夏井先生のプロフィール
夏井いつき◎1957年(昭和32年)生まれ。
中学校国語教諭を経て、俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。
2015年初代「俳都松山大使」に就任。『夏井いつきの超カンタン!俳句塾』(世界文化社)等著書多数。
9月の審査結果発表
兼題「秋思」
秋になると、ゆっくりと木々が枯れていき、風も詰めたくなり始める。美しい虫の音も聞こえ始める。そうした環境の中で、なんとなく感じられるもの悲しさのことである。
「天」「地」「人」「佳作」それぞれの入選作品を発表します。
ていねいに噛んでこめかみより秋思
森 青萄
-
夏井いつき先生より
ものを噛むとは、私たちが生きていく上で必須の行為です。子どもの頃から、良く噛んで食べなさいよという親の言葉は何度も何度も聞かされてきました。その教え通りに、大人になった今でも「ていねいに噛んで」日々の食事をいただいているのです。
しかしながらこの秋のものさびしい思いは、どうも「こめかみ」から押し寄せてくるような気がするよ。噛む度に動くこの「こめかみ」が心を苛めているような気がするよ、と作者の心は揺れるのです。「ていねいに噛んで」いても丁寧に生きていても、理由もなく「秋思」に囚われてしまう心。「こめかみ」という一点の部位が、目に見えぬ「秋思」との接点としてズキンズキンと疼くのです。
階段教室の底に秋思の我ひとり
可笑式
-
「階段教室」は大学の講義室でしょうか。「階段教室の底」と位置を明確にすることで「我」という実体と、その「我」を捉える「秋思」という心情が重なっていきます。助詞「に」の選択も的確。
鍵穴の秋思が鍵を噛んでゐる
倉木はじめ
-
「鍵穴」が錆びているか、「鍵」自身が変形しているか。鍵が抜けないのです。それを「鍵穴の秋思」が「鍵」を「噛んで」離さないと擬人化。「秋思」は錆の臭いを放ってそこにあるかのようです。
たまご割る秋思のちから加減にて
ときこ
-
「たまご割る」時の「ちから加減」を私たちは知っています。全てを潰さないように、壊す。「秋思」とはまさにそのように柔らかく握りつつ、割るものかもしれないとしみじみ納得させられた一句。
秋思とは産みたての卵のひかり
彩楓(さいふう)
-
「秋思」とは「産みたての卵」のように柔らかい「ひかり」なのだという詩的定義。負の感情として描かれがちな「秋思」ですが、こんなに繊細に美しく表現されることにささやかな感動を覚えます。
秋思とはアロワナただよふやうなもの
ぐ
-
「アロワナ」とは全長一メートルにもなる淡水魚。肉食性。卵を口の中に入れて孵化するまで守るそうです。「ただよふやうなもの」という字面もまた「秋思」のように掴み所なく漂っているかのよう。
そこで折れてしまうのか秋思の割箸ときこ
目薬を二滴秋思の高さよりときこ
あふれさうなる秋思の水や塩沈むほろろ。
秋思なり世界は立方体の群れほろろ。
けふの秋思きのふの秋思を上書きす可笑式
担任に秋思の髭の剃り残し可笑式
沖見つめ秋思の浜となりにけりうさぎまんじゅう
熊山に秋思の雲のかかり初むうさぎまんじゅう
チェロの吐くウルフトーンと言う秋思斎乃雪
水槽を泡きららかに秋思かな斎乃雪
鏡よ鏡、秋思はすみれいろだつたRUSTY
昼酒や秋思の地球儀はまはるRUSTY
片っぽは秋思に繋ぎ糸電話とかき星
ざらざらの秋思の粒が飲み込めぬとかき星
象の息鼻の先より漏れ秋思あまぶー
瓶底のカルピス2ミリなる秋思あまぶー
秋懐の鏡に「屑」のやうな顔あいだほ
出勤や秋思の父とすれ違ふあいだほ
送電線の混みあう空の秋思かなあきのひなた
秋思ふと螺旋階段の渦となるあきのひなた
秋思なる午後や紅茶はストレートあまぐり
潮騒の貼り付く鈍行の秋思あまぐり
カムパネルラの瞳は青し秋さびしあまの太郎
星爆ぜる音しづかなる秋思かなあまの太郎
二三人加えて秋思分けられぬいさな歌鈴
地球儀回し世界の秋思吸い込みぬいさな歌鈴
此の頃の鏡の中の秋思の芽いなだはまち
パッキンの疲れた蛇口秋思洩るいなだはまち
秋容やシャッター音と熊よけとオカメインコ
遺されし風切り羽や秋さびしオカメインコ
刈跡の車窓流るる秋思かなかぬまっこ
秋懐や胸のペンダントは琥珀かぬまっこ
犬の尿(しと)乾く電柱秋さびしかねつき走流
秋懐や路地に連なる室外機かねつき走流
かの世から酒の匂ひのせし秋思きゅうもん
ビリケンもわたしも扁平足秋思きゅうもん
秋思とは隣の家のカレーの香ぐでたまご
サックスの音の掠れや秋さびしぐでたまご
傷秋や汀に軽き骨拾ふくりでん
秋思かなベンチ一つに一人づつくりでん
咲くことに切なる赤や秋さびしクロエ
傷秋へ貼るドラちやんの絆創膏クロエ
秋懐やサンパチマイクに電池無しサイコロ帝釈天
焼き立ての食パン痩せて秋さびしサイコロ帝釈天
エレベーター昇ればついてくる秋思さとけん
傷秋や画鋲を抜けば小さき穴さとけん
キャベジンにキャベツの匂ひする秋思じゃすみん
米研げば米粒懐く指秋思じゃすみん
秋思とはドーナツの穴外は晴れシュリ
皆笑うテレビの向う秋さびしシュリ
塗椀にポタージュ縮こまって秋思せり坊
