの色に去年今年おひい
新旧の枕木積まれ去年今年おぼろ月
マンネリも生きる力ぞ去年今年カオス
無を奏でし点滴と鐘去年今年かたちゃん
瓶のふた開けられなくて去年今年かもめ
早寝してマインドセット去年今年カワムラ
添い乳にとろんと眠る去年今年カンガルーのしっぽ
去年今年1.17から25年キートスばんじょうし
七七日終えて一人の去年今年きつね人
去年今年主婦の仕事に終わりなしきみえは公栄
去年今年走り抜けたる救急車くっちゃん
角丸き花札跳ねる去年今年くるみだんご
世界地図ルーペ片手に去年今年くるめ絣
去年今年変わらぬものと変わることケンG
匂いたつ豆煮る音や去年今年こつみ
去年今年補助輪取れし横柄よサイコロ帝釈天
去年今年百歳祝う伯母が居るさかたちえこ
宵の年とうとう遂に一人酒さこ
星の数違って見える去年今年サチ
去年今年からっぽの空銀世界さなぎ
銀盤に滑走の痕去年今年しかもり
胎動の探る手手手手去年今年じょいふるとしちゃん
矢印のやうには行かぬ去年今年すみすずき
菜食に傾け透く血去年今年せり坊
去年今年イチ日だけの年女それいゆ
去年今年夫の朝食ゆでたまごたじま
病床で握る手は孫去年今年タシャキ
蛇口から湧く水祝う去年今年たすく
工場の煙に空に去年今年タマゴもたっぷりハムサンド
命名と書いて思案す去年今年ちゃうりん
高らかに第九の歓喜去年今年つちのこ
去年今年あぁ幸せと息をはくツユマメ
去年今年九九の宿題学ぶ日々ツユマメ末っ子@元旦で8歳
亡き母の筆跡優し去年今年ときめき人
ずらずらと並ぶ徳利去年今年とみことみ
去年今年煩悩の鐘聞きながらなかにしうさぎ
ケア日誌十二重ねて去年今年なごやいろり
三面鏡口角上げる去年今年ねがみともみ
水切りの食器乾きて去年今年ねぎみそ
去年今年流し片して砥石出すはっかあめ
去年今年貫く義父の卵かけパッキンマン
病窓に航空灯火去年今年はなあかり
残響のように胎動去年今年はのんぴあの
導眠剤今宵も断てぬよ去年今年はらぐちゆうこ
引き継ぎの行事せはし去年今年はるちゃん
臨月の腹さすりつつ去年今年ハルノ花柊
こぞことし夢追ふ夢や齢い人はるる
去年今年しゃべるちから噛む力ひっそり静か
始めるより続けたいこと去年今年ひな芙美子
去年今年夜汽車の汽笛もひびきをりビバリベルテ
去年今年ノートに書いた抱負読みひめりんご
去年今年遺影の祖母は笑まひをりひろき
大病も忘れてしまえこぞことしひろぶみ
いつまでもさかむけの指去年今年ひろ夢
仏壇の人また一人増ゆ去年今年ふくろう悠々
古稀迎え陽水聞けば去年今年フク猫
去年今年猫観て学ぶONとOFFヘッドホン
散歩綱だらりだらりと去年今年ぼたんのむら
付箋だらけの厚き歳時記去年今年ポンタ
片恋を告げ返事ない去年今年マゼンタ
サンタコスチュームこそ去年今年ぞとまるかじり
ばたばたと続く貧乏去年今年みた せつよ
丁寧に湯垢落として去年今年みやざき白水
許せぬを祈りに変えん去年今年もつこ
去年今年好天荒天それ好転もりもり
また喧嘩始まりそうな去年今年ヤヒロ
去年今年跨ぐリハビリ雨もよいよしこ
去年今年二十年目の独りの夜よしざね弓
ありがたやリセット青空去年今年よしはら木犀
去年今年地球は四十六億年よにし陽子
ガキ使はちょっとやり過ぎ去年今年り子
宇宙から客黎明の去年今年わたなべぃびぃ
希望より反省多し去年今年亜紗舞那
去年今年カノンのやうな日々新た愛燦燦
去年今年水の滴る閻魔堂葵新
去年今年つま縫う母や八十六綾乃栞
新婚の娘と拭く椀去年今年伊藤亜美子