トゥースペースト舌にざらつく秋思かなせり坊
爪を噛む秋思のありて爪を噛むとしまる
秋思かな空がじんわり重くなるとしまる
黙々と秋思を回すハムスターにゃん
目玉焼きいびつ秋思の日曜日にゃん
雨だれや我は秋思の石となるぬらりひょん
クロネコを膝に秋思の顔でゐるぬらりひょん
日に焼けたサイン色紙にある秋思はむ
秋思など鳶よさらつてくれまひかはむ
夕空を眺め栓抜く秋思かなひなたか小春
アップルティー溶けゆく秋思香り立つひなたか小春
さらさらと秋思つみゆく砂時計ふじこ
星空の秘湯に秋思沈めをりふじこ
蒼き香の畳ひんやりして秋思ふるてい
手のひらをこぼれ秋思の飯粒はふるてい
鍵盤に触れる母さんゆび秋思モッツァレラえのくし
秋思なるグーよバルタン星人よモッツァレラえのくし
充電の点滅見つむ秋思かなゆりたん
老犬のあばら波打つ秋思かなゆりたん
鳥獣戯画にまよひこみたる秋思かな一斤染乃
偉人伝みな美しき秋思かな一斤染乃
秋さびし少し曇つた銀の匙花伝
秋さびし黒くて重いフライパン花伝
落暉鮮やか影より秋思立ち上がる花南天
洗濯機の秋思にティッシュよく絡み花南天
オカリナへ巴里の秋思を吹き込みぬ樫の木
一刷毛に真白く塗りつぶす秋思樫の木
手枕や重き秋思の頭蓋骨亀山酔田
こりこりと墨磨り下す秋思かな亀山酔田
秋さびし撫でよと猫の顎は久我恒子
秋さびし噛めばかつんとチョコレート久我恒子
秋思の尾つかみ眠りの浅瀬かな玉木たまね
木匙より垂るゝ蜜ほどの秋思玉木たまね
秋さびしフラスコの結晶の出来桑島幹
秋さびし理科室の臭いの残り桑島幹
秋さびしアンモナイトの深眠り月の砂漠★★
秋懐やナン焼く窯の茜色月の砂漠★★
ゴ不要トナツタ秋思ハ買イ取リマス古田秀
サッカリン溶けて秋思の夜の甘し古田秀
秋さびし煮干を浸す三、四本古都鈴
出汁昆布ちょきんちょきんと秋さびし古都鈴
秋さびしカラーコーンの凸痛い五月闇
ベランダに横たわるスコップと秋思五月闇
雲梯に秋思がぶら下がったまま五月野敬子
地下鉄の窓に秋思の映りけり五月野敬子
弁当の底に見えくる秋思かな綱長井ハツオ
水掻に引っかかる一抹の秋思綱長井ハツオ
歯ブラシの二本寄り添う秋思かな香羊
直線を目を閉じ走る走る秋思香羊
肋骨を透かす秋思の皮膚いちまい山田喜則
甘噛みの必死受けつつ秋思ふと山田喜則
耳奥にケーナを鳴らす秋思かな蛇井めたる
古書街の風の匂いと秋思かな蛇井めたる
煌々とグリコのネオン秋さびし若井柳児
貸衣装のモーニング着る秋思かな若井柳児
天秤の振れ幅ほどの秋思かな寿松
晴天にビニールプール干す秋思寿松
自転車のキコキコ軋む秋思かな春日春都
肌色は肌の色なり秋さびし春日春都
秋思あり煉羊羹へ竹ようじ小池玲子
横臥する母と秋思を分けあひて小池玲子
億年の秋思虫入りの琥珀焼田美智世
背の焼けし本陽の香る秋思かな焼田美智世
秋さびし石炭山に星ひとつ上原淳子
ふじ色は終いのいろや秋さびし上原淳子
積み木塔崩れし音の秋思かな常幸龍BCAD
観音の六臂の陰る秋思かな常幸龍BCAD
ペンギンの足裏にある秋思かな水夢
秋思とも恋とも雨の日曜日水夢
由比ヶ浜の波音やさし秋さびし西村小市
物差しの目盛りの線や秋さびし西村小市
他所の子の母になる夢秋さびし青海也緒
秋思また秋思流るるTwitter青海也緒
秋思断つツィゴイネルワイゼンの脅迫石垣エリザ
擦り上げる弦音共振する秋思石垣エリザ
オランウータンうるうる見いる吾が秋思多事
おちはじむ秋思か鬱か漱石か多事
秋さびし金平糖の色淡し多々良海月
秋あはれトーストすれば縮むパン多々良海月
秋思ありピアニッシモの長い音中岡秀次
秋思かな硯の海の香のかすか中岡秀次
ユーミンの曲。爪を切る。秋さびし中山月波
爪切りの音のかさなる秋思かな中山月波
御中の宛名ばかりを書く秋思田村利平
研ぎ汁の濁る秋思の白を捨つ田村利平
噛み終えたガムの居座る秋思かな渡邉一輝
秋懐やうるさき洗濯機を押さえ渡邉一輝
秋思たるジョーカー残す東京都登りびと
哲学書たまに秋思という栞登りびと
水槽の昼が四角である秋思土井探花
星青し秋思の指の回すノブ土井探花
うしろから秋思の影を踏まれをり内藤羊皐
雨垂を調へてゐる秋思かな内藤羊皐
秋さびし書なき書棚の埃かな埜水
引き潮の稚貝攫ふや秋あわれ埜水
アトリエの秋思はさみのようなもの白よだか
傷秋の調べや古きバイオリン白よだか
秋容や窓格子錆ぶ精神科八幡風花
国東の鬼の話や秋さびし八幡風花
秋思落つパラソル立てるための穴板柿せっか
おはじきのぶつかる音ほどの秋思板柿せっか
曲の途中とまる秋思のオルゴール比々き
ワンタンののびひろがつてゆく秋思比々き
秋思てふボーンチャイナの白さかな富山の露玉
たたみかける秋思ギターのアルペジオ富山の露玉
珈琲の抽出までの秋思かな富野香衣
ポタージュの底に沈みし秋思かな富野香衣
乳房揉む手で握りめし食ふ秋思平本魚水
触診の指の乾きや秋さびし平本魚水
石投げて波紋を作る秋思かな門未知子
擡げたる麒麟の首にある秋思門未知子
屋根裏の隅に秋思のサキソフォン野ばら
ト長調ホ短調へとゆく秋思野ばら
秋思ガリガリと珈琲豆を挽く有本仁政
起上小法師かたぶく秋思かな有本仁政
秋思混ぜても美味そうに食べる君遊飛
針穴に集う秋思や糸のたる遊飛
黒猫の訪ね来る夜の秋思かな麗し
秋さびし顔まで浸かるひとり風呂麗し
ドビュッシーのラの音にある秋思かな朶美子
メキシコの銀器を磨く秋思かな朶美子
秋思して今宵も悪夢お代わりす玉木たまね
秋思してビデオきゅらきゅら巻き戻す玉木たまね
触媒は秋思ねるねるねるねねるぐ
養液を根のひしめける秋思かな倉木はじめ
秋思かな海を見下ろす観覧車彩楓(さいふう)
沈黙の五秒に医師の秋思なほAKI
SLの煙ながれて秋思かなDr.でぶ
陽の匂ふ秋思のベンチ予約せしM.李子
野ざらしの木椅子に触るる手に秋思あさ奏
教会の椅子の堅さにある秋思あつちやん
秋さびし夫の寝息聞いているいくちゃん
踏みしめた流木軽し秋思かないたまきし
雑踏をひたすら歩く秋思かないまいやすのり
山に風吹きて秋思のはじめかないろをふくむや
能面の目と口をみる秋思かないわきりかつじ
傷秋や本棚に赤本の色うどまじゅ
取皿のたこ焼きしぼむ秋思かなうまうまさとさ
靴音の秋思に沈む深夜二時うめきわかば
青淵の風が変わりて秋思かなおうれん
秋思の夕枕草子をつくづくとおおい芙美子
秋思とは缶ドロップの音カランおざきさちよ
ガリ版に込める秋思の通信紙おぼろ月
タワマンの三十階の秋思かなカオス
髪の毛のほのかに香る秋思かなかつたろー。
湯船よりひとりの秋思溢れ落ちかわいなおき
秋さびし手もとに残る鍵四つきつね火
酔眼のソファの軋み秋さびしくま鶉
爪を切る金属音の秋思かなけーい○
詞華集も聖書も閉じて秋思かなケンG
秋思かな剥げたペディキュア靴下でこばやしまき
秋容や卵殻積んで明石焼こぶこ
窯だしの釉薬滲む秋思かなさくやこのはな
秋懐や水面に愁眉うるおしてさくら亜紀女
深爪の足の小指や秋さびしさこ
物云はば絡まりてゆく秋思かなさとう菓子
ショッピングモール三階なる秋思しかもり
絹ごしに醤油の澄みて秋思満つしらふゆき
淡々と進む相続秋あはれすみすずき
秋さびし手足を舐めし猫の舌スローライフ
おはじきのかわきし音や秋あわれたむらせつこ
青墨の滲み広がりゆく秋思てまり
秋思消ゆ蝋燭能の透きし影ときめき人
河童きて暇と聞こゆ秋さびしとしなり
秋あわれ渚に光る穴開き貝なんじゃもんじゃ
妻子送り出し秋思の人となるパッキンマン
爪切りの音の重みや秋あわれはなあかり
スケジュール帳の余白にある秋思はまのはの
滑稽が秋思の窓を叩いたらひっそり静か
コンクリート打設三日目なる秋思ひでやん
秋さびしどの数字でも割りきれずひな芙美子
秋容や流るる水の淀みなくふみ
秋思なら葡萄酒色の本を読むベリーベリー
夕影の長さ秋思の人の波ポチョムキン
リュウグウの砂のかたちの秋思かなポンタ
白髪のブラシにからむ秋思かなみかりん
硝子めく烏の声の秋思かなみやこわすれ
船旅は五ヶ月前のこと秋思ヤヒロ
ばさばさと蛾の裏返る秋あはれゆすらご
レコードの音飛び箇所のごと秋思ヨシザネユミ
古窓の縁のプリズム秋思かなよにし陽子
和紙を食む虫一匹の秋思かなる・華
金継ぎの器秋思の酒そそぐルゥ
夕刊のカブ急ぎ行く影秋思るりまつり
業務用スーパー秋思色のカゴワイス
通勤で秋思が押し合い圧し合いわかなけん
撓みたる竿を見てゐる秋思かなゐるす
中指のささくれ一つ秋思かな愛宕平九郎
動くもの目で追ふ性や秋あはれ葵新吾
串カツにソースたつぷり秋思断つ葦たかし
秋思かな炒めたハムに爪楊枝或人
尿瓶持ち排尿記録秋あわれ伊藤正子
秋思かな吾むき出しのレントゲン遺跡納期
靴擦れの秋思靴擦れめくも秋思稲架くぐる
窯跡に備前の破片秋さびし宇田建
口中に橋あることも秋思かな羽沖
パソコンを閉じて漂ふ秋思あり横浜J子
秋あはれショパンコーヒー鳩サブレ夏雨ちや
叡山の母なる山に秋思おく果蓏
アイドルのポスター眺める秋思かな花村マン
チューバ鳴く音楽室や秋さみし海口あめちゃん
耳鳴りに秋思の重さ計りけり甘平
秋思知り少女かすかに光帯び亀山逸子
窯を出す陶器の鈍き秋思かな亀田荒太
あきはさみしいママのかげきえちゃった吉田結希(6才)
歯ブラシの毛先の跳ぬる秋思かな宮部里美
波止場の凪秋思はドラム缶の中漁港
膝上の猫と秋思を分かち合い玉井瑞月
秋容や古寺に美貌の阿弥陀仏玉響雷子
風のあおるページの白き秋思かな薫子(におこ)
曼陀羅のどこかに秋思ゐてるかも畦のすみれ
琴爪を外し手を観る秋思かな蛍子
オカリナの指の止まりて秋思ふと見屋桜花
十和田湖を見しが秋思のはじめなり光子
朝起きて靴下を穿く秋さびし甲山
秋思かな旅の土産のティカップ高橋光加
あの貝殻をやると言ふ子や秋さびし高橋寅次
鉛筆を削りて秋思尖りけり今野夏珠子
腹裂いて秋思の夜に目覚めたる根本葉音
ドミソシと弾く秋思の音と思う佐藤儒艮
金平糖一粒ほどの秋思かな砂舟
廃塔へ傷秋の足のぼらしむ榊昭広
我が皺を誇りとせむや秋さびし三島瀬波
機窓から東京縮みゆき秋思山﨑瑠美
カラス鳴く薄純色の空秋思山口香子
セゴビアのビブラート秋思に瞑り息忘る山川真誠
ドーランを拭ふ手止まる秋思かな山太狼
たましひにみづおと一縷秋思かな山踏朝朗
眼をそらすゴリラの眉間にある秋思山内彩月