髪切って男も切って去年今年伊藤順女
カレンダー厚し茶の間の去年今年伊藤小熊猫
第九流る流しに立ちて去年今年伊藤正子
病室の父をかこんで去年今年伊藤節子
涙もろい二人となりぬ去年今年井松慈悲
去年今年次の干支はと日の出待つ井上繁
二十日鼠の車輪こぐごと去年今年郁松松ちゃ
引越しに痛めし去年の膝小僧宇佐美好子
酒くさき部屋開け放つ去年今年羽城裕子
去年今年くたびれた靴履き続け卯さきをん
まるまって眠るこいぬや去年今年栄
去年今年心が引いた線の上榎本真希子
歩き泣く八十八寺去年今年延杜
娘が嫁ぎ夫婦で写真去年今年縁恵
街灯はチラチラと鳴く去年今年遠藤百合
去年今年来年こそは今年こそ遠藤愁霞
予選落ち箱根駅伝去年今年岡れいこ
家計簿の集計ピタリ去年今年岡本育子
夢掛ける鈴緒ゆらして去年今年加賀谷ばぁーば
バス停にバス待つ人の去年今年可藤虚
点滴に繋がる我が子去年今年夏花
執着を一つ脱ぎ捨て去年今年河野なお
去年今年老いてく母に光あれ花咲みさき
行く末を風に任せて去年今年花咲明日香
自句自解ベスト30去年今年花紋
介護士のいつもの巡視去年今年雅喜
脛の毛の真白になりて去年今年海碧
ペンギンの歩くスピード去年今年海老名吟
去年今年上書きされていく故郷 灰田兵庫
去年今年皇后さまと同じ年齢笠原理香
不登校それでもいいの去年今年笠江茂子
また一つ越える峠よ去年今年蒲公英
錠剤の数の多さよ去年今年甘平
靴下の穴あいたまま去年今年閑々鳥
バカ騒ぎ横目に手酌去年今年丸山隆子
黒豆の鍋焦げ擦り去年今年岸本元世
夫となりお酒おしゃべり去年今年季切少楽
鈍の包丁を研ぐ去年今年紀章
去年今年要介護5の母を看る紀朋
当たらなかった当たりたい去年今年貴志洋史
忘れ物探しあぐねて去年今年亀山逸子
去年今年心に秘めしこと多し亀田稇
鍋の火の止める余熱や去年今年菊池洋勝
特記無く平穏無事に去年今年吉哉郎
結婚は墓場にあらず去年今年橘右近
そば湯飲むすする音子や去年今年宮杜都
入院のベッドの灯り去年今年居升典子
ワンチーム常にありたい去年今年玉井令子
アラフォーの嫁ぐあてなく去年今年銀のグランマ
去年今年増えた更地にダンボール銀長だぬき
難聴をラインの助け去年今年空
読み返す喪中はがきや去年今年空龍
夜明け前東に今年西に去年熊本真冬
有や無やにワインに酔ひて去年今年畦のすみれ
こぞことし目標たてず背伸びせず月昭
錆ついたシャッター街の去年今年原貴美子
介護に疲れ介護に笑って去年今年原 善枝
享年四十六追い抜くよ今年原口祐子
去年今年ナニガナニシテナントヤラ原田乃生
ハワイ行く写真のみで去年今年源氏物語
去年今年一畳世界が手術後古いっちゃん
理不尽に思いがつのる去年今年古史朗
去年今年私ファーストでいくつもり古時計
去年今年映えぬ卓にも子の賑わい古川勝弘
AIのひばりには泣く去年今年湖雪
竜巻の渦の中廻れ去年今年吾輩はペンである
子を叱り夫を励まし去年今年光子
一枚の暦めくりて去年今年弘
晴明や御代のかわりし去年今年江見めいこ
去年今年柱時計のねじを巻く江川月丸
下弦月たずね人来たり去年今年江田綾子
繰り言も背中で聞いて去年今年江藤薫
氷河期もなつかしきかな去年今年甲山
去年今年鐘つき堂の人の列紅さやか
タイ緩めソンホン川や去年今年香港ひこぞう
美ら海に三線の音や去年今年高沢草々
去年今年己の裡に聖と俗高田祥聖
昨年今年金運暦を掛け替える今井淑子
去年今年気持ち新たに朝日受く今井正博
去年今年馬の収支を眺めつつ今田哲和
家中に神宿るらん昨年今年根々雅水