灯を消して秋思養ふ部屋とせむ山名凌霄
目に見える時間秋思の砂時計次郎の飼い主
日記閉じ薄紅の秋思かな鹿嶌純子
助手席にをさまつてゐる秋思かな紗千子
愛猫に甘えてみたき秋思かな紗智
氷砂糖ぶすぶすとける秋思かな珠凪夕波
天窓に象られたる秋思かな潤目の鰯
真夜中の秋思こぼすや砂時計宵猫
螺子固きオルゴール止む秋思かな小鞠
秋思ありアンコールの三曲目小笹いのり
秋思かな定時上がりの駐車場小雪いつか
展示室の化石は無口秋あはれ小殿原あきえ
バッハのオルガン秋思となりて降り注ぐ小南子
観覧車下りに向かふ秋思かな松田文子
引っ越しの段ボール組み秋思かな上野眞理
コピー機を漏れ出づる光や秋思城ヶ崎由岐子
薄墨の尚も擦れて秋思かな城内幸江
台杉の穂先ゆするは秋思の風城博
雨音に言葉をさがし秋思かな森弘行
浴槽の底より湧ける秋思かな仁和田永
秋思かな朝もう乾くコンタクト西川由野
常夜灯点る廊下の秋思かな石井茶爺
傷秋の音色はオカリナのごとく石岡女依
仄暗き秋思の色に白髪染む赤い彗星の捨楽
秋思かなはずれたネジは約二本赤馬福助
秋思かな鍵穴のメモぱりぱりと千日小鈴
秋さびし去年のニベア指の皺痩女
櫛の歯は指にぴぴぴとなる秋思蒼奏
標本の鱗粉こぼれ秋思ふと村上敏子
吊り革に体温残る秋思かな多喰身・デラックス
駅の風喉に凝りて秋思かな大小田忍
蒼茫と空抜けるよな秋思かな知足
日の昇る旗とプラカードや秋思池之端モルト
秋思かな灰汁いつまでも湧き続け竹内みんて
瑠璃杯の色濃きひかり秋さびし中西柚子
秋さびしページ進まぬニーチェかな中島知恵子
秋容やストリートパフォーマーのアコーディオン宙のふう
なみなみとほうじ茶熱し秋さびし昼寝
奥多摩湖集く秋思に波しづか衷子
過去帳を初めより繰る秋思かな長谷川ろんろん
秋思の夕暮れキャンパスはセピア色天津飯
一欠けのジグソーパズル秋思かな渡邉竹庵
紅白の鉢巻き洗う秋さびし土屋雅修
平日の巣鴨に下着買ふ秋思嶋田奈緒
漣の真横まよこの秋思かな藤井茂
秋思には一つ覚えのリルケの詩藤原訓子
黒猫について行きたき秋思かな藤田康子
シフォンケーキ舌にほわんと秋思かな藤田真純
風撫でる秋思の猫の欠伸かな徳
点滴の音の聞こゆる秋思かな楢山孝明
秋思とはあたたかきもの水禍二年南風の記憶
片影の細きおとがい秋思あり楠田草堂
サボテンの漢字浮かばぬ秋さびし二鬼酒
この秋思トイレットペーパーの芯尼島里志
やはらかに孔雀秋思に佇まふ日午
ブルースと秋思吐き出すハーモニカ播磨陽子
三越の手拭い首に秋思かな俳句の枝幸十佐
シーレ描く向日葵は供花かその秋思白水
秋思かなダニー・ボーイを聴きながら白土景子
これからの秋思に挟む栞あり函
秋思の夜人肌の白湯しみはたり畑詩音
空高く雲の逃げたる秋あわれ八木実
流木に止まる影ある秋思かな飯村祐知子
荒浪を彫られ木魚の秋思なほ彼方ひらく
青空に響くファドなり秋思なる美翠
野球帽に残る指趾秋思かな風花まゆみ
暗き野にら行和音聴く秋思風間たっくん
土鍋炊き粥の甘さの秋思かな福ネコ
秋思の頬あづける肩もまた秋思福良ちどり
長き髪指に絡めおる秋思文月さな女
徴用工まなじりの奥なる秋思牧野敏信
蟀谷に張り付く秋思切手大凡々
からっぽの病室に秋思ひたひた眠睡花
起き抜けに晴天のある秋思かな夢見昼顔
硯海の底に漂ふ秋さびし椋本望生
歳時記の深き爪あと秋さびし木下桃白
海風や秋思の錨下ろしけり門前町のり子
錫色を溶く明け空の秋思めく野地垂木
腕探すミロのヴィーナス秋思の目野木編
秋思の音同窓会の締め一本矢野茂樹
秋思かな家電がしゃべるよくしゃべる柚木みゆき
秋思かな地上に鳥の影落つる柚木窈子(花喰い鳥改め)
秋思濃し鍋も薬缶も磨く磨く葉るみ
空つぽのマーマレードの瓶秋思葉月けゐ
背骨にも風吹きはじめ秋思かな藍野絣
秋容や見下ろす指のケルト型梨音
ひた走るレールの継ぎ目や秋思乗せ隆泉
かばん触り鍵探り当つ秋思かな龍季
高架下のラッパ外れたラの分秋さびし鈴木由紀子
秋思なら道玄坂に置いてきた鈴木麗門
秋さびし路上ライヴのケーナの音暝想華
秋さびし急須の先に蝶とまる涅槃girl
秋さびしファの音鳴らぬ駅ピアノ淺野紫桜
秋さびし髪を梳き続ける女祺埜箕來
秋思ふとほろ苦味のチョコレート齋藤杏子
起き掛けの目じり漂う秋思かな邯鄲
カフカ読む秋思のベンチ五時のチャイムひなたっこ
天窓に鳩の足音秋思かなみやこまる
本郷の菊坂にある秋思かなラーラ
腕組めば重心右にあり秋思佳山
灯りなき摩周に沈みたる秋思今田哲和
秋さびしスカロボフェアと波の音根々雅水
それぞれの秋思スタバの一人席三茶F
旋律は2分の秋思ワンス・モア白雨
秋思など寄せつけまいと磨く窓國吉敦子
秋思の四畳半誰かノックして澪つくし
よく眠る秋思の顔のパンの種苳
秋思ふと右側ばかり騒ぐバス赤橋渡
暑さゆえ秋思の気配わすれけりこつみ
秋あわれ無でも絵になる猫のあり吉田八知代
空の青淡く秋思に始む朝都乃あざみ
兄秋思九つ下の妹嫁ぐ⑦パパ
青春を懐メロと呼ばれ秋思かなANGEL
ブラインド越しの移ろい秋思なりharu.k
柴犬の秋思のあくびまた一つmomo