去年今年相も変はらぬ誓ひ立て根本葉音
去年今年酒を片手に音頭待つ佐々木葉一
窓辺にて喉鳴らす猫去年今年砂舟
去年今年雨のち晴れを希望します斎藤数
去年今年孫に似てると有頂天細木梢
廃業の電話ぞ空し去年今年坂本千代子
足裏で玉じゃりを聴く去年今年三ツ星なつき
何としても解けぬ数独去年今年三浦ごまこ
真っさらなノートに替える去年今年三茶F
磨かれし門扉冷たく去年今年山育ち
あたらしき隣家に灯り宵の年山科美穂
令の字に導かれたる去年今年山女魚
古稀すぎし色なき日々に去年今年山川恵美子
雑然の机上の整理去年今年山川芳明
去年今年六万円のニューレンズ山川真誠
去年今年孫の寝顔に留まりぬ山中一男
気の利いたこと云へぬ親去年今年山田啓子
ほろほろと編み目ほどけし去年今年紫瑛
会長名空白のまま去年今年詩扇
去年今年トムはジェリーを追ひかけて次郎の飼い主
歳時記の去年今年の栞かな実果
メビウスの帯の表裏や去年今年紗千子
去年今年わが手に刻む生命線紗智
徐に夫転がして去年今年蛇井めたる
去年今年凶器の夢と愛の夢酒井おかわり
二年前去年今年から来年へ酒井重治
元号の国に生まれて去年今年寿松
去年今年平穏であれ弁膜症秀耕
今に立ち前を望みて去年今年秀道
湯をたててゆるりと浸かり去年今年秋月なおと
鐘の音を分け目とするや去年今年秋扇
去年今年生かされてをりしずしずと出井早智子
去年今年最後のピース欠けたまま春日春都
なほあまた行くへ知れずや去年今年春日野道
去年今年卒寿の母は晩酌し初野文子
幸せは重ねた手のひら去年今年渚
さっぱりと店じまいなり去年今年緒方しんこ
お煮しめの味の染み込む去年今年小鞠こまり
去年今年スマホ片手に里帰り小栗福祥
まばたきとため息1つ去年今年小雪いつか
天仰ぐ子の夢叶え去年今年小川みのり
無くすことばかりの多き去年今年小田慶喜
スクワツト夜勤の窓に去年今年小田虎賢
年パスでゐる動物園去年今年小田龍聖
駄句もまた我が分身ぞ去年今年小田和子
早朝の滾るヤカンや初昔小柳悠子
去年今年夜空に凍てし鐘の音小林翼
言いそびれ聞きそびれし去年今年松原隆雄
市電果つ改札閉めて去年今年松山帖句
去年今年夫居ぬ家に慣れるのか松虫姫の村人
母さんの小さな背中去年今年松田文子
去年今年いつか読みたいジェーン・エア松田夜市
ローマ教皇笑みに願いを去年今年松島美絵
去年今年世界各地にデモ嵐松尾義弘
去年今年吾を吾と信じ歩みたし焼津昌彦
鐘撞きの番と時計と去年今年城ヶ崎由岐子
秒針はぶれずに刻む去年今年植田かず子
過剰なる思い抱えて去年今年植木ふうこ
もうひとつ点滴増える去年今年新開ちえ
接点は無くも円満去年今年森の水車
受験子の蕎麦は餅入り去年今年森弘行
去年今年一度でいいから逆上がり森乃花香
煩悩は消せど又来る去年今年森澤佳乃
笑え笑え鏡に向かいて去年今年真雪割豆
隣り合う店舗は空き家去年今年真宮マミ
義母遺影波乱万丈去年今年真優航千の母
去年今年新しき衣を身にまとい真理庵
はんなりと地球をつつむ去年今年神谷米子
飲む理由両手に余り去年今年酔
去年今年ハムスター走る走る酔進
親がいて子と孫がいて去年今年雛まつり
去年今年神門くぐる時を待つ杉浦夏甫
知命にてピアノ始めし去年今年杉浦真子
秒針の刻みこつこつ去年今年杉本果蓏
ジェットよりメリーゴーランド去年今年菅原千秋
去年今年時を越えるや初舞台星夢光風
老人といつしか呼ばれ去年今年晴好雨独
髪に輪ゴム結わえたまんま去年今年正岡恵似子