強がってみても不意つく秋思かなあおか
陽だまりに座椅子ずらして秋思かなあくび指南
夕暮れのノーサイドの笛秋さびしアンマンパン
終始秋思蒐集笑止おさむらいちゃん
弾き語り一音はずし秋思かなおひい
初七日の欄間に値札秋思かなカインド
キャンパスを一人歩きつ秋思かなカカオ
青き秋思おばけ決めかね天仰ぐかたちゃん
傷秋やスーツケースの出番待つかもめ
立山に夕雲たなびき秋思かなカワムラ
同居する仮面夫婦の秋思かなきさらぎ
CDの音飛び激し秋思かなきなこもち
愛猫を看取りて語らぬ秋愁かなクスコ
厚さ増すお薬手帳や秋さびしくるめ絣
還暦のクラス会欠席通知書く秋思クロまま
風船ガム割れて吸い込む秋思かなこまたれぶー
秋思来たる私の顔も色づいていくサチ
秋悲し昔の男死んだ夢さなぎ
秋さびし空地にぐるり回る風じょいふるとしちゃん
流木を焚けど尽きざる秋思かすがりとおる
吾子育つ秋思のかけら手に余したく
雲なき日の秋思や祖母七回忌たけし
友とよく聴きしレコードかけ秋思たじま
墓じまい相談終えて秋さびしタシャキ
秋思さえ琥珀にとけるショットバーたすく
終電を待つ手に写真秋思かなタマゴもたっぷりハムサンド
小石蹴りまたまた追うて蹴る秋思つちのこ
一言のラインスタンプ秋思かなツナちゃん
傷秋やジムのマシンの重き夜でぷちゃん
増税や電卓たたく音秋思なりなかしまともこ
撃辺の音も澄みたる秋思かなにしをかふもと
ひさびさの友のたよりに秋さびしねこバアバ
秋さびし無理やり笑う笑いヨガのど飴
水平線は雲を引き込む秋思のりこ
秋さびし給食の無い町だったはっかあめ
消灯後長し病棟秋思かなはらぐちゆうこ
秋思なり死んだ猫の星を探すハルノ花柊
秋思の風に乱れし髪を梳くひめりんご
秋さびし忘れたことも忘れてるひろ夢
呼吸器の音リズミカル秋思かなふくろう悠々
秋思とは消しゴムのかす絵の具染みぶるーふぉっくす
秋思かな張り裂ける胸分かれ道ヘッドホン
夕星や鉋叩きて秋思かなペトロア
引き潮にバレッタひとつ秋思かなべびぽん
大食の金魚黙りし秋思かなミツヤ
秋思ふと抱き合ふ夫婦道祖神みなと
鍋磨くふと止まる手に秋思くるみやかわけい子
我秋思きつね雨の空の如くみわ吉
赤い靴屋根に片方秋思かなメイ子
うるみ色のセラミック歯入れ秋思もつこ
胃カメラに上手いと下手のある秋思ももたもも
小説の主になりぬ我が愁思やったん
腰の手や秋思の庭に水をやるユーラシア
秋思とは縁遠くまた腹囲見るよしこ
果ての無い学問に見る秋思かなラリロリラリラ
なつかしき母の肉じゃが秋さびしわさびあられ
親を看て帰る車窓の陽や秋思わたなべぃびぃ
リハビリでふと秋思い絵画空亜紗舞那
たをやかな弥勒菩薩の秋思かな愛燦燦
何語かも判らぬ歌の秋思かな梓川やご
置き弁のデコ弁可愛い秋さびし綾乃栞
秋さびし展示の獅子も眠つてゐる安宅麻由子
ペディキュアの色も褪せたり秋さびし伊藤小熊猫
筆文字のゆらりとゆれて秋思かな伊藤節子
妾宅のスコッチエッグ秋思あり伊予吟会宵嵐
還暦の祝いの中にふと秋思井上繁
「思秋期」てふ歌繰り返し聞く秋懐郁松松ちゃん
秋さびしごみ散る朝の研究室宇佐美好子
今月も佳作・・・の気持ちは秋思のごとく卯さきをん
奈良彫りのみ仏伏せ目秋思かな影山治子
秋思かな未読のままでも既読でも榎本真希子
キラキラと揺るるピアスに秋思円
秋思とてふみにはならず手漉き紙延杜
断捨離もつい手が止まる秋思かな縁恵
秋思かな乳がん検診要精検遠藤愁霞
眠れずに窓開け眺む秋思かな黄桜かづ奴
雨音と隣家のバイエル秋思かな岡れいこ
空見れば秋思のころ雨が降る加島
生酔いの背に畳冷たし秋さびし加裕子
幼子の秋思は前世の思い出か河野なお
亡き夫と夢で童謡秋あわれ火の国女
墓終い老いの孤独の秋さびし花岡淑子
木漏れ日の葉の下程の秋思なり花屋
美味しいと映る我が身に秋わびし花咲みさき
放哉の句集なぞりて秋さびし花咲明日香
学ランの肩にチョークの粉秋思花紋
鳴り止まぬサイレン遠し秋思かな海碧
恙なき老の暮らしに秋思なお蛙里
花は実に人も輪廻す秋思かな蒲公英
傷秋のブルーシートよ漁師町閑蛙
一人減り味噌汁余る秋思かな丸山隆子
横顔に陽射しの弱く秋思かな岩木あきひこ
学ラン奥に秋思の小首出す季凛
収まらぬ髪に櫛あて秋思かな紀泰
プラット―ホームの雨は秘かに秋思かな紀朋
亥の刻や秋思の床を寝返りて輝久
処分する箱の父の字秋思かな菊原八重
連綿のかすれのなかにある秋思菊池風峰
独り身の二菜一汁秋思かな吉哉郎
何もせず今がいいと思う秋わびし吉田びふう
秋思の夜あの日の俳句読み返す橘右近
愛犬が逝って秋思の風が吹き宮杜都
秋思には助詞が気になるラブソング距呂ミウ
好きと言う瞬間探る日の秋思魚狐
秋さびし母の白髪を染める我玉井令子
老犬のまどろんでおり秋思かな銀のグランマ
近道と思へど遠し秋思かな空
栞ぬき秋思ひと息駅急ぐ栗麿
秋思見る8K五色富士裾野月昭
淡い靄海の声聴く秋思かな月夜同舟
尾道の錆びし屋根群秋思かな研知句詩
雲は流れ雲は流れて秋思あり原善枝
逆光の夕日に秋思燃えつきる原田民久
窓辺にて恋物語秋さびし源氏物語
雨風が青屋根つくる秋あわれ古いっちゃん
何となく物足りなさに秋思くる古史朗
夜明け前秋思解放雨戸開け戸根由紀
帰り道早暮れる空秋思かな鼓打美
待望の夜風にさえ秋思とは吾輩はペンである
影長し家路つきたる秋思かな後藤久
透きとほる空と風食む秋思かな江川月丸
人伝に知る友の入院秋思江藤薫
秋思かな医師のさしだす紹介状紅さやか
妻の背に軟膏塗りて秋思かな香港ひこぞう
還らざるカムパネルラを秋思かな高田祥聖
客が減り暗さ覚える秋思かな高澤真
外人客眺むる猫の秋思かな克巳@夜のサングラス
身に重い秋思背負いて病院へ今井正博
秋懐や児の息遣い古日記佐藤ゆづ
紅落とす鏡に映る秋思なり佐藤花伎
ひざの猫ぬくもりもらう秋思かな斎藤数
年重ね思い返す日々も秋思斎藤太郎
背の高き野花の秋思揺れやまず細見康子
秋思抱きバイロンハイネに酔うた日よ坂本千代子
庭眺む猫の瞳の秋思かな桜姫5
瞳深くモジリアーニの秋思かな三浦ごまこ
秋思かな二日酔いした朝の風三河五郎
訪れど主なき家ぞ秋さみし三須田敏
猫のみと会話の我の秋思かな山育ち
欠けたような世界地図の雲や秋思山沖阿月子
秋さみし風がはこびし穫り田の匂い山科美穂
くぅ~んくんと小屋に声なき秋さびし山口要人
ハイハイはつたい歩きへ秋思かな山々こすみ
秋思かなモーツアルトのレクイエム山川恵美子
半跏思惟みろく菩薩の秋思かな山川芳明
へたれ服アイロン押し当て秋さびし山田啓子
くたびれた駅舎に秋思日が沈む山本康
留守番とアリスの曲に秋思かな山本隆雄
火葬場の空青過ぎる秋思かな獅子蕩児
秋さびし来るもの見えぬ峠まで紫雲英
指曲がり紅き指輪の秋思かな紫瑛
秋さびし揃ひの皿は割れちまへ紫小寿々
秋さびし屋台横目にドローイン詩扇
傷秋や生ききる長の無言館篠雪
狩りの無き獅子の欠伸や秋あわれ珠桜女絢未来
秋思とは他人事也飯旨し酒井重治
スマホ無し還元もなし秋寂し秀耕
秋思かな待合室で声かけず秀道
ソナタかけワインを回し秋思かな秋月なおと
秋さびし父の香残る部屋の夜渚
ほお杖に隠す秋思の小指かな緒方しんこ
帰り道今際の烏やれ秋思緒霧智
愛車売るボディに映る秋思かな小栗福祥
埃舞ふサーカス小屋の秋思かな小山晃
秋思かな薄日に光るコップ棚小川都雪
万年床くぼみに秋思が見えるよな小川天鵲
肌滑りはらり梳髪秋思かな小倉藍朱
老ゆる身に追ひ打ちかけてくる秋思小田慶喜
秋思へと自己新記録突き立てり小田虎賢
秋思など吹き飛ばすほど子の笑顔小田龍聖
秋思かな金子兜太の百年祭小嶋芦舟
手鏡で残りの人生詠む秋思松井くろ
静脈瘤クリニックなる秋思あり松浦麗久
秋思かな仔犬とともに歳重ね松原隆雄
ベランダのねこ遠き見つめて秋思かな松島美絵
見上ぐれば澄みゆく那覇の海秋思鐘ケ江孝幸
秋思かな転職準備美容院城山のぱく
愛猫の秋思ほどける大あくび植田かず子
吹く風やこの身飛ばせよ秋思なり植木ふうこ
引退の花束あおき秋思かな色葉二穂
秋さびし子の友の母は二十下新開ちえ
辻々を流す胡弓や秋さびし新美妙子
この秋思蹴り飛ばしたる楕円球森都
洗髪の抜け毛激しや我秋思森井はな
逝った娘が夢で手を振る秋思かな森澤佳乃
笑顔つくる秋思の鏡登校す真宮マミ
振り切りし秋思の残る手首かな真繍
風運ぶ花の香りの秋思かな真理庵
秋容やいいよだめ顔飛んでくる神谷米子
橙藍のグラデーションの風秋思水玉
愛犬のため息秋思の色持って酔
野の恵み海の幸焼く秋思かな酔進
砂に水撒く恋でした秋あわれ雛まつり
ふりむけば大和路暮れて秋思色杉浦あきけん
秋さびし子より返信多忙にて杉浦真子
香港に行方も知れぬ秋思かな杉山太郎
玄関の鍵あくる音秋あはれ世良日守
ゴンドラの窓拭き速し秋思なり星善之
ぬひぐるみ首の傾しぎも秋思かな星野茜
吾が秋思USJに置き忘る清水容子
イーゼルを畳み途に就く秋思かな清水トキ
秋の字を頬に夜風の書く秋思清水祥月
火灯し頃猫も秋思の横顔寂し西下真由
潔く免許返上秋思かな西原さらさ
読み耽り気づけば寂し秋思の夜西村優美子
シャッターを開け吹き入るは愁思かな西尾至史
指数を超える不運や秋思の夜西條恭子
はや秋思胸の瘡蓋そっと剥ぐ西條晶夫
靴ひもをきつく結んで秋思かな青い月
起きてきた父のせきこむおと秋思青井晴空
不忍の秋容深し寛永寺青児
上を見て足元を見る秋思かな石田恵翠
湯気香る酒蔵の街や秋さびし雪割豆
図書室はセピアに染まり秋さびし千葉睦女
餌くれと亀が顔出す秋思かな川畑彩
母逝きていつとせ過ぎし秋思かな前田茂太
ポケベルが終わる一日秋さびし曽我真理子
独酌の背なに秋思の文字の浮く倉岡富士子
秋さびし秒針の音響く夜早春
髪伸ばす一つ秋思に囚われて蒼空蒼子
秋思かなブルーの和音弾く夜は村松信子
秋さびし洗濯物の影の濃さ駄詩
花嫁はあの娘まかせのわが秋思大原妃
秋思めく今宵ひとりのプチ乾杯大山こすみ
考妣に感佩措きし秋思かな大山小袖
傷秋マユバチ現ずるエックスデイ大山正木
秋あわれ線状降水帯とやら大村真仙
抑うつや秋思のソファに横たわる大津美
秋思は電柱の影細く長く大槻正敏
秋さびしダム予定地の村人ら大福ママ
かなわぬ恋自分らしさを秋思する大本千恵子
それぞれの湖を秋思の外来種大和田美信
愛犬の老いに我見る秋思かな谷口昭子
秋懐を語る遺影に湯気の膳谷本真理子