竹樋の背戸より聴こゆ去年今年正子@いつき組
生涯の百歳体操去年今年清水容子
病室にチューブで繋がれ去年今年清水トキ
去年今年かげカラフルなガラス窓清水祥月
ラーメン屋の深夜営業去年今年西原さらさ
煩悩の一つ残して去年今年西條恭子
去年今年二人で見下ろす金沢城誠美
エンブレム天を貫く去年今年青い月
さしすせそ順番守って去年今年青井晴空
卓囲む手止め鐘の音宵の年青児
去年今年出汁の香りて猫丸し石ころ粒太郎
玄関の干支の置物去年今年石岡女依
ぬうらりと去年今年為政者の笑み石垣エリザ
去年今年揃いし顔に幸あれと石田恵翠
去年今年地酒朝風呂一里塚跡部杜都
去年掛けし煮物の煮上がって今年雪井苑生
去年今年絆創膏のひとつ増え雪華きなこ
政界も変わり映えなく去年今年雪豹
小さき窓知ったつもりの去年今年仙石石枕
去年今年夫と仲良く句づくりを千鶴姫
去年今年酸素マスクの手を握る千日小鈴
去年今年指折り数えること始め千百
石段のまだ途中なり去年今年千葉睦女
白髪のますます艶ます去年今年川村昌子
笑っても泣いても過ぎる去年今年川畑彩
去年今年時の区切りは我のもの泉子
捨て去りしはずの故郷にゐる去年今年浅井和子
去年今年バールのようなもので衝く曽我真理子
出戻りの愚息がうたた寝去年今年倉澤慶子
生まれ来た赤子のあくび去年今年惣兵衛
生存率覆したる去年今年早山
善き人になった気のする去年今年痩女
去年今年と青空広し古希かな則本久江
ふる里に初孫も来て去年今年村若案山子
秒針は短針を抜き去年今年村松登音
去年今年一休禅師の声がする駄詩
去年今年歩もうかハイクの妙を大宮信子
去年今年やむなく捨てるお気に入り大原雪
去年今年家族ラインに無我夢中大原妃
去年今年髪の跳ねたる撫で付ける大山こすみ
一病の疑いに揺れ去年今年大山小袖
猫の顎を掻いて過ごすや去年今年大小田忍
今一度鍵かけたよな去年今年大村真仙
去年今年振り返る先君がいる大本千恵子
去年今年スマホに財布も吸い付きぬ大友さち
去年今年捧げる玉串深緑鷹野みど
去年今年越えよとばかり海峡橋谷口 あきこ
去年今年想いをここかと揺り渡す谷中薫氏
宮集い祈りてつなぐ去年今年谷本真理子
頬ほろり犬の仕草に去年今年丹羽信道
去年今年模試で合否を占う日々池田華族
去年今年勢ますや早きこと池内ねこバアバ
ドミノ倒し記録は続く去年今年竹内うめ
去年今年老いゆくこの身もてあまし中山白蘭
離陸する欧州便や去年今年中島知恵子
母在るや百一歳の去年今年中島圭子
筑前煮出直す味の去年今年中嶋京子
去年今年叶った夢に丸つける中嶋純子
腎癌の疑い晴れて去年今年中道潮雲
去年の血液今年の牛乳搾りおり中八矢的
シニアカーぽつんと里を去年今年朝雲列
賜われる命の重きを去年今年長崎ジーン
「誰も死ぬな」力込めたり去年今年長谷川麻季子
現し世に身のみ置く母去年今年長谷川ろんろん
去年今年夜更かしの子ら歯を磨く長谷川麻季子
去年今年免許返納未練なし津軽生木子
去年今年誕生日の古新聞椎名貴之
歯磨きのうちに変はれり去年今年辻句楽
去年今年吐息の数も雪の中椿百合
荷を下ろしゆたりと歩む去年今年田村伊都
身の丈の暮らし楽しや去年今年田中ようちゃん
明けたとて昨日の続き去年今年田中玄華
螺旋状に時は過ぎゆく去年今年田中勝之
幼子のごと眠りし老母去年今年田畑尚美
去年今年メビウスの輪の裏表渡辺牛二
一人居のけじめ乏しや去年今年渡辺陽子
酒飲める歳になつての去年今年渡邉一輝
初売りに並べる孤独や去年今年渡邉久晃
投了をAIに告げ去年今年渡邉竹庵
庭先を猫横切りて去年今年都忘れ
汁粉啜る去年今年の境内土屋雅修
終活の終りの見えず去年今年冬のおこじょ
去年今年鏡の中の百面相嶋良二
去年今年紫イモは蒸かせよな東風弘典
寺の鐘要らぬというか去年今年董人悟念
去年今年老母の皺の深さかな藤井信弘
重き膝さすりさすりて去年今年藤井眞おん
大鼾ときどき止まり去年今年藤千鶴
去年今年港の汽笛いつせいに藤田康子
去年今年闇を切り裂く鷺の声藤田真純
去年今年今だけ純な心持ち道産子ひとみ
去年今年賞味期限の待ったなし徳庵
匂ひたつ妻の姿や去年今年独星
お洒落より部屋でぬくぬく去年今年内田誠美
日常は劇的でなし去年今年楢山孝明
梅の香のゆかしき御代よ去年今年楠田草堂
宝くじやつぱり買うぞ去年今年二鬼酒
去年今年ナースコールは押さぬよう尼島里志
去年今年遺言書き直さねば埜水
去年今年ただただ健康ただ健康馬笑
和の国も妬み嫉みの去年今年馬場東風
八十翁俳句のイロハ去年今年俳句の枝幸十佐
一秒の長き沈黙去年今年背馬
「至誠」とふ額の曇りて去年今年梅一輪
新しき下着を付けて去年今年梅嶋紫
ゴミとなる手帳ビリビリ去年今年梅木若葉
令和元年は昭和何年去年今年梅里和代
去年今年田畑継ぐ手で酒を飲む白康人
黒板に新しき文字去年今年白沢修
去年今年流るる水のごとくなり白土景子
祖母は逝きぬ去年今年の空に星白浜ゆい
距離軸と時間軸作る平面去年今年八重葉
家猫の寝返りをして去年今年樋熊広美
去年今年夜汽車で数ふ願い事尾花なっちゃん
初孫の写メ眺め笑む去年今年尾関みちこ
去年今年ブレーキもなくアクセルも琵琶京子
母の味出せぬ黒豆去年今年美山つぐみ
あのダルマ両眼開いた去年今年美翠
今日が明日それでもやはり去年今年蛭本喜久枝
重箱と我と厨の去年今年浜けい
厨房に火種絶やさず去年今年富野香衣
昭和から平成れいわ去年今年敷島せっつ
新手帳抱負記して去年今年風花まゆみ
去年今年啜りし汁の変りなき風慈音
蔵4つ懐古の終活去年今年風泉
時航機も速度制限去年今年風峰
閉店の売り尽くしセール去年今年風紋
去年今年臥せる我が身のくやしさよ風来坊
故郷の家空けてをり去年今年伏見華
去年今年波音は惚と寝落ちぬ福弓
黒猫と黒豆煮ており去年今年福泉
デイサービス今日は輪投げか去年今年福冨君子
襟合わせ神社の餅食む去年今年文夫
去年今年明日も名札を入れる箱平原陽子
去年今年年に一度の定休日片栗子
氏神さんで祝うて三度去年今年弁女
かわるものかわらぬものと去年今年豊田すばる
初めては初めてじゃない去年今年北山義章
院内の電子音慣れ去年今年本間美知子
去年今年滝に流るる水のごと盆暮れ正ガッツ
去年今年病進めどなお生きる麻場育子
無事と言う二文字噛み締め去年今年抹香
貯金箱に青む古銭の去年今年抹茶金魚
去年今年くちづけしない国の頬繭
ゆく命あらたな命去年今年湊かずゆき
揮発する心と身体去年今年夢見昼顔
一浪や悔恨を秘め去年今年木村波平
成人式の吾子と祖父母と去年今年野々香織
去年今年回送電車の明々と有本仁政
夜行バス射し込む朝日や去年今年柚木窈子
伊達巻きのレシピに付箋去年今年来冬邦子
去年今年重なる朱塗りの椀と歳(シワ)里惠子
去年今年幸せ願い干支ねぷた陸奥生木子
我が干支がもう脇役に去年今年龍季
私って人って地球って去年今年鈴木(や)
去年今年振り返るべき悔いはなし鈴木案菜
去年今年白き半衿縫ひ終へぬ鈴木淑葉
去年今年夜間飛行は点滅す鈴木敏之
千分の一の未来へ去年今年鈴木麗門
去年のセーター亡き猫の毛の一本麗し