秋さみし大歓声背によろよろと池愛子
孫生まれひとつき経っての秋思かな池上敬子
愁思かな鏡と対峙して私池田功
わが秋思妻の笑顔で雲隠れ竹安修二
秋思にて彼待つ隣のブランコかな竹下一樹
この秋思寿ぎにかへむ独り立ち竹口ゆうこ
コルセット巻き粥啜る秋思かな中嶋純子
秋思なり来夏の酷暑早憂う中道潮雲
チョコミント味二つは買わず秋あわれ長谷川京水
自販機の色移ろひて秋思かな鳥越暁
五十年前の家計簿この秋思直木葉子
裏木戸へ猫くぐり抜く秋思かな辻が花
秋思とは笑止千万意気揚々哲泉
秋思かな駅にて娘待つ朝天野規之
あちこちにサヨナラばらまき秋思かな田川彩
見舞い後の夕暮れの道秋さびし田中ようちゃん
風ひやり暮れる早さよ秋さびし田中玄華
踏切に待つそれぞれの秋思かな斗三木童
愁思なり空は青くどこまでも青く渡辺美智子
ユーミンを聴くや秋思にありし今渡辺陽子
秋懐や寄せ書きをまたぼんやり眺む渡邉久晃
傷秋や水害避難所の一夜登久光
息子の煙草拝借燻らす秋思の夜登坂豊
一擲のヒッピーディラン流れる秋思の夜土田耕平
忘れじのははの秋思のうなじの香東風弘典
七輪の炭火の煙の秋思かな藤井慎吾
秋さびし鏡の中のしわ白髪藤井聖月
終止符の横たふ寝間や秋寂し藤井眞おん
糠床を掻き回しつつ秋思かな藤色葉菜
三面鏡秋思の白髪二、三本藤田ゆきまち
朝方の鳥飛び立ちて秋思かな徳庵
秋さびし尻もも腕も皺しわに惇壹
病室の広すぎる窓秋あはれ奈良素数
待ち人は来ぬ艮にある秋思内本惠美子
闘犬の皺の数だけある秋思凪太
一点差秋容のノーサイドかな南方日午
暗がりに首輪とリード秋さびし入江幸子
待ち合わせ早く来て待つ秋思かな馬笑
シャツの皺形状記憶せぬ秋思馬場東風
胸に手を当てれば秋思疼きけり背馬
味噌汁の豆腐の崩る秋さびし梅嶋紫
小憩の秋思灯すや蛍族梅木若葉
歯車の合わぬ会話や増す秋思梅里和代
遠かりし記憶も虚ろな秋思の夜白康人
まばたきと秋思に暮れる日のはやさ白瀬いりこ
珈琲に秋思舞い降り増す苦味白沢修
色褪せたヴィトンのアルマ売り秋思白浜ゆい
書付は母の字あふれ秋思かな白米
ホルモン値ぎりぎりの秋あわれなり八八牧七
脱衣場体育座りの秋さびし帆船大河
秋さみし言葉交はすはまずスマホ比良山
氷屋の旗色褪せて秋思かな尾関みちこ
秋思果て道果て時果て天空に琵琶京子
古希になる母に似た顔秋さびし美山つぐみ
ホームの灯はや点りしか秋さびし菱田芋天
秋思など無き子ほお張る串団子富士原智子
葉書来て秋思を見透かされてゐる風琴
やさしさの不意に蘇れり秋さびし風紋
高校生手にプラカード秋思かな福井三水低
孫やさし共に暮らして秋さびし兵頭チズ
留守番の仔犬一鳴き秋思かな片岡佐知子
秋さびしインガルス家は夢のまま片栗子
住み慣れた家を離れる母秋思弁女
日に五度は梳く白髪の秋思かな穂積のり子
秋思の迎え想い人一輪愛でられず北山義章
天災の日本列島秋思重本間美知子
夕飯の彩り変わる秋思かな盆暮れ正ガッツ
夜更けの秋思柔く布団の中に消ゆ麻生恵澄
橋渡る芋売りの声秋思かな麻生和風
秋懐の満月君と助手席で麻耶
西空や雲間に赤き秋思かな湊かずゆき
鳥と虫と両生類も居て秋思蓑田和明
傷秋鳩つがい探すわが雛夢おとめ
ヴォリュームにカムフラージュす秋思かな明惟久里
ブレスレットの重さや秋思纏ふごと明田句仁子
早朝出勤夜明けきらず秋さびし明良稽古
紅茶注ぐ間の沈黙の秋さびし茂る
秋容や古希に集いて踏む山河木村かわせみ
御所の森緑鳩(あおばと)の啼く秋思かな木村修芳
秋さびし友まばらなる八十路かな木村波平
劉禹錫漢詩で綴る秋思かな野中泰風
西空や秋思ふけゆく針仕事矢野利昌
盗み見し夫のスマホあぁ…秋思柳川心一
珈琲の香我に返りし秋思かな唯飛唯游
寝たきりの母の髪とく秋思かな有馬裕子
うそ像の訳知り顔の秋思かな由づる
風吹きて秋思の張り紙店じまい雄山卓女
秋思ふと物言う言わぬ遺影かな葉路
くぐもれる鳩の嘆きや秋さびし来冬邦子
熟れた実に伸ばす手のしわ秋さびし里惠子
老い迫るまずは散歩の秋思かな立山枯楓
終わったことは言わぬ約束秋さびし鈴木(や)
秋思かな観察終えし鉢二つ鈴木淑葉
AIの合理的なる秋思かな鈴木上む
秋思遠き真昼の路よ36℃蓮花麻耶
白湯冷えて空見上げたり秋さびし連雀
秋思なり夜風に乗るは死のにほひ和舟豆
傷秋や棋力上がらず丸一年惑星のかけら
仕舞い湯に身をゆだねつつ秋思かな鷲野の菊
早暁が薄紫に愁思かな巫女
酷なりし題解かんとす秋あわれ楡野ふみ
ただいまの声に秋思を断ち切りて櫻井弘子
しちねんで「京」は引退秋さびし淺紫
コリアタウン韓紅の秋思かな鵺野
- 夏井いつき先生からの一言アドバイス
-
●俳号には苗字を!
〇俳号とは、その句が自分のものであることをマーキングする働きもあります。ありがちな名、似たような名での投句が増えています。せめて、姓をつけていただけると、混乱を多少回避することができます。よろしくご協力ください。
◆ひとことアドバイス
●「秋」はどこへ行った?○これはうっかりミスだと思うのですが、ひょっとして「秋思」ではなく「愁思」だと思い込んでいた?! という可能性もなきにしもあらず?
「秋」であったら秀作
- 愁思とはベネチアの夜のひとしづく古瀬まさあき
- 噛みごたえ無きものを噛む愁思かな塩沢桂子
- 折り鶴の嘴の角度の愁思かな溝口トポル
- 麩のやうな雲ならべたる愁思かな高橋なつ
- さだまさしばかりを聴いて愁思の夜坂まきか
- いささかの愁思のゆゑを探しけり杉浦夏甫
- 真夜中の犬の一吠え愁思かな中山白蘭
- 不参加のはがき目の前に置く愁思中村凧人
- マニキュアの塗り重ねたる愁思かな中島圭子
- 登校の列の最後にある愁思渡邉野紺菊
- カーテンがふわっと愁思入り込み飛来英
- 紅をさす鏡の中の愁思かな樋熊広美
- 愁思ふと砂消しゴムの削りカス姫沙羅
- 定年の男が一人愁思かな抹香
- 払暁の星一つ見る愁思かな無頓着
- 朱入れする終活ノート愁思かな侘介
- ハモニカの不協和音となる愁思露砂
「秋」であったら佳作
- 愁思ありつい目を向ける写真立てねぎみそ
- 独り居の檻のゴリラの愁思かな亜美子
- 加齢性頻尿寝不足愁思かな伊藤ひろし
- 終電の背に漂ふ愁思かな伊藤順女
- 栗のない毬がぽかんと愁思かな甘酢あんかけ
- 枯葉マーク付けて愁思の始まりぬ希林
- 一人分空けてベンチの愁思かな銀長だぬき
- 足音と猫の体温愁思の夜空龍
- 煩悩を乗せて撞く鐘愁思かな今井淑子
- 愁思の夜嫌がる猫に頬ずりす初野文子
- ビウエラの音所望す秀吉の愁思小倉あんこ
- 100箱の蜂売り渡す愁思かな松尾義弘
- 帰る道躓く坂に愁思あり惣兵衛
- 小石めく瓶のかけらの愁思かな村松登音
- 愁思かな曲がりし指も初スマホ鷹野みどり
- 蒼天の光を抱きつつ愁思纏う谷中薫氏
●入力ミス?
- 段々の腹もてあます思秋かなとみことみ
- 使用済み終始散らばる終電車小田和子
○こっちは明らかに、入力ミス。送信ボタンを押す前に、入力した文字に間違いがないか、確認してね。
●「秋思う」は・・・
○「秋思(しゅうし)」は名詞です。「秋思う」は、秋という季節を思うという意味になります。となれば、季語は「秋」ということになってしまいますね。
- 秋思ふ星の軌道は交わらずさだとみゆみこ
- 夫(つま)送り、秋を思いし空を見る後藤博文
- ビロードの淡き手触り秋思ふ中西柚子
- 摩天楼崩れ落ちた日秋思う長谷島 弘安
- 透析のわが血の流れ秋思ふ嶋良二
- 老仲間二人逝きしや秋思う桃雨
- 死者となる友増えて秋思い麻場育子
- 秋思ふ埃まみれの車椅子満る
- 松虫とたゆたう温泉秋思ふ木村風太
- ネイルの紅なほ深くして秋思ふ玲凛
- 秋思う越前そばの芳しき岸本元世
- HANA死んで半年になる秋思う笠原理香
●俳句の正しい表記とは?
○「五七五の間を空けないで、一行に書く」のが、俳句の正しい表記です。まずは、ここから学んでいきましょう♪
- 昨日とは
違う街並
秋思かな瞳 - 毎日の帰路
膝辛く
秋思かな任人 - きらめいて
寄せる波間に
秋思かな栞
●兼題とは
○今回の兼題は「秋思」です。兼題を詠み込むのがたった一つのルールです。この二句には確かに「秋思」という字が入っていますが、本サイトでは、毎回季語を兼題として出題しています。兼題を季語として使っている句をお寄せ下さい。
- 秋きたる祭りのご馳走思う母まさこ
- 星間の月は獣の如く夜を荒らすミズカラス
- 腰曲がり落ち穂拾うて孫探すみつ巴
- 姿なきコロコロと聴く線路みち笠江茂子
- 初月と無為に環指を重ねたり佐藤梨沙
- 断捨離や食器戸棚の秋意の架篠崎彰
- 縁側にたたずむ我に枯れ葉舞う森谷拓之
- 休耕や稲刈る人の背もまるく中嶋京子
- この臭(にお)いっ
秋が来たなと
幹見上げ山本妙子 - 名月(つき)が魅せる
彼(か)に抱(いだ)かるる
初恋(こい)の夢春加 - 秋の空
青から紅(あか)へ
一休み大久保 - 露天風呂
秋風涼し
日焼け跡中島千春
○前述しましたが、改行をしないで一行に書くのが俳句の正しい書き方です。
●一句一季語から練習
- 虫の音に押され押されて秋思の背さかたちえこ
- 芋の葉の水滴転げて愁思かなねがみともみ
- くすむように薫る雨後の落ち葉に秋思永谷部流
- 雨厭い褪せて紫陽花秋思とや河畔亭
- 金木犀薫り頬つたい止む秋思古川勝弘
- 秋さびし夏バテ気味にバッタ跳ぶ佐保子
- 満月にすすきが生えて秋さびし菜奈子
- 休耕田草刈り暮れて秋思はや山辺道児
- 打水をして秋思ものいはず秋水
- 朝顔の蕾愛しや秋寂し小橋敦子
- 会話なき夜皿のリンゴの秋思かな正岡恵似子
○一句に複数の季語が入ることを「季重なり」といいます。季重なりはタブーではなく、高度なテクニック。季重なりの秀句名句も存在しますが、手練れのウルトラ技だと思って下さい。まずは「一句一季語」からコツコツ練習していきましょう。「秋思」「秋さびし」以外のどれが季語なのか、歳時記を開いて調べてみるのも勉強です。
●これは短歌というべき・・・
- 我想う亡き父偲ぶ秋思日に願い届く晴れ姿山本真由美
●仮名遣い
- 老ひし身をいたわる日々の秋思かな ※原句ママ正子@いつき組
○「老ゆ」はヤ行ですから「老ひ」は間違いです。「老い」が正しい仮名遣いです。
- 消して書き書ひてまた消す秋思かな ※原句ママ大庭慈温
○「書く」はカ行ですから、「書ひ」は間違いです。「書き」が正しい。さらに音便を発生させると「書い」となります。
9月の兼題『秋思』は2816句もの投句をいただきました。毎月投句いただき、本当にありがとうございます。次回10月の兼題は「時雨」です。
これ以上大きな台風が来ることなく、時雨のようないっときの雨であることを望みます。さて、今月も夏井先生より、俳号の付け方について注意事項をいただきましたので、投稿をされる方は「今月のアドバイス」を必ずお読みください(編集部)