細き橋が生命つなぐか去年今年蓮花麻耶
父亡くし母5度縮む去年今年凛
好きなもの探す自由や去年今年戌の箸置
サニブラウン走るが如く去年今年楡野ふみ
流れゆく今の連続去年今年櫻井弘子
出鱈目な前髪揃える去年今年櫻庭詩想
天職や流るるままに去年今年澤真澄
あと一年ため息減らし去年今年齋藤みつ子
お札焚く炎天まで去年今年齋藤杏子
去年今年まだ一行も書けてない籠居子
去年今年あとは親業畳むだけ苳
夜泣きする命の重み去年今年邯鄲
去年今年真白きシーツに眠る吾子お品まり
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
●俳号には苗字を!
〇俳号とは、その句が自分のものであることをマーキングする働きもあります。ありがちな名、似たような名での投句が増えています。せめて、姓をつけていただけると、混乱を多少回避することができます。よろしくご協力ください。
◆ひとことアドバイス
●俳句の正しい表記とは?
- 去年今年 常しえの空 是好日nao
- 愛おしき 風土よ永久に 去年今年教来石
- 去年今年 誓いの減量 永遠か香川敦子
- 去年今年 感謝と誓い 銘肝し手嶋康子
- 筆走る 大晦の 蛍雪や松山春生
- 去年今年 時計の電池を 換えた時丹波太郎
○「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記です。まずは、ここから学んでいきましょう♪
- 窓硝子と憂い
拭う
去年今年かわいなおき - 去年今年
お風呂の香りは
カモミールなおみやばばあ - 毎日の
たゆまぬ努力
去年今年ひかるこ - 去年今年
溜息めいた
あくびをしビバノンノン - 去年今年(こぞことし)
がんばり方が
未来生む(みらいうむ)宮武大貴 - 去年今年
募金まとめて
たからくじ白木 億 - 手にしたもの
綻びたもの
去年今年微風そよ
○テレビの俳句番組では、三行書きにする場合が多いのですが、あれはテレビの画面が四角なので、そのような書き方をしているだけです。重ねていいますが「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが正しい書き方です。
●一句一季語から練習
- 深閑にガガガ除雪車去年今年nid
- 昨日今日大晦日なら去年今年遠藤共子
- 温暖化暖冬模様去年今年加島
- 去年今年丹沢の雪少なくて山口要人
- 去年今年間取り持つ除夜の鐘森谷拓之
- 去年今年徐日の鐘へ変わりゆく池上敬子
○一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。
●兼題とは
- 松飾り先祖に反応センサーライト齊藤裕
○今回の兼題は「去年今年」です。兼題を詠み込むのが、本サイトのたった一つのルールです。
●前回の季語
- 鉄塔を銀の聖樹として生駒克巳かつみ
- クリスマスかのモナリザも祈り笑むなかしまともこ
- 沸く程に孤独感じるクリスマス小倉藍朱
- オルガンの深みにはまるクリスマスぐずみ
○これは前回の兼題ぢゃ! 投句遅れてしまいましたか~(苦笑)
なんと、11月に引き続き12月も投稿数が3000句を超えました!みなさまご投句いただき本当にありがとうございます。
さて、年が明けて令和2年1月の兼題は『蒲団』。朝、中々出られないぬくぬくの蒲団の中で一句詠んでみてはいかがでしょうか。みなさまの素敵な作品、お待ちしております(編集部)。